世界の最新がん罹患状況の公表~70カ国455地域参加による国際共同研究~
2023年12月7日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 5大陸のがん罹患第12版は、他国と比較可能ながん罹患データの国際データブックの最新版(5年ぶりの改訂)であり、過去最大の国数、登録数からなるデータとなりました。
- 5大陸のがん罹患において、日本の全国がん登録情報が国際共同研究で利活用され、これまでの都道府県単位での掲載だけではなく、47都道府県をまとめた「日本」という単位での罹患が採用された初めての版です。また、日本のデータ提出を担当した国立がん研究センター職員が、日本人で初めて本シリーズの編集者に入りました。
- 日本と欧米諸国を高齢化の影響を除いた数値(年齢調整罹患率)で比較すると、全がんで男性は同程度かやや少ない、女性は70~80%程度の罹患率ですが、欧米諸国よりはるかに高い数値を示す部位もありました。
- 日本が欧米諸国より高い罹患率を示した部位は、東アジアに特徴的な胃がん(約5~10倍)や肝臓がん(約2倍)、胆のう・胆管がん(約2倍)、膵臓がん(約1.5倍)でした。男性の肺がんや女性の子宮頸がん、大腸がんにおいては男女ともに東アジアに特化したがんではないものの、高い罹患率を示していました。一方、皮膚がん、女性の乳がん、前立腺がん、膀胱がん、脳・中枢神経系がん、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんは欧米諸国と比較して低い罹患率でした。
- 肺がんや子宮頸がんといったがんにかかるリスクを大幅に減らす方法(たばこ対策、ワクチン接種)が確立している部位および、大腸がんや乳がんといったがん検診対象部位は、日本において年齢調整罹患率が高いだけでなく、増加傾向にあります。5大陸のがん罹患第12版は、日本のがん予防対策の遅れや、がん検診促進の必要性を示す重要な資料であり、国や都道府県における第4期がん対策推進基本計画においても評価指標として引用できる数値です。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所(理事長・所長:中釜 斉、東京都中央区)の国際政策研究部(部長:松田智大)の研究班は、11府県のがん登録室と協力し、世界保健機関(WHO)所属の国際がん研究機関(IARC)及び国際がん登録協議会(IACR)が主導する「5大陸のがん罹患(Cancer Incidence in 5 Continents, 以下、CI5)第12版」に参画しデータを提出、世界と日本における最新のがん罹患状況が公表されました。本研究で利用されている地域や国全体を対象とした地域がん登録・全国がん登録に基づいたデータからは、頻度を表す罹患率を計測することができ、またバイアスのない生存率の算出もできるため、がん対策の指標として活用されます。日本は、1966年のCI5第1版から宮城、第3巻から大阪、第4巻から長崎、第5巻から広島などが継続して参加している歴史の長いものです。
CI5第12版は、国際比較可能な統計値としては最新のものとなり、日本のがん罹患の特徴やアジア諸国との類似、欧米諸国との相違が、具体的な数値とともに明らかとなりました。今年度開始される第4期がん対策推進基本計画のベースラインデータともなる指標で、これを参照して、がん対策やがん研究の優先順位の決定や、基礎・臨床分野における他国との国際共同研究の立ち上げが進むことが期待されます。
背景
CI5は、5年おきに世界のがん罹患数・率をデータブックとしてまとめ、各国のがん対策に役立てるための資料です。各国から、がん患者とその診療に関する情報について、個人が特定されないよう匿名化したデータを提出し、IARCのサーベイランス部においてデータの精度管理を経て、定められた基準を満たしたデータのみを用いて集計値を算出するため、国際的な標準化と精度管理が行われた、最も信頼性の高いデータです。
CI5のデータは、世界のがん罹患や死亡に関する統計の総合サイトGlobal Cancer Observatory(GCO, https://gco.iarc.fr/)の情報源となっています。第12版では、2013年~2017年の診断症例を対象として、2021年に全世界のがん登録室に参加が呼びかけられました。
取り組み
CI5第12版は、日本を含む全世界70カ国、455地域からのデータが参画した、過去最大のデータブックとなりました。今回は、11府県の行政とがん登録従事者が協力して各府県のデータの提出に関わりました。残念ながらデータ精度評価の結果、全てが採択とはならず、青森県、宮城県、秋田県、群馬県、愛知県、大阪府、広島県の7府県と日本全体のデータのみの掲載となりましたが、2016年にがん登録推進法が施行されてから初めての国際共同研究となりました。また、第12版の編集者として国立がん研究センター職員が日本で初めて関わりました。
CI5第12版は、国際比較可能な統計値としては最新のものとなり、日本のがん罹患の特徴やアジア諸国との類似、欧米諸国との相違が、具体的な数値とともに明らかとなりました。
欧米諸国と比較すると、全部位の年齢調整罹患率は、男性では同程度か少し低く、女性では低い結果となりました(図1)。部位別に見ると、欧米と比較して罹患率が高いのは、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、胆のう・胆管がんであり、一方、口腔・咽頭がん、喉頭がん、皮膚がん、前立腺がん、腎・尿路がん、膀胱がん、脳・中枢神経系、造血器腫瘍(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病)では罹患率が低く、違いがはっきりとしています。女性は、男性と似通った傾向であるものの、肺がんの年齢調整罹患率は欧米諸国より低い結果となりました。また、乳がんは欧米諸国より低いものの、子宮頸がんは高く、子宮体がんや卵巣がんは欧米並みという結果でした(図2)。肺がんや子宮頸がんなどは、予防対策の遅れも懸念されます。胃がんや肝臓がん、胆のう・胆管がんの年齢調整罹患率は中国、韓国と類似しており(図 3)、生物・遺伝学的な背景を含む共通のリスク要因が示唆されると共に、研究や治療における協力の必要性が示唆されています。
*はデータ収集方法や精度において注釈ありの地域
図1 全部位での日本のがん罹患の位置づけ
図2 予防介入可能な部位での日本のがん罹患率の高さ
*はデータ収集方法や精度において注釈ありの地域
図3 東アジアでの胆のう・胆管がん発生の類似性
展望
現時点で、CI5-XIIのサイトには各国からのデータが集計表の形式で公表されているだけですが、追って、冊子の形で報告書全体が掲載されると共に、データに基づいたグラフなどが追加される予定です。今年度開始される第4期がん対策推進基本計画のベースラインデータともなる指標で、これを参照して、がん対策やがん研究の優先順位の決定や、基礎・臨床分野における他国との国際共同研究の立ち上げが進むことが期待されます。
また、観察期間の2013~2017年には、2016年に施行されたがん登録等の推進に関する法律により全国がん登録が開催された年と重なっており、一時的な罹患数の過剰計上の可能性があったため、日本全体の全国がん登録の部分や、数値が大きく増減した規模が小さい県の地域がん登録データは採用されませんでした。次回のCI5第13版では、より多くの都道府県からの参加と、精度基準が達成されると期待しています。
参考
5大陸のがん罹患(Cancer Incidence in 5 Continents)第12版
掲載日: 2023年10月9日
URL: https://ci5.iarc.fr/ci5-xii (外部リンク)
研究費
厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)がん統計を活用した、諸外国とのデータ比較に基づく日本のがん対策の評価のための研究(23EA1033)
用語解説
罹患数
対象とする人口集団から、一定の期間に、新たにがんと診断された数。
罹患率
ある集団で新たに診断されたがんの数を、その集団のその期間の人口で割った値。通常1年単位で算出され「人口10万人のうち何例罹患したか」で表現されます。がんにかかるリスクがその集団において増えているか減っているかを表す数値で、がん予防がうまくいっているかの指標にもなります。
年齢調整罹患率
もしある集団の年齢構成が基準人口と同じだったらと仮定して補正された罹患率。異なる集団や時点などを比較するために用いられます。
ICD-10
WHOの勧告により国際的に統一した基準で定められた死因・疾病の分類で、がん罹患の統計分類としても全世界で利用されています。
お問い合わせ先
5大陸のがん罹患第12版について
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 国際政策研究部
担当:松田 智大
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