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ジャーナルクラブ
このページでは、研究室のジャーナルクラブ(JC)で扱った論文を簡単にご紹介していきます。
JC-066(Dec 20, 2024)
広範な炎症性疾患や腫瘍性疾患における新しい治療法の可能性
"Spatial proteomics identifies JAKi as treatment for a lethal skin disease"
Nature. 2024 Nov;635(8040):1001-1009. doi: 10.1038/s41586-024-08061-0. Epub 2024 Oct 16.
Deep visual proteomicsによりJAK/STATおよびインターフェロンのシグナル伝達経路がTEN(中毒性表皮壊死症)の主要な発症促進因子であることが明らかになり、特異的な標的療法が無かったTENに対して、JAKi標的療法が根治療法となる可能性を示した。
visual proteomicsによりTENに関連する分子変化を系統的にマッピングし、治療可能な標的を同定することで有益な新しい治療法を発見した。 同様のアプローチで、その他の広範な炎症性疾患や腫瘍性疾患においても新しい治療法を発見し変革をもたらす可能性がある。
担当:阪本盛敏
JC-065(Dec 18, 2024)
染色体外DNA(ecDNA)の新たな機能解明
"Origins and impact of extrachromosomal DNA"
Nature. 2024 Nov;635(8037):193-200. doi: 10.1038/s41586-024-08107-3. Epub 2024 Nov 6.
39種類14,778人の腫瘍検体で染色体外DNA(ecDNA)について分析し、ecDNAは腫瘍がん遺伝子の増幅だけでなく、免疫調節遺伝子の増幅により腫瘍T細胞浸潤の減少に関連し、またエンハンサー等発現調節に関わるecDNAとの相互作用による発現増強が示された。
また環境変異源や、ゲノム不安定性・構造変異負荷と各組織でのecDNAの存在との関連性など、ecDNA形成前後に関わる要因についても明らかになった。臨床的にもecDNAは全生存期間の短縮と関連し、今後さらに治療法を含めた研究が重要と考えられる。
担当:吉田 澪奈
JC-064(Dec 13, 2024)
TLS形成を促し抗腫瘍免疫を増強する治療ストラテジーが出来る可能性
"The activity of tertiary lymphoid structures in high grade serous ovarian cancer is governed by site, stroma, and cellular interactions"
Cancer Cell. 2024 Nov 11;42(11):1864-1881.e5. doi: 10.1016/j.ccell.2024.09.007. Epub 2024 Oct 10.
三次リンパ様構造(TLS)は近年多様な癌腫で報告されており、T/B細胞のクロストークが抗腫瘍免疫を調整していると考えられている。播種をきたす高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)では解剖学的部位によってTLS形成が異なっていた。
空間トランスクリプトーム解析から、卵巣腫瘍では胚中心を有するTLSの形成が少ないといった特徴だけでなく、間質部位別に存在するMSCの特徴を明らかになった。将来的には、TLS形成を促し抗腫瘍免疫を増強する治療ストラテジーが出来るかもしれない。
担当:前之園良一 @r_maenosono
JC-063(Dec 11, 2024)
休眠の仕組みを考慮した転移再発率の低下につながる新たな治療戦略
"Lung-resident alveolar macrophages regulate the timing of breast cancer metastasis"
Cell. 2024 Nov 14;187(23):6631-6648.e20. doi: 10.1016/j.cell.2024.09.016. Epub 2024 Oct 7.
乳がん細胞は発生初期に二次臓器へ播種し長期休眠することがある。本研究では、乳がん播種がん細胞の休眠が、肺ニッチにおいて肺胞マクロファージによるTGFβ2-TGFβRIIIシグナル経路で維持されることを示した。
Stage 0~III期の乳がんでは、画像上確認できる転移巣はないものの、がん細胞が全身に播種している可能性を考慮して術前術後に薬物治療が行われるが、それでも晩期再発が問題となる。休眠の仕組みを考慮した新たな治療戦略が転移再発率の低下につながる可能性がある。
担当:栗川美智子
JC-062(Nov 22, 2024)
TET2が欠損することで、過剰メチル化やユークロマチンが増加し、骨髄腫瘍の進行を助長
"RNA m5C oxidation by TET2 regulates chromatin state and leukaemogenesis"
Nature. 2024 Oct;634(8035):986-994. doi: 10.1038/s41586-024-07969-x. Epub 2024 Oct 2.
TET2はLTRのRNA m5Cも酸化する。m5CはMBD6によって認識され、BAP1複合体が動員され転写が活性化される。それゆえ、TET2が欠損することで、過剰メチル化やユークロマチンが増加し、骨髄腫瘍の進行を助長する。
担当:小泉みのり
JC-061(Nov 14, 2024)
腫瘍細胞をリプログラミングでcDC1様に変容させ、抗腫瘍効果を得ることに成功
"In vivo dendritic cell reprogramming for cancer immunotherapy"
Science. 2024 Oct 18;386(6719):eadn9083. doi: 10.1126/science.adn9083. Epub 2024 Oct 18.
腫瘍細胞をリプログラミングでcDC1様に変容させ、多層的な抗腫瘍免疫の誘導と腫瘍微小環境の変化を通じて抗腫瘍効果を得ることに成功したという論文。
本手法は、既製品でありながら個別化された免疫療法となる可能性を持ち、誘導された免疫は全身性免疫として働いた。
担当:和泉拓野
JC-060(Nov 8, 2024)
機能的類似性と相互への影響を考慮したスプライシング因子全体のネットワーク解析
"Transcriptome-wide splicing network reveals specialized regulatory functions of the core spliceosome"
Science. 2024 Nov;386(6721):551-560. doi: 10.1126/science.adn8105. Epub 2024 Oct 31.
Rogalskaらはヒト癌細胞においてスプライシングとその調節に関わる305の因子をノックダウンし、スプライシング変化に基づいてこれらの機能的類似性と相互への影響を考慮したスプライシング因子全体のネットワーク解析を行った。
これによりスプライシングにおいて同じタイミングで作用する因子間の固有の機能や、一つの因子が欠如した場合の他の因子の変化を通した全体的な影響等も推測でき、複雑なスプライシングシステムの理解のための大規模なリソースとなる。
担当:吉田 澪奈
JC-059(Oct 31, 2024)
IL-4がCD8 T cellへ与える影響とメカニズム
"The type 2 cytokine Fc–IL-4 revitalizes exhausted CD8+ T cells against cancer"
Nature. 2024 Oct;634(8034):712-720. doi: 10.1038/s41586-024-07962-4. Epub 2024 Sep 25.
がん免疫療法は免疫チェックポイント阻害薬やCAR-Tなどtype 1 immunityに強く依存している。例えばterminal exhausted CD8 T cellは細胞傷害能を有するが短命であり、いかに免疫微小環境内で維持できるかが重要と考えられてきた。
Type 2 immunityが近年注目され、本研究ではIL-4がCD8 T cellへ与える影響とメカニズムが示された。
古典的にtype1と2は異なる免疫反応と考えられていた一方で、協調的に免疫反応を高める可能性があることは興味深く、今後の治療の有効なターゲットになり得る。
担当:前之園良一 @r_maenosono
JC-058(Oct 29, 2024)
ペムブロリズマブと殺細胞性抗がん剤の併用に対する食道扁平上皮癌の治療反応予測マーカーの発見
"A prospective study of neoadjuvant pembrolizumab plus chemotherapy for resectable esophageal squamous cell carcinoma: The Keystone-001 trial"
Cancer Cell. 2024 Oct 14;42(10):1747-1763.e7. doi: 10.1016/j.ccell.2024.09.008.
ペムブロリズマブと殺細胞性抗がん剤の併用に対する食道扁平上皮癌の治療反応予測マーカーとして、末梢血中のTRGC2+ NKT細胞分画の上昇が報告された。
また、予後良好群においてナイーブTRGC2+ NKT細胞分画やエフェクターTRGC2+ NKT細胞分画の活性化とTRGC2+ NKT細胞におけるCREM転写因子の発現増強がみられることがわかった。
担当:和泉拓野 @Takuya__Izumi
JC-057(Oct 21, 2024)
MHC-IIを介する自己免疫応答機序の一部が明らかに
"Neoself-antigens are the primary target for autoreactive T cells in human lupus"
Cell. 2024 Oct 17;187(21):6071-6087.e20. doi: 10.1016/j.cell.2024.08.025. Epub 2024 Sep 13.
自己免疫応答はMHC-IIを介するが、その機序は不明であった。今回、本来のフォールディングとは異なる自己抗原(Neoself-antigen)がMHC-IIにより提示され、ヘルパーT細胞活性化と自己抗体の産生を誘導する主要因となっていることが示された。
MHC-IIは翻訳後に小胞体に移行するが、そこではInvariant chain (Ii)と結合し、抗原はロードされない。しかし、Iiが消失すると小胞体内で本来はロードされない構造のタンパク質がMHC-IIにロードされ、Neoself-antigenとして自己免疫応答を誘導する。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
JC-056(Oct 17, 2024)
全膵がん患者へのKRAS変異検査の重要性
"Distinct clinical outcomes and biological features of specific KRAS mutants in human pancreatic cancer"
Cancer Cell. Volume 42, Issue 9, 9 September 2024, Pages 1614-1629.e5.
膵がんにおいて、がん遺伝子KRASのG12R変異は早期がんに多く、G12D変異と比較すると、遠隔再発の減少と生存率の延長が認められ、変異特異的な影響があることが示された。
SpatialプロファイリングとRNA-seqを行い, KRAS G12RとG12D変異ではNF-kBシグナルとTMEへの影響が異なることを認めた。KRAS阻害剤の開発が進む中、全膵がん患者へのKRAS変異検査の重要性を示した研究と言える。
担当:工藤麗 @Reik0110
JC-055(Oct 2, 2024)
PIWI-piRNAを介したトランスポゾン発現抑制機構として、SPIN1の全く新しい役割が明らかに
"Two-factor authentication underpins the precision of the piRNA pathway"
Nature. 2024 Sep 18. doi: 10.1038/s41586-024-07963-3. Online ahead of print.
PIWI-piRNAを介したトランスポゾン発現抑制機構として、SPIN1の全く新しい役割が明らかとなった。SPIN1が先行して活動性のある若いトランスポゾンに特徴的なH3K4me3修飾を認識し、SPOCD1を誘導して複合体を形成する。
その後、Piwi-piRNAが誘導されてプロモーター領域をメチル化する結果、トランスポゾンの発現が抑制される。この複合体形成異常は、精子形成不全の原因となることが明らかとなった。
担当:河知あすか @AsukaKawachi
JC-054(Sep 26, 2024)
抗TIGIT/抗PD-L1抗体が治療抵抗性腫瘍モデルにも奏効し、神経芽腫の有効な治療ターゲットに
"Integrative analysis of neuroblastoma by single-cell RNA sequencing identifies the NECTIN2-TIGIT axis as a target for immunotherapy"
Cancer Cell. 2024 Feb 12;42(2):283-300.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.12.008. Epub 2024 Jan 4.
抗GD2併用化学療法は小児がんのひとつである神経芽腫に有効である一方で、副作用の少ない治療が模索されており、免疫療法の可能性が注目されている。今回神経芽腫の腫瘍微小環境について、特にTIGITとNECTIN2との関係が詳細に検討された。
Interaction analysisを用いてNECTIN2とTIGITがNK細胞とT細胞の機能低下に強く関連することが突き止められた。抗TIGIT/抗PD-L1抗体が治療抵抗性腫瘍モデルにも奏効したこと、神経芽腫の有効な治療ターゲットになり得る点が興味深い。
担当:前之園良一 @r_maenosono
JC-053(Sep 26, 2024)
mTET2における炎症遷延メカニズム、特にmTET2の直接的な下流エフェクターが初めて明らかに
"RNA shielding of P65 is required to potentiate oncogenic inflammation in TET2 mutated clonal hematopoiesis"
Cancer Discov. 2024 Aug 27. doi: 10.1158/2159-8290.CD-24-0093. Online ahead of print.
TET2変異(mTET2)を伴うクローン性造血を有するCOVID-19患者末梢血に対するscRNA-seqとscATAC-seq解析から、lncRNA MALAT1がホスファターゼPP2Aとの相互作用を介してp65のリン酸化維持と炎症遷延へ寄与することが判明した。
mTET2における炎症遷延メカニズム、特にmTET2の直接的な下流エフェクターを初めて明らかにした点が意義深い。一方で、mTET2クローンサイズ拡大へのMALAT1の影響は明らかでなく、この表現型に関与する下流エフェクターの同定が今後の課題である。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
JC-052(Sep 17, 2024)
SWI/SNF複合体に依存した多様ながん種への応用への期待
"Targeting the mSWI/SNF complex in POU2F-POU2AF transcription factor-driven malignancies"
Cancer Cell. 2024 Aug 12;42(8):1336-1351.e9. doi: 10.1016/j.ccell.2024.06.006. Epub 2024 Jul 18.
小細胞肺がんのサブタイプSCLC-Pの増殖はクロマチン再構成複合体であるSWI/SNFに依存することが示された。SWI/SNFを発現阻害する化合物AU-24118の経口投与による抗腫瘍効果がSCLC-Pの非臨床モデルで確認され、新たな治療薬候補として示された。
AU-24118は特定タンパク質をE3ユビキチンリガーゼに結び付けて分解させるproteolysis targeting chimera (PROTAC)の一種である。同化合物による抗腫瘍効果はSWI/SNF依存的な多発性骨髄腫モデルでも認められ、SWI/SNF複合体に依存した多様ながん種への応用が期待される。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
JC-051(Sep 13, 2024)
リボソーム合成不全による疾患に対する治療選択肢への期待
"A non-canonical role for a small nucleolar RNA in ribosome biogenesis and senescence"
Cell. 2024 Aug 22;187(17):4770-4789.e23. doi: 10.1016/j.cell.2024.06.019. Epub 2024 Jul 8.
Senescenceを制御する新たな因子としてsnoRNAであるSNORA13をCRISPRスクリーニングにより同定した。SNORA13はRPL23との結合を介して60Sリボソーム合成を抑制するため、細胞内遊離リボソーム増加によるp53を活性化、senescenceを引き起こす。
SNORA13をノックアウトしただけでは翻訳に大きな影響を与えず、senescence惹起にも刺激が必要であり、エッセンシャル遺伝子でないことを考慮すると、リボソーム合成不全による疾患に対してはsnoRNAであるSNORA13を阻害するなどの治療選択肢が出てくるのではと期待する。
担当:工藤麗 @Reik0110
JC-050(Sep 6, 2024)
非侵襲的な方法で、腫瘍発生のメカニズムや早期発見、疾患モニタリングへの応用性
"Genome-wide repeat landscapes in cancer and cell-free DNA"
Sci Transl Med. 2024 Mar 13;16(738):eadj9283. doi: 10.1126/scitranslmed.adj9283. Epub 2024 Mar 13.
Repeat配列はゲノムの50%以上を占め、疾患との関連が示唆されているが、アライメントが難しく、未解明の部分が多い。この研究ではRepeat配列の中でも特異的にアライメント可能な12億種類の24-bp kmerを同定し、ARTEMISアルゴリズムを開発した。
ARTEMISにより、がん特異的なRepeatランドスケープが解明され、1975名の患者のcfDNAをもとに、原発巣の同定が可能であることが示した。非侵襲的な方法で、腫瘍発生のメカニズムや早期発見、疾患モニタリングへの応用性が期待された。
担当:河知あすか @AsukaKawachi
JC-049(Sep 3, 2024)
放射線療法などによるがん治療中の幹細胞保護に新たな可能性
"Nynrin preserves hematopoietic stem cell function by inhibiting the mitochondrial permeability transition pore opening"
Cell Stem Cell. 2024 Jun 25:S1934-5909(24)00215-7. doi: 10.1016/j.stem.2024.06.007.
Nynrinが造血幹細胞HSC(特にLT-HSC)で高発現し、HSCの機能維持に重要な役割を果たすことが判明した。NynrinはPpifを介してミトコンドリアのmPTP開口を抑制し、HSCの自己更新と放射線耐性を向上させた。
一方でNynrin欠損により、HSCの機能低下、酸化ストレスの増加、そして放射線による致死率の上昇が示され、これらの結果は、放射線療法などによるがん治療中の幹細胞保護に新たな治療標的を提供する可能性がある。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
JC-048(Aug 16, 2024)
クローン拡大における炎症耐性機序の解明
"Selective advantage of mutant stem cells in human clonal hematopoiesis is associated with attenuated response to inflammation and aging"
Cell Stem Cell. 2024 Aug 1;31(8):1127-1144.e17. doi: 10.1016/j.stem.2024.05.010. Epub 2024 Jun 24.
ヒト造血幹前駆細胞(HSPC)に対し、高忠実度シングルセル遺伝子型決定とトランスクリプトーム解析融合技術で、クローン性造血の変異細胞クローン拡大機序に迫った。クローン性造血のHSPCでは、炎症・加齢関連遺伝子発現シグニチャーを認めた。
一方で、変異HSPCでは野生型HSPCに比べ炎症への反応性が減弱しており、この違いが変異細胞のクローン拡大に寄与していると考えられた。ヒト細胞で示している点が意義深く、クローン拡大における炎症耐性機序の解明という今後の研究の妥当性を支持する報告である。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
JC-047(Aug 13, 2024)
IDH1阻害はDNA脱メチル化によるトランスポゾン発現を活性化して「ウイルス模倣」状態を誘導し、CD8+ T細胞を動員することにより抗腫瘍免疫を活性化
"Mutant IDH1 inhibition induces dsDNA sensing to activate tumor immunity"
Science. 2024 Jul 12;385(6705):eadl6173. doi: 10.1126/science.adl6173. Epub 2024 Jul 12.
IDH1変異腫瘍に対するIDH1阻害は、DNA脱メチル化によるトランスポゾン発現を活性化して「ウイルス模倣」状態を誘導し、cGAS/STING/IRF3を介してCD8+ T細胞を動員することによって、抗腫瘍免疫を活性化する。
担当:小泉みのり
JC-046(Aug 5, 2024)
生殖細胞の良性変異エプトープ(GEB)は免疫編集の対象となる
"Germline-mediated immunoediting sculpts breast cancer subtypes and metastatic proclivity"
Science. 2024 May 31;384(6699):eadh8697. doi: 10.1126/science.adh8697. Epub 2024 May 31.
生殖細胞の良性変異エプトープ(GEB)は免疫監視の対象にならないと考えられてきたが、実はGEBも免疫編集の対象となることを示した論文。例えばHER2 GP2/E75 ペプチドを抗原提示するHLAアレルを持つ人はHER2+乳がんになりにくい。
このセレクションを乗り越えたhigh GEBの浸潤癌は予後不良であった。
Germline Epitope Burden (GEB) ががんの表現型とリンクするという新しいサブタイプ決定の概念であり、GEBの測定は、発生しうるサブタイプや治療のタイミング、リスク分類の評価への活用が期待される。
担当:工藤麗 @Reik0110
JC-045(Jul 30, 2024)
ショウジョウバエのポリコームタンパク質の一過性の欠失による腫瘍形成
"Transient loss of Polycomb components induces an epigenetic cancer fate"
Nature. 2024 May;629(8012):688-696. doi: 10.1038/s41586-024-07328-w. Epub 2024 Apr 24.
一般的に腫瘍は遺伝子変異の蓄積により発生するとされ、epigeneticな変化のみで腫瘍形成が起こるかやそのメカニズムはこれまで知られていなかったが、今回ショウジョウバエのポリコームタンパク質の一過性の欠失による腫瘍形成が示された。
ChIP-seqやCUT&RUN, ATAC-seq等により、ポリコームタンパク質の一過性のKDによりJAK-STAT経路に関連する遺伝子群で発現抑制が解除され、転写調節に関わるStat92EやZfh1の結合によって不可逆的な遺伝子転写の変動が起こり腫瘍形成につながる可能性が示された。
担当:吉田澪奈
JC-044(Jul 26, 2024)
DNMT3A変異によるクローン性造血 CHIP が重症歯周病・歯肉炎のリスクを増大
"Clonal hematopoiesis driven by mutated DNMT3A promotes inflammatory bone loss"
Cell. 2024 Jul 11;187(14):3690-3711.e19. doi: 10.1016/j.cell.2024.05.003. Epub 2024 Jun 4.
DNMT3A変異によるクローン性造血 #CHIP が重症歯周病・歯肉炎のリスクを増大させることを示した論文。
マウスモデルの解析から、Dnmt3a変異陽性破骨細胞系の活性化とTregの機能低下が原因として示唆された。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
JC-043(Jul 23, 2024)
GPATCH8の無力化がSF3B1変異依存性のスプライシング異常を改善する治療アプローチとなると期待
"GPATCH8 modulates mutant SF3B1 mis-splicing and pathogenicity in hematologic malignancies"
Mol Cell. 2024 May 16;84(10):1886-1903.e10. doi: 10.1016/j.molcel.2024.04.006. Epub 2024 Apr 29.
SF3B1変異腫瘍細胞において、GPATCH8はSUGP1と競合してDHX15と結合することにより、誤ったブランチポイント認識からミススプライシングを誘導することが示唆された。
GPATCH8の欠失はDHX15とSUGP1の結合を促進し、ミススプライシングを修正した。GPATCH8の無力化がSF3B1変異依存性のスプライシング異常を改善する治療アプローチとなることが期待される。
担当:和泉拓野
JC-042(Jul 12, 2024)
新しい造血器腫瘍に対する移植戦略
"Selective haematological cancer eradication with preserved haematopoiesis"
Nature. 2024 Jun;630(8017):728-735. doi: 10.1038/s41586-024-07456-3. Epub 2024 May 22.
抗CD45抗体-薬物複合体 #ADC と、CD45を一アミノ酸置換してシールドした造血幹細胞 (HSC) を組み合わせることによって、新しい造血器腫瘍に対する移植戦略を提唱した論文。
担当:小泉みのり
JC-041(Jul 1, 2024)
MYCT1が造血幹細胞(HSC)の幹細胞性と機能維持に働き、移植成功率を向上
"MYCT1 controls environmental sensing in human haematopoietic stem cells"
Nature. 2024 Jun;630(8016):412-420. doi: 10.1038/s41586-024-07478-x. Epub 2024 Jun 5.
HSCの培養中にMYCT1の発現が急速に失われることをヒントに、MYCT1が造血幹細胞(HSC)の幹細胞性と機能維持に働き、移植成功率を向上させることを示した論文。
MYCT1はエンドサイトーシスの制御を介してシグナル伝達経路に影響を及ぼす。エンドサイトーシスとHSC制御を結びつけた点で興味深い。
担当:栗川美智子
JC-040(Jun 25, 2024)
細胞内で転写されたRNAをラベルし、質量分析を行うことにより、800以上のRBPがRNAのライフサイクルのどの時点で結合するかを示した
"Time-resolved profiling of RNA binding proteins throughout the mRNA life cycle"
Mol Cell. 2024 May 2;84(9):1764-1782.e10. doi: 10.1016/j.molcel.2024.03.012. Epub 2024 Apr 8.
V. Narry Kimらのグループは、細胞内で転写されたRNAをラベルし、結合しているRBPを複数の時点で回収して質量分析を行うことにより、800以上のRBPがRNAのライフサイクルのどの時点で結合するかを示した。
このデータはhttp://chronology.rna.snu.ac.krで参照することができる。
結合するタイムポイントと既知の機能との乖離から、新たな機能が推定されるRBPも存在した。
担当:吉田澪奈
JC-039(Jun 14, 2024)
hnRNPM欠損によるcyptic exonは抗腫瘍免疫療法のターゲットになる可能性
"hnRNPM protects against the dsRNA-mediated interferon response by repressing LINE-associated cryptic splicing"
Mol Cell. 2024 Jun 6;84(11):2087-2103.e8. doi: 10.1016/j.molcel.2024.05.004. Epub 2024 May 29.
RNA binding proteinのひとつであるhnRNPMが、Deep intronにおいて、#LINE に多く保持されているpseudo splice siteに結合することによって、cryptic splicingを抑制し、dsRNAに起因する炎症性免疫反応を抑制する可能性が示された。
hnRNPM欠損によるcyptic exonは #LINE1 やAlu elementを含み、long dsRNAの形成、Type I interferonの活性化と免疫細胞の浸潤につながり、#抗腫瘍免疫療法 のターゲットになる可能性がある点が興味深い。
担当:前之園良一 @r_maenosono
JC-038(Jun 5, 2024)
FLT3Lはヒトとマウスの造血において異なる役割を果たす
"FLT3L governs the development of partially overlapping hematopoietic lineages in humans and mice"
Cell. 2024 May 23;187(11):2817-2837.e31. doi: 10.1016/j.cell.2024.04.009. Epub 2024 May 3.
Germline FLT3LG変異により骨髄不全、易感染性を示す家系を解析し、FLT3Lがヒトとマウスの造血において異なる役割を果たしていることを示した論文。
FLT3L deficiencyは
マウス → DC, B, NKに影響
ヒト → DC, B, 単球に影響
担当:和泉拓野
JC-037(Jun 3, 2024)
各遺伝子と核スペックルとの距離はRNAスプライシング効率を決める主要な因子
"Genome organization around nuclear speckles drives mRNA splicing efficiency"
Nature. 2024 May;629(8014):1165-1173. doi: 10.1038/s41586-024-07429-6. Epub 2024 May 8.
核スペックルには多数のスプライシング因子が局在するが、その機能的な意味は不明であった。今回、Bhat @_prashantbhat らは各遺伝子が核スペックルに対し一定の相対的距離を示し、核スペックルに近いほどRNAスプライシング効率が高いことを示した。
スプライソソームの形成もまた核スペックルに近いほど増加し、さらにRNA配列の改変により核スペックルに近接させた場合もRNAスプライシングは促進された。このことは核スペックルとの距離がRNAスプライシング効率を決める主要な因子であることを示す。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
JC-036(May 30, 2024)
cleavageを行うCSTF2の結合をASOで阻害するとp53機能をrestoreできたことから、治療応用に繋がる可能性
"Alternative polyadenylation determines the functional landscape of inverted Alu repeats"
Mol Cell. 2024 Mar 21;84(6):1062-1077.e9. doi: 10.1016/j.molcel.2024.01.008. Epub 2024 Feb 2.
逆向きAluリピート(IRAlus)があると、RNAが二本鎖ヘアピン構造を形成するが、KuらはこれをJ2抗体でcaptureすることによって、新規のIRAlusを有する内因性mRNAを約650種類同定した。
3'UTRのIRAlusによる二本鎖RNAは核内にretentionされて翻訳効率が落ちるが、#MDM2 の3'UTR短縮でIRAlusを欠失すると細胞質に移行して翻訳され、#p53 発現が落ちる。このcleavageを行うCSTF2の結合をASOで阻害するとp53機能をrestoreできたことから、治療応用に繋がる可能性がある。
担当:栗川美智子
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JC-035(May 27, 2024)
固形がんで課題となってきた腫瘍微小環境の改変が可能に
"RNA aggregates harness the danger response for potent cancer immunotherapy"
Cell. 2024 May 9;187(10):2521-2535.e21. doi: 10.1016/j.cell.2024.04.003. Epub 2024 May 1.
著者らは、RNAと脂質ナノ粒子の多重複合体(mRNA-LPAs)を合成する技術を開発し、RIG1-MAVS経路の活性化を介した、自然免疫の賦活化を強化することに成功した。この技術により、固形がんで課題となってきた腫瘍微小環境の改変を可能にした。
pp65 mRNA-LPAsを用いたグリオーマ患者に対するFist in human試験を実施し、腫瘍微小環境でType I IFNが誘導され、抗腫瘍免疫が賦活かされることを報告した。
担当:河知あすか @AsukaKawachi
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JC-034(May 14, 2024)
免疫細胞の物理的相互作用を解析する手段がuLIPSTICとして報告
"Universal recording of immune cell interactions in vivo"
Nature. 2024 Mar;627(8003):399-406. doi: 10.1038/s41586-024-07134-4. Epub 2024 Mar 6.
Spatial transcriptome解析などでは把握できない免疫細胞の物理的相互作用を解析する手段が模索されている中、細胞膜上のペプチドの受け渡しを解析することで実際の相互作用を記録する手法がuLIPSTICとして報告された。
あらゆる細胞での相互作用を明確にすることが可能であり、single-cell transcriptome解析を組み合わせることで相互作用による遺伝子発現を明確に出来る点が面白く、これまで知られていない細胞間伝達の組み合わせを明らかにできるツールになり得る。
担当:前之園良一 @r_maenosono
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JC-033(May 9, 2024)
ATF4は免疫チェックポイント遺伝子の転写を促進しT細胞疲弊をきたす
"Cancer SLC6A6-mediated taurine uptake transactivates immune checkpoint genes and induces exhaustion in CD8+ T cells"
Cell. 2024 Apr 25;187(9):2288-2304.e27. doi: 10.1016/j.cell.2024.03.011. Epub 2024 Apr 1.
タウリントランスポーターSLC6A6は転写因子SP1を介して腫瘍細胞で強発現しており、タウリン取り込み増大により腫瘍進行に寄与する。一方で、腫瘍細胞によるタウリン消費は、CD8T細胞におけるタウリン欠乏をきたし小胞体ストレスを惹起する。
結果、PERK-JAK1-STAT3経路を介した転写因子ATF4の発現誘導が生じ、ATF4は免疫チェックポイント遺伝子の転写を促進しT細胞疲弊をきたす。既にタウリン補充+化学療法+#免疫チェックポイント阻害剤 の臨床試験が開始されており、結果が待たれる。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
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JC-032(May 2, 2024)
ILC2は皮膚組織のシングルセルRNA-seqからアンドロゲン受容体高値の免疫細胞として特定された
"Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis"
Science. 2024 Apr 12;384(6692):eadk6200. doi: 10.1126/science.adk6200. Epub 2024 Apr 12.
免疫機能の性差を示す知見は数多くあるが、その原因は殆ど明らかではない。本研究では、マウス皮膚感染モデルにおいてアンドロゲンによる2型自然リンパ球(ILC2)の抑制が皮膚免疫の性差を規定する主要因として示された。
ILC2は皮膚組織のシングルセルRNA-seqからアンドロゲン受容体高値の免疫細胞として特定された。雄マウスではアンドロゲン依存的なILC2の抑制から皮膚免疫が低下し、同ホルモンの阻害は雌と同等の免疫機能をもたらした。性ホルモン調節の免疫治療への応用が期待される。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
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JC-031(Apr 30, 2024)
免疫システム回避の主なメカニズムとされていたMHC class I欠損に対する新たな治療法
"Long-lasting mRNA-encoded interleukin-2 restores CD8+ T cell neoantigen immunity in MHC class I-deficient cancers"
Cancer Cell. 2024 Apr 8;42(4):568-582.e11. doi: 10.1016/j.ccell.2024.02.013. Epub 2024 Mar 14.
MHC class I欠損がん細胞では免疫細胞の砂漠化が生じ、免疫チェックポイント阻害剤、抗がん剤への耐性が生じる。IL-2 mRNAをdeliveryすることによって、IFNg産生CD8+T細胞がマクロファージの提示するneoantigensを認識、免疫反応を引き起こした。
免疫システム回避の主なメカニズムとされていたMHC class I欠損に対する新たな治療法。現在phase1試験が進行中であり、今後IL2とtumor-targeting monoclonal antibodyや #免疫チェックポイント阻害剤 との併用での効果が期待される。
担当:工藤麗 @Reik0110
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JC-029(Apr 5, 2024)
造血幹細胞(HSC)は鉄のホメオスタシスを介して細胞の運命制御を行い、その過程はヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60に依存
"An iron rheostat controls hematopoietic stem cell fate"
Cell Stem Cell. 2024 Mar 7;31(3):378-397.e12. doi: 10.1016/j.stem.2024.01.011. Epub 2024 Feb 22.
本研究では鉄キレート剤による鉄制限モデルを用いることにより、造血幹細胞(HSC)が鉄のホメオスタシスを介して細胞の運命制御を行うこと、その過程がヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60に依存していることを明らかにした。
また遊離鉄プールの制限が脂肪酸代謝を増強することが示された。加齢による細胞内鉄の蓄積がHSCの機能低下に寄与するが、細胞内の鉄負荷を緩和することで老化したHSCのTip60活性を再活性化し、老化関連のHSC機能不全を軽減する可能性が示された。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
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JC-028(Mar 28, 2024)
アルギニンメチル化酵素9(PRMT9)阻害は抗白血病効果を示した
"Targeting PRMT9-mediated arginine methylation suppresses cancer stem cell maintenance and elicits cGAS-mediated anticancer immunity"
Nat Cancer. 2024 Feb 27. doi: 10.1038/s43018-024-00736-x. Online ahead of print.
アルギニンメチル化酵素9(PRMT9)阻害は抗白血病効果を示した。PRMT9の基質としてエキソヌクレアーゼXRN2とポリA結合タンパクPABPC1を同定することで、抗腫瘍効果の細胞内因性機序をDNAダメージと翻訳抑制により説明している。
加えて細胞外因性機序も示しており、根治治療開発の点から意義深い。PRMT9阻害はcGAMPの腫瘍細胞外放出により樹状細胞とT細胞のクロスプライミングを誘導し、抗腫瘍免疫応答を賦活化する。実際、免疫チェックポイント阻害剤との併用で強力な抗腫瘍効果を示した。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
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JC-027(Mar 25, 2024)
腫瘍抗原提示を行うHLA-DR+CD74+好中球サブセットは良好な予後に関連
"Neutrophil profiling illuminates anti-tumor antigen-presenting potency"
Cell. 2024 Mar 14;187(6):1422-1439.e24. doi: 10.1016/j.cell.2024.02.005. Epub 2024 Mar 5.
がんにおいて好中球は相反する機能が報告されている。今回17種類の腫瘍の143人225の患者サンプルの単細胞好中球トランスクリプトーム解析により腫瘍浸潤好中球を10種類に分類し、その機能の多様性を示した。
腫瘍抗原提示を行うHLA-DR+CD74+好中球サブセットはロイシン代謝によりミトコンドリア呼吸の増加、アセチルCoA産生、HLA-IIのエピジェネティックな活性化を介して増加し、良好な予後に関連する。抗原提示好中球の送達やロイシン食はマウスモデルでICIの効果を高めた。
担当:吉田澪奈
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JC-026(Mar 18, 2024)
化学療法耐性神経芽腫に対する免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の有用性に期待
"Integrative analysis of neuroblastoma by single-cell RNA sequencing identifies the NECTIN2-TIGIT axis as a target for immunotherapy"
Cancer Cell. 2024 Feb 12;42(2):283-300.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.12.008. Epub 2024 Jan 4.
小児神経芽腫の治療前後のsingle-cell RNA-seqの解析よりT・NK細胞の機能不全が示された。特にその原因としてNECTIN2-TIGITによる免疫抑制が働いていることがInteraction networkの解析から同定された。
iv vivoモデルではPD-L1に加えてTIGITをブロックすることにより長期間の腫瘍抑制効果と生存率の改善を示した。化学療法耐性神経芽腫に対する #免疫チェックポイント阻害剤 の併用療法の有用性を示した点が期待できる。
担当:工藤麗 @Reik0110
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JC-025(Mar 8, 2024)
DNAトランスロケースSMARCAL1の喪失は二重のメカニズムで腫瘍免疫を回避することに関与
"SMARCAL1 is a dual regulator of innate immune signaling and PD-L1 expression that promotes tumor immune evasion"
Cell. 2024 Feb 15;187(4):861-881.e32. doi: 10.1016/j.cell.2024.01.008. Epub 2024 Jan 31.
DNAトランスロケースSMARCAL1の喪失は
✅ゲノム不安定性の結果生じるcGAS-STINGシグナルによる自然免疫を活性化
✅同時にクロマチンアクセシビリティを変化させてPD-L1の発現を抑制
二重のメカニズムで腫瘍免疫を回避することに関わる。
DNA損傷応答(DDR)とクロマチン制御が、抗腫瘍免疫に影響を与える事が知られていた。しかし、これまで自然免疫応答とPD-L1の両方を調節する特定のDDRおよびクロマチン関連遺伝子は解明されていなかった。本研究はその点で新規性がある。
担当:栗川美智子
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JC-024(Mar 1, 2024)
血液がんの病態理解に新たな視点
"Inherited blood cancer predisposition through altered transcription elongation"
Cell. 2024 Feb 1;187(3):642-658.e19. doi: 10.1016/j.cell.2023.12.016. Epub 2024 Jan 12.
UK Biobank約16万人のデータからRVASで骨髄性腫瘍の遺伝性希少バリアントを同定した論文。PAF1転写伸長複合体を構成するCTR9遺伝子の部分喪失が、造血幹細胞の自己再生能を高め、血液がんのリスクを10倍増加させることを示した。
さらに、CTR9が転写伸長の正の調節因子であるPAF1cの構成因子でありながら、造血幹細胞の自己複製に必要な遺伝子の転写伸長に働くSuper elongation複合体の形成において拮抗的に働くことを示し、血液がんの病態理解に新たな視点をもたらした。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
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JC-023(Feb 21, 2024)
TCF4をターゲットとした治療戦略へ発展する可能性
"A TCF4-dependent gene regulatory network confers resistance to immunotherapy in melanoma"
Cell. 2024 Jan 4;187(1):166-183.e25. doi: 10.1016/j.cell.2023.11.037.
#免疫チェックポイント阻害薬 (ICB)による治療に抵抗性を示すメカニズムを検討。メラノーマのecosystemに注目しmesenchymal-like (MES) stateとその調節遺伝子としてTCF4が #免疫微小環境 とICBに対する抵抗性に影響を及ぼす可能性が示された。
Single-cell RNA sequenceと空間オミックス解析を組み合わせて、治療早期に採取された検体の中でICB/non-responderと診断された群でTCF4が高発現し、免疫関連遺伝子の抑制に関わる点を示した点が面白く、将来のTCF4をターゲットとした治療戦略へ発展する可能性がある。
担当:前之園良一 @r_maenosono
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JC-022(Feb 15, 2024)
腫瘍樹状細胞においてpSAPがTGF-βにより過剰糖化すると、抗原提示能が低減し、免疫回避に寄与
"Hyperglycosylation of prosaposin in tumor dendritic cells drives immune escape"
Science. 2024 Jan 12;383(6679):190-200. doi: 10.1126/science.adg1955. Epub 2024 Jan 11.
本研究では、プロサポシンpSAPがCD8+T細胞を介した #腫瘍免疫 を惹起する一方で、腫瘍樹状細胞においてpSAPがTGF-βにより過剰糖化すると、抗原提示能が低減し、免疫回避に寄与することが明らかになった。
糖化を至適化したリコンビナントpSAPにより、腫瘍に対する免疫応答を回復させることが可能であった。抗PD-L1抗体と併用すると、腫瘍移植マウスの腫瘍増殖が抑制され、#免疫チェックポイント阻害薬 に対する治療抵抗性を克服する可能性が示唆された。
担当:高崎哲郎
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JC-021(Feb 7, 2024)
ReDeeMはシングルセル解析情報からmtDNA由来情報を濃縮し解析する新たな手法として応用が期待
"Deciphering cell states and genealogies of human hematopoiesis"
Nature. 2024 Jan 22. doi: 10.1038/s41586-024-07066-z. Online ahead of print.
Sankaran @bloodgenes , Weissman @JswLab らは #シングルセル解析 における新たな細胞系譜解析手法ReDeeMを報告した。同手法は細胞系譜解析の解像度を約10倍向上させ、HSCクローンの分化傾向の差異・加齢に伴うクローナリティ減少が明らかになった。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は細胞あたり100-1,000コピー存在し、変異頻度はゲノムDNAよりも10-100倍高いため細胞系譜を識別するバーコードとなる。ReDeeMは #シングルセル解析 情報からmtDNA由来情報を濃縮し解析する新たな手法として応用が期待される。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
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JC-020(Feb 1, 2024)
腫瘍特異的な環状RNAが免疫療法の標的となりうる
"Tumour circular RNAs elicit anti-tumour immunity by encoding cryptic peptides"
Nature. 2024 Jan;625(7995):593-602. doi: 10.1038/s41586-023-06834-7. Epub 2023 Dec 13.
ヒト乳がん検体でRibo-seq, HLA-Iペプチドーム質量分析等を組み合わせることにより、腫瘍特異的に発現するnon-coding領域由来の環状RNA、circFAM53Bから翻訳されるペプチドがcryptic antigenとなり、#抗腫瘍免疫 が惹起されることが明らかになった。
circFAM53Bとそのペプチドの発現は生存率向上と関連し、マウスモデルでもこれらの接種による抗腫瘍効果が認められた。#免疫療法 の標的となりうる抗原性を持つCDS変異はごく一部にとどまるが、今回腫瘍特異的な環状RNAが免疫療法の標的となりうることが示された。
担当:吉田澪奈
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JC-019(Jan 24, 2024)
膵癌におけるsuper enhancer RNA (seRNA)のm6A修飾がクロマチン構造を制御する新機能
"Super-enhancer RNA m6A promotes local chromatin accessibility and oncogene transcription in pancreatic ductal adenocarcinoma"
Nat Genet. 2023 Dec;55(12):2224-2234. doi: 10.1038/s41588-023-01568-8. Epub 2023 Nov 13.
膵癌におけるsuper enhancer RNA (seRNA)のm6A修飾がクロマチン構造を制御する新機能が発見された。CFL1とMettl3が協調してseRNAをメチル化し、この修飾を認識したTYHDC2がMLL1と複合体を形成し、H3K4がメチル化される。
seRNA m6Aレベルが高い膵癌患者は予後不良の傾向を示し、CFL1過剰発現した膵癌細胞株は悪性度が高まることから、CFL1を介したseRNAのメチル化が膵癌のドライバーである可能性と、これらが、治療標的となる可能性が示唆された。
担当:河知あすか @AsukaKawachi
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JC-018(Jan 22, 2024)
非浸潤性乳がんモデルにおいて、癌に関連した炎症により造血・間葉系幹細胞の転写・空間的分布が変化し、Myeloid-biasedな分化が誘導される
"Breast cancer remotely imposes a myeloid bias on haematopoietic stem cells by reprogramming the bone marrow niche"
Nat Cell Biol. 2023 Dec;25(12):1736-1745. doi: 10.1038/s41556-023-01291-w. Epub 2023 Nov 30.
この論文では、非浸潤性乳がんモデルにおいて、癌に関連した炎症により造血・間葉系幹細胞の転写・空間的分布が変化し、Myeloid-biasedな分化が誘導されることが見出された。
本論文で示された造血幹細胞の骨髄分化は、間葉系幹細胞の骨分化傾向が関与しており、造血幹細胞および間葉系幹細胞の分子レベルでのクロストーク、そして分化誘導におけるがん細胞由来の因子の役割の解明が待たれる。
担当:栗川美智子
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JC-017(Jan 10, 2024)
肺癌病変の成熟マクロファージにおけるIL-4シグナルは抗腫瘍免疫応答には関与しない
"An IL-4 signalling axis in bone marrow drives pro-tumorigenic myelopoiesis"
Nature. 2024 Jan;625(7993):166-174. doi: 10.1038/s41586-023-06797-9. Epub 2023 Dec 6.
#非小細胞肺癌 では、骨髄内好酸球と好塩基球由来のIL-4が顆粒球・単球系前駆細胞に作用し、単球由来マクロファージによる抗腫瘍免疫応答を抑制する。
さらに、IL-4阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の有効性を臨床試験で示している。
肺癌病変の成熟マクロファージにおけるIL-4シグナルは抗腫瘍免疫応答には関与しないことが示されており、興味深い。
また、乳癌や膵癌でも腫瘍微小環境におけるIL4の重要性が報告されており、今後様々な癌種の新規治療に結びつく可能性がある。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
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JC-016(Dec 28, 2023)
CUT&RUN を用いた検討によりZNF683がCD69/KLRF1やTCF7などの免疫関連遺伝子のregulatory regionに結合しT細胞のpathwayを調節する可能性
"ZNF683 marks a CD8+ T cell population associated with anti-tumor immunity following anti-PD-1 therapy for Richter syndrome"
Cancer Cell. 2023 Oct 9;41(10):1803-1816.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.08.013. Epub 2023 Sep 21.
慢性リンパ球性白血病に由来するRichter症候群が抗PD-1抗体に反応するメカニズムを骨髄17検体のsingle cell RNA sequenceで検討。Responderは転写因子であるZNF683を発現するintermediate exhausted CD8 effector/memory effecter T細胞を有していた。
CUT&RUN を用いた検討によりZNF683がCD69/KLRF1やTCF7などの免疫関連遺伝子のregulatory regionに結合しT細胞のpathwayを調節する可能性を示した点は面白い。末梢血や固形癌でもZNF683発現が見られ、今後ZNF683が抗PD-1抗体治療のキーの一つとなる可能性がある。
担当:前之園良一
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JC-015(Dec 25, 2023)
がんの発生には腫瘍特異的なエピジェネティックドライバーが関与する一方、TP53, Hypoxia, TNF signalingなどの共通因子も存在
"Epigenetic regulation during cancer transitions across 11 tumour types"
Nature. 2023 Nov;623(7986):432-441. doi: 10.1038/s41586-023-06682-5. Epub 2023 Nov 1.
Single-nucleus(sn) ATAC-seqとsnRNA-seqを用いて、がん横断的にエピゲノムとトランスクリプトームを同時に解析。がんの発生には腫瘍特異的なエピジェネティックドライバーが関与する一方、TP53, Hypoxia, TNF signalingなどの共通因子も存在した。
本研究では臨床検体では難しかったがん発生過程のエピジェネティックな変化について、がん細胞と、発現パターンやchromatin accessibilityからがんに一番近い正常細胞とを比較することにより明らかにした。このような解析からエピジェネティックな新規標的の同定が期待される。
担当:工藤麗 @Reik0110
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JC-014(Dec 13, 2023)
GoT-SpliceはRNAスプライシング情報を統合した新たなシングルセル多層オミクス解析パイプラインであり、骨髄異形成症候群患者細胞に適用することでSF3B1変異細胞が赤血球前駆細胞に集積
"Single-cell multi-omics defines the cell-type-specific impact of splicing aberrations in human hematopoietic clonal outgrowths"
Cell Stem Cell. 2023 Sep 7;30(9):1262-1281.e8. doi: 10.1016/j.stem.2023.07.012. Epub 2023 Aug 14.
GoT-SpliceはRNAスプライシング情報を統合した新たなシングルセル多層オミクス解析パイプラインであり、本研究では骨髄異形成症候群患者細胞に適用することでSF3B1変異細胞が赤血球前駆細胞に集積することが見出された。
本解析手法はONTロングリード解析によりRNAスプライシング変動を捉えることを特色とし、悪性腫瘍で認められる多様なRNAスプライシング異常の機能的理解に向けた有力な解析ツールと期待される。
担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro
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JC-013(Dec 8, 2023)
腫瘍特異的なネオ抗原候補のセットをminigeneで樹状細胞に導入してナイーブT細胞と反応させるユニークな手法からT細胞免疫療法の今後の展開
"A T cell receptor targeting a recurrent driver mutation in FLT3 mediates elimination of primary human acute myeloid leukemia in vivo"
Nat Cancer. 2023 Oct;4(10):1474-1490. doi: 10.1038/s43018-023-00642-8. Epub 2023 Oct 2.
本論文では腫瘍特異的なネオ抗原候補のセットをminigeneで樹状細胞に導入してナイーブT細胞と反応させるユニークな手法を用いて、FLT3 D835Y変異に反応するT細胞を作製し、同変異を有するAMLのPDXモデルへの治療に用いて有望な結果を得た。
同治療モデルでは微小残存病変陰性を達成し、CD34+ AML細胞を排除することに成功したことから、FLT3 D835Y変異を標的とするT細胞免疫療法の今後の展開が期待される。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
JC-012(Dec 4, 2023)
in vivo CRISPR スクリーニングとsingle cell RNA-seqを組み合わせることで(scCRISPR screen)、CD8陽性T細胞(CTL)の分化を制御する遺伝子ネットワークと遺伝子チェックポイントが同定
"Single-cell CRISPR screens in vivo map T cell fate regulomes in cancer"
Nature. 2023 Nov 15. doi: 10.1038/s41586-023-06733-x. Online ahead of print.
in vivo CRISPR スクリーニングとsingle cell RNA-seqを組み合わせることで(scCRISPR screen)、CD8陽性T細胞(CTL)の分化を制御する遺伝子ネットワークと遺伝子チェックポイントが同定された。
IKAROS-TCF-1経路は前駆疲弊T細胞(Tpex)から疲弊T細胞(Tex)への分化を促進し、ETS-BATF経路は抑制的に働く。RPBJ-IRF3経路はTexの最終疲弊化を誘導する。ICI抵抗性の改善に寄与する新たな標的の同定が期待される。
担当:河知あすか @AsukaKawachi
JC-011(Nov 27, 2023)
肝内胆管癌においてKRAS変異が、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL1RN)-201とIL1RN-203の発現上昇を通じて、腫瘍微小環境を抗腫瘍的に変化
"An Inflammatory Checkpoint Generated by IL1RN Splicing Offers Therapeutic Opportunity for KRAS-Mutant Intrahepatic Cholangiocarcinoma"
Cancer Discov. 2023 Oct 5;13(10):2248-2269. doi: 10.1158/2159-8290.CD-23-0282.
本研究では、肝内胆管癌において#KRAS変異が、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL1RN)-201とIL1RN-203の発現上昇を通じて、#腫瘍微小環境を抗腫瘍的に変化させることを同定した。
IL1RNのalternative splicingを通じた腫瘍微小環境の変化は、IL-1阻害薬とPD-1阻害薬の相乗効果を説明する根拠となりうる。スプライシング因子ではないKRAS変異が、炎症に関連した特有のalternative splicingを惹起し、新規チェックポイントを創出するという新規性が大変興味深い。
担当:西村一希
JC-010(Nov 15, 2023)
ヒストン脱メチル化酵素KDM3Bとヒストンメチル化酵素G9aによるH3K9me01月02日ならびに転写制御因子CTCF占有率の不適切なバランスを介したMLL遺伝子増幅と染色体異常の促進
"Epigenetic balance ensures mechanistic control of MLL amplification and rearrangement"
Cell. 2023 Oct 12;186(21):4528-4545.e18. doi: 10.1016/j.cell.2023.09.009. Epub 2023 Oct 2.
#MLLは白血病の代表的原因遺伝子である。今回、ヒストン脱メチル化酵素KDM3Bとヒストンメチル化酵素G9aによるH3K9me01月02日ならびに転写制御因子CTCF占有率の不適切なバランスを介したMLL遺伝子増幅と染色体異常の促進が示された。
ドキソルビシン投与はKDM3BとCTCFの発現低下を介した治療関連MLL遺伝子増幅ならびに染色体異常を誘導した一方で、G9a阻害剤はこれらの異常を抑制したことから、本研究がMLL遺伝子増幅や染色体異常を制御する新規治療に結びつく可能性がある。
担当:武藤朋也 @mucyotomo
JC-009(Nov 9, 2023)
膜タンパク質を標的にしたIn vivo CRISPR-Cas9スクリーニングで同定したCD300ldは、腫瘍微小環境TMEの構成要素で免疫応答に抑制的に働く顆粒球様骨髄由来免疫抑制細胞を腫瘍にリクルートすることにより腫瘍増大に寄与
"CD300ld on neutrophils is required for tumour-driven immune suppression"
Nature. 2023 Sep;621(7980):830-839. doi: 10.1038/s41586-023-06511-9. Epub 2023 Sep 6.
膜タンパク質を標的にしたIn vivo CRISPR-Cas9スクリーニングで同定したCD300ldは、腫瘍微小環境 TME の構成要素で免疫応答に抑制的に働く顆粒球様骨髄由来免疫抑制細胞 (PMN-MDSCs) を腫瘍にリクルートすることにより、腫瘍増大に寄与する。
さらに、S1008A/9AがCD300ldの下流で作用し腫瘍増大に寄与していること、S1008A/9AがSTAT3によって制御されることを明らかにした。また、CD300ldを失活させることで、TMEのリモデリングが生じ、抗PD-1抗体と相乗効果を引き起こす可能性が示唆された。
担当: 高崎哲郎
JC-008(Nov 1, 2023)
PD-1欠損は解糖系-アセチルCoAの産生による代謝プログラムの変化を引き起こし、AP-1転写因子の活性を介して増悪に寄与
"PD-1 instructs a tumor-suppressive metabolic program that restricts glycolysis and restrains AP-1 activity in T cell lymphoma"
Nat Cancer. 2023 Oct;4(10):1508-1525. doi: 10.1038/s43018-023-00635-7. Epub 2023 Sep 18.
T細胞リンパ腫のPD-1機能欠損は高頻度にみられ、病勢の増悪に関わるが、今回PD-1欠損は解糖系-アセチルCoAの産生による代謝プログラムの変化を引き起こし、AP-1転写因子の活性を介して増悪に寄与することがマウスモデルと臨床検体で示された。
PD-1がT細胞リンパ腫の代謝に関与するという点は興味深く、今後は PDCD1変異症例に対するAKT-mTOR–HIF1α–ACLYパスウェイをターゲットとする治療法の開発につながる可能性がある。
担当:工藤麗 @Reik0110
JC-007(Oct 25, 2023)
Long Read Sequencing を用いた神経系の全長の mRNA isoform の同定と定量により、globalなTSSとPASの選択の対応関係が示された
"Sites of transcription initiation drive mRNA isoform selection"
Cell. 2023 May 25;186(11):2438-2455.e22. doi: 10.1016/j.cell.2023.04.012. Epub 2023 May 12.
転写において、転写開始点(TSS)とポリアデニル化部位(PAS)は複数箇所から選択され多様な成熟mRNAを産生する。今回Long Read Sequencingを用いた神経系の全長のmRNA isoformの同定と定量により、globalなTSSとPASの選択の対応関係が示された。
さらに組織ごとに使用されるTSSには傾向があり、TSSに対応するPASが選択されることで、組織特異的に発現するmRNA isoformが調節される。また、TSS-PASの対応関係がある遺伝子のpromoterと3’末端はエピジェネティック修飾や結合因子の動員により特徴づけられることも一部示された。担当:吉田澪奈
JC-006(Oct 18, 2023)
NSUN2はm5Cメチル化酵素として知られているが、ブドウ糖がNSUN2を直接活性化することでオンコプロテイン活性を調整
"NSUN2 is a glucose sensor suppressing cGAS/STING to maintain tumorigenesis and immunotherapy"
Cell Metab. 2023 Oct 3;35(10):1782-1798.e8. doi: 10.1016/j.cmet.2023.07.009. Epub 2023 Aug 15.
NSUN2はm5Cメチル化酵素として知られているが、本論文ではブドウ糖がNSUN2を直接活性化することでオンコプロテイン活性を調整することを示した。またTREX2発現を維持することでがんの発生と免疫療法への抵抗性を促進することを示した。
さらに、ブドウ糖/NSUN2/TREX2の関連遺伝子の欠失は、cGAS/STINGの活性化を介して、アポトーシスとCD8+ T細胞の腫瘍への浸潤を促進し、免疫細胞の浸潤が少ない"cold tumor"におけるがんの発生を抑制し、抗PD-L1免疫療法への抵抗性を克服する一助になり得ることを示した。
担当:山内浩文 @HiroYama0123
JC-005(Oct 11, 2023)
CD44陽性肺癌幹細胞から派生した血管ペリサイトが、血管内外への移行能を獲得し、脳内で脱分化することで脳転移を引き起こす
"CD44+ lung cancer stem cell-derived pericyte-like cells cause brain metastases through GPR124-enhanced trans-endothelial migration"
Cancer Cell. 2023 Sep 11;41(9):1621-1636.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.07.012. Epub 2023 Aug 17.
肺腺癌が脳に転移するメカニズムの詳細は不明であった。本論文ではCD44陽性肺癌幹細胞から派生した血管ペリサイトが、血管内外への移行能を獲得し、脳内で脱分化することで脳転移を引き起こすことを明らかにした。
さらに、一連の過程では血管ペリサイト内でGPR124-Wnt-βカテニンシグナルが増強している事を発見し、この経路が治療標的になりうる可能性を示唆した。
担当: 栗川美智子
JC-004(Oct 2, 2023)
CD58-CD2軸の欠損がT細胞活性低下を惹起し、T細胞の浸潤・増殖を阻害することで免疫回避を促進
"The CD58-CD2 axis is co-regulated with PD-L1 via CMTM6 and shapes anti-tumor immunity"
Cancer Cell. 2023 Jul 10;41(7):1207-1221.e12. doi: 10.1016/j.ccell.2023.05.014. Epub 2023 Jun 15.
CD58発現と免疫チェックポイント阻害薬抵抗性との関連が近年指摘されたが、その詳細なメカニズムは明らかでない。本論文では、CD58-CD2軸の欠損がT細胞活性低下を惹起し、T細胞の浸潤・増殖を阻害することで免疫回避を促進することを明らかにした。
さらにCRISPRスクリーニングを用いて、CMTM6がCD58発現を正に制御することを同定し、CD58とPD-L1がCMTM6を介して互いの発現を制御し合うことを明らかにした。これらの発見は、#免疫チェックポイント阻害薬 に対する耐性を克服する一助になり得る。
担当:西村一希
JC-003(Sep 20, 2023)
cDC1の特定のsubpopulationがCD8+ T細胞の免疫応答を活性化
"A distinct stimulatory cDC1 subpopulation amplifies CD8+ T cell responses in tumors for protective anti-cancer immunity"
Cancer Cell 2023 Aug 14;41(8):1498-1515.e10. doi: 10.1016/j.ccell.2023.06.008. Epub 2023 Jul 13
がん免疫療法 は細胞障害性リンパ球が要である一方で、腫瘍組織内でその活性化を調整するメカニズムは明らかではなかった。
この研究ではcDC1の特定のsubpopulationがCD8+ T細胞の免疫応答を活性化することが示されている。
DeepLearning を用いた画像解析技術により腫瘍免疫の動態がさらに深掘りされた点は面白く、特定の免疫細胞の役割を理解しがん免疫療法の新たな戦略を開発する可能性がある。
担当:前之園良一
JC-002(Sep 13, 2023)
1wellで300以上の GPCR を同時評価するスクリーニング技術"PRESTO-Salsa"
"Highly multiplexed bioactivity screening reveals human and microbiota metabolome-GPCRome interactions"
Cell 2023 Jul 6;186(14):3095-3110.e19. doi: 10.1016/j.cell.2023.05.024. Epub 2023 Jun 14
GPCRのligandが結合してarrestin-TEV adaptorがrecruitされると、GPCRに融合させたtTAがTEVにcleaveされて核内移行→Reporterのbarcodeを転写→NGSで活性化したGPCRを同定することがわかりました。
細胞膜受容体中で最大ファミリーであるGPCRは、リガンドの包括的なスクリーニングが技術的に困難とされています。"PRESTO-Salsa"は、より効率的なスクリーニングを実現し、人体生理において中心的な役割を果たすGPCRに関する理解を大きく促す可能性があります。
担当:高崎哲郎
JC-001(Sep 6, 2023)
スプライシング因子RBFOX2の喪失によるスプライシング制御異常が膵がんの転移を促進
"RBFOX2 modulates a metastatic signature of alternative splicing in pancreatic cancer"
Nature 2023 May;617(7959):147-153. doi: 10.1038/s41586-023-05820-3. Epub 2023 Mar 22
我らが共同研究者Woody(Kuan-Ting Lin)たちが、ミッション・インポシブルと嘆きながらも(笑)
見事にまとめた論文を、記念すべきジャーナルクラブ第1回目の論文として取り上げました。
これまで膵管腺癌PDAはDEG解析等から予後因子等の知見は得られていましたが、転移能獲得の決定因子は不明でした。今回、転移性PDAが特徴的なスプライシング変動を示すことに着目して解析し、RBFOX2の発現消失が転移能獲得を決定づけることがわかりました。
がんのスプライシング異常はまだまだ未解明の要素が多く、今後も発展が期待されます。
担当:網代将彦