がん細胞が分泌するエクソソームを簡便に検出する画期的方法を開発わずかな血液で大腸がんを発見
2014年4月8日
独立行政法人国立がん研究センター
独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、所在地:東京都中央区、略称:国がん)は、2015年には国内罹患者数が最大となることが見込まれる大腸がんにおいて、血液中に存在するエクソソームを診断に活用し、早期であっても簡便に診断が可能な画期的方法の開発に成功しました。数年後の実用化に向け準備を進めています。
共本研究成果は、研究所分子細胞治療研究分野 落谷孝広分野長、吉岡祐亮研究員の研究グループが、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「がんの早期発見を実現するイムノアッセイ一体型小型診断用MSの開発によるエクソソーム診断の研究開発」および、P-Direct(文部科学省 次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム)による「早期診断マルチバイオマーカー開発」(エクソソーム解析によるがんの血中・唾液中マイクロRNAバイオマーカーの開発)の支援を受けて行ったもので、英科学誌Nature姉妹誌のジャーナルNature Communications(電子版)に4月7日付けで掲載されました。
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研究概要
エクソソームとは、様々な細胞から分泌される微小な小胞で、血液や尿など体液中に存在しています。今回開発した方法は、がん細胞に特異的なタンパク質や小さな核酸(マイクロRNA)を含むこのエクソソームを利用したもので、従来法では1日かかるエクソソームの検出を、およそ1.5~3時間で検出することができ、また検出に必要な血液(血清)の量もわずか5マイクロリットルという簡便な方法で実現しました(図1)。本方法はエクソソーム膜上に存在するタンパク質を異なる修飾が施された2種類の抗体で挟み込み、2種類の抗体が200ナノメートル以内に近接する場合のみ、抗体に付加されたビーズが発光し、エクソソームを検出する方法です(図2)。
さらに本研究では、大腸がん細胞が分泌するエクソソームに多く含まれるタンパク質の存在も明らかにし、大腸がん患者の血液(血清)から大腸がんが分泌したエクソソームを検出しました。また、大腸がん患者194人と健常人191人の血清を解析した結果、従来の血液検査(腫瘍マーカーCEAやCA19-9)と比較して、本方法は診断能を評価する指標AUCが高いことも認められ(図3)、従来の血液検査では見つけることが出来なかった早期がんの検出の可能性があることを確認しました。
本研究は、エクソソームの高感度検出のための抗体作成を担当した塩野義製薬株式会社、再現性を含めて、臨床検査としての実用化の検討を担当する株式会社エスアールエルとの共同で遂行しました。また、検体は国立がん研究センター中央病院のバイオバンク、および大阪大学の消化器外科の協力を得て収集分析しました。
これまでの課題と展望
エクソソームは体液中に存在し、採血や検尿など低侵襲的な方法で診断が可能であることが知られています。また、がん患者の体液中に存在するがん特異的なエクソソームは様々な情報が詰まった物質であることが知られているため、病態の把握や治療評価への利用も考えられます。しかし、従来法ではエクソソームを体液中から検出し、診断に用いるには多くの手間と時間を要し、これまで実用化には至っていません。
本研究では、短時間で多検体の処理を可能にし、微量の血液からがん特異的なエクソソームを検出する方法を考案、大腸がんの診断で、数年後の実用化を目指し開発を進めています。
本方法により、大腸がんのみならず、早期診断の難しいすい臓がんや、さらにはがん以外の疾患に対する新たな診断が期待できます。採血や検尿などによって検査が可能であり、将来的には集団検診への利用を推進する計画です。
大腸がん検診の現状
大腸がんは、国内において胃がんに次いで2番目に罹患者数の多いがんで知られていますが、2015年には胃がんを抜いて罹患者数が最も多くなることが予測されています。(出典:がんの統計'03公益財団法人がん研究振興財団)本研究の共同著者でもある国立がん研究センター 中央病院 消化管内視鏡科 中島 健医師は以下のように述べています。「大腸がんの検診方法としては、便潜血検査法があります。集団を対象とする検診方法としては費用対効果の高い方法ではありますが、感度・特異度とも十分ではなく、進行大腸がんの患者さんにおいても陰性(偽陰性)を示すこともあります。一方で、精密検査として大腸内視鏡検査がありますが、前処置が必要なことや検査に対する恐怖心などから、便潜血検査にて陽性となり要精密検査となった方でも受診率は6割と言われており、また、実際に陽性者の中での陽性的中率は5%前後です。大腸がんにおいては、高い精度でかつ集団検診でも利用できる効率的な検診方法の開発が急務で、今回の方法が大腸がん検診として臨床応用が可能であれば、患者、医療者ともに負担軽減につながり、社会的な意義が大変高いと考えます。」
関連リンクの中央病院消化管内視鏡科をご覧ください。
原著論文情報
Yusuke Yoshioka, Nobuyoshi Kosaka, Yuki Konishi, Hideki Ohta, Hiroyuki Okamoto, Hikaru Sonoda, Ryoji Nonaka, Hirofumi Yamamoto, Hideshi Ishii, Masaki Mori, Koh Furuta, Takeshi Nakajima, Hiroshi Hayashi, Hajime Sugisaki, Hiroko Higashimoto, Takashi Kato, Fumitaka Takeshita & Takahiro Ochiya. Ultra-sensitive liquid biopsy of circulatingextracellular vesicles using ExoScreen. Nature Communications. DOI number: 10.1038/ncomms4591.
図1:新しい診断方法の流れ
図2:測定の原理(ExoScreen)
- エクソソーム表面の「がん特異的」抗原を見つけて特殊な抗体ビーズが発光
2種類の異なる修飾が施された抗体を用いてエクソソームを検出する。がん特異的エクソソームを検出するには、がん特異的な抗原に対する抗体を用いる(ドナービーズ付加抗体:図左)。もう一方で多くのエクソソームに含まれる抗原(エクソソームマーカー)対する抗体を用いる(アクセプタービーズ付加抗体:図右)。ドナービーズは680ナノメートルで励起されると、一重項酸素(1O2)を発生し、発生した1O2はアクセプタービーズを発光させる。この際、1O2は約200ナノメートル以内の距離まで到達できるため、2種類の抗体が200ナノメートル以内に近接する場合のみ発光を検出可能である。そのため、約100ナノメートルの大きさであるエクソソームの膜に存在するタンパク質を認識する抗体を用いることでエクソソームの検出が可能となる。
図3 診断能の評価
診断能評価の指標の1つであるarea under the curve(AUC)の数値が高い方がより、診断能が高いと判断できる。従来法ではおよそAUCが0.65程度であるのに対して、本方法ではAUCが0.82であった。
プレスリリース
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関連ファイル
関連リンク
- NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) (外部サイトにリンクします)
- Ultra-sensitive liquid biopsy of circulating extracellular vesicles using ExoScreen (外部サイトにリンクします)
- 中央病院 消化管内視鏡科