講演会:「図書館でのより良い医療情報提供のあり方を考える2025~科学的根拠に基づく予防・健康づくり~」
更新日 : 2026年1月20日

開催日程
- 開催日:2025年11月13日(木曜日)
- 開催時間:16時から18時
プログラム
[第1部]シンポジウム
- 開会挨拶
国立がん研究センター がん対策研究所 所長 松岡 豊
講演会開催趣旨
- 国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部 部長
八巻 知香子- 講演スライド(PDF:1.3MB)
知ってほしい、予防や早期発見・健康づくりにつながる健康医療情報
- 医療・研究の立場から(1)~がん~
国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 予防評価研究室 室長 和田 恵子
- 講演スライド(PDF:2.0MB)
- 医療・研究の立場から(2)~循環器の病気~
国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部 部長 西村 邦宏- 講演スライド(PDF:1.6MB)
- 医療・研究の立場から(3)~認知症~
国立長寿医療研究センター 先端医療開発推進センター長 鈴木 啓介- 講演スライド(PDF:2.9MB)
- 図書館の立場から ~利用者目線に合わせた情報提供と、予防・健康づくりに向けた場づくり~
神奈川県川崎市立宮前図書館 館長 舟田 彰- 講演スライド(PDF:3.6MB)
総合討論
- パネリスト
和田 恵子/西村 邦宏/鈴木 啓介/舟田 彰 - コーディネーター・コメンテーター
国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 部長 八巻 知香子
国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 研究員 三村 麻子
[第2部]がん情報ギフト「結ぶ」事業 実施報告会
- 国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 研究員
三村 麻子- 説明スライド(PDF:1.59MB)
がん情報ギフト「結ぶ」事業の目的と概要
- 塩尻市立図書館(長野県) :春休み!えんぱーく まるごとがん教室
- 説明スライド(PDF:3.0 MB)
- 中部国際医療センターがん相談支援センター(岐阜県):がんに関する講演会 家族ががんになったとき、子どもは?
- 説明スライド(PDF:4.3 MB)
概要
2025年11月13日、「図書館でのより良い医療情報提供のあり方を考える2025~科学的根拠に基づく予防・健康づくり~」を開催、図書館、医療機関、行政関係者など169名の参加がありました。
開会あいさつ(国立がん研究センター がん対策研究所 所長 松岡豊)

松岡所長
松岡所長からは、2017年に開始した「がん情報ギフト」プロジェクトの経緯と現状について紹介があり、全国775館の公共図書館に信頼できるがん情報が広がり、市民が病気になる前から身近な図書館で健康医療情報に触れられる環境づくりを進めてきたことが述べられました。第3回となる今回は「科学的根拠に基づく予防・健康づくり」をテーマに、がん・循環器疾患・認知症という身近な健康課題について、医療者と図書館関係者がそれぞれの立場から情報提供のあり方を議論する場としたいとの趣旨が示されました。とくに「誰一人取り残さず」、関心の低い市民にもどう情報を届けるか、市民の実践につなげる工夫や連携の可能性を探る機会にしたいと結びました。
開催趣旨説明(国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 部長 八巻 知香子)
八巻部長
八巻部長からは、長寿社会の進展の中で「自分の健康は自分で守る」ことが求められ、予防や治療、介護までを見すえた情報を主体的に入手・理解し、自分の希望を医療者と共有することの重要性が説明されました。そのうえで、図書館は課題解決型図書館として地域の課題に向き合い、医療・行政と連携しながら生活の場で健康医療情報を届ける拠点になり得ること、2017年からの寄贈事業により全国各地でがん情報が身近な場所に整備されてきたことが紹介されました。2023年度以降はナショナルセンター6機関の研究班とも共催し、がんに限らずさまざまな疾患の予防・早期発見につながる情報と、現場の悩みや成功事例を共有しており、今年も同じスタンスで、図書館が「元気なうちから」予防や健康づくりの情報を届けるには何が必要かを一緒に考える場としたいと述べました。
講演1「医療・研究の立場から(1)~がん~」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 予防評価研究室 室長 和田 恵子)
和田室長
和田室長からは、信頼できる健康医療情報を見つけて理解し、生活に活かす力としての「健康リテラシー」と、疫学研究に基づきがん予防の科学的根拠を評価している研究班の取り組みが紹介されました。喫煙や飲酒、食事、身体活動、体重、感染などの要因と各種がんとの関連をマトリックスで整理し、日本人のための「5つの生活習慣+感染」からなるがん予防法を冊子として発信していることが示されました。一方で、特定の食材や民間療法については科学的根拠が不十分なものが多く、「この食事でがんを防げる」といった情報と研究知見との間にギャップがあること、がんは生活習慣以外の要因にも大きく影響されるため、予防情報に過度な期待や不安を抱きすぎず、信頼できる情報源から最新情報を取り入れる冷静な姿勢が重要であるとまとめられました。
講演2「医療・研究の立場から(2)~循環器の病気~」(国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部 部長 西村邦宏)
国立循環器病研究センター
西村予防医学・疫学情報部長
西村部長からは、自治体で導入が進む「歩数インセンティブ」事業の研究デザイン上の問題点を例に、単純で魅力的に見える健康プログラムにも批判的な検証が必要であることが示されました。循環器疾患は高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙・肥満といった少数の危険因子の積み重ねでリスクが大きく変わる比較的「予防しやすい」病気であり、日本では減塩や血圧管理、喫煙率低下などにより30年間で心疾患死亡が大きく減少し、医療費削減にも寄与してきたことが紹介されました。その一方で、歩行だけの効果は限られており、「ひとつの習慣ですべて解決」「魔法のような予防法」は存在しないこと、減塩・適正体重・適度な運動・節酒・禁煙といった当たり前の生活習慣を地道に続けることが最も重要であると強調されました。また、医療情報の書籍選びについて、極端な主張や過度な広告を伴う本には注意が必要で、学会や信頼できる医師が関わる資料を基軸にしてほしいとのコメントもありました。
講演3「医療・研究の立場から(3)~認知症~」(国立長寿医療研究センター 先端医療開発推進センター長 鈴木 啓介)
国立長寿医療研究センター
鈴木先端医療開発推進センター長
鈴木センター長からは、国立長寿医療研究センターの紹介に続き、アルツハイマー型認知症治療薬の変遷が説明されました。近年登場した新薬は症状の進行を「遅らせる」効果はあるものの、進行を止めたり改善させるものではなく、治る認知症はごく一部であること、アルツハイマー病は前臨床期から軽度認知障害、認知症期まで長い経過をとる病気であることが整理されました。一次予防の観点からは、教育歴・難聴・生活習慣病・身体活動・社会的孤立など多様なリスク因子に包括的に対応することで発症や進行を一定程度遅らせられるが、すべてをコントロールしても半分以上の認知症は予防できない現実も示されました。また、認知症・軽度認知障害・アルツハイマー病など用語の違いや、「治る/良くなる/予防できる」と断言する情報には特に注意が必要であり、図書館が情報を扱う際には対象や効果の内容を丁寧に見極めてほしいと呼びかけました。
講演4「図書館の立場から ~利用者目線に合わせた情報提供と、予防・健康づくりに向けた場づくり~」(神奈川県川崎市立宮前図書館 館長 舟田 彰)
川崎市立宮前図書館 舟田館長
舟田館長からは、川崎市立宮前図書館の事例を中心に、地域包括ケアのインフラとしての図書館の可能性が紹介されました。図書館は無料で誰でも立ち寄れ、用事がなくても来られる「アクセスの普遍性」と、図書館員による選書や公的資料に基づく「情報資源の信頼性」、さらに孤立を防ぐ「居場所機能」を持つことから、予防や健康づくりを支える拠点になり得ると述べられました。実際に、がん情報コーナーや認知症コーナーの常設、行政や保健所、地域包括支援センターと連携した展示・講座・出張図書館・啓発コーナー(自殺予防、メンタルヘルス、フレイル予防など)の取り組みが紹介され、図書館が健康情報リテラシー向上や行動変容のきっかけづくり、地域の医療・介護・行政を「横串でつなぐ」情報ハブとして機能していく重要性が示されました。
総合討論
総合討論では、4名の演者から互いの講演へのコメントがあり、がん・循環器疾患・認知症に共通して生活習慣の改善が重要であること、「魔法の治療法」は存在しないこと、そして図書館が健康情報の入り口として果たしうる役割の大きさが改めて確認されました。健康への関心が低い市民へのアプローチについては、図書館内の見えやすい場所でのさりげない展示や、楽しいイベントと組み合わせたミニセミナー、相談窓口のチラシやカードの常設など、日常利用の延長で情報に触れられる仕掛けが有効ではないかとの意見が出ました。また、医療情報書籍の選び方として、「一つの方法で治る・防げる」と断定するタイトルや新聞広告に大きく出ている商業色の強い本には注意が必要で、学会のガイドラインや大学教員・専門医が関わる地味な本を軸にしつつ、利用者から要望のある本には代替資料も併せて紹介するなど、図書館としてのバランスのとり方が議論されました。さらに、自治体の健康施策の会議やネットワークに図書館が積極的に参加し、医療・行政側からも図書館を連携先として意識してもらうことの重要性が共有されました。
第2部:がん情報ギフト「結ぶ」事業 実施報告会
がん情報ギフト「結ぶ」事業として、2024年度に実施された図書館と地域の他機関が協働した企画について、塩尻市立図書館(長野県)、中部国際医療センター(岐阜県)の2施設より、図書館でのがん情報提供の周知、がん教室やがん検診の周知を通じた市民の健康増進などを目的としたイベント開催など、それぞれの企画開催の様子や具体的な取り組みについて紹介されました。また、各企画とも総じて、図書館・医療機関・教育機関のみならず、人と人を結ぶ活動に展開させ、地域社会への貢献を果たせたことが語られました。
事例報告1「春休み!えんぱーく まるごとがん教室」(塩尻市立図書館)
塩尻市立図書館 北澤梨絵子氏からは、まず同館での医療・健康情報サービスの経緯として、2010年の新館移転を機にコーナーを設置、2014年には館内に医療・健康情報サービスチームを立ち上げたことが語られました。2022年には「任意団体サポートおむすび」からの協力依頼を受け「みんなのがん教室@図書館」を開始し、今回同団体のほか、塩尻市健康づくり課と共同し、「春休み!えんぱーく まるごとがん教室」を開催したことが述べられました。また、共同実施機関の間では、得意分野を活かした役割分担、企画をどんな人に何を届けるのかという思いの共有などの重要性が挙げられた。当日は大雪の中、講演会87名、スタンプラリー40区の参加があり、がんや健康について楽しく学び、考える1日となったことが報告されました。また、参加機関同士の交流も生まれ、2026年2月28日にも実施することになった旨も伝えられました。
事例報告2「がんに関する講演会 家族ががんになったとき、子どもは?」(中部国際医療センター)
中部国際医療センター患者支援センター宇津山志穂氏からは、(1)がんを身近な病気として関心を持っていただく(2)家族ががんになったときの子どもの反応や子どもへの告知に関する情報発信(3)がん相談支援センターの広報を企画目的とした展示や講演会を開催、また岐阜市内で開催されたAYA WEEK 2025 GIFUの会場にもライブ配信し会場参加者も講演会を視聴可能にしたことなど、開催経緯が述べられました。今回の共同・協力実施機関との次年度への継続として、(1)AYA WEEK期間に合わせた図書館で関連展示(2)がん相談支援センターの広報(3)書籍・講演資料の活用が紹介されました。
閉会あいさつ(国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 部長 八巻 知香子)
八巻部長からは、がんに限らずさまざまな疾患の講演を今回聞くことができ、信頼できる医療健康情報が図書館から地域や市民の方に、バランスよく届けられることの重要性が述べられました。さらに、図書館から一歩出て他の機関とつながるきっかけのヒントにしてほしい、そのため次年度も実施予定の「結ぶ」事業もぜひ活用いただきたいと結びました。
参加対象者
- 図書館でがん情報・医療情報を取扱う関係者
- がん情報・医療情報に関心のある方
主催(共催)
国立がん研究センター がん対策研究所
国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部「ナショナルセンターによる医療情報発信の基盤整備事業」
本講演会は、2025年度正力厚生会医療機関助成および令和7年度国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部 横断的研究開発費 横断的研究推進費により実施します。
