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日本の地域、職場、学校、臨床における禁煙支援介入と実装:スコーピングレビューとアンケート調査
更新日 : 2024年5月20日
本研究をもとに作成した「つまずきポイント、解決ポイント別 職場で行う喫煙対策好事例集」はこちら
目的
本研究は、エビデンスレビューを通して職場や地域における禁煙支援について国内の知見を網羅的に整理し、研究が不足している領域を特定すること、さらに、日本において普及可能な禁煙支援の実装戦略(エビデンスに基づく実践、プログラムおよび政策を実装するための具体的な方法)を特定することを目的としています。
方法
本研究は2つのアプローチを用いました。1つ目は、原著論文および政府関連の報告書(灰色文献)の包括的なスコーピングレビュー、2つ目は灰色文献で禁煙支援について報告している組織を対象としたアンケート調査です。スコーピングレビューでは、日本の地域、職場、学校、臨床などあらゆるセッティングにおける禁煙支援についての原著論文、または、厚生労働科学研究成果データベース、厚生労働省スマートライフプロジェクト受賞事例集、経済産業省健康経営優良法人取り組み事例集といった灰色文献を調査しました。アンケート調査は、灰色文献にて特定された禁煙支援実施の企業および団体を対象に実施しました。より深い理解を得るために、アンケート回答組織の一部に対してインタビューを実施しました。これらのデータについて、禁煙支援では2020年の禁煙支援に関する米国公衆衛生総監報告書(A Report of the Surgeon General)に基づくカテゴリーで禁煙支援介入を分類し、実装アウトカム(実装のための具体的方法である実装戦略の効果指標で、個人レベルのアウトカムに影響を及ぼす主要な中間アウトカム)、介入実施における促進・阻害要因および実装戦略を、実装研究のフレームワークに沿って整理しました。
結果
スクリーニングの結果、498の論文から600介入(691介入要素)が抽出されました。アンケートでは対象となった88組織のうち32組織より回答を収集し、そのうち11組織にインタビューも行いました。最も多く報告されていた禁煙支援介入は、臨床現場における「カウンセリングおよび/または禁煙補助薬の投与」(43.4%, 300/691)でした(表1)。実装アウトカムは18文献(3.0%)で測定され、その多くは「浸透度1)」を報告していました。促進・阻害要因については、「利用可能な資源が少ないこと」と「介入に関する知識と信念が不足していること」が阻害要因として報告され、「禁煙支援の組織内での優先順位が高いこと」が促進要因として多く報告されていました。実装戦略は28文献(4.7%)で確認され、「関係者のトレーニングと教育」が多く報告されていました。
結論
本研究により、日本における禁煙支援を実装する際に役立つ、促進・阻害要因、実装戦略そして実装アウトカムについての報告が大きく不足していることが示されました。本研究の強みは、日本における禁煙支援について、研究による知見だけでなく、現場で使われている効果的な戦略の知見も含め幅広くレビューを行い、実装科学の枠組みを使って整理した点にあります。日本において実装に焦点を当てた論文は少数でしたが、特に職場や地域といったセッティングでは、様々な実装戦略が活用されており、灰色文献から重要な知見が抽出されました。今後の研究では、禁煙支援介入の知見と現場での実装の間にあるギャップ(know-do gap)を縮小するために、より実装の進め方に関するエビデンスづくりに焦点を当てる必要性が示唆されました。
1) 浸透度は、介入が、コミュニティ、組織またはシステムの中に行き届く(浸透している)程度をあらわす実装アウトカムです。例として、事業所の禁煙支援プログラム実施割合などがあります。
表1. セッティング別 介入要素 (n = 691)
|
介入のセッティング |
||||
介入要素 |
合計 |
地域 |
職場 |
学校 |
臨床 |
プロバイダーへのアプローチ (計) |
31 (3, 10, 18) |
15 (0, 2, 13) |
4 (1, 1, 2) |
0 |
12 (2, 7, 3) |
- 臨床実践ガイドライン |
1 (0, 0, 1) |
0 |
0 |
0 |
1 (0, 0, 1) |
- 品質・パフォーマンス指標と支払い改革 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- 電子カルテの技術強化 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- 医療従事者へのトレーニングや意識向上プログラム |
26 (2, 10, 14) |
13 (0, 2, 11) |
3 (0, 1, 2) |
0 |
10 (2, 7, 1) |
- その他 |
3 (1, 0, 2) |
2 (0, 0, 2) |
1 (1, 0, 0) |
0 |
0 |
集団へのアプローチ (計) |
201 (20, 86, 95) |
31 (6, 3, 22) |
100 (6, 24, 70) |
33 (3, 28, 2) |
37 (5, 31, 1) |
- クイットライン |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- スモークフリーポリシー |
117 (15, 58, 44) |
8 (4, 1, 3) |
62 (5, 17, 40) |
16 (1, 15, 0) |
31 (5, 25, 1) |
- マスメディアキャンペーン |
1 (0, 0, 1) |
1 (0, 0, 1) |
0 |
0 |
0 |
- タバココントロールプログラム |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- タバコのリスクと禁煙の利点に関する啓発 |
65 (5, 25, 35) |
19 (2, 2, 15) |
25 (1, 6, 18) |
16 (2, 12, 2) |
5 (0, 5, 0) |
- その他 |
18 (0, 3, 15) |
3 (0, 0, 3) |
13 (0, 1, 12) |
1 (0, 1, 0) |
1 (0, 1, 0) |
個人へのアプローチ (計) |
459 (74, 282, 103) |
68 (16, 25, 27) |
92 (14, 23, 55) |
20 (1, 19, 0) |
279 (43, 215, 21) |
- カウンセリングおよび/または 禁煙補助薬の投与 |
300 (53, 203, 44) |
41 (12, 13, 16) |
40 (12, 13, 15) |
11 (0, 11, 0) |
208 (29, 166, 13) |
- プロアクティブなホットライン |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- ショートメッセージサービス |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
- ウェブまたはインターネットベースの介入 |
22 (6, 2, 14) |
7 (3, 1, 3) |
11 (0, 1, 10) |
0 |
4 (3, 0, 1) |
- その他 |
137 (15, 77, 45) |
20 (1, 11, 8) |
41 (2, 9, 30) |
9 (1, 8, 0) |
67 (11, 49, 7) |
合計文献数(内訳:英文原著数、和文原著数、灰色文献) |
発表論文(書誌情報)
Nagasawa T, Saito J, Odawara M, Kaji Y, Yuwaki K, Imamura H, Nogi K, Nakamura M, Shimazu T. Smoking cessation interventions and implementations across multiple settings in Japan: a scoping review and supplemental survey. Implement Sci Commun. 2023;4:146.
https://implementationsciencecomms.biomedcentral.com/articles/10.1186/s43058-023-00517-0
プロトコール論文(書誌情報)
Nagasawa T, Saito J, Odawara M, et al. Smoking cessation interventions and implementations in Japan: a study protocol for a scoping review and supplemental survey BMJ Open 2022;12:e063912. doi: 10.1136/bmjopen-2022-063912
Smoking cessation interventions and implementations in Japan: a study protocol for a scoping review and supplemental survey | BMJ Open(外部サイトにリンクします)
プロトコール論文の日本語概要版はこちらをご覧ください。
「つまずきポイント、解決ポイント別 職場で行う喫煙対策好事例集」
本研究班の研究成果として、職場の健康管理担当者、産業保健師など実際に社内で健康対策を実施している方を対象に、「つまずきポイント、解決ポイント別 職場で行う喫煙対策好事例集」(PDF)を作成しました。(2023年 9月 デザイン校正後最終版に更新しました。)
本事例集は、「職場の健康管理担当者」、および、「健康管理担当者を支援する外部の専門家」のどちらも対象としていますが、本動画は、「外部の専門家(主に保健師)」向けとなっています。
本研究班で実施したスコーピングレビュー、アンケート/インタビュー調査の結果、および実装科学研究室で実施する職場の喫煙対策のクラスターランダム化比較試験の参加事業所事例をもとに、職場で行う喫煙対策の汎用モデル概案を作成しました。
本モデルは実装科学の考え方に基づき、実装を4つのフェーズ(導入、計画、実施、維持)に分けて、主要な阻害要因7つについて対応策(実装戦略)を提示しています。そして、阻害要因ごとにケースシナリオとその対応策(実装戦略)の具体的な事例を掲載しています。成功事例エピソードについては、研究班内で実施した、優良事例企業へのインタビュー内容からまとめています。現場での喫煙対策実施の促進にぜひご活用ください。
研究費
令和3~4年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「健康寿命延伸を目指した禁煙支援のための研究(21FA1001)」(研究代表者:島津太一)
令和5~7年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「社会環境に応じた持続的な禁煙支援のための研究(23FA1001)」(研究代表者:島津太一)