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健康情報についての全国調査(INFORM Study)の研究目的・調査設計
更新日 : 2022年5月18日
はじめに
私たちは、がん予防や医療の情報を「誰に」「どうやって」届けるのか?を明らかにするための全国調査の研究目的・調査設計についての論文を報告しましたのでその概要をご説明します。
研究の背景
日本では、がんで亡くなる男性の 57%、女性の 30%は予防できたはずの危険因子(主に喫煙、感染など)が原因でがんに罹ったことが分かっています。がんの一次、二次予防のために有効な健康行動の推奨として、「日本人のためのがん予防法」や「がん検診ガイドライン」が出されてしばらく経ちますが、依然として喫煙率が高い、がん検診の受診率が低いなど、日本人のがん予防行動の実践は不十分です。政府や保健機関が国民全体へ重要な健康情報を発信しても、健康情報を利用してほしい人々(不健康な行動を行っている人々)に確実に届けることは容易ではありません。しかし、そのような人々が良く使用する情報チャネル(インターネット、テレビ、ラジオ、新聞など)を通して、その人々が信頼できると考えている情報源(医師、政府保健機関、がん関連団体など)から情報を積極的に発信することで、人々が情報を受け取る機会を増やすことができます。
研究の目的
郵送アンケートによって以下のデータを収集し、がん予防や医療の情報を届けるべき対象と、その対象へ届く可能性の高い情報チャネルを特定すること。
- 情報を届けるべき対象の特定に重要な項目
がん予防行動の実施/がんに対する知識や考え方など/就労や年収などの社会経済的状況など - 情報チャネルの特定に重要な項目
がん情報探索の経験/信頼できるがん情報源/インターネット利用・ソーシャルネットワーキングサービスの利用/テレビ・ラジオ・新聞の利用など
研究の方法(調査の設計)
20 歳以上の日本人 10,000 人を対象とした郵送でのアンケート調査を以下のように設計しました。
- 対象者
国民を代表するデータを得るため、性・年齢・居住地域などが偏らないように考慮した無作為抽出を行いました。 - アンケートの作成
研究者が、アンケートに含める質問項目を既存調査(米国の Health Information National Trends Survey:HINTS (外部サイトにリンクします)、国民生活基礎調査、国民健康・栄養調査など)で使用実績のある質問の中から選びました。300 人を対象とした予備調査の質問ごとの回答割合を踏まえて、質問の問い方や選択肢の修正を行い、アンケートを確定しました。 - 予備調査
事前に 300 名を対象に本調査(10,000 人対象の調査)と同様の方法で予備調査を行い、本調査の実施可能性を確認しました。
今後の展望
≪調査によって分かること≫
がん予防や医療の情報を届けるべき対象を、性別、年齢、居住地域などの人口統計学的特性、就労や年収などの社会経済的特性、がんの予防や検診に対する認識、知識、態度、信念などの個人特性により特定します。そして、それらのグループに情報を発信する場合に、最も多くの人に届く可能性のある情報チャネル、信頼するがん情報源を特定します。例えば、予備調査の結果では、日本人の多くがインターネット上でがん情報を探しており、最も信頼できる情報源は医師でした。
≪調査結果の活用≫
がんを予防できると考えているか、がん予防の推奨の多さに混乱しているかなどの結果は、がん予防や医療の情報を届けたいグループごとにどんなメッセージ(言葉がけ)で情報を届けると関心を惹き納得してもらうことができるか、を検討する上で重要となります。また、信頼する情報源の結果は、情報発信者に利用してもらう価値が高いと考えています。医師を例にした場合、医師からの情報提供の重要性を医師自身が認識して積極的に患者へ情報提供することや、他のマスメディアの情報チャネルにおいても記者が医師を情報源とした記事を掲載・放送することで、情報を自分に有益なものと認識する人が増えると考えられます。
≪調査の展開≫
全国調査を 2、3 年に一度、定期的に実施することによって、国民のがん情報へのアクセスや利用の経時的な変化を明らかにし、日本のがん対策の参考となるデータを示していきます。また、がん予防や検診だけでなく、がんの診断・治療・サバイバーシップに関する情報発信の在り方も検討できるよう、定期的な実施の際にテーマを更新していく予定です。さらに、米国 HINTS の質問項目を共通に用いている中国、ドイツ、その他いくつかの国との研究コンソーシアム(International Studies to Investigate
Global Health Information Trends:INSIGHTS)の一員として、将来、がん情報のアクセスや利用の国際比較を行う予定です。各国がお互いを参考にしてがんの予防や医療の情報発信の最適化を図れれば、世界のがん対策にも貢献できます。
この全国調査は、がん予防や医療の情報の普及を促進することによって、情報へのアクセスの不平等を解消する上で重要な役割を果たし、ひいては国民のがん負担の軽減に貢献すると期待されます。
発表論文
Otsuki A, Saito J, Yaguchi-Saito A, Odawara M, Fujimori M, Hayakawa M, Katanoda K, Matsuda T, Matsuoka Y J, Takahashi H, Takahashi M, Inoue M, Yoshimi I, Kreps G L, Uchitomi Y, Shimazu T. A nationally representative cross-sectional survey on health information access for consumers in Japan: A protocol for the INFORM Study. World Med. & Health Policy, 2022: 14, 225– 275. https://doi.org/10.1002/wmh3.506