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国立がん研究センター

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松村保広博士が「トムソン・ロイター引用栄誉賞」受賞

2016年9月21日
国立研究開発法人国立がん研究センター

トムソン・ロイターは、松村保広(国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉)先端医療開発センター (センター長:落合淳志)新薬開発分野長)に2016年の「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を授与することを発表しました。

同賞は、トムソン・ロイターが保有する世界最高水準の学術文献・引用データベース「Web of Science」上で被引用数の各分野上位0.1パーセントにランクする研究者から選出され、ノーベル賞の科学系4賞(医学・生理学、物理学、化学、経済学)と同カテゴリにおいて、特に注目すべき研究分野で卓越した成果を持つ研究者が選ばれています。

受賞となった松村の論文で最も被引用された“A new concept for macromolecular therapeutics in cancer chemotherapy: mechanism of tumoritropic accumulation of proteins and the antitumor agent smancs”(1986年12月:Cancer Research発表)では、EPR効果(注1)(enhanced permeability and retention)について発表しました。この研究成果により、現在松村が注力している、がんと血液凝固の研究、抗体開発、抗体薬物複合体(注2)(Antibody-drug conjugate: ADC)の設計開発につながる一端となりました。

松村 保広(まつむら やすひろ)の略歴および研究分野・受賞歴

略歴

  • 1981年 熊本大学医学部卒業、第一外科
  • 1984年 同微生物学教室大学院
  • 1988年 医学博士号取得
  • 1989年 米国Mt Sinai医科大腫瘍内科
  • 1990年 英国Oxford大学Nuffield病理
  • 1994年 国立がんセンター中央病院内科医員
  • 1999年 同特殊病棟部 医長
  • 2002年 国立がん研究センター 研究所支所 がん治療開発部 部長
  • 2005年 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター がん治療開発部 部長
  • 2012年 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター 新薬開発分野 分野長
  • 2015年 国立がん研究センター 先端医療開発センター 新薬開発分野 分野長

研究分野と業績

  1. がんと血液凝固:EPR効果の発見とその作用機序としての内因系凝固亢進の副産物Hyp3-Bradykininの発見。不溶性フィブリン(注3)上の凹み構造の発見と、その抗体の樹立。CAST(Cancer Stromal Targeting)療法(注4)の提唱。
  2. 抗体研究:CD44変異体V2の発見とその抗体樹立。新規大腸がん特異分子の発見とその抗体樹立とヒト化抗体の作製

受賞歴

  • 2005年 日本DDS学会永井記念賞
  • 2006年 国立がんセンター田宮記念賞
  • 2011年 科学研究費審査日本学術振興会表彰

学会活動

日本DDS学会副理事長(2009年第25回日本DDS学会大会長)、日本癌学会理事、日本がん治療学会代議員、日本臨床腫瘍学会評議員、日本内科学会、日本消化器病学会、日本胃癌学会、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)、アメリカ癌学会(AACR) コントロールドリリースソサエティー

出身

熊本県人吉市

生年月日

1955年1月20日 61歳

松村保広の受賞に当たってのコメント

30年以上前、がんによる血液凝固に端を発する、腫瘍血管透過性亢進により、抗体などの高分子蛋白が腫瘍に集まりやすいというEPR効果を見出しました。それ以来、血液凝固系分子の研究と、それらの抗体を作り、CAST (Cancer Stromal Targeting) 療法を提唱しました。また、種々のがん特異抗体も作りました。今回の受賞を誇りとし、私どもの抗体医薬が患者さんの役に立つことを証明するまで、研究開発に全力を尽くします。

用語解説

  • 注1 EPR効果
    腫瘍血管は正常血管に比べ血管透過性が亢進しており、正常血管からは漏出しないため、数百nm以下の高分子薬剤や微粒子が流出しやすい。また、腫瘍ではリンパ回収系も成熟していないため、組織に到達した物質は蓄積する。このような、高分子薬剤が腫瘍へ集積する特性をEPR(enhanced permeability and retention)効果という。現在、がんの研究は細胞・分子生物学が主流になっているが、EPR効果はがん組織の中で起こっている血管破壊、出血、血液凝固、そして血管透過性の亢進などのマクロで起こっているダイナミックな変化を病態生理学的に明らかにした研究ともいえる。
  • 注2 抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)製剤
    抗体に抗がん剤などの薬を付加したもの。抗体がEPR効果でがんに集積後、特定の分子をもつがん細胞に結合する性質を利用して、薬をがん細胞まで運び、そこで薬を放出することで、抗腫瘍効果を発揮する。
  • 注3 不溶性フィブリン抗体
    フィブリノゲンや可溶性フィブリン(Dダイマーなど)に結合せず、不溶性フィブリンにのみ結合する抗体を世界ではじめて樹立した。そのエピトープは不溶性フィブリンのみに形成される凹み構造内に存在することを明らかにした。悪性度の強いがんの診断と治療への応用をめざす。
  • 注4 CAST(Cancer stromal targeting) 療法
    悪性のがんは周囲の血管破壊などで血液凝固亢進がおきており、フィブリン塊形成とコラーゲン形成による間質が豊富である。この間質の存在により抗体医薬を含む高分子製剤のがん組織での浸透性が阻害され、肝心のがん細胞へ届かない。CAST療法は、抗不溶性フィブリン特異抗体に抗がん剤を付加し、がん間質にデリバリーし、不溶性フィブリン上で抗がん剤をリリースし、がんと腫瘍血管両方を攻撃する方法である。

トムソン・ロイターのプレスリリース

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