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希少な肝胆膵がん(きしょうなかんたんすいがん)
更新日 : 2023年9月28日
公開日:2023年9月15日
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(収録日:2023年6月16日)
★「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第17回 希少な肝胆膵がん-❝まれ❞でも治療開発のチャンスを見逃さない!-】を一部動画公開しました。
ここでは希少な肝胆膵がんについて紹介します。希少な組織型はそれぞれ腫瘍の性質が異なるため、組織型の特性に基づいて薬物療法を選択することが望ましいのですが、患者数が少ないためランダム化比較試験など、信頼性の高い臨床情報はほとんどなく、有効な治療法が確立しづらいのが現状です。ここでは希少な肝胆膵がんの中でも主な組織型について解説します。尚、神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんは様々な臓器に発生する腫瘍で肝胆膵領域にも発生しますが、別途解説しています。
希少な膵がんについて
膵に発生した悪性腫瘍は組織型によりたくさんの種類に分類されますが、90%以上が腺がんという組織型です。残りの10%以下が希少な膵がんになりますが、さらに10種類以上の組織型に分類されます。ここでは希少な膵がんの中でも主な組織型について解説します。
腺扁平上皮がん(せんへんぺいじょうひがん)
膵悪性腫瘍全体の約0.7%で10万人当たり約0.1人。年齢中央値は60台半ば、男性にやや多い疾患です。切除可能な病態であれば切除を行います。切除不能例には薬物療法を検討しますが、この疾患専用に開発された治療法はなく、薬物治療は、通常の膵がんに準じて行われています。ゲノムプロファイリング(遺伝子異常の種類・頻度)は通常の膵がんと大きく変わらないといわれています。
膵腺房細胞がん(すいせんぼうさいぼうがん)
膵悪性腫瘍全体の約0.3%で10万人当たり約0.06人。採血でアミラーゼやリパーゼが高値となることが多く、10‐20%に足などに皮下結節性脂肪壊死を伴い、それによる痛みを伴う場合があります。
切除不能例には薬物療法を検討しますが、この疾患専用に開発された治療法はなく、薬物治療は、通常の膵がんに準じて行われています。プラチナ系の抗がん剤やイリノテカンという抗がん剤を含む治療の成績が良かった、という報告もあります。遺伝子異常としてAPC/βカテニン経路の異常、TP53遺伝子の欠失や変異、BRAF融合遺伝子/再構成・RAF1融合遺伝子、BRCA1/2変異などが報告されています。BRCA1/2変異が認められる場合はプラチナ系の抗がん剤の有効性が期待できます。また特定の検査でこの変異が確認されればオラパリブという薬剤も使用可能です。BRAF融合遺伝子も治療ターゲットとして関心は持たれており、現在国内で医師主導治験も進行中ですが、現時点で保険診療として使用できる薬はありません。
粘液がん(ねんえきがん)
膵悪性腫瘍全体の約0.4%で10万人当たり約0.07人の頻度。切除可能な病態であれば切除を行います。切除不能例には薬物療法を検討しますが、この疾患専用に開発された治療法はなく、薬物治療は、通常の膵がんに準じて行われています。高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)という遺伝子の特徴がみられることが比較的多いという報告もあります。MSI-Highの場合は、ペムブロリズマブという免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できます。
髄様がん(ずいようがん)
膵悪性腫瘍全体の約0.001%で10万人当たり約0.001人未満と、日本では非常にまれな病態です。髄様がんはリンチ症候群という遺伝性腫瘍(大腸がんや子宮がんなどのがんが家系に多発する)の際に見られやすい組織型と報告されています。リンチ症候群に関連する腫瘍もMSI-Highの場合が多く、その場合はペムブロリズマブの治療効果が期待できます。
退形成がん(たいけいせいがん)
膵悪性腫瘍全体の約0.2%で10万人当たり約0.02人。日本の取り扱い規約だと、多形細胞型退形成がん、紡錘細胞型退形成がん、破骨型多核巨細胞を伴う退形成がんに分類されます。切除可能な病態であれば切除を行います。切除不能例には薬物療法を検討しますが、この疾患専用に開発された治療法はなく、薬物治療は、通常の膵がんに準じて行われています。パクリタキセルという抗がん剤を含む治療の成績が良かった、という報告もあります。破骨細胞様巨細胞型では腫瘍随伴マクロファージが豊富であると報告されています。腫瘍随伴マクロファージは将来的な治療として関心がもたれている所見ですが、まだ研究段階です。遺伝子異常としては通常型膵がんと比べて大きな違いはないとされています。
充実性偽乳頭状腫瘍(じゅうじつせいぎにゅうとうじょうしゅよう)
膵悪性腫瘍全体の約0.05%で10万人当たり約0.02人。進行は非常に緩やかなことが多いがんです。平均30歳台、約6割が体尾部に発生します。病態的には通常の膵がんとはかなり違うため、どのような治療薬が適切か、についてはほとんどわかっていません。ほぼ全例でβカテニンの変異を有し、それによりWnt経路の亢進をきたすとされており、βカテニン-Wnt経路をターゲットにした治療薬が将来的に開発されれば、有効な治療になるかもしれません。
希少な肝がん、希少な胆道がんについて
肝臓に発生する悪性腫瘍の90%以上が肝細胞がんという組織型になります。次に多いのが肝内胆管がんで約6%を占めます。肝内胆管がんは分類上、肝がんですが、薬物療法については胆道がん(腺がん)に含めて扱われることが多いです。残りの5%未満が希少な肝がんになります。
胆道に発生する悪性腫瘍は95%以上が腺がんで、残りの5%未満がさらに10種類以上の組織型に分類されます。ここでは希少な肝がん、胆道がんの中でも主な組織型について解説します。
細胆管細胞がん(さいたんかんさいぼうがん)
肉眼的に肝内胆管がんに似ているけれど、組織像が一定の特徴を持っているため、一つの疾患として認識されるようになりました。約半数が慢性肝炎あるいは肝硬変を合併するとされています。ごく少数例の報告のみしかなく、臨床像はあまりわかっていません。
混合型肝がん(こんごうがたかんがん)
肝内胆管悪性腫瘍の約0.5%で10万人当たり約0.09人。一つの腫瘍内に肝細胞がんと肝内胆管がんの両成分が混ざり合っている病態です。男性が7割程度、年齢中央値は60歳台前半、約半数がB型もしくはC型の肝炎ウィルス感染を合併すると報告されています。一般的に肝細胞がんより進行は早く、肝内胆管がんよりは緩やかな病態とされています。化学療法については肝細胞癌に対する治療が良いのか、肝内胆管がんに対する治療が良いのか、それとも全く別の治療が良いのか、についてはよくわかっていません。肝細胞がんに用いられるソラフェニブによる治療成績は不良で、肝内胆管がんで用いられるゲムシタビン+シスプラチンなどのプラチナ含有レジメンのほうが良好な傾向であったとする報告もあります。ゲノムプロファイルについてはTP53の変異が約50%と報告されていますが、この遺伝子異常に対する治療薬は見つかっていません。
線維層状型肝細胞がん(せんいそうじょうがたかんさいぼうがん)
肝細胞悪性腫瘍の約0.02%で10万人当たり約0.005人と日本では非常にまれながんです。慢性肝炎や肝硬変等の背景肝疾患の合併がない若年者に多いとされます。白人に多く、日本を含むアジア諸国ではまれ。有効な薬物療法はわかっていません。特異的な遺伝子異常としてDNAJB1-PRKACA融合遺伝子が報告されています。
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執筆協力者
- 森実 千種(もりざね ちぐさ)
- 希少がんセンター
- 国立がん研究センター中央病院
- 肝胆膵内科