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2023年度「患者・市民パネル」検討会~がん検診の利益と不利益、リスク層別化検診~
開催日時
開催日:2023年11月19日(日曜日) 開催時間:13時30分~16時30分
開催方式
現地(国立がん研究センターセミナールーム)とオンラインのハイブリッド
プログラム
- 開会挨拶
- 講演:「がん検診の利益と不利益」「リスク層別化がん検診と胃がんABC検診」
- グループディスカッション
- 各グループからの報告・全体共有、コメント
- 閉会挨拶
概要
国立がん研究センターでは、患者さんやその家族、一般市民の視点をふまえたがん対策の推進を目指し、全国のがん患者・家族・市民の皆さま約100名からなる「患者・市民パネル」にご意見をいただきながら、さまざまな取り組みを進めています。11月19日(日曜日)に、患者・市民パネルが集って意見交換する検討会を現地とオンラインのハイブリッドで開催し、北海道から沖縄まで全国から69名(現地48名、オンライン21名)のパネルのメンバーが参加しました。
開会にあたり、中釜斉・国立がん研究センター理事長が挨拶しました。中釜理事長は「近年がんの医療や技術は大きく進歩し、患者・市民の視点からの声をいただくことが当センターにも日本のがん対策にも重要。今回のテーマのがん検診もさまざまな課題を抱えており、今後の展開を考える上でも忌憚ないご意見をいただきたい」と述べました。
続いて国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部から、中山富雄部長と細野覚代室長が講演しました。
中山部長はまず「検診には偽陽性や過剰診断という不利益もあることを知ってほしい」と指摘しました。検査の精度は100%ではないため、がんではない人に偽陽性(がんの疑いあり)という判定が出ることがあり、精神的不安や経済的負担につながります。過剰診断の例として、韓国で検診ブームが起きた際に甲状腺がんと診断される人の数が激増したが死亡数にはほとんど変化がなく、本来は必要のない手術などの治療を多くの人が受けたことなどが紹介されました。中山部長は「利益と不利益を考えた上でがん検診を適切に受けることが大切」と述べました。
細野室長は、一人一人のがんにかかるリスクに応じて検査方法や検診の受診間隔などを調整する「リスク層別化」の例として胃がんABC検診を紹介しました。ピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮の有無を組み合わせて胃がんになるリスクを判定し、効果的で効率的な検診に役立てます。がん検診でリスク層別化をする目的について、細野室長は「低リスクの人には内視鏡検査の回数を減らすなどして余分な不利益を与えない。高リスクの人は検診の利益が多いので不利益がある程度大きくなっても許容される。「利益>不利益」となる検診を提供するために、リスク層別化により不利益を最適化する」と利益・不利益のバランスの図を用いて説明しました。
続いて患者・市民パネルを対象に事前に行われたアンケートの結果が紹介されました。ABC検診などのリスク層別化検診を知らなかった方が60-70%を占めていました。リスク層別化検診の効果に対しては慎重な意見も多い一方で、不公平感を持つ方は少ないことがわかりました。
グループディスカッションでは、(1)あなたはリスク層別化検診を受けたいですか?受けたくないですか? (2)リスク層別化検診に移行するとしたら、多くの市民は不安になると思いますか?納得して受け入れられると思いますか?納得する人を増やすには何を発信することが有効だと思いますか? をグループに分かれて意見交換しました。現地9グループ、オンライン4グループには、患者・市民パネルに加えて、国立がん研究センターの職員がファシリテーター・書記として議論をサポートしました。
参加者同士で話すうちに、専門家に聞きたい質問がいろいろ出てきました。現地では中山部長と細野室長に答えていただき、オンラインでは各グループに検診研究部のメンバーが1人ずつ加わり、参加者からの疑問に答えました。
グループディスカッションでは、次のような話題や意見が出ました。
「リスクという語にはネガティブな響きがある。タイプなど別の言葉に変えてはどうか」「高リスクと判定されたら、職場で差別を受けないだろうか。子供にどう伝えるのか。誤解や偏見が生まれやすい」「リスク層別化に納得する人を増やすには丁寧な説明が不可欠。国の医療費や医療資源についても明示すると腑に落ちる」「検診の普及には、がん教育が有用」
各グループからの発表を受けて、中山部長は「リスク層別化に関する研究は今進められている最中で、少数の専門家の議論だけでは実際に検診を受ける多くの市民の視点が欠けていると思い、患者・市民パネルの皆さんから意見を聞きたいと思っていた。不利益という言葉は固いなど、専門家側では気づかない視点だ。今後エビデンスが固まり、本格的な導入に向けての検討の際には今回のさまざまなご意見を活用したいと思う」とコメント。細野室長は「リスクが高いと判定されたことによる差別を心配する声がいくつかのグループで出ていたことが印象に残った。不利益の評価は定量的に測りにくいものなので、このような場で直接ご意見をいただくことが大切。今後も機会があればご協力いただきたいと思う」と述べました。
最後に祖父江友孝・がん対策研究所副所長は閉会挨拶の中で「参加者から鋭い指摘もあった。エビデンスはどうなっているのか、リスク層別化の言葉はわかりにくいなど。リスク層別化に関する検討はまだ始まったばかりなので、今回の議論を機に日々皆さんも情報を集めていただき、日本のがん検診がどうあるべきかを考えてほしい。専門家といってもいろいろで、一部の分野に特化した専門家もおり、それぞれ主張が異なる場合もある。そのような中からより確かな情報を探し判断するのは難しい面もあるが、専門家と患者・市民とがお互いに歩み寄り、より良い方向を探っていければと思う」などと述べました。