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国立がん研究センター

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肝がんの治療について

更新日 : 2023年12月12日

前回の動画▷肝がんの検査・診断について

治療

肝がんの治療法として、主に以下の6つの治療があります。


肝がんの患者さんは、がんと慢性肝疾患いう2つの病気を抱えているため、がんのステージだけでなく、肝予備能(Child-Pugh分類による評価)、肝臓以外の臓器への転移(肝外転移)、脈管への広がり(脈管侵襲)、がんの数(腫瘍数)やがんの大きさ(腫瘍径)も考慮して、治療法を選択していくことになります。
Child-Pugh分類がAまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合は、肝切除、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が中心となります。肝外転移がある場合には薬物療法、Child-Pugh分類がCの場合は、肝移植が可能であれば肝移植、不可であれば緩和ケアを選択することもあります。

Child-Pugh分類について

日本肝癌研究会編.臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版.2019年,金原出版,P15.より作成

Child-Pugh分類

肝がんの治療の選択肢(クリックでPDFにて拡大してご覧いただけます。)

肝がんの治療の選択肢

肝切除

がんとその周囲の肝臓の組織を手術によって取り除く治療法で、もっとも根治的な治療になります。肝切除ができるかどうかは、がんの状態や肝機能によって判断しますが、多くの場合、がんが肝臓にとどまっていて、がんの数が3個以内、肝予備能が比較的保たれている場合(Child-Pugh分類がAまたはB)は、がんの大きさにかかわらず、肝切除を行うことが推奨されています。がんが脈管(門脈、静脈、胆管)へ広がっている場合でも、肝切除を行うことがありますが、腹水がある場合は、肝切除後に肝不全(肝臓が機能しなくなること)になる危険性が高いため、通常は肝切除以外の治療を行います。
肝切除の術式は、がんがある場所や肝機能に応じて、さまざまな方法があります。小さい範囲でがんの部分だけを切除する場合は部分切除、がんのある区域を切除する場合は亜区域切除や区域切除、右葉や左葉を広範囲に切除する場合は葉切除や拡大葉切除という術式が選択されます。入院期間は患者さんの状態によって異なりますが、肝切除後、通常1~2週間程度で退院できます。
がんがある場所やがんの数によっては、お腹に小さな穴をいくつか空けて、そこから手術器具などを挿入して行う腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術が可能な場合があります。しかし、腹腔鏡下手術は特別な技術を要するため、行っている施設が限られていますので、治療を希望する場合は担当医に相談しましょう。
なお、肝切除を腹腔鏡下手術で行うか、開腹手術で行うかについては、患者さん個々の状況を考慮して、安全性と根治性のバランスをよく考えて選択されます。

肝移植

レシピエント(患者)の肝臓をすべて取り出して、ドナー(臓器提供者)の肝臓を移植する治療法です。日本では、近親者などの健康な人から肝臓の一部を提供してもらう「生体肝移植」が一般的ですが、近年では、脳死後のドナーから肝臓を提供してもらう「脳死肝移植」も行われています。
肝移植を行う場合は、ミラノ基準、または5-5-500基準の条件を満たすことが望まれています。

ミラノ基準 5-5-500基準
脈管への広がり・肝臓以外への
転移がない
遠隔転移や脈管への広がりがなく、かつがん
が5cm以内
がんが1つなら5cm以下 がんの数が5個以内
がんが複数なら3個以下で3cm以
AFP500ng/mL以下

AFP…肝がんの腫瘍マーカーです。AFPは、胎児期に肝臓で作られるタンパク質であり、出生後にはほとんど作られません。 しかし、肝細胞癌をはじめ、悪性腫瘍がある場合に高値となることがあります。 

手術による合併症

肝臓の切除面から胆汁が漏れる胆汁漏(たんじゅうろう)、出血、肝不全などが起こる場合があります。胆汁漏は、ドレーン(体液を外に流すためのチューブ)を付けたままにすることで自然に止まることも多いですが、再手術が必要な場合もあります。出血に対しては、輸血や再手術による止血を行います。術後肝不全は、残った肝臓のはたらきが不十分となり、からだの代謝を支えきれなくなった重篤な状態をいいます。肝切除を計画する際には、患者さん個々の肝予備能に応じて、十分な残肝容積を確保できる術式を選択しています。それでも術後肝不全は、稀に発生します。

穿刺局所療法

体外から針を刺し、がんを局所的に治療する方法で、手術に比べて簡便で、体への負担が少ないことが特徴です。Child-Pugh分類がAまたはBで、がんの大きさが3cm以内、かつ、3個以下の場合に行われることがあります。肝がんの穿刺局所療法として推奨されているのは、ラジオ波焼灼療法(RFA)です。他にも、従来から行われてる経皮的エタノール注入療法(PEI)や経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)があります。

ラジオ波焼灼療法(RFA)

お腹の皮膚の上から特殊な針をがんに直接刺し、そこに通電して針の先に高熱を発生させることで、局所的にがんを焼灼する(焼いて死滅させる)治療法です。一般的には、穿刺に伴う痛みを和らげるために、針を刺す腹部に局所麻酔を行うほか、焼灼時にも鎮痛剤を使用したり、点滴で麻酔をしたりします。焼灼時間は30~60分程度ですが、治療後は数時間の安静が必要です。

ラジオ焼灼療法

ラジオ波焼灼療法による合併症

発熱、腹痛、肝機能障害がおこります。稀に出血、周囲臓器(腸管、肺など)損傷、胆管損傷、などが伴うこともあります。また、針を刺した場所に痛みややけどが残る場合もあります。

 塞栓療法

血管造影の技術を応用した治療で、X線で体の中を透かして見ながら、鼠径部(足の付け根)や肘、手首の動脈から肝動脈にカテーテルを挿入し、標的となるがんの治療を行います。Child-Pugh分類がAまたはBで、大きさが3cmを超えた1~3個のがん、もしくは、大きさに関わらず4個以上のがんがあり、手術が難しくかつ穿刺局所療法の対象とならない場合に行われます。がんが広範囲にある場合は、複数回に分けて行うこともあります。

塞栓療法には、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動脈塞栓療法(TAE)、薬剤溶出性ビーズを用いた肝動脈化学塞栓療法(DEB-TACE)がありますが、TACEが主流となっています。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

がんに栄養を送っている血管の血流をせき止めて(塞栓)、がんを死滅させる方法です。
血管造影しながらカテーテルの先端を肝動脈まで挿入し、細胞障害性抗がん剤(以下、抗がん剤)とがんに取り込まれやすい油性造影剤(リピオドール)を混ぜて注入し、その後、塞栓物質を注入します。肝動脈を詰まらせることでがんへの血流を減らし、抗がん薬によりがん細胞の増殖を抑えます。
塞栓療法の解説                                                     

塞栓療法による副作用

治療後に、発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害、胸痛などが起こることがあります。副作用の程度は、がんの大きさや広がり、塞栓した範囲、肝機能によりさまざまです。なお、治療
後は、数時間から半日程度の安静が必要です。

全身薬物療法

肝切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などが行えない進行性の肝細胞がんで、体の状態を表す指標の1つであるパフォーマンスステータスが良好、かつ、肝予備能が保たれている(Child-Pugh分類A)場合には、全身薬物療法を行います。
薬剤それぞれに特有の副作用があります。医師や薬剤師に、どのような副作用が出る可能性があるのか相談しておくことがよいでしょう。
治療中に体調が悪くなった場合は、無理をせず、すぐに担当医に相談しましょう。

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出典:日本肝臓学会編「肝癌診療ガイドライン2021年版」2023年5月
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/medical/ (2023年8月参照)

以下に代表的な一次薬物療法(薬物療法で最初に選択される薬物療法)について解説します。複合免疫療法の適応があるかどうかで治療方針が大きく変わります。

一次薬物療法:複合免疫療法の適応あり

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法

肝細胞がんに対して初めて承認された免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブと分子標的薬のベバシズマブを組み合わせた治療法です。3週に1回の点滴による治療を行います。
主な副作用として、高血圧、下痢、食欲不振、疲労、蛋白尿などがみられます。また、免疫機能が過度にはたらくことにより、間質性肺疾患、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症といった免疫チェックポイント阻害薬特有の副作用があらわれる場合もあります。

デュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法

進行肝細胞がんに対して、新たに承認された治療で、デュルバルマブとトレメリムマブといった免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法です。デュルバルマブは4週に1回の点滴を繰り返します。トレメリムマブを初回にのみ点滴にて投与します。免疫チェックポイント阻害薬特有の副作用を認めますが、血管新生阻害作用がないため、出血を認めにくいのが特徴です。

一次薬物療法:複合免疫療法の適応なし

分子標的薬であるソラフェニブやレンバチニブ、その他デュルバルマブなどが選択されます。

二次薬物療法

二次薬物療法はレゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブ(いずれも分子標的薬)など一次薬物療法では使用されなかった薬剤がが選択されます。

分子標的薬による特有の副作用について

アテゾリズマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ以外の5つの薬剤(ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブ)は、がんの血管新生(がん細胞が増大するために、栄養や酸素を得ようと新しい血管を形成しようとすること)を阻害する分子標的薬です。分子標的薬の副作用としては、手足症候群*1、高血圧、下痢、食欲不振、疲労、脱毛などが比較的高頻度にみられ、これ以外にも、それぞれの薬剤に特有の副作用があるので注意が必要です。
*1 手足症候群:抗がん剤で治療中にみられる副作用で、手足に起こる障害の総称。しびれや痛み、腫れのほか、感覚が鈍くなったり過敏になるなどの症状があらわれる。頻度は、抗がん剤の種類によって異なる。

放射線治療

肝がんの放射線治療は、まだ標準治療として確立されていません。しかし、手術や穿刺局所療法が難しい場合や骨や脈管内に広がったがんに対する治療として、放射線治療が行われることがあります。骨に転移したときの痛みの緩和を目的とした治療や、脳への転移に対する治療としては、放射線治療を行うことが勧められています。
放射線治療は、肝臓に対する放射線の影響が強いと考えられたため、これまで肝がんの治療にはあまり用いられてきませんでした。しかし、近年、放射線技術の進歩により、がんのある場所に高線量の放射線でピンポイントで照射できるようになり、肝がん治療の新たな選択肢となりつつあります。定位放射線治療(SRT)や粒子線治療(陽子線・重粒子線)は、手術や穿刺局所療法が難しい場合に行われる治療ですが、治療できる施設が限られているため、希望する場合は担当医とよく相談するようにしてください。

定位放射線治療(SRT)

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病巣に対し多方向から放射線を集中させて照射する方法で、大線量の放射線を短期間で精密に照射することが可能です。定位照射、ピンポイント照射とも呼ばれています。通常の放射線治療と比較して、周囲の正常組織にあたる線量を極力減少させることが可能です。通常は数回から10回程度の分割照射で治療が行われます。腫瘍径5 cm以下で3個以内の病変の場合に保険適用となりますが、肝予備能や正常肝容積、総腫瘍体積を考慮して治療適応を判断します。一般に、肝予備能が比較的保たれている場合(Child-Pugh分類がAまたはB)に定位放射線治療が可能と判断されます。経皮的に腫瘍の近傍に金属マーカーを留置して、この金属マーカーを透視で追跡しながら治療を行われる場合が多いのですが、近年はMR画像誘導放射線治療装置を用いることで、金属マーカーを留置しなくても直接腫瘍を追跡しながら照射することが可能となっています(写真右)腫瘍は呼吸に伴って常に動いています。装置が腫瘍を自動認識(緑線)して、照射部位(赤線)から外れるとビームが自動停止するようになっており、正常組織の余分な放射線被ばくを最小限にすることが可能です。

 より詳細は放射線治療(外部照射)【国立がん研究センター 中央病院 】をご覧ください。

粒子線治療(陽子線・重粒子線)

陽子線治療照射室

陽子(水素の原子核)や重粒子(炭素イオン)などの粒子放射線のビームを病巣に照射する治療法です。がん病巣にピンポイントで高線量の放射線を照射することができるため、一般的なX線による放射線治療に比べて、治療効果が高く、肝機能や周辺の正常な細胞に与えるダメージは少ないという利点があります。
X線は、体表面近くで線量がもっとも大きく、体内に入るほど弱くなります。また、がん病巣を突き抜けてしまうため、がん病巣の周囲の正常細胞や組織にもダメージを与えてしまいます。しかし、粒子線は、体表近くでエネルギーを放出せず、停止する直前に急激にエネルギーを放出するという性質(ブラッグピーク)があるため、一定の深さにあるがん病巣に大きなエネルギーを与え、そこで停止させることができます。このピークの深さや幅を調整することで、病巣に効率よく線量を集中し、正常組織への線量を少なくします。肝がんの治療ではこの特性は非常に有効で、X線で保険適応とされていない5cmを超える大きな肝がんに対する治療として粒子線治療は適応されてきました。臨床データの蓄積と評価により、2022年4月に腫瘍の大きさが4cm以上で手術が非適応な肝がんに対する粒子線治療(陽子線治療および重粒子線治療)は保険適応となっています。

 より詳細は陽子線治療の概要【国立がん研究センター 東病院 】をご覧ください。

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