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小児がんを対象としたニボルマブの医師主導治験結果を基に古典的ホジキンリンパ腫の小児用法・用量が国内初承認

2021年9月27日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 国立がん研究センター中央病院で実施した小児がん患者を対象とした医師主導治験(第I相試験)の結果を基に、成人では承認済みの「再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫」に対するニボルマブ(オプジーボ®点滴静注)の小児用法・用量が日本で初めて承認されました。
  • 小児がんは、患者数が少なく、臨床開発が困難であることから、企業による治験が進みにくいとされており、アカデミアが安全性・有効性を評価する治験を主導することで、アンメットメディカルニーズを満たした成功例です。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)は、小児期およびAYA(Adolescent and young adult、思春期・若年成人)世代のがん患者のうち、標準的な治療に抵抗性の難治性悪性固形腫瘍とホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)を対象に、免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブの医師主導治験(NCCH1606、試験略称:PENGUIN)を2017年より開始しました。

本試験の結果、ニボルマブが投与された26の小児がんの患者のうち、古典的ホジキンリンパ腫の患者1でがんの完全奏効が得られました。また、ニボルマブの有害事象(副作用)と薬物動態は、小児でも成人でこれまで観察されたものと大きな違いがないことを確認しました。本試験の結果に基づき、ニボルマブを開発・販売する小野薬品工業株式会社から2021年1月に古典的ホジキンリンパ腫の小児用法・用量を追加する承認事項一部変更承認申請が行われ、このたび、2021年9月27日に厚生労働省から承認されました。

本試験の責任者で中央病院小児腫瘍科長の小川 千登世は次のように述べています。
「標準的な抗がん剤治療に抵抗性の難治性小児悪性腫瘍は、がんの種類を問わず予後が不良で、有効な治療がほとんどありません。さらに成人に比べて患者数が少ないことから臨床試験や臨床開発が極めて困難な状況です。そのため本試験のように、早期相の試験であっても、成人ではすでに承認されているがんに対して、小児においても成人同様の有効性が確認されれば、選択肢の少ない小児がん患者における非常に有望な治療選択肢となるとともに、症例数の少ない小児がんの領域において新しい臨床開発のモデルとなることが期待されます。
さらに、今後治験が開始される薬剤では、小児成人同時開発が重要と考えます。小児と成人で病態が同じ疾患で、小児でも一定数の患者がいる場合は、成人の有効性評価と並行して小児でも安全性・有効性評価を行い承認に至れば、小児も含めた患者さんが同時に使用可能となります。また、小児に特有の疾患でも、治療標的を同じくする成人疾患と同時開発することで、小児での臨床開発の加速を期待しています。」

国立がん研究センター中央病院は、企業が積極的に取り組みにくい小児がんをはじめとするアンメットメディカルニーズに対して有効な治療薬を開発するため、医師主導治験に積極的に取り組んでまいりました。今回の承認は、医師主導治験により治療薬の安全性・有効性が示され、小児での承認取得に結び付いた成功事例です。

ニボルマブ(オプジーボ®点滴静注)における追加承認内容

再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫に対する小児用法・用量

通常、小児にはニボルマブ(遺伝子組換え)として、1回3 mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静注する。なお、体重40 kg以上の小児には、ニボルマブ(遺伝子組換え)として、1回240 mgを2週間間隔又は1回480 mgを4週間間隔で点滴静注することもできる。

本試験(NCCH1606、PENGUIN)の結果

本試験に参加した小児がん患者(26名)の平均年齢は12.4歳で、11歳以下が10 / 26名(38.5%)、12 歳以上17 歳以下が13 / 26名(50.0%)、18 歳以上が3 / 26名(11.5%)でした。本試験に2 歳未満の小児患者は組み入れられていません。参加者のがん種は、横紋筋肉腫が4 / 26名(15.4%)、ユーイング肉腫が3 / 26名(11.5%)、神経芽腫および神経節芽腫が2 / 26名(7.7%)で、その他には古典的ホジキンリンパ腫、肺の神経内分泌がんなどがありすべて1 名ずつでした。

本試験の安全性は、成人患者での承認時用量と同様の3 mg/kgの体重換算用量で確認した結果、主要評価項目である用量制限毒性相当の有害事象の発生はありませんでした。そのため、本試験における小児推奨用量は3 mg/kg(2週間間隔)と決定しました。また、ニボルマブの有害事象(副作用)と薬物動態は、小児でも成人でこれまで観察されたものと大きな違いがありませんでした。

本試験の有効性の結果としては、古典的ホジキンリンパ腫の患者1名がんの完全奏効が得られました。その他のがん種に対するニボルマブの有効性など、本試験の詳細な結果は、SIOP 2021(53RD CONGRESS OF THE INTERNATIONAL SOCIETY OF PAEDIATRIC ONCOLOGY:VIRTUAL CONGRESS OCTOBER 21-24, 2021)で発表予定です。
なお、以前にも報告したよう(以下プレスリリース参考)に、肺の神経内分泌がんの患者は、母親の子宮頸がんが子に移行することにより発症したと考えられ、ニボルマブの投与によりがんが消失するほどの劇的な効果がみられました。

参考) 2021年1月7日プレスリリース


母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/20210107/index.html

論文情報

雑誌名:The New England Journal of Medicine, 2021;384:42-50.
タイトル:Vaginal Transmission of Cancer from Mothers with Cervical Cancer to Infants
著者:Arakawa A., et al.
DOI:10.1056/NEJMoa2030391

用語解説

ニボルマブについて

がん細胞に発現したPD-L1(programmed cell death ligand 1)やPD-L2は、リンパ球に発現する受容体PD-1(programmed cell death 1)と結合し、抑制性のシグナルを送ることでリンパ球のがん細胞に対する攻撃能を弱めています。ニボルマブは、ヒトPD-1 に対する抗体であり、PD-1 とそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2との結合を阻害し、がん細胞のリンパ球機能へのブレーキを解除し、がん細胞に対するリンパ球の攻撃能を高めることでがん細胞を減少または消失させると考えられています。
ニボルマブは、製薬企業の小野薬品工業株式会社およびブリストル マイヤーズ スクイブにより臨床開発が進められ、さまざまながん種で承認されています。

医師主導治験について

新しい薬が承認され、保険で使えるようになるためには新薬の臨床開発(治験)が必要です。以前は製薬企業だけが治験を行っていましたが、2003年7月に医師や歯科医師が治験を企画して医薬品開発にかかわることが認められました。このように医師や歯科医師が自ら治験を実施することを医師主導治験といいます。抗がん剤はその適応が細かく厳しく定められています。あるがん種に効くであろうことがわかっている薬剤でも、適応外であれば使うことができません。また、小児がんは、個々のがんが極めて希少な疾患であり、患者数が少ないなどの理由から、製薬企業による新薬の臨床試験(治験)がほとんど進まないことが課題とされています。そのため国立がん研究センターでは、成人向けの薬剤を小児まで適応拡大させるなどを目的とした小児がん対象の医師主導治験を積極的に実施しています。

問い合わせ先

医師主導治験に関するおい合わせ先

国立研究開発法人国立がん研究センター
中央病院 臨床研究支援部門 研究企画推進部 臨床研究支援室
TEL:03-3542-2511(内線:1935)

報道関係のおい合わせ先

国立研究開発法人 国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
TEL:03-3542-2511(代表) 、FAX:03-3542-2545
E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp

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