大腸がんの腹膜播種に対する積極的切除の臨床試験を開始有効な治療法がない腹膜播種を伴う大腸がんの標準治療確立を目指す
2024年3月14日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 有効な治療法が明らかでない大腸がんの腹膜播種に対する臨床試験を、2024年4月から国立がん研究センター中央病院で開始します。
- 腹膜播種は抗がん剤が効きにくく、病変をすべて切除する完全減量手術により生存期間が延長する可能性が示唆されているものの、手術の難易度が高く、合併症が懸念されることから、日本ではがん専門施設でもほとんど行われてきませんでした。
- 本試験では、大腸がん腹膜播種に対する完全減量手術が安全に施行できる治療なのかを科学的に評価し、さらに検証を行うことで、大腸がん腹膜播種に対する標準治療の確立を目指してまいります。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)大腸外科は、腹膜播種を伴う大腸がんに対する積極的切除(完全減量手術)の安全性を評価する臨床試験を2024年4月から開始します。
大腸がんは進行すると他臓器への転移や腹腔内にがん細胞が散らばる腹膜播種を起こします。一般的に大腸がんの転移では手術できる場合は切除、難しい場合は薬物療法、放射線治療などが行われます。しかし、腹膜播種は腹腔内に病変が散在しているため手術や放射線治療は難しいとされ、唯一の方法として全身化学療法が行われてきました。しかし、腹膜播種に対する抗がん剤の効果は限定的で、予後が著しく不良であるため、腹膜播種に特化した効果的な治療法の開発が求められています。
本試験で実施する完全減量手術は、腹腔内に広がった播種病変をすべて切除することで視認できる病変を完全に除去することを目指す方法です。生存期間の延長が示唆されており、欧米を中心に取り組む施設が増えてきていますが、十分なデータがないのが実情です。
そのため本試験では、大腸がん腹膜播種と診断され、検査で手術の実施が問題ないと判断される方を対象に完全減量手術を実施し、手術後6カ月までの有害事象を科学的に調査します。完全減量手術が安全に実施できることが示されれば、今後さらに検証を行い、将来的には腹膜播種に対する標準治療の確立を目指します。
背景
大腸がんで、他臓器への転移または腹膜播種がある場合は、ステージ4と診断されます。ステージ4大腸がんのうち、腹膜播種に対する標準治療としては全身化学療法が行われています。これは、腹膜播種に対して化学療法が有効であると示されたからではなく、腹膜播種では手術や放射線療法といった局所療法が難しく、全身化学療法が唯一の選択肢であると考えられたからです。しかし、薬物療法の進歩にもかかわらず、腹膜播種がある場合の生存期間中央値は2年に満たず5年生存率は5%未満と著しく低いのが現状です。腹膜播種を伴う症例での生存期間を延長するためには、腹膜播種に特化した効果的な治療法の開発が求められていますが、未だ有効な治療法の開発には至っていません。
大腸がんでの腹膜播種に対する完全減量手術は、欧米を中心に積極的に取り組んでいる施設がある一方で、侵襲が大きく、難易度が高い手術のため、合併症が懸念されてきました。また、抗がん剤が著しく進歩する中で、現在標準治療とされている全身化学療法に比べて、完全減量手術を行うことでどのくらい生存期間の延長が得られるのかは必ずしも明らかでありません。
そこで、国立がん研究センター中央病院では、まず完全減量手術の安全性に関する臨床試験を開始することとしました。
<下図は完全減量手術のイメージ図. Translational Gastrointestinal Cancer 2013; 2 (2): 54-74より引用>
腹膜播種は腹腔内に多数の結節が散在していることが多く、そのため切除不能と考えられてきましたが、病変1つ1つに着目するのではなく、上図のように病変がある腹膜または臓器ごと切除すればよいのではないか、という新しい発想に基づいて考案されたのが完全減量手術です。
研究概要
対象は大腸がん腹膜播種と診断された75歳以下の成人で、全身麻酔下での手術に問題がなく、当院での検査によって腹膜播種が手術で取り切れると判断された方です。完全減量手術を実施してから術後6カ月まで、重篤な有害事象の発生頻度を調査し、完全減量手術の安全性を評価します。研究期間は2024年4月から3年間の予定で、登録予定は20例です。
主要評価項目:重篤な周術期有害事象発生割合 [Clavien-Dindo分類 Grade 3以上]
副次的評価項目:周術期有害事象発生割合・手術合併症発生割合・腹膜播種完全切除達成割合
研究名
腹膜播種を伴う大腸癌に対する完全減量手術の安全性に関する研究
研究代表者: 金光 幸秀(中央病院 大腸外科 科長)
研究事務局: 永田 洋士(中央病院 大腸外科)
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
jRCT番号:jRCT1030230662
本治験の詳細は、以下よりご確認ください。
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
URL: https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT1030230662(外部サイトにリンクします)
研究の大まかな流れ
展望
今回の臨床試験を通じて、大腸がん腹膜播種に対する完全減量手術が日本において一般的な治療として実施できるものかどうかを科学的に初めて評価し、将来的には腹膜播種に対する標準治療の確立を目指します。
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