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「子どもを持つがん患者における、心理社会的苦痛と支援ニーズに関する横断研究」調査結果について
2020年3月5日
(最終更新日:2020年3月19日)
2019年5月、国立がん研究センター東病院 緩和医療科は、一般社団法人キャンサーペアレンツ、株式会社メディリードと共同で、未成年のお子さんを持つがん患者さんを対象とした、調査研究を実施しました。ご協力いただいた結果の一部を発表します。
資料
下記をクリックすると、本調査研究結果をまとめた資料がダウンロードできます。
目次
1.背景・目的
日本では結婚・出産の高齢化が進み、子どもが成人する前にがんと診断される患者さんが増えており、その数は年間約56000人と推定されています。特に30~50代の方は働き盛りで、子育てにも忙しく、様々な問題を抱えながらがんと向き合わなければなりません。しかし、全国の地域・病院ごとで見ると高齢者の患者さんよりも少ないため、周囲からの理解が得られにくく、社会からのサポートは十分とは言えません。
そこで、未成年の子どもを持つがん患者さんがどのような困難に直面されているのかを明らかにするため、がん患者さん同士が知り合い、仲間をつくることができるオンラインピアサポートサービス「キャンサーペアレンツ」に登録されている患者さんにご協力いただき、アンケート調査を行いました。お聞きした主な内容は以下の3点です。
- 子どもへ病気の説明をする際にどのような困難を感じ、どのような支援を必要としていますか。
- がんに罹患したことで、就労・収入にどのような影響があり、どのような困難を感じ、どのように対処していますか。
- 子どものことをどのような方に相談されていますか。他に相談したい方はいますか。
2.調査方法
- 方法:Webアンケート調査
- 対象:キャンサーペアレンツの登録者かつ、18歳未満の子どもをもつがん患者さん
- 実施期間:2019年4月29日から5月13日(15日間)
3.調査結果の概要
回答者数:計377名
注:回答項目によっては欠損があるため解析時に人数が減少することがあります。
子どもへの病気の説明
- 7割の方が、子どもにご自身の病気が「がん」であることを伝えている。
- 子どもの年齢が高い、または女の子をもつがん治療中の方は、がんと伝えたことが多い。
就労・収入への影響について
- 3割の方が経済的に困っている。
- 病期がステージ4または再発している、抗がん剤治療中である、就労状況が変化した方は、経済的に困っていることが多い。
- 「困っている」と回答した方の7割が貯金を切り崩し、3割が親族から経済的な支援を受けていた。
- 公的な経済支援を受けている人は、全体の1割未満。
子どもに関する相談をしている相手について
- 現在の相談相手は配偶者、親、友人の順に多い。
- 6割の方が、さらなる相談相手がほしいと希望している。
- 希望する相談相手は、多い順に同世代のがん患者、心理士、医療ソーシャルワーカーの順に多い。
4.結果の詳細
患者さんの背景・特徴
- 回答者は30~40代の方が最も多く、約8割が女性。
- がん種別では女性特有のがん(乳腺・子宮・卵巣)、病期はステージ1・2・3期の方が最も多い。
年齢層
- 30代:28%
- 40代:48%
- 50代:14%
性別
- 男性:19%
- 女性:81%
がん種
- 肺:8%
- 胃・食道:9%
- 大腸:12%
- 肝・胆・膵:4%
- 乳腺:34%
- 子宮・卵巣:10%
- 血液・リンパ:6%
- その他:16%
病期
- ステージ1・2・3:57%
- ステージ4または再発:36%
- 不明:7%
長子の年齢層
- 6歳未満:19%
- 6歳から11歳:42%
- 12歳から17歳:39%
子どもへの病気の説明について
- 300名中208名(69%)が、子どもにがんと伝えていた。
- 伝えた方と伝えなかった方の間で年齢や性別による違いはない。
- 子どもの年齢があがるほど伝えている方が多い。
- 子どもの性別が女児だと伝えている方が多い。
- 子どもに抗がん剤治療中と伝えている方が多い。
- その他の結果として、子どもにがんと伝えたかどうかで、子どもと接する上での気がかりな点に違いがあることが示唆された。
*本研究成果について、2019年「ESMO Asia Congress2019」(ESMO:欧州臨床腫瘍学会)にて口頭発表しました。詳細はこちら(外部の英語サイトにリンクします)をご覧ください。
- 358名中203名(57%)の方が、子どもへの病気の説明に対する支援を望んでいる。
- 63%が「同様の体験を持つ人からの助言」を求めている。
就労・収入への影響について
- 368名中127名(34%)が経済的に困っていると回答し、年齢と性別は関係ない。
- 病気に関して、病期がステージ4または再発である方、または抗がん剤治療中である方は経済的に困っている割合が多い。
- 就労に関して、就労形態が変化した方、収入が減少した方は経済的に困っていると回答される割合が多く、一方、フルタイムで就労されている方は、経済的に困っている割合が少ない。
- 経済的に困っていると回答された方125名の多くは、貯金を切り崩したり、親族からの経済的な支援を受けている。
- がんと診断された後に、就労を増やしたり、始める方もいる。
- 障害年金を受けられている方は6%と少ない。
子どもに関する相談相手について
- 全体では、配偶者、親、友人の順に多い。
- 女性の回答者は男性よりも、友人や学校の先生に相談している割合が多い。
- 367名のうち、214名(58%)がさらなる相談相手がほしいと希望している。
- 希望する相談相手は、同世代のがん患者、心理士、医療ソーシャルワーカーの順に多い。
5.考察・結論
考察
- 今回の調査では未成年の子どもを持つがん患者さんは約7割の方が子どもにがんと伝えていましたが、残りの3割の方は伝えていませんでした。また、半数以上の方が子どもへの病気の説明の仕方に支援が必要、と回答しました。
- 子どもにがんと伝えるかどうかで、子どもと接する上での気がかりな点に違いがありました。特に、伝えた方ほど「子どもがどんな気持ちでいるのかを知りたい」と考えており、伝えた後も継続した支援が必要と考えられます。
- 約3割が経済的に困っていると回答し、勤務形態が変化したと回答した方の割合が多かったため、就労支援をより拡充していくことが重要と考えました。また、公的な経済支援を受けている方は少なかったため、どのようなサポートがあり、どのようにすれば利用できるのか、などの情報を広く伝えていく必要があると考えました。
- 今回の調査では、子どもへの説明の支援として「同様の体験を持つ人からの助言」を希望している方の割合が多く、「同世代のがん患者さん」に子どもに関する相談を希望している方の割合も多かったです。
結論
子どもを持つがん患者さんたちは社会的な支援を必要としており、特に、同じ子育て世代のがん患者さん同士のサポートは、とても大切であると考えられます。
6.おわりに
アンケートにご協力いただいたすべての皆さまに感謝を申し上げます。