ユビキチン修飾系、オートファジーに次ぐ新しいUBL3翻訳後修飾系を世界で初めて発見
2018年9月26日
藤田保健衛生大学
浜松医科大学
名古屋大学
国立がん研究センター
本研究のポイント
- がん転移や神経筋変性などの様々な疾患において今後の治療に期待できます。
- UBL3による翻訳後修飾は、新たな創薬フィールドの可能性が期待できます。
エクソソームを代表とする、小型細胞外小胞(small extracellular vesicle, sEV)は、がん細胞、間葉系幹細胞など様々な細胞種から細胞内の後期エンドソームである多胞体(multivesicular body, MVB)を介して分泌されるナノメートルサイズの小胞体である。エクソソーム (sEV)にはタンパク質やmRNAやmiRNAが含まれており、細胞間の伝播を仲介する事から、新しい細胞間伝達シグナルとして注目されている。しかし、どのような機構で特定のタンパク質がエクソソームへ輸送されるのかは不明であった。
今回、我々は進化保存性の高いユビキチン様タンパク質UBL3に着目し研究を行ない、以下を明らかにした。
- UBL3はユビキチンとは異なる新規翻訳後修飾因子である。
- UBL3の多胞体を介したエクソソーム (sEV) への輸送には、UBL3の翻訳後修飾活性が重要である。
- Ubl3-KO miceから精製したエクソソーム内の総タンパク質量が、野生型と比較して約60%消失していたが、含有する総RNAや、エクソソーム濃度、エクソソームの直径には変化は無かった。
- UBL3に対する結合分子同定のために網羅的プロテオミクス解析を行った結果、1241個のタンパク質が見つかり、その中に発がん遺伝子として知られるRasを含む疾患関連タンパク質が20個以上含まれていた。
- 発がん性RasG12V変異体もUBL3による翻訳後修飾によってエクソソームへの輸送量が増大し、このエクソソームを培養細胞へ投与すると、取り込まれた細胞において細胞内シグナルが増大した。
- UBL3を結合させた緑色蛍光タンパク質やビオチンタンパク質は、細胞培養液中の細胞外小胞(エクソソーム)に濃縮している事が分かった。
以上の事から、我々が見出したUBL3による新規翻訳後修飾が特定タンパク質のエクソソームへの輸送を制御する事が分かり、新たなタンパク質の輸送システム開発としての応用性があることが解析された。
エクソソームによる細胞間情報伝達は、がん転移や神経筋変性などの様々な疾患において重要である。そのためUBL3による翻訳後修飾が新たな創薬ターゲットになる可能性を示している。
本研究は、主に藤田保健衛生大学・総合医科学研究所の上田洋司助教・土田邦博教授、浜松医科大学の瀬藤光利教授が行い、名古屋大学の上田(石原)奈津実講師・木下専教授、国立がん研究センター研究所の吉岡祐亮研究員・小坂展慶特任研究員[現 東京医科大学]・落谷孝広プロジェクトリーダー[現 東京医科大学]との共同で行ったものです。
本研究成果は、2018年9月26日18時(英国時間:午前10時)発行の英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
本成果は、以下の事業・研究課題等によって得られました。
日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(C)(上田洋司、土田邦博)、萌芽研究(上田洋司)、
精神・神経疾患研究開発費 (26-8, 29-4)(土田邦博)
AMED-CREST(革新的先端研究開発支援事業)(瀬藤光利)
参考図
図1 ユビキチン様タンパク質UBL3による修飾とエクソソームの関係図
図2 ユビキチン様タンパクを介した翻訳後修飾による制御機構
用語解説
小型細胞外小胞(small extracellular vesicle, sEV)
sEVの一部は、エクソソームとも呼称され、ほぼ全ての細胞種から多胞体Multivesicular Body(MVB)を介して細胞外へ放出される小胞であり、産生細胞に由来する特定のタンパク質やmiRNAを内包し標的細胞に再び取り込まれることで新たな細胞間コミュニケーションとして働き、がん転移や神経筋変性などの疾患を含めた様々な生命現象に関与している。特定タンパク質のエクソソームへの輸送機構は不明であった。
翻訳後修飾
ゲノムから転写されたmRNAは、リボソームにより翻訳されタンパク質となる。翻訳後にアミノ酸に対して、リン酸基、アセチル基、脂質、タンパク質など修飾因子が付加される現象を翻訳後修飾と呼ぶ。
ユビキチン様タンパク質(Ubiquitin like protein)
ユビキチンは、他のタンパク質へ翻訳後修飾因子として付加することによって、局在変化やタンパク質の安定性を変化させる。このユビキチンに構造上類似したタンパク質の事をユビキチン様タンパク質と呼ばれている。ユビキチン様タンパク質として、SUMOやNEDD8やオートファジーに関与するATG12などが知られ、ユビキチンと同様に翻訳後修飾因子として機能することが知られている。
論文情報
“UBL3 modification influences protein sorting to small extracellular vesicles”
(UBL3化修飾は小型細胞外小胞へのタンパク質輸送に影響を及ぼす)
Nature communications DOI: 10.1038/s41467-018-06197-y (2018)
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上田洋司
藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 難病治療学 助教
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