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希少がんはなぜ希少なのか
希少がんはなぜ希少なのでしょうか?肺がんのように患者さんの数が多い、いわゆる「メジャーがん」の分子背景を調べてみると、同じ疾患概念に分類されるがんであっても、遺伝子レベルの異常は実にさまざまであることが知られています。すなわち、同一名のがんにはたくさんの少しずつ異なる悪性腫瘍が含まれているのです。分子レベルでは異常の内容がさまざまであっても、臨床像が共通している場合、一括りの疾患概念(がん種)として取り扱われます。そして、そのようながんの頻度は高いことになるでしょう。逆に、限られた遺伝子の異常が特徴的な臨床像を示す独立したがんになりえる場合には、そのがんの頻度は低いことになります。遺伝子の構造と機能も重要です。あるがんの発生に関わる遺伝子異常が構造的に発生しにくいので、そのがんは希少になっているのかもしれません。また、がんの起源細胞の特性、特に発がん性の違いが、希少ながんを希少たらしめているのかもしれません。さらに、腫瘍となる正常細胞の数が少ない場合、そのがんは確率的に希少になる可能性があります。
なぜある遺伝子の異常は特徴的な臨床像を示すのかという課題は、発生する臓器・組織の特性に加え、治療法の開発に関係します。がんの治療法は臓器・組織単位で開発されてきました。分子標的薬の登場により、分子レベルの異常を基準にがんを見直すようになると、分子標的薬の適応(薬の効きやすさ)にしたがってがんが定義されるようになるかもしれません。その場合、希少ながんと考えられていたがんが、実はある一群をなす別のがんに分類されることがあるかもしれません。そのような一群のがんを見つけることは、特定のがん患者に高い確率で奏効する治療法を開発することにもなります。
このように、希少がんはなぜ希少なのか、というテーマを考えるうえでは、分子レベルから臨床レベルまで鳥瞰的にがんを考える必要があります。
「希少がん研究」に多層的かつ横断的に取り組むにあたり、新しい治療法を開発するためにはどのアプローチがベストか、ということを我々は考えます。我々は、自分たちの置かれた研究環境、現代の治療法開発の現状、そして臨床での直近のニーズを鑑み、「やりたいことをする」のではなく、明確な目的を設定し て、「やらないといけないことをする」研究集団でありたいと考えています。