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低侵襲な遺伝子検査法で肺がん最適医療の実現を目指す

LC-SCRUM-Japan、血液を用いた遺伝子解析を開始
低侵襲な遺伝子検査法で肺がん最適医療の実現を目指す

2018年1月19日
国立研究開発法人国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は、全国肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」において、2017年12月より、肺がんの患者さんを対象として、血液を用いた遺伝子解析を開始しました。肺がんの患者さんから血液を採取し、血液中にわずかに存在するがんの遺伝子を検出し、その遺伝子の変化を調べます。従来のように、内視鏡や針などを使って肺がんの組織を採取し遺伝子の変化を調べる方法は、患者さんへの負担が大きく、繰り返し行うのがなかなか困難です。一方で、今回のように、血液を採取して肺がんの遺伝子変化を調べることができれば、患者さんの負担が少なく、より簡便で短時間に、繰り返し遺伝子の変化を把握することができるようになります。

研究の社会的背景

近年、遺伝子解析技術の進歩により、肺がんの原因となる様々な遺伝子変化が相次いで発見され、これらの遺伝子変化を有する肺がんには、対応する分子標的薬の治療効果が非常に高いことがわかっています。EGFR遺伝子に変化を認める肺がん(EGFR遺伝子変異陽性肺がん)は非小細胞肺がんの約40%を占めており、EGFR遺伝子を標的とする分子標的薬が高い治療効果を示すことが明らかになっています。さらに、ALK遺伝子に変化を認める肺がん(ALK融合遺伝子陽性肺がん)や、ROS1遺伝子に変化を認める肺がん(ROS1融合遺伝子陽性肺がん)に対しても、分子標的薬の治療効果が高いことが明らかとなっています。

しかし、これら複数の遺伝子変化を、異なった方法で個別に検査した場合、それぞれの遺伝子変化を同定するまでに多くの時間や多くの腫瘍組織量が必要になるため、解析できる遺伝子の数に限界があります。そこで、一度の解析で同時に複数の遺伝子変化を検出できる解析技術の臨床応用が望まれています。また、薬剤が効かなくなる耐性遺伝子の出現も明らかになっており、遺伝子の変化を経時的に簡便に検出できるような検査手法の開発が求められています。一方、遺伝子解析のために、内視鏡や針などを使って肺がんの腫瘍組織を採取するのは、患者さんの負担が大きく、繰り返し行うのは困難です。このような現状から、患者さんの負担を軽減しながら、短時間で的確に遺伝子変化の状態を把握し、治療薬の選択に活用できるような遺伝子解析法の開発が望まれています。血液を用いた遺伝子解析は、患者さんへの負担が少なく、繰り返し行うことが可能な検査であるため、上記の課題の解決には最適と考えられます。

そこで、肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」では、米国Guardant Health(ガーダントヘルス)社が開発した高感度な遺伝子解析技術Guardant360(ガーダントスリーシックスティ)を用いて、肺がん患者の血液を用いた遺伝子解析法の有用性を評価する研究を2017年12月より開始しました。

研究概要

この研究には、血液から73種類の遺伝子の変化を一度に測定できる新しい遺伝子解析技術 「Guardant360」を導入しました。従来は、がんの組織を用いて遺伝子解析を行っていましたが、今回の研究では、非小細胞肺がん患者さんの血液を用いて遺伝子解析を行います。約2000名の非小細胞肺がんの患者さんを対象として、肺がんの組織と血液の遺伝子解析結果を比較することで、血液を用いた遺伝子解析法の評価を行う予定です。

この研究では、患者さんから採取した血液40mlのうち20mlを米国Guardant Health社へ搬送し、遺伝子解析を行います。遺伝子解析の結果は約2週間で判明します。なお採取した血液のうち、残りの20mlは将来の研究のために保存します(図1)。さらに一部の患者さんでは、治療中の経時的な遺伝子の変化と、治療抵抗性となる耐性遺伝子の出現を調べる目的で、病状が進行した際に追加で血液を採取して(最大3回まで)、繰り返し遺伝子解析を行う予定です。

図1

図1:研究の概要

展望

本研究により血液を用いた遺伝子解析の有用性が示された場合、現在の組織を用いた遺伝子解析結果に基づいた最適医療に代わる近未来型医療として、血液の遺伝子解析に基づいた最適医療を実現することが可能となります(図2)。遺伝子変化を調べる手段として、血液を用いることで、肺がん患者さんの負担を軽減することが可能となり、更に高感度の遺伝子解析技術を導入することで、より正確で精密な遺伝子診断を短時間に得ることが可能になると考えられます。

本研究に付随して、血液の遺伝子診断結果に基づいて、分子標的治療薬の治療効果を検討する臨床研究を新たに計画し、実施していく予定です。LC-SCRUM-Japanは、引き続き全国の肺がん患者さんと参加施設、製薬企業、検査会社の協力の下、肺がんにおける最適医療の実現に挑戦していきます。

図2

図2:血液の遺伝子解析に基づいた最適医療

LC-SCRUM-Japan

LC-SCRUM-Japan(代表:東病院呼吸器内科長 後藤功一)は、国立がん研究センターが全国の医療機関、製薬企業と協力して実施している遺伝子スクリーニング事業です。2013年より、主に希少肺がんを対象とした遺伝子スクリーニングを継続しており、2017年12月末までに5000名以上の患者さんが登録されています。アカデミアと臨床現場、産業界が一体となって、肺がん患者さんの遺伝子変化に基づいた治療薬や、次世代シーケンサーを用いた診断薬の開発を目指しています。

参加医療機関(2018年1月1日現在)  

LC-SCRUM-Japanに参加している施設のうち、血液を用いた遺伝子解析を行っている病院の情報は、LC-SCRUM-JapanのHP(http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/lc_scrum/institutions/index.html)で順次公開しています。

お問い合わせ先

患者さんからのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター(柏キャンパス)
SCRUM-Japan事務局
Eメール:EPOC_office●east.ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

取材・報道関係からのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス) 
電話番号:04-7133-1111(代表)04-7134-6945(直通) 
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

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