院内がん登録2014-15年5年生存率、2010年10年生存率集計 公表
ネット・サバイバルによる初集計
2023年3月16日
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)は、国が指定するがん診療連携拠点病院等(以下、がん診療連携拠点病院等)を含む院内がん登録実施施設から収集した院内がん登録情報を用いて、2014-2015年診断例(2カ年)の5年生存率、2010年診断例の10年生存率集計結果を報告書にまとめ公表しました。
国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」院内がん登録生存率集計(報告書)
院内がん登録生存率最新集計値(一覧表)
結果のポイント
- これまで生存率は、実測生存率と相対生存率を集計し公表してきましたが、今回から相対生存率ではなく「ネット・サバイバル」(後述の生存率の種類参照)による集計を行いました。
- これまでと同様、がんによってはその特性上、性別、年齢、ステージ、手術の有無により、生存率に違いがあり、その解釈には留意が必要です。
院内がん登録2014-2015年5年生存率集計
- 前回より10施設67,336例多い、447施設942,717例(前回437施設875,381例)の院内がん登録データを用いて5年生存率を集計し、分析を行いました。
- 2014-2015年5年生存率は、全がんでネット・サバイバルは66.2%で、性別でみると男性は62.8%、女性は70.8%で、女性のほうがやや高い傾向でした。
院内がん登録2010年10年生存率集計
- 前回より35施設47,475例多い、316施設341,335例(前回281施設293,860例)の院内がん登録データを用いて10年生存率を集計し、分析を行いました。
- 10年という期間の経過をみるため、がんによっては年齢階級別の実測生存率とネット・サバイバルに大きな差がみられました。これは年齢が高くなるほど、がん以外の原因で亡くなる確率が高くなることが影響していると考えられました。
生存率の種類
生存率には、その算出の仕方によって大きく「実測生存率」、「疾病特異的生存率」、「相対生存率」、「ネット・サバイバル(Net Survival,純生存率)」にわけられます。本報告では、実測生存率とネット・サバイバルを用いて算出した。
実測生存率
死因に関係なく、全ての死亡を計算に含めた生存率で、診断例に対する何年後の生存患者の割合で示される。計算方法は複数存在するが、Kaplan-Meier法による実測生存率であることが多く、本報告においてもKaplan-Meier法を用いて実測生存率を算出している。
疾病特異的生存率
がん以外の死因による死亡を「打ち切り」として計算するため、正確に推定するためには、死因ががんであったかを把握する必要がある。がん以外の死因も含めるか否かで集計結果が変わるため、死因の把握が困難な日本において、この計算方法を用いることは現状難しいと言える。
相対生存率
実測生存率を対象と同じ性・年齢、診断年(歴年)の一般の日本人集団で「がんではなかった場合の生存率」という考えによる期待生存率を算出し、それで実測生存率を割って算出する方法である。疾患特異的生存率のように個々の死因を把握する必要がないため、これまで院内がん登録生存率集計でも用いてきた。一方で、生存率の高いがん種では理論上100%以上となるなど課題も多いことが知られている。
ネット・サバイバル(Net Survival,純生存率)
期待生存率を算出することなく純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算する純生存率(Net Survival, ネット・サバイバル)を計算する方法がPohar-Perme 法である。この方法は国際的にも広く採用されている方法であり、本報告においても相対生存率に代わりネット・サバイバルを採用した。
生存率の公表基準
院内がん登録生存率の公表は、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がん登録部会において、以下のように決定している。
- 全がんの生存状況把握割合が90%以上の施設
- 集計対象が原則30例以上
- 集計対象が30例未満の場合、生存率は非公開
収集対象
2022 年4 月1 日時点のがん診療連携拠点病院等453施設、成人の拠点病院に指定されていない小児がん拠点病院6施設、都道府県推薦病院300 施設及び、2010年診断例、2015年診断例の院内がん登録全国集計にデータ提出した施設を加えた合計775施設に対して、5年予後情報付きの登録情報(以下、5年予後情報付腫瘍データ)もしくは10年予後情報付きの登録情報(以下、10年予後情報付腫瘍データ)の提供を依頼した。
院内がん登録2014-2015年5年生存率集計
概要
がん診療連携拠点病院等をはじめとする院内がん登録実施施設の院内がん登録データを用いて、5年生存率を算出し、今回8回目の報告となる。
集計方法
集計対象 427施設487,506例 (2015年診断例)
調査依頼した775施設のうち、555施設から5年予後情報付腫瘍データ817,574例が提供され、以下の条件を満たすデータ427施設487,506例を集計対象とした
- 「自施設診断・自施設初回治療」、「他施設診断・自施設初回治療」の自施設初回治療例
- 悪性新生物<腫瘍>(新生物<腫瘍>の性状コード3)
- 0歳から99歳
- 全がんの生存状況把握割合90%以上
なお、本集計は2015年診断例同様に、上記条件を満たす2014年診断例のデータを加え、2年分の院内がん登録データを用いて算出した。
集計結果
2014-2015年の全がんの実測生存率は60.3%、ネット・サバイバルは66.2%で、性別でみると男性は62.8%、女性は70.8%で、女性のほうがやや高い傾向であった。(報告書P28)
院内がん登録2010年10年生存率集計
概要
がん診療連携拠点病院等をはじめとする院内がん登録実施施設の院内がん登録データを用いて、4回目となる10年生存率を算出し報告書にまとめた。
集計方法
集計対象 316施設341,335例
調査依頼した775施設のうち、417施設から10年予後情報付腫瘍データ567,052例が提供され、以下の条件を満たすデータ316施設341,335例を集計対象とした。
- 「自施設診断・自施設初回治療」、「他施設診断・自施設初回治療」の自施設初回治療例
- 悪性新生物<腫瘍>(新生物<腫瘍>の性状コード3)
- 0歳から99歳
- 全がんの生存状況把握割合90%以上
集計結果
- 2010年の全がんの実測生存率は46.1%、ネット・サバイバルは53.3%であった。(報告書P26)
- 10年という期間の経過をみるため、がんによっては年齢階級別の実測生存率とネット・サバイバルに大きな差がみられた。これは年齢が高くなるほど、がん以外の原因で亡くなる確率が高くなることが影響していると考えられた。
- これまで治癒の目安として、5年生存率が用いられることが多かったが、乳がん(女性)III期や前立腺がんIII期、甲状腺がん(乳頭濾胞癌)IV期など、がんや病期によっては5年以降も長期的フォローアップが必要なことがわかった。
- 院内がん登録開始初期(2007年より開始)のデータであるため、登録精度に課題はあるが、今後データが蓄積されることで、より詳細な集計ができるようになると期待される。
報道関係からのお問い合わせ先
院内がん登録生存率集計について
国立研究開発法人 国立がん研究センター
がん対策研究所 がん登録センター 院内がん登録分析室
郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
ダイヤルイン:03-3547-5201(内線1600)
メールアドレス:hbcr_analysis●ml.res.ncc.go.jp(●を@に置き換えください)
その他全般について
国立研究開発法人 国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
担当:がん対策研究所 がん登録センター 院内がん登録室 高橋ユカ
郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
ダイヤルイン:03-3547-5201(内線 3548 担当:高橋)
電話番号:03-3542-2511(代表)
メールアドレス:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)