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卵巣がんの治療について
卵巣がんとは
子宮の左右にある卵巣から発生するがんです。その原因は腫瘍のタイプによって様々ですが、50歳代後半が発症年齢の中央値であり、他のがんと比べ若いのが特徴です。検診の意義が確立してなく、診断時にすでにお腹の中全体に広がっている進行がんとなっている方が半数以上と多い問題があります。HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)という遺伝的に乳がんや卵巣がんにかかりやすい家系の方が卵巣がん患者の約15%を占めることも分かってきました。
卵管がん、腹膜がんも卵巣がんと非常に良く似た性質を持っており、検査や治療法はほとんど同じであるため、婦人科にて診療します。
病期(ステージ)について
治療方法を決定するために一般的な婦人科診察(膣鏡診・内診・経膣超音波検査)に加え、骨盤MRIや胸腹CTなどの画像検査を行います。あわせ審査腹腔鏡やCTガイドを用いた組織生成や、腹水・胸水穿刺による細胞診を行うこともあります。手術療法より治療開始とした方では、開腹所見や術後の病理診断にて病期(ステージ)が決定されます。
出典:日本婦人科腫瘍学会(編):患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版, 金原出版, p154, 2016
病期(ステージ)ごとの治療法
I~IIA期
腫瘍(しゅよう)が卵巣に限局しているI期と子宮と卵管までの転移に収まっているIIA期は早期がんとされ、全体の半数弱の割合です。手術療法と化学療法で治る方も多い進行期(ステージ)です。手術療法は、子宮摘出・両側附属器(卵巣、卵管)摘出に加えて、大網(だいもう)切除、リンパ節郭清(かくせい)(骨盤から傍大動脈節)を行います。画像検査(CT、MRI)では分からない微小な転移の有無を調べるためであると同時に、転移・再発しやすい臓器をあらかじめ切除しておくことで、将来的な再発を減らすために推奨されている術式です。I期の場合は将来の妊娠・出産の可能性を残す手術治療についてもご相談可能です。
IIB~IV期
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの半数以上の方がこの進行期と診断されます。治療方法は、手術療法(腫瘍縮小手術:目に見える腫瘍を全て取りきる、もしくは出来る限りし小さくする)と薬物療法(化学療法)の組み合わせですが、その治療の順番で以下1.と2.に大きく分けられます。日本や世界の治療ガイドラインでは1.の治療法が一番推奨されています。ただし手術療法(腫瘍縮小手術)は早期がんへの術式だけでなく、お腹の中へ広がった腫瘍(がん)を他の臓器と併せて切除することもあり、侵襲後の高い手術となります。70歳以上の高齢者や、内科合併症のある方、全身状態が悪い方では、2.の治療法もしくは手術療法を行わず、3.薬物療法(化学療法)のみで治療する方もいらっしゃいます。
1.初回腫瘍縮小術(PDS)→薬物療法(化学療法→維持療法)
メリット:手術で目に見える腫瘍(がん)を全て取りきれた場合、治療法の中では一番予後良好(5年以上生存される方が半数以上)とされる。
デメリット:多臓器合併切除を要することが多く、身体への負担や術後合併症も多い。
2.術前化学療法(NAC)→腫瘍縮小手術(IDS)→薬物療法(化学療法→維持療法)
メリット:化学療法で腫瘍縮小後の手術となり合併切除が少なく、身体の負担が少ない。
デメリット:手術で目に見える腫瘍を全て取りきれた場合でも、再発となる方が多い。
3.薬物療法(化学療法→維持療法)
メリット:手術に伴う身体の負担や合併症がない。
デメリット:あくまでも延命治療が目標となる。
当院での治療選択
当院で婦人科手術をスタートした2018年~2021年までの4年間で進行卵巣がん症例(卵管がん・腹膜がんを含む)はIIB-IVB期は113例で、治療選択1-3の内訳は以下の通りであり、年齢や全身状態が許す限り1.をお奨めし治療を行っています。
ここで1.初回腫瘍縮小術(PDS)を施行した59例では、51例(86%)と高い率で目に見える腫瘍を全て摘出できています。また2.術前化学療法(NAC)後に腫瘍縮小手術(IDS)した32例中でも29例(91%)と高率に、目に見える腫瘍を全て摘出できています。
図:進行卵巣癌・卵管癌・腹膜癌(IIB-IV)
治療方針とRO率(2018-2021年度:113例)
当院では「目に見える腫瘍を全て摘出する」:complete手術の割合を上げるために、全壁側腹膜切除という国内ではまだ限られた施設でしか行っていない術法を取り入れています。また腸管合併切除では大腸外科、肝臓・脾臓・膵臓の合併切除では肝胆膵外科の協力も得ることが可能です。病院として連携(チームワーク)が充実していることでcomplete手術率を高くできていることが、当院のアピールポイントであります。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC;Hereditary Breast and Ovarian Cancer)とは、BRCA1もしくはBRCA2という遺伝子に生まれつき変化(バリアント)があるため、乳がんや卵巣がんにかかりやすい遺伝性の疾患です。一般女性が生涯で卵巣がんを発症する確率は約1%ですが、HBOCの方ではその確率は16.5~62倍と高いことが分かっています。
そのため2020年4月より、HBOCの既発症者(乳癌などの発症既往)の方を対象に、リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO;risk reducing salpingo-oophorectomy)という手術が保険適応になりました。RRSOは、まだ卵巣がんを発症していない正常な卵巣・卵管をあらかじめ摘出しておくことで、将来の発がんリスクを低減するための手術です。卵巣がんは早期発見が難しく、診断された時点で進行していることが多い病気なため、出産を終えた後35~40歳でRRSO手術を受けることが推奨されています。
当院ではRRSOを腹腔鏡手術で行っています。お臍から1~2cm程の切開でカメラをお腹の中に挿入し、術者はその映像を見ながら、下腹部に5mm程、3ヶ所の切開創からお腹に鉗子を挿入し手術を行います。手術時間は約1時間です。傷はいずれも非常に小さいため術後の痛みも少なく傷も目立ちにくいです。術後4日目に退院される方がほとんどです。摘出した卵巣・卵管は病理検査で、がんが既に発症していないかも確認もします。
国立がん研究センター東病院 遺伝子診療部門ではHBOCに関するカウンセリングも行っておりますので、お気軽にご相談ください。