平成22年11月11日号週刊文春の記事に対する見解について
平成22年11月11日号週刊文春(11月4日発売)に、国立がん研究センターに関する記事が掲載された。
本年4月から、独立行政法人化した国立がん研究センターは、がん難民の解決に向けて様々な新たな取り組みを開始しているところである。その内容については、当センターのホームページに掲載するだけではなく、定例の記者会見等を通じて、積極的にメディアの関係者を含め国民の方々へ情報を発信している。
今回の週刊文春の記事は、国民の方々に対し、新生国立がん研究センターが独立行政法人化した後も、「がん難民に対して何ら策を講じずに、がん難民を作り続けている」という誤解を与えるのではないかという悪い印象を感じるものであり、甚だ遺憾であるとともに大変悲しいものである。
以下について、当センターの見解を述べる。
- 国立がん研究センターは、がん難民対策の一環として平成22年7月12日から「がん相談対話外来」を開設している。本外来は、がん患者の方々の目線にて、そのおかれている状況の中で受けることができる最良の医療について、患者や家族の方々と対話をしながら考えていくことを目的としたものである。がん患者や家族の方々が納得した治療の選択ができるよう、医療者と十分に話し合うものであり、利用者のほぼすべての方が満足しているという結果が得られている。この取り組みのように、新生国立がん研究センターは使命の一つに「がん難民をつくらない」ための様々な取り組みを開始していることについて、正確に記事に記載していただけていないことを遺憾に思うものである。
- がん研究センターへのレジデントの申請状況が、改善しているにもかかわらず、現在も問題があるかのような印象を与える記載は現状を反映していない。レジデントについては、処遇を改善するのみならず、Cancer Treatment Boardを設置するなど教育の機会を充実させるとともに、全国の大学・大学院との連携大学院の協定の締結などを通じて研究にも取り組むことができる環境を整備しつつある。このような取り組みにより、レジデントの申請状況は大きく改善している。定員30名のレジデントに対して、昨年の申請者数は3次募集まで実施して合計25名であったが、今年秋の申請者は募集人員を大きく上回り1次募集のみで37名の応募があった。この事実は、がんについて学ぶのであればがん研究センターで学びたいという若手の医師が増えてきていることを反映しているものであり、現状を踏まえない記載の仕方について、大変残念に感じるものである。
【参考】レジデントの処遇の改善 平成21年度の年収350万円程度から、平成22年度は年収550万円以上へとレジデントの処遇を改善している。 - 看護師の離職率については、2年前の2008年度の18.0%が最悪で、2009年度は12.9%と改善し、2010年度は更に改善している。現在は看護師数を増加させるなどの取り組みにより看護体制の充実を図っているところであり、3交代制から2交代制へ移行する病棟もでてきている事実がある。このような現状があるにもかかわらず、看護体制が不十分であるという印象を抱かせる記載の仕方は慮外なことである。
- 国立がん研究センターは、がんの専門病院として先進的な医療を提供していくことに論を待たない。日本は、他国が経験したことのない高齢化を今後、迎えていくことになり、これからは合併症を抱えるがん患者が増加していく。そのような中、合併症を抱えるがん患者に対しても、当センターが担うべき先進的な医療を提供していくために、合併症を管理できる環境の整備が必要であり総合内科を設置したところである。その趣旨は、総合病院を目指すというものではなく、がんを専門とする国立高度専門医療センターが果たすべき使命を実現していくための取り組みであることに他ならないものである。
以上、今回の記事の記載は、天下の週刊文春ともあろう影響力のある週刊誌が、ある思惑を持って記したのではないかと感ぜざるを得ない。がん患者を含めた国民の方々、および、「All Activities for Cancer Patients(職員の全ての活動はがん患者のために!)」という標語のもとで努力している国立がん研究センターの職員へ誤解を生むと考え見解を記した。
平成22年11月4日
国立がん研究センター理事長 嘉山孝正