中小事業所における職場の健康づくり活動実施の阻害・促進要因：質的研究

更新日 : 2022年10月20日

中小事業所での健康増進対策実施のカギは事業主の関与　~15 事業所のインタビュー調査でみえてきた成功の要因~

　私たちは、中小事業所での健康づくりの実施に影響を与える要因を特定するために、事業主および健康管理担当者にインタビュー調査を行いました。その結果、25 の促進要因（実施を押しすすめる要因）と7の阻害要因（実施を妨げる要因）が特定されました。特に、職場の健康づくりを実施するための事業主の関与が、他の促進要因に影響を及ぼす可能性のある重要な要因として特定されました。したがって、事業主の健康づくり対策への関与と強い支援が、中小事業所での健康づくりの実施を促進させる可能性が示されました。

図1．実装研究のための統合フレームワーク（CFIR）による主な促進要因・阻害要因

背景

　職場での健康づくりの実施は、大企業に比べて中小事業所では進んでいないことが知られています。しかし、どうしたらその格差を縮められるか、という方法については国内外で十分に研究がなされていませんでした。実装科学は、これまでの研究成果を、現場の実践に役立てるためにはどうすればよいのかを、科学的に探究する学問です。そこで本研究では、まず、現場の実践の状況を理解するために、中小事業所における生活習慣予防のための職場の健康づくり（喫煙、飲酒、食事、身体活動、健康診断）の実施に影響を与える要因を、実装科学の手法を用いて検討することを目的としました。

方法

　全国健康保険協会の4つの支部に所属する 15 の中小事業所（従業員数 300 人未満）を対象に、健康
管理担当者および事業主に対してインタビュー調査を行いました。また、全国健康保険協会の 4 つの支部の保健師・栄養士に対してグループでのインタビュー調査（フォーカスグループ）をそれぞれ実施しました。その後、インタビューの内容について分析を行い、実装研究のための統合フレームワーク（CFIR）を使って 1.対策の特性、2.社外要因、3.社内要因、4.個人要因、5. 全体のプロセスの 5つの要因に整理しました。

結果

　CFIR の 39 の構成要素のうち、中小事業所における職場の健康づくり実施に関する 25 の促進要因
（実施を押しすすめる要因）と7の阻害要因（実施を妨げる要因）が特定されました。特に、「事業主が職場の健康づくりに積極的に関与していること（3.社内要因）」は、他の促進要因（「知識や情報へのアクセス（3.社内要因）」「相対的優先度（3.社内要因）」「学習環境（3.社内要因）」や「自己効力感（4.個人要因）」）に影響を与える重要な促進要因でした。一方、主な阻害要因は、「健康管理は自己責任である（4.個人要因）」という事業主/健康管理担当者のもつ信念でした。

結論

本研究により、中小事業所における健康づくりの実施に影響を及ぼす要因が特定されました。健康管理担当者と従業員が高いモチベーションで健康増進を推進または参加するためには、事業主の関与と強い支援、そしてポジティブなフィードバックが重要であることが示唆されました。今後、中小事業所での健康づくりの実施を促進するためには、本研究で特定された促進要因と阻害要因にあわせた戦略を開発し、戦略の効果を実証的に評価する介入研究が必要であると考えられます。

 

 

発表論文

Saito J, Odawara M, Takahashi H. et al. Barriers and facilitative factors in the implementation of workplace health promotion activities in small and medium-sized enterprises: a qualitative study. Implement Sci Commun, 2022:(3), 23. https://doi.org/10.1186/s43058-022-00268-4

謝辞

本研究実施にあたり、インタビューにご参加いただいた下記の事業所様、および、協会けんぽ支部の保健師・栄養士の皆様に心より感謝申し上げます。

• インタビュー協力事業所様一覧（あいうえお順、敬称略）
  協同組合青森総合卸センター、アルテクロス株式会社、飯倉タクシー株式会社、株式会社環境設備公社、グッドパースングループ、株式会社クライミング、黒石貨物自動車株式会社、株式会社ケーエフエス、有限会社寿商事、株式会社ササキ、株式会社サンポー、有限会社テラワン、富久泉工業株式会社、株式会社文祥堂オフィスファシリティーズ、山梨住宅工業株式会社
  
  
• 協会けんぽ支部
  青森支部、福島支部、山梨支部、福岡支部