上部尿路(腎盂・尿管)がん術後の膀胱内再発予防にピラルビシン膀注療法が有効であることを証明
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立大学法人東北大学
日本臨床腫瘍研究グループ
発表のポイント
- 上部尿路(腎盂・尿管)がんでは、手術(腎尿管全摘除術)後に膀胱内でがんが再発することが2~5割に認められますが、これまで有効な再発予防法は確立しておらず、経過観察が標準治療でした。
- 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、上部尿路がん術後の膀胱内再発を予防する標準治療を確立するため、術後経過観察と術後24時間以内にピラルビシンを膀胱内に1回投与する治療(ピラルビシン膀注療法)を比較するランダム化比較試験を行いました。
- 本試験の結果、ピラルビシン膀注療法により無再発生存期間が延長することが示されました。ピラルビシン膀注療法は、膀胱がんの術後再発予防では標準治療として行われていますが、本試験により上部尿路がんの術後再発予防においても有効であることが示されました。
- 本研究成果は、上部尿路がんにおける標準治療に関する知見を示すものとして、医学雑誌「The Lancet Oncology」に掲載されました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院(所在地:東京都中央区、病院長:瀬戸 泰之)が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG(ジェイコグ))では、科学的証拠に基づいて患者さんに第一選択として推奨すべき最善の治療である標準治療や診断方法等を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施しています。
このたび、JCOG泌尿器科腫瘍グループでは、上部尿路(腎盂・尿管)がん注1の患者さんを対象に、腎尿管全摘除術後のピラルビシン膀胱内注入療法注2(以下、ピラルビシン膀注療法)の有効性を検証する国内多施設によるランダム化比較第III相試験を実施しました。
上部尿路がんでは、がんが生じた側の腎臓から尿管までを切除する腎尿管全摘除術が標準治療として行われますが、手術後2年以内に膀胱内でがんが再発することが2~5割に認められています。これは、腎盂・尿管に生じたがん細胞が、尿によって膀胱に運ばれ生着し、増殖することが原因と考えられていますが、有効な再発予防法は確立されていませんでした。
そこで本試験では、臨床病期0期からIII期と診断された上部尿路がんの患者さんを対象に、腎尿管全摘除術後に、これまでの標準治療である経過観察と、手術後24時間以内のピラルビシン膀注療法を比較し、追跡期間を3年間として無再発生存期間注3(膀胱内再発および遠隔転移がなく生存している期間)を評価しました。
本試験の結果、ピラルビシン膀注療法を行った患者さんでは、経過観察を行った患者さんと比べて無再発生存期間が延長し、腎尿管全摘除術後の再発予防に有効であることが示されました。副作用としては血尿などが認められましたが、いずれも一過性で、その後回復したことから、許容可能な範囲であると判断されました。
本研究成果は、世界的に権威のある学術雑誌「The Lancet Oncology」に2026年7月10日付で掲載されました。
JCOGでは、がん患者さんにとっての最善の医療を確立するための臨床試験を今後も行ってまいります。
背景

上部尿路がんとは、腎盂・尿管に発生するがんの総称です。臨床病期0期からIII期と診断された患者さんに対する標準治療として、がんの生じた側の腎から尿管までを切除する手術(腎尿管全摘除術)が行われます。しかし、手術後2年以内には患者さんの2割~5割で膀胱内にがんが再発します(膀胱内再発)。
膀胱内再発が生じると、頻回の膀胱鏡検査に加え、再発したがんを切除する治療や、薬剤を膀胱内に注入する治療などが必要となる場合があります。また、再発を繰り返したり、がんが進行したりした場合には、膀胱を摘出する膀胱全摘術が必要となることもあります。膀胱全摘術では、尿の排出方法が変わるなど、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、膀胱内再発を抑えることは、追加治療の負担を減らすだけでなく、膀胱や排尿機能の温存につながる可能性があり、治療後のQOL(生活の質)を保つうえでも重要です。しかし、これまで有効な再発予防法は確立されておらず、腎尿管全摘除術後は経過観察が行われていました。
一方、膀胱に発生する膀胱がんにおいては、手術後の膀胱内再発を予防するため、手術後24時間以内に膀胱内に薬剤を注入する治療(膀注療法)が標準治療として行われており、ピラルビシン膀注療法もその一つです。
そこで、JCOG泌尿器科腫瘍グループでは、上部尿路がんの臨床病期0期からIII期と診断された患者さんに対して腎尿管全摘除術を行った後に、これまでの標準治療である経過観察と、試験治療である手術後24時間以内のピラルビシン膀注療法を比較し、手術後2年以内の再発を評価するために追跡期間を3年間として、手術後の無再発生存期間を延長できるかを検証するランダム化比較第III相試験(JCOG1403)を行いました。
研究方法
上部尿路がんの臨床病期0期からIII期と診断された患者さんは、一次登録後に手術(腎尿管全摘除術)を受けていただき、手術後に二次登録を行い、A群(標準治療群:術後経過観察)、B群(試験治療群:ピラルビシン膀注療法)のいずれかにランダム(無作為)に割り付けられました。手術後3年時点の無再発生存期間を主要評価項目と設定しました。
手術の結果、病理診断でIII期以上と診断された場合、術後補助化学療法注4としてゲムシタビン+シスプラチン療法(GC療法)を2コース行います。

研究結果
2016年10月から2020年7月までに一次登録された352人のうち、304人の患者さんが二次登録されました(A群:151人、B群:153人)。手術後にリンパ節転移あり、またはIII期以上と診断されGC療法を受けた患者さんは、A群39人、B群では50人でした。
二次登録された患者さんの無再発生存期間(試験の二次登録日から患者さんが膀胱内再発も遠隔転移再発もなく生存している期間)を調べました。結果、3年無再発生存割合がA群47.0%、B群60.0%とA群(術後経過観察)と比較しB群(ピラルビシン膀注療法)で良好であることが示されました。[ハザード比(HR)=0.67(90·96%信頼区間0.50–0.88)、p=0.0066]

また、全生存期間注5(試験の二次登録日から患者さんが生存している期間)を調べましたが、3年生存割合はA群88.4%、B群89.3%とほとんど差はありませんでした。

主な副作用を以下の表に示します。手術後の重い副作用として、血尿がB群で4人(2.6%)に認められました。GC療法の副作用は、A群、B群ともに認められ、好中球減少はB群でやや多く認められました。いずれも一過性であり治療後には回復しました。
・主な副作用(グレード3以上の重い副作用)
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A群(術後経過観察) 151人 |
B群(ピラルビシン膀注療法) 153人 |
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発熱 |
1人(0.6%) |
0 |
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血尿 |
0 |
4人(2.6%) |
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皮疹 |
0 |
1人(0.6%) |
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腹膜感染 |
0 |
1人(0.6%) |
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発熱性好中球減少症 |
1人(0.6%) |
0 |
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尿路以外の感染 |
0 |
1人(0.6%) |
・GC療法の副作用(グレード3以上の重い副作用)
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A群(術後経過観察) 39人 |
B群(ピラルビシン膀注療法) 50人 |
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白血球減少 |
9人(23.1%) |
8人(16%) |
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好中球減少 |
13人(33.3%) |
28人(56%) |
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貧血 |
2人(5.1%) |
1人(2%) |
以上より、上部尿路がんの患者さんへの腎尿管全摘除術後に、ピラルビシン膀注療法を行うことが、再発予防として有効であることが示され、上部尿路がんの患者さんでは、腎尿管全摘除術後にピラルビシン膀注療法を行うことが、新たな標準治療の一つとなることが示されました。
本試験の詳細
試験名
上部尿路癌術後の膀胱内再発予防における術直後単回ピラルビシン膀胱内注入療法のランダム化比較第III相試験(JCOG1403)
患者さんの登録時期
2016年10月3日~2020年7月8日
登録人数
352名
年齢中央値
70歳
研究の実施体制
JCOG泌尿器科腫瘍グループ代表:北村 寛(富山大学学術研究部医学系)
JCOG1403研究代表者:伊藤 明宏(東北大学大学院医学系研究科)
JCOG1403研究事務局:伊藤 明宏(東北大学大学院医学系研究科)
JCOG中央支援機関(データセンター/運営事務局):福田 治彦、片山 宏(国立がん研究センター)
目的
上部尿路癌0a-III期(cTa-T3N0M0)の患者を対象として、根治的腎尿管全摘除術後の膀胱内再発予防を目的とした、術直後ピラルビシン単回膀胱内注入療法の有効性と安全性を標準治療である非注入とのランダム化比較にて検証する。
対象
一次登録適格規準
- 上部尿路癌で、臨床病期0a-III期(cTa-T3N0M0)と診断されている。
- 両側性ではない。
- 登録日の年齢が20歳以上、80歳以下である。
- 上部尿路癌に対する前治療がない。
- 膀胱鏡検査にて膀胱癌を認めない。
- 膀胱癌の既往がない。
- 他のがん種に対する放射線治療で、膀胱が照射野に含まれる放射線治療の既往がない。
- 健側腎が無機能腎ではない。
二次登録適格規準
- 術中所見または摘出標本の肉眼所見で、上部尿路癌、Ta-T3N0M0である。
- リンパ節の術中迅速病理診断を行った場合には、リンパ節転移がない。
- プロトコール治療遂行を妨げるような手術合併症がない。
- 尿管口周囲の膀胱壁切除後の縫合部にリークがない。
- 尿管切離断端に肉眼的に癌を認めない。
評価項目
主要評価項目:無再発生存期間
副次的評価項目:全生存期間、無膀胱内再発期間、無膀胱内以外再発期間、有害事象発生割合
実施施設
国内44施設
臨床研究等提出・公開システム
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCTs031180121(外部サイトにリンクします)
展望
本試験の結果、上部尿路がんでの腎尿管全摘除術後にピラルビシン膀注療法を行うことは、膀胱内再発の予防に有効であることが明らかとなり、ピラルビシン膀注療法が、上部尿路がんに対する標準治療の一つとなることが示されました。膀胱内再発を予防できることは、再発後に必要となる検査や治療の負担を減らすだけでなく、膀胱や排尿機能をできる限り保ち、治療後のQOLを維持することにもつながる可能性があります。今後、本試験結果が診療ガイドラインや臨床現場での治療選択に反映されることで、再発する前に予防を行うことで、患者さんの負担を大きく軽減することにつながるものと期待されます。
論文情報
雑誌名
The Lancet Oncology
タイトル
Single, early intravesical instillation of pirarubicin in the prevention of bladder recurrence after radical nephroureterectomy for upper tract urothelial carcinoma (JCOG1403): a multicentre, open-label, randomised, phase 3 trial
著者
Akihiro Ito, Yoichi Arai, Yoshiyuki Kakehi, Masayuki Yokoyama, Keita Sasaki, Motohide Uemura, Atsushi Takahashi, Kazuo Nishimura, Takashi Kawahara, Hitoshi Masuda, Koji Yoshimura, Takashi Kobayashi, Masatoshi Eto, Tsukasa Igawa, Naotaka Nishiyama, Takanori Mochizuki, Akira Yokomizo, Makito Miyake, Tomohiko Ichikawa, Katsuyoshi Hashine, Takuma Sato, Mikio Sugimoto, Hiroyuki Nishiyama, Hiroshi Kitamura, on behalf of the Urologic Oncology Study Group of the Japan Clinical Oncology Group
DOI
10.1016/S1470-2045(26)00130-0
掲載日
2026年7月10日
URL
https://doi.org/10.1016/S1470-2045(26)00130-0(外部サイトにリンクします)
研究費
- 日本医療研究開発機構委託研究開発費
研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:上部尿路癌術後の膀胱内再発予防における標準治療法の確立と予後予測マーカーの開発
研究代表者名:荒井 陽一(宮城県立がんセンター) - 国立がん研究センター研究開発費
研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:成人固形がんに対する標準治療確立のための基盤研究
研究代表者名:金光 幸秀(国立がん研究センター中央病院)
用語解説
注1 上部尿路(腎盂・尿管)がん
腎で生成された尿は、腎から出て腎盂および尿管へと流れて膀胱に到達し、膀胱から尿道を通して体外に排泄されます。この腎盂および尿管に発生するがんを上部尿路がんと呼びます。
注2 ピラルビシン膀胱内注入療法
抗がん剤を膀胱内に注入する治療法です。膀胱がんの手術後に膀注療法を行うことで、膀胱がんの再発を抑えることが知られており、膀胱がんの手術後の再発予防目的の標準治療として行われています。
注3 無再発生存期間
この試験の二次登録日から、患者さんが再発なく生存している期間です
注4 術後補助化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン療法(GC療法))
上部尿路がんの手術の結果、病理診断でIII期以上と診断された場合にGC療法が行われます。手術後の再発および遠隔転移を予防する目的で行われます。
注5 全生存期間
この試験の二次登録日から、患者さんが生存している期間です。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立大学法人東北大学
大学院医学系研究科・泌尿器科学分野 伊藤 明宏
電話番号:022-717-7278
Eメール:akihiro.ito.c5●tohoku.ac.jp
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
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電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp
国立大学法人東北大学
大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
電話番号:022-717-8032
Eメール:press.med●grp.tohoku.ac.jp
