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大腸がんの手術について

腹腔鏡(ふくくうきょう)手術について

大腸がんと診断され、東病院に紹介された患者様の約90%の方が腹腔鏡手術を受けられています。

腹腔鏡手術とは、開腹手術と比べてがんの根治性を損なうことなく、体表につけられる傷をなるべく小さくすることを目的とした手術です。術後の回復の早さ、術後の癒着・出血・痛みの少なさなど多くのメリットがあります。腸管の切除範囲、リンパ節の切除範囲、がんの治りやすさには、開腹手術と腹腔鏡手術での違いはありません。腫瘍が非常に大きい場合や、過去に大きな開腹手術を複数回受けられた方などでは、開腹手術を選択する場合がありますので、外来の際に担当医師にご相談ください。

腹腔鏡手術のおなかの傷

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術では通常5mmから1cm程度の傷をおなかに5個程度つけて、そこにトロッカーと呼ばれるアクセスツールを挿入します。腹腔内を炭酸ガスで満たし、ドーム状に膨らませたうえで、腹腔鏡と呼ばれる細長いカメラでおなかの中をモニターに写し手術を行います。最後に切除した腸管を取り除くための最小限の傷をおへその部分につけます。おなかの中心に15cmから20cmの傷をつける開腹手術とは違い、術後の痛みが軽減されるだけでなく、傷が目立ちにくいという特徴があります。

肛門温存手術について

東病院大腸外科では、これまで多くの患者さんに、括約筋間(かつやくきんかん)直腸切除術(ISR手術:intersphincteric resection)を主とした積極的な肛門温存手術を行い、その臨床成績を学会および論文等で広く報告してきました。今後根治性を目指した様々な機能温存手術におけるオピニオンリーダーとして、より安全な手術療法の普及に向けて積極的に取り組んでまいります。

早期の直腸がんであれば、肛門に非常に近いがんであっても肛門温存手術が可能です。進行がんの患者さんは、肛門管(肛門の入り口から3から4cmまでの部分)よりも奥に腫瘍が存在する場合、ほとんどのケースで肛門温存手術が選択されます。

また、がんの進行具合や存在部位、手術前の放射線治療の有無によって選択基準が変わりますので担当医にご相談ください。

ただし、肛門近くのがんに対しては肛門が温存された場合でも、頻便(トイレから出るとすぐまたトイレに行きたくなること)、切迫便(トイレに駆け込みたくなるような便意)、便失禁などの症状が出ることがあります。

肛門温存手術

図1:肛門温存手術「ISR手術」の構造

TaTME手術(ティーエーティエムイー手術)について

5人の外科医が2チームに分かれて、おなか側、お尻側の2つの腹腔鏡モニターを見ながら同時に直腸を切除、再建する方法です。従来は3人の外科医によりどちらか一方から行っていた手術ですが、この方法により手術時間が約半分に短縮され、患者さんの負担軽減につながっています。また双方のやりにくい部分をお互いに補うことで、手術の安全性だけでなく、がんの根治性にも有利に働くと期待されています。

TaTMEは新しい直腸外科手術法で、東病院大腸外科は多くのTaTME手術件数の実績を誇ります。

図2:TaTME手術中の様子

taTME手術

手術に伴う合併症

出血

腹腔鏡手術で大腸がんの手術が行われる場合、出血量の平均は50cc以下であり輸血を必要とすることは稀です。しかし、リンパ節の切除の程度や患者さんの体形、腫瘍の進行具合によって、量は増減します。特に骨盤内は出血がしやすい部位があり、1000ml以上の出血があった場合には輸血が必要です。また術後に出血が発生した場合には、絶食期間の延長や再手術、血管カテーテルを使った塞栓術(金属コイルで動脈を詰める手術)を行うことがあります。

縫合(ほうごう)不全

腸管を吻合した(つないだ)部分がうまくつながらず、便やガスがおなかの中に漏れ出てしまう合併症です。ほとんどの場合手術の1週間以内で発生し入院中に診断されます。便がおなかの中に広がり、腹膜炎を起こした場合には手術が必要で、救命のために一時的人工肛門を作成します。この人工肛門は半年から約1年以内にもう一度手術を行い、取り除くことが可能です。肛門に非常に近い直腸がんの場合は縫合不全の発生が非常に多くなるため、あらかじめ一時的人工肛門を作成し合併症の発生やそれに伴う重症な状況を予防します。

腹腔内膿瘍(ふくくうないのうよう)・骨盤内膿瘍

術後に腹腔内に細菌が感染し、膿(うみ)の塊を形成する合併症です。膿が小さな場合抗生物質の投与で治癒しますが、縫合不全が関与している場合、治療は長期化することがあります。

イレウス

術後に腸管が麻痺することで腸がむくんでしまい、食事がとれなかったり嘔吐してしまう状況です。以前は腸閉塞(ちょうへいそく)と呼んでいましたが、腸管の癒着による腸閉塞と区別するため、最近では「イレウス」という言葉を使うことが多くなっています。多くの場合絶食期間を長くすることで改善しますが、入院期間の延長につながったり、鼻から腸に長い管を入れて治療することが必要になる場合があります。

腸閉塞

術後の腸管の癒着が原因でおなかが張ったり、嘔吐をしてしまう状況です。腹腔鏡手術が増えるにしたがって癒着が減ったため、発生は減少していますが一定の確率で生じます。術後半年から2年後くらいの間に起こることが多いですが、何年も経過してから生じる場合もあります。絶食が必要となるため入院が必要です。また治療に時間がかかったり繰り返す場合は手術が必要になります。

排尿障害

直腸周囲の自律神経の働きが落ちることで尿が出しにくくなり、残尿が増えます。肛門に近い直腸がんの手術で出現することがあります。自律神経が温存された場合、ほとんどの方が数か月以内に回復します。がんの進行程度によっては自律神経を切除する場合があり、自己導尿やカテーテル留置が必要になる場合があります。同じ部位の神経障害によって性機能障害が出現する場合もあります。

その他 

心臓・肺・脳などの合併症

手術後の生活について

大腸がんの手術の場合、胃や小腸はそのまま残るため、食事量の減少や消化吸収の障害はほとんどありません。一方で便の形成や排出には少なからず影響が出ます。切除した腸が、直腸なのか結腸なのか(発生したがんが肛門に近いのか、離れているのか)で影響は大きく変わります。結腸がんの場合には以下のような影響はほとんど出ませんので、外来で担当医によくご確認ください。ここでいう肛門に近いがんとは、肛門からの診察でがんに指が届くかがひとつの目安になります。

排便障害

残された直腸の長さが短いほど(がんが肛門に近いほど)影響が大きくなります。多くの場合一回のトイレで便がすっきり出ないという症状です。そのためトイレから出た後にまたすぐに行きたくなり、しばらくトイレに出たり入ったりします。症状は個人差があり、術後の時間の経過によっても回復が見られます。薬剤でもある程度のコントロールが可能です。

肛門機能障害

内肛門括約筋(かつやくきん)の障害で起こる便の漏れのことです。急にトイレに行きたくなった場合にこらえきれなかったり、夜間の就寝時に漏れてしまうことがあります。常に下着にパッドをつける必要となる場合があります。また形のない緩い便ほどこらえることが難しくなります。程度の差はありますが、おおよそ肛門からがんまでの距離が5cm以内の場合に起こります。

人工肛門

永久人工肛門、一時的人工肛門の2種類があり、それぞれ大腸で作成する場合と小腸で作成する場合があります。東病院大腸外科では一時的人工肛門は小腸で、永久人工肛門は大腸で作成されることがほとんどです。人工肛門とは、おなかの外に引っ張り出した腸管に穴をあけることで、便を空けた穴から体外に排出する仕組のことです。2から4日ごとにパウチ(腸が外に導出された部位に貼り付ける袋)を貼り替え、その袋に便をため、一日数回トイレで廃棄します。扱いが上手になれば普段のにおいなどは気になりませんし、他人に気づかれることもまずありません。便を下着に漏らしてしまうことや、急な便意でトイレにかけこむこと、トイレにこもってしまうことなどが必要ないといった利点もあります。当院では人工肛門が必要な患者さんには入院前から詳しい説明を通じて、どのようなものかを知ってもらうように努めています。

回腸導管

がんが膀胱(ぼうこう)に浸潤し、膀胱の全切除が必要な場合に作成される尿の人工肛門です。がんが浸潤している場合でも、膀胱の切除が部分的である場合には作成しません。20cmくらいの小腸に左右の尿管(腎臓から膀胱に尿を運ぶ管)をつなぎ、人工肛門と同様の方法でおなかの外に導出します。見た目は人工肛門と見分けがつきませんが、便ではなく尿が出るという違いがあります。人工肛門同様にパウチ(腸が外に導出された部位に張り付ける袋)を貼りそこにつないだパックに尿をため、定期的にトイレに廃棄します。

直腸がん局所再発に対する外科治療

肛門に近い直腸がんの再発形式で最も頻度の高い部位は肺転移ですが、2番目は局所再発です。局所再発は、骨盤底を支える筋肉の周りや、自律神経周囲、仙骨(せんこつ)前面や初回の手術で腸をつないだ部位付近などにみられることが多いです。

直腸がんの局所再発に対する外科手術の難易度は高く、人工肛門や回腸導管(尿の人工肛門)がつく場合が多いため患者さんの負担も大きいですが、しっかりとがんを取りきることができれば治癒が得られるケースも多いです。手術には高い専門性と経験が必要であり、切除可能かどうかの判断も施設によって差異が出るため、セカンドオピニオン外来等でご相談ください。

更新日:2023年8月31日