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胞巣状軟部肉腫
更新日 : 2023年9月6日
公開日:2014年4月28日
胞巣状軟部肉腫について
軟部肉腫は皮下組織や筋肉などの軟部組織と言われるところから発生する悪性腫瘍です。全身のあらゆる部位に発生し、約60%は四肢(うち3分の2が太ももなどの下肢)に発生すると言われています。2012年度の全国軟部腫瘍登録の統計では、日本全国でこの1年間に1,540名の軟部肉腫患者(人口10万人あたり約3人)が診断・治療を受けており、肺がん・胃がんなどのがん患者と比べると非常にまれな腫瘍であると言うことが出来ます。
胞巣状軟部肉腫は軟部肉腫の1%以下を占める腫瘍で、四肢、臀部(しり)などの組織によくできる腫瘍です。軟部肉腫にもかかわらず、明細胞肉腫(淡明細胞肉腫)と同様に発生源となる正常軟部組織(例えば筋肉や脂肪など)が確定されていない「分化未定」の腫瘍と位置付けられています。極めてまれな疾患ですが、再発・転移をきたすことが知られており、5年生存率は50%前後と決して予後の良い疾患ではありません。ここでは胞巣状軟部肉腫について、その診断法や治療法などについて説明いたします。
症状について
緩徐に進行する無痛性腫瘤として発症することが一般的で、特に太ももが好発部位とされています。好発年齢としては20歳から30歳代の若者になります。男女比はやや女性に多く、その発生頻度は100万人年あたり約1人と極めてまれです。
他の軟部肉腫と比較して、進行がゆっくりであることが多く、年単位でゆっくり進む場合もあります。
診断について
画像検査としては、単純レントゲン写真やCT、MRI、PET-CTなどがありますが、胞巣状軟部肉腫の大きさや部位を診断するために最も有用なのはMRI検査です。良性か悪性かの判断が困難な場合にはPET-CT検査が行われることもあります。特に術前の手術計画をたてるためにはMRI検査が重要です。また、胞巣状軟部肉腫でも遠隔転移がみつかることがあるため、病期の決定には胸部CTの施行が必要です。リンパ節転移や骨転移をきたすものもあるため、場合によって、PET-CT(PET-MRI)や骨シンチによる評価を行います。
病理診断としては、胞巣状軟部肉腫では不安定な染色体転座により発生するASPSCR1-TFE3融合遺伝子産物が特徴的です。
治療について
胞巣状軟部肉腫に対して根治が期待できる唯一の治療法もやはり手術による完全切除です。
胞巣状軟部肉腫に対する有効性が高い薬物療法はありませんが、海外ではスニチニブという血管新生阻害薬が有効であったという報告があります。しかしながら、日本国内では軟部肉腫に対するスニチニブの適応は認められておらず、スニチニブに作用が似た薬であるパゾパニブが代替的に使用されることがあります。また放射線治療に対しては、抵抗性を示すことが多いとされています。
胞巣状軟部肉腫に対する治療開発
国立がん研究センターの肉腫(サルコーマ)グループは、希少がんである肉腫に対して、複数の臨床試験・新規薬剤の治験を実施しており、他の医療機関とも協力して希少がんに対する治療開発に積極的に取り組んでいます。胞巣状軟部肉腫に対しては、切除不能な患者さんを対象とし、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブの有効性を検証する医師主導治験を実施しています。
胞巣状軟部肉腫に対する治験情報
- 治験に関する情報(中央病院・東病院)
- 試験ID UMIN000023665(外部サイトにリンクします)
参加を希望される(または検討してみたい)患者さんは、当センターの治験相談窓口(中央病院・東病院)へお問い合わせください。
執筆協力者
- 国立がん研究センター中央病院 米盛 勧(よねもり かん)
- 腫瘍内科 先端医療科
- 国立がん研究センター中央病院 西川 忠曉(にしかわ ただあき)
- 腫瘍内科
査読協力者
- 希少がんセンター長 川井 章(かわい あきら)
- 国立がん研究センター中央病院
- 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
- 希少がんセンター長ごあいさつ