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ゲノム生物学研究分野
ゲノム生物学研究分野では、「がん細胞やがん罹患者のゲノムを把握し、その生物学的意義・特徴を明らかにすることで、個別化医療を実現するためのがんの予防・診断・治療の標的となるシーズ(種)を同定する」ことを目的としています。
がん細胞は、正常細胞にはないゲノムの異常、つまり体細胞変異を獲得しています。例えば、日本人の肺腺がんではがん遺伝子EGFRの変異が30-50%に見られます。このようながんを持つ患者さんにはゲフィチニブ/エルロチニブというEGFRタンパク質に対する分子標的薬が著効します。私たちはRETキナーゼ遺伝子の融合が肺腺がんの2%に存在することを発見し、RETタンパク質のキナーゼに対する阻害剤を用いた肺がん治療法の探索を進めています。その中で、「アロステリック効果をもつ変異」というRET阻害剤に対する新しい治療耐性機構も明らかにしました(後述)。
- 2012年2月13日 当センタープレスリリース(PDF:171KB)
- 2013年1月15日 当センタープレスリリース(RET融合遺伝子陽性の肺がんに対する全国規模のスクリーニングと新規分子標的治療薬の医師主導治験を開始
- SCRUM-Japanについて (臨床試験サイト)(NCC管轄タイトへリンクします。)
- 2016年11月8日 当センタープレスリリース(RET融合遺伝子陽性の肺がんに対する分子標的治療薬「バンデタニブ」の有効性を確認)
LC-SCRUM-Japanや製薬企業と協働することで、ゲートキーパー変異を獲得することでRET阻害剤バンデタニブに耐性化した肺がんが、新しいRET特異的阻害薬Selpercatinib/Retevmo™ (LOXO-292)に対しては治療効果を示すことを論文発表しました。同薬剤は、一年以上の治療効果を示すこと、初回治療例の85%で治療効果が見られることなどから、2020年5月米国FDAにより薬事承認されました(臨床試験結果はNew England Journal of Medicine誌に掲載)。また、2020年9月に次のRET阻害剤Pralsetinib/Gavreto™ (BLU-667)が米国FDAにより薬事承認されました。Selpercatinib/Retevmo™は2021年9月27日に日本国内でも薬事承認され、12月13日に保険収載されました。現在はRET融合陽性の肺がんに対する標準的な治療法となっています。
2019年6月より、がん遺伝子パネル検査が保険診療として開始され、がんゲノム医療が大きく推進しています。がん遺伝子パネル検査が医療現場に導入されることで、がんの新しい病因の発見、正確な病態の把握が可能となると期待されます。例えば私たちは、がん遺伝子パネル検査の結果に基づいて、母親の子宮頸がんが羊水を介して出産時に子供の肺に移行し、小児肺がんの原因となることを発見しました。
● 2021年1月7日 母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見ーNew England Journal of Medicine誌に論文発表ー
一方、がん遺伝子パネル検査では、検出されても薬物治療に到達しない遺伝子変化が多く存在します。臨床現場で検出される意義不明変異(VUS: variants of unknown significance)の解釈は、患者さんへの薬剤到達率の向上に大きく貢献すると考えられます。私たちは、スーパーコンピュータを用いた分子動力学シミュレーションなどを利用した先駆的な意義付けを行うことで、がんゲノム医療の推進を目指しています。
- 2018年2月14日 当センタープレスリリース(RET融合遺伝子上に生じるアロステリック効果を持つ二次変異)
- 2019年5月7日 当センタープレスリリース(LC-SCRUM-Japanで構築した日本最大臨床ゲノムデータを活用しスーパーコンピュータで治療薬の効き目を予測 -がんゲノム医療における新たなツールの開発-)
- 2022年9月27日 当センタープレスリリース (コンピュータ解析で意義不明変異のなかに治療標的となる新たな遺伝子変異を発見)
遺伝子パネル検査はがんゲノム医療の起点であり、今後、全ゲノムシークエンス解析への展開が大きく期待されています。私たちは、最も悪性度の高い肺がんである肺小細胞がんの全ゲノムシークエンス解読を国際共同研究で行い、クロマチン制御遺伝子CBP/EP300の失活変異を明らかにしました。 現在は、肺がんに加え、婦人科がんなどの全ゲノムシークエンス解析を進めています。
日本人やアジア人では、欧米とは異なるリスク因子を保持しており、非喫煙者における肺がんの発生やEGFR変異を持つ肺がんの発生が多いなど、特徴があります。そこで、当分野では発生初期の肺がんや非喫煙者、受動喫煙者の肺がんのゲノム変化を調べることで、日本人やアジア人の肺発がんの分子機構を解明しています。
- 2023年12月22日 当センタープレスリリース(肺がんの悪性化に伴う分子的変遷の解明―肺がんはどうやって悪性化していくのか?―)
- 2024年4月16日 当センタープレスリリース (受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明)
また、ゲノム配列には個人差があり、血液型やHLA型に代表されるような遺伝子多型が存在します。私たちは、アジア人に多いEGFR遺伝子変異陽性の肺腺がんへのなりやすさに、TERTやHLAクラスII遺伝子の個人差が関係することを突き止めています。このような遺伝子の情報を用いることで、肺がん高危険度群を把握し、予防・早期発見することが可能になると考えます。
- 2012年7月12日 当センタープレスリリース(肺腺がんのかかりやすさに関わる2ヵ所の遺伝子領域を発見)
- 2016年8月9日 当センタープレスリリース(免疫を司るHLA遺伝子など6遺伝子領域が関与)
- 2023年6月9日 当センタープレスリリース (非喫煙者の肺腺がんリスクは遺伝子の個人差による影響が大きい)
- 2023年11月8日 当センタープレスリリース (非喫煙者に多いEGFR変異肺腺がんへのかかりやすさを解明)
また、全国の施設のご協力のもと、大規模な生殖細胞系列変異の解析を行っています。がん研究センター中央・東病院、社会と健康研究センター、がん情報センター等のスタッフと協力し、肺がん、婦人科がんなどを対象に研究を進めています。
クロマチン制御遺伝子変異に関する治療法の探索は、がん治療学研究分野で推進されています。
- 2015年12月09日 当センタープレスリリース(合成致死に基づく新しいがん治療標的を発見)
- 2019年1月25日 当センタープレスリリース(日本人に多い卵巣明細胞がんなどでみられるARID1A遺伝子変異がんを対象に代謝(メタボローム)を標的とした新たながん治療法を発見)
臨床の先生方へ
ゲノム解析・がん診療シーズの同定に興味のある先生方、独特・稀ながん発症例(若年発症がん、前がん病変多発例等)・治療著効例・重篤な副作用例を受けもたれた先生方、共同研究、ポスドク・外来研究員等、歓迎いたします。当研究室では、大学の呼吸器、婦人科、臨床検査科など様々な専門の若いドクターが一緒に研究しています。ゲノム解析や細胞・たんぱく質実験だけでなく、ゲノム情報解析やスーパーコンピュータを用いたin silico シミュレーションなど、多彩な研究参画が可能です。国立がん研究センターが連携する大学院での学位取得もできます。河野(tkkohno●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください))までご連絡いただけますと幸いです。
基礎医学研究に興味のある方へ
医療を変えるような研究に挑戦しませんか。ゲノム解析や細胞・たんぱく質実験だけでなく、ゲノム情報解析やスーパーコンピュータを用いたin silico シミュレーションなど、多彩な研究参画が可能です。ポスドク、研修生・外来研究員の応募をご希望の大学生・大学院生・臨床医の方は、河野(tkkohno●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください))にお問い合わせください。企業の方、臨床医の方、国立がん研究センターが連携する大学院での学位取得もできます。また、研究補助員として、研究経験のある主婦の方等も歓迎します。