がん生存率の推移に関する大規模国際共同研究
2000-2014年に診断された3,750万症例の5年生存率を公表
2018年2月20日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
研究のポイント
- CONCORD-3は、2000-2014年の15年間に診断された、71の国と地域3,750万症例のがん生存率に関する大規模国際調査で、特定の病院からのサンプリング等によらない、一般人口で比較ができる唯一の統計です。
- 日本からは、16府県(日本の総人口の40.6%)が本研究に参加しました。このデータを、同じ手法で処理した71の国と地域のデータ(世界人口の67%に相当)と比較し、2000年から2014年までの推移を検討しました。
日本のがん患者生存率は、従来通り世界的にトップレベルにありますが、皮膚の黒色腫、成人のリンパ性・骨髄性悪性疾患では欧米諸国と比較して低い結果となりました。 - 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)は、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院および40の国際研究機関と共同で、71の国と地域322の人口ベースのがん登録を用い、2000-2014年の15年間に診断されたがん3,750万症例の生存率に関する国際調査(CONCORD-3)の結果を公表しました。本研究結果は英国学術雑誌The Lancetに1月30日付で発表されました。
本研究の背景および目的
CONCORD-3は世界のおよそ10億人をカバーし、がん18局在および局在群を対象とする大規模な国際共同研究です。CONCORD研究事業は、2008年に発表されたのを皮切りに、第2回の2014年に続き今回で3回目となりました。日本は、初回2008年のCONCORD-1から参加してきましたが、生存率を算出できる精度水準に到達した都道府県が少なく、またがん登録分野での国際研究への関わり方も受け身であることが多かったため、国際共同研究でのプレゼンスを示せずにいました。
今回の共同研究では、研究の企画段階からワーキンググループに参加し、研究に貢献してまいりました。また、今回用いたデータは、日本の総人口4割をカバーし、データの入力、患者の追跡から集計まで国際標準化した値を用いています。さらに、人口ベースの5年生存率は国際標準の手法で算出され、現時点でもっとも国際的に比較可能性の高いものとなりました。
本調査の方法および結果
CONCORD-3は、2000-2014年の15年間に診断されたがん3,750万症例の生存率に関する国際共同研究で、71の国と地域(うち45は人口を100%カバーする全国データ)、322の人口ベースのがん登録から個別データが本研究に提供されました。本研究は、前回の10部位よりさらに拡大し、がんの18局在又は局在群を対象としました。対象部位は、成人の食道、胃、結腸、直腸、肝、膵、肺、女性乳房、子宮頸部、卵巣、前立腺と皮膚の黒色腫、成人及び小児それぞれの、脳腫瘍、白血病およびリンパ腫です。
大部分のがんの生存率は、従来同様、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェーとスウェーデンで最も高くなりました。生存率は、予後不良のがんにおいても上昇傾向にあり、いくつかの国では、肝がん、膵がん、肺がんでも最大5%の生存率向上がみられました。
日本は、消化器のがんの生存率が世界で最も高い国の一つであり、肺がん、肝がんでも良好な予後を示しています。これは、医療水準のみならず、検診の実施状況や、罹患が多いことによる一般的な関心の高さが早期発見につながり、良好な生存率に貢献していると考えられます。一方、皮膚の黒色腫、成人のリンパ性・骨髄性悪性疾患の生存率は、他の地域より低い結果となりました。理由は、皮膚の黒色腫および成人のリンパ性・骨髄性悪性疾患で、日本人に発生しやすいがんの構成が違うためと考えられ、日本人の状況を踏まえたがん対策が望まれます。
考察
人口ベースのがん登録に基づく統計は、がん対策の基礎です。世界的に対策の必要ながん患者の生存率において、国の特性や年次推移を検討できる、信頼性の高い統計値を算出することができました。CONCORDに基づく生存率は、2017年に経済協力開発機構(OECD)が世界48カ国を対象とした保健医療の質の評価指標の一つに採用しており、我が国でもがん対策の企画立案・評価に役立てるべきものです。
表 CONCORD-3 の結果に見る日本の生存率
部位 | 食道 | 胃 | 結腸 | 直腸 | 肝 | 膵 |
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調査対象国での生存率の大まかな範囲 | 10-30% | 20-40% | 大きく分散 | 大きく分散 | 5-30% | 5-15% |
調査対象国全体の経時的推移 | 向上傾向 | 横ばい | 横ばい~微増 | 向上傾向 | ごく微増 | 横ばい |
日本の5年純生存率(2010-2014) | 36.0% | 60.3% | 67.8% | 64.8% | 30.1%** | 8.3%** |
日本の5年純生存率(2010-2014)の位置* | A >30% | A >60% | B 60-69% | B 60-69% | A >20%** | C 5-9%** |
日本の経時的推移 | 6-10%向上 | 6-10%向上 | 5-10%向上 | 5-10%向上 | 5-10%向上 | 横ばい |
部位 | 肺 | 皮膚の黒色腫 | 女性乳房 | 子宮頸部 | 卵巣 | 前立腺 |
---|---|---|---|---|---|---|
調査対象国での生存率の大まかな範囲 | 10-20% | 60-90% | 大きく分散 | 50-70% | 30-50% | 70-100% |
調査対象国全体の経時的推移 | 横ばい | 横ばい | 向上傾向 | 横ばい | 横ばい | 向上傾向 |
日本の5年純生存率(2010-2014) | 32.9% | 69.0% | 89.4% | 71.4% | 46.3% | 93.0% |
日本の5年純生存率(2010-2014)の位置* | A >30% | D 60-69% | A >85% | A >70% | B 40-49% | B 90-97% |
日本の経時的推移 | 5-10%向上 | 横ばい | 横ばい | 4-7%向上 | 20%向上 | 20%向上 |
部位 | 成人脳腫瘍 | 成人骨髄性疾患 | 成人リンパ性疾患 | 小児脳腫瘍 | 急性リンパ性白血病 | 小児リンパ腫 |
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調調査対象国での生存率の大まかな範囲 | 20-40% | 30-50% | 40-70% | 40-80% | 大きく分散 | 80-95% |
調査対象国全体の経時的推移 | 横ばい | 向上傾向 | 向上傾向 | 横ばいか微増 | 向上傾向 | 横ばい |
日本の5年純生存率(2010-2014) | 46.3%** | 33.3% | 57.3% | 69.6% | 87.6% | 89.6% |
日本の生存率の位置* | A >40%** | D 30-39% | C 50-59% | B 70-79% | B 80-89% | A >90% |
日本の経時的推移 | 横ばい | 5-10%向上 | 5-10%向上 | 横ばい | 10%以上向上 | 横ばい |
*論文中の生存率の良・不良のカテゴリー(A~E)。部位毎に閾値は異なる。
**15%以上の症例でデータの精度が低いため参考値として記載。
発表論文
- 雑誌名
The Lancet - タイトル
Global surveillance of trends in cancer survival: analysis of individual records for 37,513,025 patients diagnosed with one of 18 cancers during 2000-2014 from 322 population-based registries in 71 countries (CONCORD-3) - 著者
Allemani C, Matsuda T, Di Carlo V, Harewood R, Matz M, Nikšić M, Bonaventure A, Valkov M, Johnson CJ, Estève J, Ogunbiyi OJ, Azevedo E Silva G, Chen WQ, Eser S, Engholm G, Stiller CA, Monnereau A, Woods RR, Visser O, Lim GH, Aitken J, Weir HK, Coleman MP; CONCORD Working Group. - Doi
10.1016/S0140-6736(17)33326-3 - URL
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)33326-3/abstract
参考資料
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