トップページ > 研究組織一覧 > 分野・独立ユニットグループ > がん治療学研究分野 > 研究成果の概要 > ARID1A欠損がんにおける核酸代謝阻害剤を用いた治療法の開発
ARID1A欠損がんにおける核酸代謝阻害剤を用いた治療法の開発
研究背景と目的
ARID1Aは、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成因子であり、卵巣明細胞がん、子宮内膜がん、卵巣類内膜がんなどの婦人科がんにおいて、高頻度に欠損型遺伝子異常が認められます。特に、卵巣明細胞がんは基本的には手術療法が適用されますが、完全摘出が難しいため化学療法も必要になります。しかし、卵巣明細胞がんは、卵巣がんで使用されている標準治療薬に対して基本的には治療抵抗性を示します。しかし、ARID1A欠損型卵巣明細胞がんに対する卵巣がんの標準治療薬に対する効果については明らかになっていませんでした。そこで本研究では、ARID1A欠損型卵巣明細胞がんにおいて、卵巣がんで使用されている標準治療薬に対する有効性を検討しました。
研究成果
細胞株モデルにおける卵巣がん標準治療薬の有効性
卵巣明細胞がんにおける化学療法において、タキソール(Taxol, Paclitaxel)およびカルボプラチン(Carboplatin)の併用療法が第一選択療法として治療に使われます。そこで、私たちは、ARID1A欠損型卵巣明細胞がんモデルを構築し、タキソールおよびカルボプラチンへの薬剤感受性試験を検討しました。しかし、ARID1A欠損型卵巣明細胞がん細胞株において、タキソールおよびカルボプラチンのいずれについても薬剤感受性を示しませんでした。そこで、卵巣がんで使用される標準治療薬についても薬剤感受性試験を検討しました。その結果、ARID1A欠損型卵巣明細胞がん細胞株は、卵巣がんの標準治療薬の中で唯一ゲムシタビンに高い感受性を示すことが分かりました。マウス移植腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果
ARID1A欠損型卵巣明細胞がん由来のマウス移植腫瘍モデルにおいて、ゲムシタビン投与による抗腫瘍効果を示しました。臨床でのゲムシタビンの有効性
卵巣明細胞がんの臨床データにおいて、ARID1A欠損型卵巣明細胞がん患者群では、ゲムシタビン投与によって有意に生存率が延長されました。標準治療薬抵抗性患者にゲムシタビンが著効した症例
ARID1A欠損型卵巣明細胞がん患者さんの中に、標準治療薬でタキソールとカルボプラチンの併用療法によって治療抵抗性を示したため、次に卵巣明細胞がんの標準治療薬であるエトポシドとイリノテカンの併用療法を行いましたが、治療効果が得られなかった患者さんがいました。この患者さんにゲムシタビンを投与すると腫瘍の退縮を認めたという症例がありました。研究成果のまとめ
卵巣明細胞がん患者さんに対して、第一選択の化学療法として、タキソール、カルボプラチンの併用療法が行われています。少なくともARID1A欠損型卵巣明細胞がん患者さんに対しては、基本的にはタキソール、カルボプラチンに抵抗性であると考えられました。しかし、別の標準治療薬であるゲムシタビンには有効性を示すことが期待できると考えられました(Kuroda, Ogiwara et al., Gynecologic Oncology, 2019)。今後は、ARID1A欠損型卵巣明細胞がんへのゲムシタビン投与による有効性を示すエビデンスを収集していくことで、ARID1A欠損型卵巣明細胞がんへの第一選択となる治療薬としてゲムシタビンを投与する治療法を提言していきたいと考えています。
参考文献
Kuroda T, Ogiwara H*, Sasaki M, Tahahashi K, Yoshida H, Kiyokawa T, Sudo K, Tamura K, Kato T, Okamoto A, Kohno T.
Therapeutic preferability of gemcitabine for ARID1A-deficient ovarian clear cell carcinoma.
Gynecol Oncol. 155:489-498. 2019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31604667/