世界的な胃がん臨床試験データベースプロジェクト「ARCAD-Gastric」始動-大腸がんから胃がんへのデータベース拡張により、さらなるがん医療の研究開発を促進-
2025年1月31日
国立研究開発法人国立がん研究センター
The ARCAD Foundation
Mayo Clinic
発表のポイント
- 国立がん研究センター東病院とThe ARCAD FoundationおよびMayo Clinicは、世界的な胃がんの臨床試験データを収集・統合・利活用する胃がんデータベースプロジェクト「ARCAD-Gastric」を立ち上げ、三者で契約を締結しました。
- 過去に行われた治験・臨床試験のデータを収集・統合・利活用するプロジェクト「ARCADデータベースプロジェクト」は大腸がん領域において2024年12月現在計67試験、約47,000例からなるグローバルデータベースの構築およびデータベースの利活用が進んでいます。「ARCAD-Gastric」では大腸がん領域から胃がん領域へ拡張させ、日仏米3つのデータセンターで同じデータベースを保有することにより、世界的な共同研究の仕組みをつくり、よりよい医療の提供を目指します。
- 今後、さらにデータベースを拡張・共有しデータの利活用を行う体制を整えることで、世界のがん医療の研究開発をリードします。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市、以下国立がん研究センター東病院)とThe ARCAD Foundation(代表:Thierry André(チエリーアンドレ)、仏国、以下ARCAD(アルカド)財団)、Mayo Clinic(プロジェクト代表者:Qian Shi(チアンシー)、米国、以下メイヨークリニック)は、「ARCAD-Gastric」プロジェクトを2024年10月30日より開始し、日仏米の三者で契約を締結しました。欧米では2000年代後半より、ARCAD財団およびメイヨークリニックが進行再発大腸がん臨床試験データの統合データベースプロジェクト「ARCADデータベースプロジェクト」を開始し、2021年より国立がん研究センター東病院が参加しARCADデータベースがアジアに拡大されました。
ARCAD-Gastricでは胃がん臨床試験データベースを構築することを目的として以下のことが決定しており、構築したデータベースの各種解析を行うことにより世界規模でのエビデンス創出と治療開発を促進します。
・がんに対する免疫の力を活用する治療法である免疫療法に関する主要な第II相および第III相試験注1を対象とし、免疫チェックポイント阻害剤11試験約10,000例を収集対象としてデータ提供交渉を行う。
・疾患の診断基準や治療効果の評価に必要な検査項目であるPD-1/PD-L1、MSI注2などのバイオマーカー情報、免疫関連の有害事象に関するデータを収集し、有用性を評価する。
・構築したデータベースを用いて、臨床試験や薬事承認プロセスにおける評価項目についての提言を行う。
ARCAD-Gastricは、Thierry André教授(ARCAD財団)、Qian Shi教授(メイヨークリニック)、吉野 孝之医師(国立がん研究センター東病院)の三者によって共同運営されています。吉野医師が本事業の研究代表者を務め、ARCADアジアデータセンター注3がグローバル全ての試験データの統合を主導します。
データベースの構造は、将来的にがん種を超えた承認申請や政策提言に利用できるよう、国際的な医薬品の臨床データの業界標準であるCDISC形式を採用する予定です。CDISC形式をとることで、さらなる他がん種へのデータベース拡張時にも転用できる可能性があります。データ構築する際に利用するシステムや作業手順は、大腸がんデータベース構築と同じものを採用し、構築されたデータベースはARCADアジアデータセンターから仏米のデータセンターに転送され、各データセンターにて製薬企業やアカデミアによる利活用が期待されています。
ARCAD-Gastricの共同運営体制およびGlobal DBのフロー
吉野 孝之医師(国立がん研究センター東病院)からのコメント
「ARCADデータベースが胃がんに拡張されたことは喜ばしいことです。ARCAD データベースにより、新しいがん医薬品開発の効率化や病態のさらなる理解とエビデンス創出を実現し、より多くの患者さんにより適切ながん治療が速やかに届くことを期待します。ARCADデータベースプロジェクトは、さらにがん種拡大を進め大規模で包括的なデータベースに成長するよう努力しています」
Thierry André教授(ARCAD財団)からのコメント
「これは、胃がんおよび胃接合部がんの管理に関する知識を向上させ、この疾患に関する臨床研究の方法論を進歩させることを可能にする、非常に重要なイベントです。ARCAD財団と私自身は、吉野孝之医師が国立がん研究センター東病院のチームとともにこのイニシアチブのリーダーであることを喜ばしく思っています。私たちは、彼がこのプロジェクトを成功に導いてくれると確信しています」
Qian Shi教授(メイヨークリニック)からのコメント
「メイヨーSHAREチームと私は、日本の国立がん研究センター東病院の優れたチームとともにこの重要なイニシアチブを率いる吉野孝之教授と協力できることを光栄に思います。私たちは、ARCAD-Gastricの成功のために緊密に協力していきます。我々の強力な統計およびデータ管理の専門知識を提供することで、この試みを優れた結果に導く吉野教授の能力を確信しています」
今後の展望
2000年代より培ってきた大腸がんにおけるARCADデータベースプロジェクトでの経験を活かし、本研究では世界的な胃がん臨床試験データベースを構築することを目指します。既存の胃がん臨床試験および今後実施される臨床試験について、患者個別データを統合した世界的なデータベースを構築し、そのデータベースを用いた各種解析により、世界規模でのエビデンス創出や医薬品の研究開発のコスト削減・効率化、ひいては患者の利益最大化につなげていきます。
施設概要
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立がん研究センターは、1962年に国立機関として創設され、がん研究・がん医療における国立の中核機関として、先端的な研究を牽引してきました。国立がん研究センター東病院は、1992年に設立され、年間11,000人を超える新患の方が訪れる国内トップクラスのがん専門病院です。世界最高レベルのがん医療の提供と新しいがん医療の創出をミッションに掲げ、国の「臨床研究中核病院」、「がんゲノム医療中核病院」などに選定されています。併設する先端医療開発センターとともに、国際的なネットワークを基盤とした研究開発の拠点として、先進的ながん治療薬・医療機器開発やゲノム医療をはじめとした最先端の個別化治療を推進し、多数の実績を上げています。
https://www.ncc.go.jp/jp/index.html
ARCAD財団
A.R.CA.D(Aide et Recherche en CAncérologie Digestive)財団は、2006年にAimery de Gramont氏によって設立され、2022年からはThierry André氏が理事長を務める、フランスで唯一の消化器がんに特化した公的研究財団です。ARCAD財団は患者、その介護者、医療従事者に焦点を当て、次の3つを目的として様々な取り組みを行っています。
-臨床研究と質の高いケアの支援と促進
-患者とその介護者への情報提供と支援
-予防と検診の必要性について、一般市民と医療従事者の認識を高めること
https://www.fondationarcad.org/ (外部サイトにリンクします)
メイヨークリニック
メイヨークリニックは、臨床、教育、研究に取り組む非営利団体であり、癒しを必要とするすべての人に専門的で全人的なケアを提供しています。メイヨークリニックの使命は、臨床、教育、研究を統合し、すべての患者さんに最高のケアを提供することにより、希望を与え、健康と福祉に貢献することです。主な価値観は、"The needs of the patient come first"(患者さんのニーズを最優先する)であり、他のどの医療機関よりもその質の高さがトップランクであるとされています。ミネソタ州のメイヨークリニックは、U.S. News & World Reportによって2024-2025年の全米ベスト病院に認定されています。メイヨークリニック総合がんセンターは、がん治療、研究、教育の最高峰です。毎年、13万人以上のがん患者が、正確な診断、それぞれのニーズやがん種に合わせた治療を受けるために、世界中からメイヨークリニックを訪れています。50年以上にわたり、がんの予防、阻止、診断、治療の新しくより良い方法を見つけるためのチームアプローチに重点を置き、国のがん研究活動の変革に貢献しています。
https://www.mayoclinic.org/(外部サイトにリンクします)
用語解説
注1 第II相および第III相試験
臨床試験は大きく第I相~第III相にわかれています。第II相においては比較的少数の患者さんを対象として、有効性・安全性・使用方法を調べるために、用法と用量、どの時間帯やタイミングで服用するのが効果的か、また副作用が一番少ない方法はどれかなどを調べます。第III相においては多数の患者さんで、第II相試験の結果から得られた有効性、安全性、使用方法を確認します。
注2 PD-1/PD-L1、MSI
PD-1/PD-L1:
免疫制御系に関わるタンパク質で、がん細胞は細胞表面にPD-L1を出し、免疫細胞(T細胞)からの攻撃をかわします。免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1やPD-L1を抑制することによりがん細胞に対してT細胞が攻撃できるようにする薬剤です。
MSI(Microsatellite instability: マイクロサテライト不安定性):
DNA 複製の際に生じるエラーを修復するMMR(Mismatch repair)機能の低下により、1 ~数塩基の繰り返し配列(マイクロサテライト)の反復回数に変化が生じる現象。MMR機能が欠損すると、DNAのエラーが修復されずに蓄積され、がん化する場合があります。
注3 ARCADアジアデータセンター
国立がん研究センター東病院内に「ARCADアジア運営事務局/データセンター」を設置し、各製薬企業等との間でデータ提供に関する共同研究契約を結び、コンソーシアム内におけるデータシェアリング体制を構築しています。切除不能進行再発(ステージ4)大腸がんの治験・臨床試験データを対象にシェアリングを開始し、今後アジアに多いがんの種類の拡大も視野に入れ、プロジェクトを推進。2024年12月現在、ARCADアジアと企業・アカデミア等のデータ提供者との間で、大腸がんの臨床試験データ計13試験・4,173例のデータ収集・統合が完了しています。毎年順次、メイヨークリニックに転送され欧米試験データと統合されARDAD-Global DBが構築されます。
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/arcadasia/index.html
◆運営委員(2024年12月現在):
- 大津 敦(国立がん研究センター東病院 名誉院長)、前原 喜彦(九州大学 名誉教授、公立学校共済組合九州中央病院長)、吉野 孝之(国立がん研究センター東病院 副院長/医薬品開発推進部門長)、沖 英次(九州大学大学院 消化器・総合外科 准教授)、山崎 健太郎(静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 部長)、坂東 英明(国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長/医薬品開発推進部門 医薬品開発推進部長)、寺島 雅典(静岡県立静岡がんセンター 副院長)、設楽 紘平(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)、掛地 吉弘(神戸大学大学院 食道胃腸外科 教授)
◆参考
国際臨床試験データシェアリング事業「ARCADアジア」始動
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2021/0930/index.html
2022年8月4日プレスリリース
日本と欧米の大腸がん治験・臨床試験データ約43,000例を共有
―ARCADデータベースプロジェクトで国際的なデータシェアリング環境を構築しがん医療の研究開発を促進―
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/0804_1/index.html
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
ARCADアジア 運営事務局/データセンター
医薬品開発推進部門データサイエンス部 三角 俊裕
電話番号: 04-7133-0222
Eメール: tmisumi●east.ncc.go.jp
ARCAD財団
Thierry André
4 Rue kléber, 92300, Levallois-Perret, France
電話番号: + 33 6 61 77 07 08
Eメール: thierry.andre●aphp.fr
メイヨークリニック
Dr. Qian Shi, Professor of Biostatistics and Oncology
Mayo Clinic, 200 First Street SW, Rochester, MN 55905, USA;
電話番号: +1 507-538-4340
Eメール: shi.qian2●mayo.edu
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