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分野別治療方針前立腺がん
はじめに
前立腺がんは、米国男性でもっとも罹患率の高いがんで、男性のがん死亡の2番目の原因とされています。日本では、男性で4番目の罹患率(がんの統計2003年:1位胃がん、2位大腸がん、3位肺がん)であり、高齢化や食生活の欧米化、PSA(腫瘍マーカー)検診の普及などにより、10年後(2020年)には第2位になると推定されています。
図1 前立腺がんに対する陽子線治療の一例
左右2方向からの照射により、前立腺に集中した良好な線量分布がえられる。
根治的な治療の対象となるのは、骨転移やリンパ節転移のない前立腺がんです。前立腺がんでは、腫瘍マーカーであるPSA値や悪性度の指標となるGleason Score(グリソン・スコア)などの因子から、治りやすさ・再発・転移の可能性を示すリスク分類が用いられます(表1)。いずれも根治的な治療の対象となりますが、PSAが極端に高い場合潜在的な転移の可能性が高くなり、根治的な治療がすすめられないこともあります。
表1
根治的な治療の選択肢としては、手術、外部放射線治療、組織内照射があります。外部放射線治療には、X線を用いた三次元原体照射(3D-CRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、陽子線治療などがあります。また、中リスクや高リスクでは、治療効果を高めるためにホルモン療法を併用することがあります。
陽子線治療の適応は?
根治的な治療の対象となる場合、陽子線治療の対象となります。
他にも治療の選択肢がある中、陽子線治療では直腸や膀胱など周囲の正常組織への線量低減による長期的な副作用の低減が期待されています。2015年10月より、複雑な形状の腫瘍に対応できる「陽子線ラインスキャニング照射法」による治療を開始しており、世界でも新しい治療を行う事も可能です。従来の方法よりも直腸の線量を下げることが出来、有害事象の低減が期待されております。
前立腺がんでは、1回に照射する線量を増加させ、総治療期間を短縮する治療戦略の有効性が示唆されています。通常、74GyE/37回で治療を行っておりますが、現在63GyE/21回(週3回)と治療回数を減らす治療も行われております。
低リスク前立腺がん
潜在的な転移のリスクがないため、前立腺に対する局所治療のみで根治が期待できます。治療選択肢としては、手術、小線源治療、外部放射線治療があります。
当院では、74GyE/37回のスケジュールで陽子線治療を実施しています。
中リスク前立腺がん
手術、外部放射線治療とも、適応となります。
当院では、ホルモン療法を先行し、74GyE/37回のスケジュールで陽子線治療を併用します。
低リスクおよび中リスク前立腺がんを対象とした臨床試験
国内3施設が参加して74GyE/37回のスケジュールで150例を対象に陽子線治療の臨床試験を実施し、放射線治療後に問題となる直腸出血の頻度を観察しました。その結果、2年後直腸出血の頻度が2.0%(95%信頼区間:0%、4.3%)でした(表2)。(参考文献1)
表2 薬剤による治療が必要な副作用の発生割合(95%信頼区間)
高リスク前立腺がん
潜在的な転移のリスクが高いため、ホルモン療法を併用します。
当院では、ホルモン療法を先行し、74GyE/37回のスケジュールで陽子線治療併用します。ホルモン療法は陽子線治療後も継続し、原則として2年間実施します。
被膜外浸潤や精嚢腺浸潤のある局所進行型の前立腺がんでは、照射範囲が広くなるため、直腸や膀胱への影響が懸念されます。陽子線治療を用いることにより、直腸や膀胱など周囲正常組織への線量低減が期待されます。
図2 三次元原体照射(3D-CRT)と陽子線治療(スキャニング)の線量分布比較
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3D-CRT
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陽子線治療
膀胱の一部(橙矢印)と直腸の一部(赤矢印)に放射線があたる。
将来展望
高精度治療技術
前立腺内に金マーカーを入れることにより、セットアップの誤差を最小限に抑えながら、標的に対し正確な照射が可能となる様、より高精度な治療の実現を目指します。
臨床試験
現在、局所限局性前立腺がん中リスク症例に対する陽子線治療の多施設共同試験(PC001-01)を行っており、陽子線治療の有効性や安全性を評価する事を目的としております。更には、前立腺癌に対する陽子線治療の保険収載を目指しております。
セカンド・オピニオン
基本的に、初診時のPSA値が100程度までの、画像的に転移の認められない前立腺がんが、陽子線治療の適応となります。前立腺がんに対する陽子線治療のセカンドオピニオンを希望される場合には主治医と相談の上、初診予約受付(電話番号:04-7134-6991 平日8時30分から17時15分)にお電話いただき、予約をおとりください。