変異型IDH1阻害剤の悪性脳腫瘍に対する第 I 相臨床試験開始について
2017年3月1日
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
第一三共株式会社
in English
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉)と第一三共株式会社(代表取締役社長:中山 讓治)は、悪性腫瘍に対する新規分子標的薬として変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1に対する選択的阻害剤(DS-1001)を共同開発し、悪性脳腫瘍(神経膠腫/グリオーマ)(注1)の患者さんを対象に世界で初めて人へ投与するファースト・イン・ヒューマン試験として第I相臨床試験(注2)を開始しましたので、 お知らせいたします。
悪性脳腫瘍(神経膠腫/グリオーマ)・急性骨髄性白血病・胆管がん・軟骨肉腫などの悪性腫瘍ではIDH1/2遺伝子に高頻度に変異が見られます。国立がん研究センター研究所の造血器腫瘍研究分野 北林一生研究分野長の研究グループは、変異型IDH1/2を阻害することにより、IDH1/2変異をもつ急性骨髄性白血病のがん幹細胞(注3)が消失することを発見しました。
今回開発した変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)は、脳内移行性を有し、患者由来組織移植(PDX)モデル(注4)等を用いた非臨床試験でIDH1変異をもつ悪性脳腫瘍・急性骨髄性白血病・軟骨肉腫の増殖を抑制することが示されています。
これまでに開発されてきた分子標的薬は主に、がん細胞で活性化や高発現している分子を標的としたもので、これらの分子は正常な細胞でも一定の発現があるため、正常な細胞にも作用し副作用が生じることがありました。しかし、今回開発した変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)は、がん細胞のみで発現する変異型IDH1を特異的に阻害し、正常細胞で発現する野生型のIDH1に対する作用は極めて弱いことが示されています。また、IDH1変異は、グレードII・IIIの神経膠腫(星細胞腫・乏突起膠腫)と診断された患者さんの7割以上に認められます。これらのIDH1変異のある神経膠腫は、30-50歳に多い腫瘍で、再発を繰り返し治療経過も長いことから、変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)の効果が期待されます。
今回の第I相臨床試験は、標準的治療法のない再発のIDH1変異のある神経膠腫(グリオーマ)の患者さんを対象とするもので、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)にて実施するほか、他の施設でも実施します。なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化研究事業等の支援を受け、国立がん研究センター及び第一三共株式会社で行っています。
用語解説
注1 悪性脳腫瘍(神経膠腫/グリオーマ)
神経膠腫(グリオーマ)とは、脳に発生する悪性腫瘍で、原発性脳腫瘍の約30%を占めます。 脳にしみ込むように広がっていき、正常脳との境界が不鮮明で、手術で全部を摘出することは困難です。そのため、通常は再発を予防する目的で手術後の放射線治療や化学療法などが必要となります。しかし、悪性神経膠腫の多くは数ヵ月から数年で再発し、その際はさらに治療が困難になっているのが現状で、新規薬剤開発が強く求められています。
注2 第I相臨床試験(フェーズ1)
がんの第I相臨床試験では、少数の患者さんで投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べます。第I相臨床試験の中でも、新しい薬をはじめて人(健康成人もしくは患者さん)に投与する段階の試験を、ファースト・イン・ヒューマン試験と言います。
注3 幹細胞
未分化な状態で自身を増殖させることが可能な自己複製能と、複数種の細胞へと分化可能な多能性を有し、特定の組織を再構成できる細胞のこと。がん幹細胞は、がんを再生する能力を持つ細胞のこと。
注4 PDX(patient-derived xenograft)モデル
超免疫不全マウスにヒトがん組織を移植した実験動物モデル。ヒトがん組織を忠実に再現することが知られており、がんの分子メカニズムの解明や抗がん剤に対する薬理効果の検討に用いられています。
研究費
本研究は、以下の支援を受け、実施しています。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
革新的がん医療実用化研究事業
「変異型IDHを標的とした悪性脳腫瘍・肉腫・胆管がんに対する革新的治療法の開発」
国立がん研究センター研究開発費
「臨床試験導出に至る工程に関して明確な構想を持つ新規革新的治療薬の開発」
プレスリリース
- 変異型IDH1阻害剤の悪性脳腫瘍に対する第1相臨床試験開始について
関連ファイルをご覧ください。
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