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薬物療法 -肉腫の薬物療法について-
更新日 : 2024年4月17日
公開日:2014年4月28日
はじめに
肉腫は、骨や軟骨、線維組織、脂肪組織、血管・リンパ管組織、筋肉組織、滑膜組織、さらには神経組織などの組織から発生します。成人に発症する肉腫は、発症頻度が低く希少疾患であることに加え、多彩な形態や性質を示すことから、薬物療法の治療体系が複雑になっています。成人に発生する肉腫の多くは、抗がん剤への感受性の低い肉腫です。ドキソルビシン(DXR)、イフォスファミド(IFM)などを中心としたランダム化比較臨床試験が行われ、その結果に基づいて実地診療ではDXRやIFMを用いた単剤あるいは併用化学療法が行われています。一部の組織型では、上記以外の特定の治療方法を用いる場合もあります。このような組織型として、血管肉腫、胞巣状軟部肉腫、炎症性筋繊維芽細胞性腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、孤立性線維性腫瘍、デスモイド腫瘍などがあげられます。
また、小児や若年成人に発生頻度の高い、骨肉腫、ユーイング肉腫/原始神経外胚葉性腫瘍、横紋筋肉腫などは薬物療法のみならず、外科手術や放射線治療などを用いた集学的治療が必要な肉腫です。
一般的な薬物療法
成人の切除が困難あるいは転移している場合の肉腫に対しては、根治は困難であることが多く、治療の目標は延命と症状緩和となり、抗がん剤治療が中心的な治療となります。抗がん剤治療は、体に対して負担がかかる副作用があらわれるため、全身の状態や内臓の機能を考慮しながら適切に薬剤を選択することが重要です。
肉腫は多様な組織型がありますが、各々の組織型の発生頻度が非常にまれであることから特定の治療がある組織を除いては、1つのグループとして治療の検討が行われてきた経緯があります。その結果として、現在の標準治療(現時点で最も推奨される治療)はドキソルビシンを含む抗がん剤治療とされています。
抗がん剤治療としては、ドキソルビシンを単剤で用いる方法や、その他の薬剤と併用する方法などがあります。併用する方法(多剤併用療法)は単剤よりも、腫瘍を小さくする効果は高まりますが、毒性はより強くなり、生存期間を延長する効果は示されていないことから、現時点ではドキソルビシンの単剤療法が標準的な治療と考えられています。初回の抗がん剤治療で効果が得られなかった場合や、効果が一時的に得られるも再び病気が進行した場合には、二次治療としてイフォスファミドやパゾパニブなどが保険適用の薬剤として使用可能です。
確立された集学的治療の一部として薬物療法が実施される肉腫
骨肉腫、ユーイング肉腫/原始神経外胚葉性腫瘍、横紋筋肉腫は、抗がん剤治療の効果が期待できる肉腫であり、外科手術や放射線治療とともに薬物療法は治療の中心的な役割を担います。これらの肉腫に対しては、これまでの臨床試験による研究成果により標準的な治療法が確立しており、病気の状態に応じて適切な治療を選択します。しかし、年齢や病状によっては標準的な治療が確立していない場合もあります。
特定の治療に対して有効な可能性が示唆されている個別の組織型に対する薬物療法
血管肉腫(Angiosarcoma)
血管肉腫は、主に成人の皮膚、軟部組織、乳房、骨、肝臓、脾臓などに発生することが多い軟部肉腫で、一部の血管肉腫は、下大静脈、肺動脈や大動脈に発生することもあり切除が困難な場合や、転移している血管肉腫に対しては、抗がん剤治療が中心となります。血管肉腫は一般的に、抗がん剤に低感受性の軟部組織肉腫とされていましたが、最近の研究では血管肉腫に対してパクリタキセルなどのタキサン系薬剤が有効であることが示されています。
胞巣状軟部肉腫(Alveolar soft part sarcoma:ASPS)
胞巣状軟部肉腫は、軟部肉腫のうち0.2~0.9%と報告される、非常にまれな悪性の病気です。若年に発生することが多く、5歳未満や50歳以上での発生はまれで、女性にやや多いといわれています。四肢、特に大腿(太もも)
にできることが多いですが、小児では頭や首、舌や眼窩(がんか)にできることがあります。ASPSCR1-TFE3融合遺伝子という遺伝子の異常が知られていますが、この遺伝子異常に対する特効薬は現在のところまだありません。スニチニブ(適応外使用)、cediranib(適応外使用)、tivantinib(適応外使用)などの有効性が報告されています。
炎症性筋繊維芽細胞性腫瘍(Inflammatory myofibroblastic tumor:IMT)
炎症性筋繊維芽細胞性腫瘍は、小児や若年成人に発生することが多く、肺や腸間膜、大網、後腹膜などに発生しやすい軟部組織肉腫です。切除が困難な場合や、転移している炎症性筋繊維芽細胞性腫瘍に対しては、抗がん剤治療が治療の中心となります。約半数の方には、遺伝子の異常としてALK遺伝子再構成(染色体転座)を認めることが知られており、ALK遺伝子再構成のある場合には、クリゾチニブ(注)が有効である可能性が示されています。
注:現時点において、炎症性筋繊維芽細胞性腫瘍に対してクリゾチニブは保険適用となっていません。クリゾチニブは、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対して承認されています。
隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)
隆起性皮膚線維肉腫は、肉腫の1%を占めるとされるまれな悪性疾患です。比較的ゆるやかに進行することが多く、転移再発は5%未満程度と推定されています。小児にみられる巨細胞線維芽腫(giant cell fibroblastoma)は類縁疾患と考えられ、ともにCOLIA1-PDGFB融合遺伝子という遺伝子の異常が知られています。イマチニブ(適応外使用)の有効性が報告されています。
孤立性線維性腫瘍(Solitary fibrous tumor:SFT)
孤立性線維性腫瘍、20~70歳程度の成人に発生することが多い腫瘍です。約20%の腫瘍は切除後に再発したり、転移したりするといわれています。血管外皮腫(あるいは血管周皮腫;hemangiopericytoma)も類縁の病気と考えられています。胸腔内、腹腔内、四肢、髄膜、頭部、頸部など体のさまざまな部位の、皮下や深部組織に発生します。NAB2-STAT6融合遺伝子という遺伝子の異常が知られていますが、この遺伝子異常に対する特効薬は現在のところまだありません。まれに、低血糖などを起こすことが報告されています。スニチニブ(適応外使用)やソラフェニブ(適応外使用)、トーリセル(適応外使用)やアバスチン(適応外使用)の有効性が報告されています。また、JAK阻害薬という新薬の研究が進んでいます。
デスモイド腫瘍
デスモイド腫瘍はさまざまな発現形式があることで知られており、若い方の腹壁や高齢の方の腹腔内、四肢などに発生することが多い腫瘍です。家族性大腸腺腫症の方の一部に腹腔内へのデスモイド腫瘍発生がみられることがあります。切除可能な場合には手術が選択されますが、困難な場合には薬物療法が治療選択肢の1つとなります。海外の研究では、非ステロイド性抗炎症薬(Non steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAID)であるスリンダク(注)やセレコキシブ(注)、ホルモン療法であるタモキシフェン(注)やトレミフェン(注)、抗がん剤治療、多標的チロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブ(注)やソラフェニブ(注)などが有効である可能性が示されています。
注:現時点において、デスモイド腫瘍に対してスリンダク、セレコキシブ、タモキシフェン、トレミフェン、イマチニブ、ソラフェニブは保険適用となっていません。
子宮から発生した平滑筋肉腫
平滑筋肉腫は全身のあらゆる部位から発生しますが、子宮から発生することもあります。治療は、切除可能な場合には他の部位から発生する平滑筋肉腫と同様に手術が原則です。しかし、切除が困難な場合や転移している平滑筋肉腫に対しては、抗がん剤治療が中心となります。抗がん剤治療についても、他の部位から発生する平滑筋肉腫と同様ですが、海外の研究では子宮から発生した平滑筋肉腫の場合にはドセタキセルとゲムシタビンを併用(注)した抗がん剤治療が有効である可能性が示されています。
注:現時点において、子宮から発生した平滑筋肉腫に対してドセタキセルとゲムシタビンの併用療法の保険適用は認められていません。
子宮内膜間質肉腫(Endometrial Stromal Sarcoma:ESS)
子宮内膜間質肉腫は子宮に発生する肉腫の1つで、ゆっくりと進行するタイプの腫瘍です。腫瘍にホルモン受容体(エストロゲンおよびプロゲステロンレセプター)の発現が高率にみられることが知られていて、切除不能例ではホルモン治療(プロゲステロンやアロマターゼ阻害剤)などが有効である可能性が示されています。日本では、酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)について保険の適用があり、実際の診療で用いられています。ホルモン治療で効果が得られない場合や、一時的に効果があるものの再び進行するような場合には、他の肉腫に準じた抗がん剤治療が行われます。
執筆協力者
- 米盛 勧(よねもり かん)
- 国立がん研究センター中央病院
- 腫瘍内科 先端医療科
- 内藤 陽一(ないとう よういち)
- 希少がんセンター
- 国立がん研究センター東病院
- 先端医療科 腫瘍内科
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