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CBP/p300同時阻害剤を用いた合成致死治療法

1. CBP/p300同時阻害剤はSMARCB1欠損がんに有望である

研究背景と目的

ラブドイド腫瘍類上皮肉腫は日本における小児がんやAYA世代(Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)の略)のがんの中でも希少ながんであり、予後の悪いがんです。これらのがんは、転写を制御するSMARCB1遺伝子に欠損型の異常が起こることが原因となっています。
ラブドイド腫瘍や類上皮肉腫のような欠損型遺伝子異常をもつがんには、合成致死性を利用したがん治療法(合成致死治療法)が有望です。
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合成致死性とは、細胞内に2つの遺伝子がある場合に、片方の遺伝子のみが抑制された場合には細胞は死なないが、2つの遺伝子が両方とも抑制された場合に細胞が死滅する現象です。従来の阻害薬の開発は1つの遺伝子異常に対して1つの標的を1つの阻害薬で治療することが一般的です(図1-1)。次世代シークエンサーやCRISPR/Cas9システムなどの最先端の科学技術を利用した1つの標的を探す研究方法は成熟した状況にありました。これから期待される新しい標的を見つける方法として、1つだけではなく、2つの標的を同時に抑制する方法が考えられます(図1-2)。しかし、別々の標的を阻害する場合、それぞれに阻害剤の使用が必要となります。臨床開発の中で新しい2つの阻害剤による試験を検討する必要があるため、阻害剤併用による試験計画の煩雑性や副作用などの問題が生じやすいことが懸念されていました。
そこで私たちは、2つの標的をパラログにすることを思いつきました。パラログというのは、構造が類似したタンパク質のことです。パラログを標的とすれば、タンパク質の構造的な相同性(パラログであること)を利用して2つのタンパク質(パラログペア)を1つの阻害剤で同時に抑制することが可能になります。この方法を “パラログ同時阻害法”と名付けました(図1-3)。
本研究では、SMARCB1欠損がんに有望な治療標的を見つけるために、”パラログ同時阻害法”の理論に基づいて、パラログペアの2つの標的を同時に抑制したときに、SMARCB1欠損型のがん細胞では細胞死が起こるが、正常な細胞では細胞死が起こらない、すなわち、合成致死性を示すパラログペアとなる2つの標的タンパク質を探索しました。

研究成果

SMARCB1欠損型遺伝子異常をもつがんに有望な合成致死標的として、CBPとp300のパラログペアを発見しました。CBP/p300阻害剤は、従来ラブドイド腫瘍や類上皮肉腫に使用されているEZH2阻害薬よりも高い有効性を示し、その作用機序も明らかにしました (Sasaki, et al., Nat Commun. 2024)。

SMARCB1欠損型がんに有望な合成致死標的として、CBP/p300パラログペアを発見した

SMARCB1欠損型細胞株モデルを構築し、クロマチン制御遺伝子におけるパラログペアの2つの遺伝子を同時に抑制することで、SMARCB1欠損型細胞では致死となるが、SMARCB1正常型細胞では生存に影響がない、すなわち、合成致死性を示すパラログペア遺伝子を探索しました。その結果として、ヒストンアセチル化酵素をコードするCBP(CREBBP)とp300(EP300)のパラログペア遺伝子を同定しました。SMARCB1欠損型細胞において、CBPあるいはp300を単独で抑制すると、部分的に増殖が抑制されますが、CBPとp300を同時に阻害すると致死性を示すことを発見しました。つまり、SMARCB1欠損型細胞において、CBPとp300

CBP/p300阻害剤は、SMARCB1欠損型がん細胞に高い有効性を示す

既存のCBP/p300阻害剤CP-C27を用いて、阻害剤によるSMARCB1欠損型細胞への有効性を確認するために、薬剤感受性試験を検討しました。その結果、SMARCB1欠損型細胞は、SMARCB1正常型細胞に比べて、100倍以上選択性が高い(IC50が低い)ことがわかりました。さらに、CBP/p300阻害剤は、SMARCB1欠損型類上皮肉腫の既存薬よりも高い効果を示すことがわかりました。

合成致死性を決定づける下流因子としてKREMEN2遺伝子を発見した

SMARCB1は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体として、様々な遺伝子の転写を促進したり、抑制したりする働きがあります。一方で、CBP/p300は、ヒストンアセチル化酵素であり、様々な遺伝子の転写を促進する働きがあります。そこで、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時に阻害すると、どのような作用機序で合成致死性になるかを検討しました。私たちは、RNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を用いて、SMARCB1の欠損によって発現が増加する遺伝子の中で、CBP/p300の阻害によってその発現が抑制される遺伝子を探索しました。その結果、KREMEN2遺伝子を同定しました。KREMEN2を抑制すると、SMARCB1正常型細胞では増殖抑制は起こりませんが、SMARCB1欠損型細胞では増殖抑制が起こる、すなわち、合成致死性を示すことがわかりました。また、SMARCB1欠損型細胞におけるCBP/p300同時阻害による細胞死が、KREMEN2遺伝子の発現を補うことで細胞死が回避されることから、KREMEN2は合成致死性の決定因子であることがわかりました。

SMARCB1とCBP/p300によるKREMEN2の遺伝子発現制御の分子メカニズムを解明した

KREMEN2の遺伝子発現制御の分子メカニズムを明らかにするために、CUT&RUN-seqによるクロマチン局在解析やATAC-seqによるクロマチン構造解析などのクロマチン解析手法を用いて検討しました。SMARCB1はSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体として、KREMEN2遺伝子座の転写制御領域に局在することで、KREMEN2遺伝子の転写を抑制していました。一方で、SMARCB1が欠損することによって、CBPとp300の両方がKREMEN2遺伝子座の転写制御領域に局在することで、KREMEN2遺伝子の転写が促進されることがわかりました。さらに、CBPとp300を同時阻害すると、KREMEN2遺伝子座の転写制御領域における転写因子の局在が抑制されることで、KREMEN2遺伝子の転写が抑制されることがわかりました。その結果として、合成致死性が誘導されると考えられました。

KREMEN2の抑制によって誘導される細胞死経路を特定した

これまでの結果から、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時阻害したとき、KREMEN2の発現が抑制されることで、細胞死が誘導されることを明らかにしました。そこで、KREMEN2の発現抑制によって、どのような分子メカニズムによって細胞死が誘導されるかを検討しました。これまで、KREMEN2は膜タンパク質であり、KREMEN1という別の膜タンパク質と結合することと、KREMEN1タンパク同士が結合することが分かっていました。また、KREMEN2はアポトーシス抑制タンパク質であり、KREMEN1はアポトーシス促進タンパク質であることも分かっていました。しかし、KREMEN2KREMEN1の相互作用とアポトーシスの制御機構は明らかになっていませんでした。そこで、タンパク質同士の相互作用(結合)を発光シグナルで定量的に検出する実験手法であるNanoBitシステムを応用してKREMEN1同士の結合を定量的かつ簡便に検出できるアッセイ系を構築しました。KREMEN2が増加するとKREMEN1同士の結合を促進することでアポトーシスが抑制されること、KREMEN2が減少(CBP/p300を同時阻害)するとKREMEN1が単量体化することでアポトーシスを促進することを明らかにしました。
さらに、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時阻害したときに、どのような分子経路を経てアポトーシスが誘導されるかを検討するために、CBP/p300の同時阻害およびKREMEN2の抑制で共通して変動する遺伝子とタンパク質について、網羅的遺伝子発現解析に基づいたGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)解析およびリン酸化タンパク質抗体アレイ解析を行いました。これらの解析の結果、CBP/p300の同時阻害に伴うKREMEN2の発現抑制によって、IL6-JAK-STAT3経路、TNFα-NFκB経路、PI3K-AKT経路によるアポトーシス抑制が解除された結果として、アポトーシスが誘導されることを明らかにしました。

メカニズムに基づいたCBP/p300阻害剤の有望性を生体モデルで実証した

細胞株モデルを用いて明らかにしてきた以上の現象について、マウス移植腫瘍モデルにおける生体モデルで検証しました。CBP/p300の同時阻害剤の投与によって、SMARCB1正常型細胞由来のマウス移植腫瘍モデルでは、抗腫瘍効果を示しませんでした。一方で、SMARCB1欠損型細胞由来のマウス移植腫瘍モデルでは、抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。このとき、SMARCB1欠損型の腫瘍では、KREMEN2の発現抑制とともに、PI3K-AKT経路の抑制、アポトーシスの誘導が、生体モデルでも確認することができました。

研究成果のまとめ

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SMARCB1
正常型細胞

SMARCB1は、KREMEN2遺伝子の転写制御領域でクロマチン構造を閉じた状態にすることで、KREMEN2遺伝子の発現を抑制しています。このとき、CBP/p300は、KREMEN2遺伝子の転写制御領域に局在することができません。そのため、SMARCB1正常型細胞ではCBP/p300を介したKREMEN2の発現に依存していないため、CBP/p300を同時阻害しても細胞死が誘導されないと考えられました。
SMARCB1欠損型細胞
SMARCB1が欠損すると、KREMEN2遺伝子座の転写制御領域にCBP/p300が局在することでクロマチン構造が開かれることで、KREMEN2遺伝子の発現が促進されます。このとき、KREMEN2は、KREMEN1の単量体化を防止することでアポトーシスを抑制するようになります。このとき、SMARCB1欠損型細胞は、CBP/p300およびKREMEN2の発現に依存した状態になっているため、CBP/p300を同時阻害すると、KREMEN2の発現が抑制されることで、KREMEN1の単量体化が起こります。このとき、アポトーシスの抑制が解除されて、結果としてアポトーシスによる細胞死が誘導されると考えられました。

今後の展望

CBP/p300の同時阻害剤の創薬開発を製薬会社と共同で進めています。今後、CBP/p300同時阻害剤の前臨床試験、臨床試験の実施を目指すともに、最終的にはラブドイド腫瘍、類上皮肉腫などのSMARCB1欠損型の小児がん、AYA世代のがんの治療へ貢献できるように研究を進めていきたいと考えています。また、SMARCB1とは別の因子の遺伝子欠損が肺がんなどの難治性がんで高頻度に見つかっています。このようながんに対してもCBP/p300の同時阻害剤が有望であるかについての研究も進めています。
本研究では、新たに考案した“パラログ同時阻害法”によって、有望な創薬標的を発見することができました。本研究では、対象とするパラログペア遺伝子の数を限定して標的探索を行いましたが、現在、対象とするパラログペア遺伝子の数を拡大して、大規模に創薬標的を探索できる方法を構築しています。今後、小児がん、AYA世代のがんなどの希少がんだけでなく、治療法が確立されていない難治性がんにおいて、欠損型遺伝子異常をもつがんに有望な治療法の開発につなげていく研究を進めていきます。

CBP/p300同時阻害剤の適用拡大

SMARCB1以外のSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体因子のSMARCA4、ARID1A、PBRM1、SS18なども様々ながんで遺伝子異常が認められます。私たちは、SWI/SNF関連遺伝子が異常ながんにおいて、CBP/p300同時阻害剤の有望性を検討しました。その結果として、SMARCA4/SMARCA2欠損型の肺がんや卵巣がん、SS18-SSX融合型の滑膜肉腫に由来するがん細胞モデルおよびマウス移植腫瘍モデルにおいて、CBP/p300同時阻害剤が高い有効性を示すことを発見しました (Sasaki, et al., Cancer Res Commun. 2025)。したがって、CBP/p300同時阻害剤は、SMARCB1欠損型のラブドイド腫瘍、類上皮肉腫だけでなく、SMARCA4/SMARCA2欠損型の肺がんや卵巣がん、SS18-SSX融合型の滑膜肉腫にも有望であると考えられます。

参考文献

Sasaki M, Kato D, Murakami K, Yoshida H, Takase S, Otsubo T, Ogiwara H*.

Targeting dependency on a paralog pair of CBP/p300 against de-repression of KREMEN2 in SMARCB1-deficient cancers.

Nat Commun. 15(1):4770. 2024

doi: 10.1038/s41467-024-49063-w. PMID: 38839769

 

Sasaki M, Kato D, Yoshida H, Shimizu T, Ogiwara H*.

Efficacy of CBP/p300 Dual Inhibitors against De-repression of KREMEN2 in cBAF-Deficient Cancers.

Cancer Res Commun. 5(1):24-38. 2025

doi: 10.1158/2767-9764.CRC-24-0484. PMID: 39625239

プレスリリース

2024年6月26日 SMARCB1遺伝子欠損型の小児・AYA世代のがんに有望な治療標的と阻害剤を発見


2. CBP/p300同時阻害剤は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体欠損がんに有望である

SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、cBAF、PBAF、ncBAFの3つのサブコンプレックスに分かれています。この複合体の構成遺伝子(例:SMARCB1、SMARCA4、SMARCA2、SS18)は、さまざまながんで遺伝子異常を持つことが多いです。上記で示した私たちの以前の研究で、ヒストンアセチル転移酵素CBP/p300の同時阻害剤がSMARCB1欠損がんに有望であることが示されました。本研究では、CBP/p300同時阻害剤の治療が、SMARCA4/SMARCA2欠損がんやSS18-SSX融合がんなどのcBAF欠損がんにおいて合成致死を引き起こすことを示しました。CBP/p300同時阻害剤の感受性とSWI/SNFサブコンプレックスの共通性を考慮すると、CBP/p300同時阻害剤は、cBAFサブコンプレックス全体に含まれる構成遺伝子に異常を持つがんの有望な治療法となる可能性があります。SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18-SSX融合がん細胞は、SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18-SSX融合によるKREMEN2の転写上昇に依存しているため、CBP/p300の同時阻害によってKREMEN2の発現を抑制することで合成致死が誘導されることを明らかにしました。さらに、CBP/p300の同時阻害はKREMEN2の転写抑制を引き起こし、KREMEN1を介したアポトーシス(細胞死)を誘導しました。また、CBP/p300同時阻害剤の治療は、SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18-SSX融合がん細胞由来の異種移植腫瘍の成長を抑制し、KREMEN2の抑制とアポトーシスの誘導によるものであることが示されました。したがって、CBP/p300同時阻害剤は、cBAF複合体全体が欠損しているSMARCA4/SMARCA2欠型損肺がんおよびSS18-SSX融合型滑膜肉腫に有望である可能性があります (Sasaki, et al., Cancer Res Commun. 2025)。

研究背景と目的

がんゲノム医療は、がん細胞の遺伝子変異に基づいた治療法であり、多遺伝子パネル検査の発展によりさらなる進歩が期待されています。特に、機能獲得型(gain-of-function)変異を持つがん遺伝子が治療標的となりますが、腫瘍抑制遺伝子の機能喪失(LOF)変異に対する直接的な治療法はありません。そこで注目されているのが「合成致死」という概念であり、二つの遺伝子を同時に阻害することで細胞死を誘導する戦略です。

がんの約20%でSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成要素の変異が確認されています。この複合体は約15のサブユニットから構成され、BAF、PBAF、ncBAFの3つのサブ複合体に分類されます。SMARCB1やSMARCA4、ARID1Aなどの遺伝子が欠損すると転写の制御バランスが崩れ、がん細胞が脆弱化します。例えば、SMARCB1はラブドイド腫瘍や類上皮肉腫で欠損し、SMARCA4やARID1Aの変異は肺がんや卵巣がんで欠損型異常が高頻度に見られます。

CREBBP(CBP)とEP300(p300)は、ヒストンH3K27をアセチル化し、クロマチン構造を開くことで転写を促進します。これらを標的としたCBP/p300同時阻害剤(CP-C27やA-485)が開発され、がん治療への応用が期待されています。これまでの研究で、SMARCB1欠損がんにおいてCBP/p300を同時に阻害するとKREMEN2遺伝子の発現が低下し、抗アポトーシスシグナルが阻害され細胞死が誘導されることが示されました。本研究では、SMARCB1以外のSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体構成因子の欠損がんにおけるCBP/p300同時阻害剤の有望性を検討しました。

研究成果

CBP/p300同時阻害剤はcBAF複合体のサブユニットが欠損したがん細胞に選択的効果を示す

本研究では、CBP/p300同時阻害剤の適用範囲を拡大するため、SWI/SNF複合体の構成遺伝子に異常を持つがん細胞への効果を検討しました。SWI/SNFs正常型細胞やSMARCA4/SMARCA2欠損型細胞、SS18–SSX融合型細胞などを含むがん細胞株パネルを構築し、CBP/p300同時阻害剤CP-C27に対する感受性を評価しました。その結果、SMARCA4/SMARCA2欠損細胞群とSS18–SSX融合細胞群は特に高い感受性を示し、SMARCB1欠損細胞群と同様の傾向を示しました。また、A-485やInobrodibなどの他のCBP/p300同時阻害剤にも同様の感受性が確認されました。これらの結果から、cBAF複合体に含まれるサブユニットが異常な細胞はCBP/p300同時阻害剤に高い感受性を持つ可能性が示唆されました。

CBP/p300同時阻害剤はSMARCA4/SMARCA2欠損型がん細胞およびSS18–SSX融合型がん細胞において合成致死性を引き起こす

本研究では、CREBBP(CBP)およびEP300(p300)の同時抑制が細胞増殖に与える影響を解析しました。その結果、SMARCA4/SMARCA2欠損型細胞およびSS18–SSX融合型細胞では細胞生存率が低下しましたが、SWI/SNF正常型細胞では影響がありませんでした。この効果は、CREBBPまたはEP300の単独抑制では不十分であり、両者を同時に抑制することで顕著に増殖が抑制されました。これにより、CBP/p300の同時阻害がSMARCA4/SMARCA2欠損細胞およびSS18–SSX融合細胞に特異的な合成致死を引き起こすことが示されました。

SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合はKREMEN2遺伝子の発現上昇を引き起こす

これまでの研究でCBP/p300の同時阻害による合成致死の下流因子を解析した結果、KREMEN2遺伝子がSMARCB1欠損細胞で特異的に発現上昇することが判明しました。本研究では、SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合細胞でもKREMEN2 mRNAの発現がSWI/SNF陽性細胞より高いことを確認しました。ChIP-seq解析の結果、SMARCA4はKREMEN2遺伝子座の転写制御領域に局在し、転写を抑制することが示されました。SMARCA4欠損によりKREMEN2の発現が促進されます。また、SS18–SSX融合細胞ではSS18–SSXがncBAF複合体の構成因子としてKREMEN2の転写を活性化し、発現上昇を引き起こすことが明らかとなりました。

SMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合細胞におけるCBP/p300の同時阻害はKREMEN2の発現抑制を介してアポトーシスを誘導する

本研究では、CBP/p300の同時阻害がKREMEN2の発現に与える影響を調査した結果、CBP/p300同時阻害処理やCREBBP/EP300の同時ノックダウンにより、SMARCA4/SMARCA2欠損細胞およびSS18–SSX融合細胞でKREMEN2 mRNAの発現が低下しました。さらに、CBP/p300の同時阻害により、アポトーシスマーカーであるAnnexin V陽性細胞の増加と、アポトーシス促進遺伝子CASP6の発現上昇が確認されました。KREMEN2のノックダウンもCASP6の発現を増加させ、細胞の生存率を低下させたことから、KREMEN2はこれらのがん細胞の生存に必須であることが示唆されました。これらの結果は、CBP/p300の同時阻害がKREMEN2の発現抑制を介してアポトーシスを誘導することを示しています。

CBP/p300同時阻害によるSMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合がん細胞におけるKREMEN2の発現低下はKREMEN1を介してアポトーシスを誘導する

KREMEN1とKREMEN2はともに単一膜貫通型タンパク質であり、KREMEN2はKREMEN1を介したアポトーシスを抑制する役割を持ちます。CBP/p300同時阻害によるKREMEN2の発現低下がSMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合細胞でアポトーシスを誘導するか検証しました。その結果、CBP/p300の同時阻害やKREMEN2のノックダウンによる細胞生存率の低下は、KREMEN1の同時ノックダウンによって回復しました。また、アポトーシス促進遺伝子CASP6の発現上昇もKREMEN1のノックダウンにより抑制されました。これらの結果から、CBP/p300同時阻害によるKREMEN2の発現低下は、KREMEN1を介したアポトーシスを誘導することが示されました。

CBP/p300同時阻害剤の投与はSMARCA4/SMARCA2欠損およびSS18–SSX融合細胞由来のマウス異種移植腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果を示す

本研究では、CBP/p300同時阻害剤CP-C27のin vivo効果を評価するため、マウスの皮下異種移植腫瘍モデルを用いて検討しました。CP-C27投与により、SMARCA4/SMARCA2欠損細由来の腫瘍成長が有意に抑制されました。また、体重への悪影響は確認されませんでした。さらに、H3K27acの減少が確認されました。また、SS18–SSX融合型腫瘍モデルで腫瘍成長が著しく抑制され、KREMEN2発現も低下しました。加えて、移植腫瘍内ではアポトーシスマーカ陽性細胞が増加しました。これらの結果から、CBP/p300阻害剤がSMARCA4/SMARCA2欠損型およびSS18–SSX融合型の腫瘍の成長を抑制することが示されました。

考察

合成致死性の原理は、2つの遺伝子(AとB)の「1対1」の関係に基づいています。本研究では、パラログ(CBPとp300)の同時阻害が、SMARCA4/SMARCA2欠損細胞およびSS18–SSX融合細胞で合成致死を引き起こすことを示しました。この「2対1」の関係に基づく戦略では、類似したパラログタンパク質を1つの阻害剤で同時に抑制できるため、2種類の異なる標的を阻害するよりも利便性が高いです。この考えに基づき、「パラログペアの同時阻害による合成致死ターゲットの探索」を提案し、SMARCB1欠損細胞に加え、2つの遺伝子が欠損した細胞や融合遺伝子を持つ細胞にも適用可能であることを示しました。

合成致死を利用したがん治療戦略はこれまでにも提案されており、CRISPRノックアウト法を用いた網羅的探索では、約3~4%のパラログペアが細胞増殖に必須であることが判明しています。この結果から、大部分のパラログペアを同時に阻害しても細胞に致死性を示さないため、副作用の可能性が低いことが期待されます。この特性を活かし、遺伝子異常を持つがん細胞の合成致死ターゲットを特定する戦略として本手法を適用しました。また、ゲノムワイド解析を用いることで、従来の合成致死ターゲット探索法では見つからなかった新規標的の発見が期待されます。

SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体はcBAF、PBAF、ncBAFのサブコンプレックスに分類されます。SMARCB1はcBAFとPBAFに含まれ、SMARCA4とSMARCA2はcBAF、PBAF、ncBAFのいずれかに含まれます。また、SS18はcBAFとncBAFに含まれます。SMARCB1欠損細胞に加え、SMARCA4/SMARCA2欠損型細胞やSS18–SSX融合型細胞ではKREMEN2の発現が上昇し、CBP/p300の同時阻害によりKREMEN2の発現が抑制され、細胞死が誘導されました。本研究により、cBAFサブコンプレックスの欠損がKREMEN2の発現上昇やCBP/p300阻害剤に対する感受性増加と関連することが示されました。さらに、ARID1A欠損細胞では、SMARCA4欠損細胞よりもCBP/p300阻害剤に対する感受性が高く、cBAFサブコンプレックスの機能により大きな影響を与える可能性が示唆されました。

研究成果のまとめ

CBPp300i_cBAF
本研究の結果から、CBP/p300の同時阻害による合成致死性の分子メカニズムが明らかになりました。通常、cBAF複合体はKREMEN2遺伝子のプロモーター領域に結合し、その転写を抑制します。しかし、cBAF欠損によりCBP/p300がプロモーター領域に結合可能となり、KREMEN2の発現が増加します。CBP/p300を阻害するとKREMEN2の発現が強く抑制され、KREMEN1が単量体化し、アポトーシスが誘導されます。したがって、KREMEN2の発現抑制がcBAF欠損細胞の生存に不可欠であり、CBP/p300阻害剤がKREMEN1単量体化を介してアポトーシスを引き起こすことが示されました。

今後の展望

SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成因子であるSMARCB1、SMARCA4、ARID1A、PBRM1、SS18の異常は、希少がんや難治性がんに多く見られます。本研究では、これらのSWI/SNF遺伝子のCBP/p300同時阻害剤への感受性を調べました。その結果、CBP/p300同時阻害剤はすべてのSWI/SNF複合体異常を持つがんに対して有望な治療法ではないことが分かりましたが、cBAFサブコンプレックスが完全に欠損しているがんに対しては効果があることが示されました。具体的には、SMARCB1欠損型のラブドイド腫瘍や類上皮肉腫、SMARCA4/SMARCA2欠損型の非小細胞肺がん、卵巣小細胞がん、SS18–SSX融合型の滑膜肉腫に対して、CBP/p300同時阻害剤が有望な治療薬となる可能性があります。これらのがんは、現在確立された治療法がないか、難治性のものが多いため、CBP/p300同時阻害剤の創薬開発はこれらのがんに対する新たな治療法の確立に繋がると期待されます。

参考文献

Sasaki M, Kato D, Yoshida H, Shimizu T, Ogiwara H*.

Efficacy of CBP/p300 Dual Inhibitors against De-repression of KREMEN2 in cBAF-Deficient Cancers.

Cancer Res Commun. 5(1):24-38. 2025

doi: 10.1158/2767-9764.CRC-24-0484. PMID: 39625239