人生の最終段階の療養生活の状況や受けた医療に関する全国調査結果を公表~医療に対する満足度は高いものの、人生の最終段階で、約4割のがん患者が痛みや気持ちのつらさなどを抱えてすごしており、緩和ケアや家族へのケアについて より一層の対策が必要であることが示されました~
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉 東京都中央区)がん対策情報センター(センター長 若尾文彦)は、厚生労働省の委託事業として、約50,000名の遺族(うち、がん患者の遺族は約26,000名)を対象に、患者が亡くなる前の療養生活や利用した医療の実態について全国調査を行い、その結果をまとめました。今回は、その前年度に実施した予備調査で実行可能性を確認した後に初めて行う大規模な本格調査の報告となります。人生の最終段階では、医療を利用した患者に直接調査を実施することが難しいことから、家族の視点で評価する方法が標準的な方法として用いられています。
調査結果のポイント
亡くなる前1カ月間の療養生活の質
亡くなる1カ月の間に、痛みや気持ちのつらさを感じているがん患者の割合は、約4割程度おり、一定割合の患者の苦痛症状が十分に緩和されていないことが推定されました。
亡くなった場所で受けた医療に対する満足度
亡くなった場所で受けた医療に満足している割合は6から7割であり、利用した医療について、必ずしも満足していない方もいることが推定されました。
人生の最終段階における医療・ケアに関する話し合い
患者が希望する最期の療養場所や蘇生処置について、患者と医師間で話し合いがあった割合は2~3割、患者と家族間で話し合いがあった割合は3から4割にとどまっていました。
家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状
介護について全般的な負担感が大きかったと感じている家族の割合は4から5割でした。また、死別後に抑うつ症状がある方は1~2割、悲嘆が長引いている方が2から3割おり、疾患別ではがん患者の遺族が最も高い割合でした。家族の介護負担や、死別後を含めた家族の精神的な負担が推定されました。
本調査の結果から、人生の最終段階の患者・家族の療養生活や医療を向上するため、緩和ケアや家族へのケアについて、より一層の対策が必要であることが示されました。
調査概要
今回の調査は、2017年の人口動態調査の死亡票情報から「がん」「心疾患」「脳血管疾患」「肺炎」「腎不全」で亡くなった患者の遺族を対象に、2019年1月から3月の期間に郵送によるアンケート調査を実施しました。アンケートの内容は、遺族からみた「亡くなる前1カ月間の患者の療養生活の質」「亡くなった場所で受けた医療の質」「家族の介護負担や死別後の精神的な負担」などが含まれています。
調査票を全体で50,021名(うち、がん患者の遺族25,974名)に送付し、宛先不明等による不達は7.848名でした。返送数は回答拒否も含めて25,028名、有効回答数は21,309名(うち、がん患者の遺族12,900名)でした(表1)。アンケートの回答は、疾患別および死亡場所別に実際の死亡数の比率で調節した推定値を算出しました。
主要な結果
亡くなる前1カ月間の療養生活の質
亡くなる前1カ月間の患者の療養生活の質について、疾患別に「痛みが少なく過ごせた」割合は38.9から47.2%であり(図1)、逆に、痛みを感じていた割合は22.0から40.4%であることが推定されました(がん40.4%)。また、痛みを含む「からだの苦痛が少なく過ごせた」割合は38.6から43.8%であり(図2)、身体的に何らかの苦痛を感じていた割合は26.1から47.2%であることが推定されました(がん47.2%)。また、「おだやかな気持ちで過ごせた」割合は41.1から48.7%であり(図3)、気持ちのつらさを感じていた割合は25.9から42.3%であることが推定されました(がん42.3%)。
亡くなった場所で受けた医療の質
亡くなった場所の医療の質として、疾患別に「医療者はつらい症状にすみやかに対応していた」割合は68.2から81.9%であり(図4)、「患者の不安や心配を和らげるように医療従事者は努めていた」割合は67.7から81.9%であることが推定されました(図5)。また、「亡くなった場所で受けた医療に対して全般的に満足している」割合は61.2から71.1%であることが推定されました(図6)。
人生の最終段階における医療・ケアに関する話し合い
人生の最終段階における医療やケアに関する話し合いについて、疾患別に「患者と医師間で、患者が希望する最期の療養場所について話し合いがあった」割合は14.5から36.5%(図7)、「患者と医師間で、患者の心肺停止時に備え、蘇生処置の実施について話し合いがあった」割合は24.1から34.4%(図8)、「患者と家族間で、意思決定できなくなるときに備え、最期の療養場所や蘇生処置など、患者がどのような医療を受けたいか話し合いがあった」割合は、28.6から42.4%であることが推定されました(図9)。
家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状
家族の介護について、疾患別に「介護をしたことで全体的に負担感が大きかった」割合は40.9から50.7%であることが推定されました(図10)。また、死別後の遺族が「抑うつ症状」に悩まされている割合は11.7から19.4%であり(図11)、長引く「悲嘆」を感じられている割合は18.4から30.1%であることが推定されました(図12)。
まとめ
多くの遺族の方々からご理解とご協力を得て、人生の最終段階の療養生活の状況や利用した医療の実態を把握するための調査を実施することができました。
調査を通じて、がん患者については、医療者は患者のつらい症状についてすみやかに対応していたという回答や、医療者は不安や心配を和らげるように努めていたという回答、亡くなった場所で受けた医療に対して満足しているという回答の割合が他の疾患よりも高いことが推定されました。一方で、がん患者では他の疾患よりも、痛みや気持ちのつらさを抱えている割合が高いことが推定されました。
人生の最終段階の医療を改善していくために、すべての医療従事者への緩和ケアの普及、現在の技術では改善が困難な苦痛を軽減するための治療技術の開発、患者や家族への緩和ケアに関する理解の促進などを、より一層進めることが必要です。また、家族の介護負担や死別後も含めた精神的な負担があることが推定され、遺族ケアなど家族に対する支援体制の整備が必要であることが示されました。
末筆ではございますが、本調査にご協力いただきました遺族の方々および関係者の皆様に、この場を借りて深く感謝を申し上げます。
表1.回答数
<本調査に関するお問い合わせ先>
- 調査事務局
国⽴がん研究センターがん対策情報センターがん医療⽀援部
Eメール: mfs@ml.res.ncc.go.jp
電話番号:03-3547-2501 (内線7252 または1707)
担当:加藤、中澤 (平日:⽉曜日から⾦曜日 10時から16時)
<報道関係からのお問い合わせ先>
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