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新型コロナウイルスの抗ウイルス薬について

最終更新日:2024年11月1日

赤字は最終更新時の改訂・追記部分です。

  • 抗ウイルス薬には内服薬と点滴薬があります。
  • がん患者さんが新型コロナウイルス感染症を発症した場合は抗ウイルス薬治療をうけることが推奨されます。
    -ワクチン接種を受けている患者さんでも抗ウイルス薬が推奨されます。
    -症状がない方への処方や、予防目的の処方は行われません。
  • 酸素投与が必要な患者さんへは点滴薬(レムデシビル)が使われます。
  • 酸素投与が不要な場合は、一般的にはニルマトレル/リトナビルが推奨されますが、使用できない場合はレムデシビルもしくはモルヌピラビルが推奨されます。

 

発症から5‐7日以内かつがん患者さんや高齢者のように重症化リスクのある人に対して使用されることのある抗ウイルス薬についてご説明します。(ここでは主に重症化リスクのない人に対して処方されるエンシトレルビル [ゾコーバ®]の説明は省略します。)

今までの研究結果を踏まえて新型コロナウイルス感染症診療の手引き第10.1版(参考 外部サイトにリンクし、pdfが開きます。26ページの図等参照)ではがん患者さんのような重症化リスクが高い人へは➀ニルマトレルビル/リトナビル[パキロビッドパック®内服]、➁レムデシビル[ベクルリー®点滴]もしくはモルヌピラビル[ラゲブリオ®内服]の順で推奨されています。内服薬は重症化に至っていない、酸素吸入が不要な患者さんに処方されます。点滴薬のレムデシビルは酸素が必要な患者さんにも使用されることがあります。

近年、重症化リスクがあまり高くない(例:死亡率が0.1%前後)の人を対象とした大規模臨床試験で、抗ウイルス薬の効果が乏しいといった報告[外部サイトにリンクします 文献➀ 文献➁] があります。しかし、がん患者さんや高齢者の方はこれらの研究の被験者より重症化リスクはずっと高い(例:英国でのがん患者さんの死亡率はオミクロン株流行時期でも4%台との報告[外部サイトにリンクします] )ため、これらの研究結果をがん患者さんへの治療効果予測に用いることは難しいと考えられます。

実際の処方に関しては、担当の先生とご相談ください。

現時点ではこれらの抗ウイルス薬は、新型コロナウイルス感染症に罹患した無症状の方や、罹患していない方に予防的に投与することはできません。

2024年3月31日で新型コロナウイルス治療薬や入院医療費の特別な公費支援制度は終了し、4月以降は他の疾病と同様の、医療保険の自己負担割合および高額療養費制度のもとでの診療となります。

ニルマトレルビル/リトナビル(内服薬:パキロビッドパック®)

  • 発症から5日以内の開始が推奨される
  • 1日2回5日間の内服薬
  • 併用できない薬剤が多い
    処方の際には現在の内服薬との飲み合わせを確認する必要があるため、お薬手帳を医療者に提示することが必要
  • ワクチンを受けていても、がん患者さんは抗ウイルス薬治療を受けることが推奨される

 

2022年1月から2023年11月まで(オミクロン株流行期)の観察研究をまとめて解析した研究(メタ解析)では、ニルマトレルビル/リトナビルの治療をうけた場合、偽薬(プラセボ)もしくは抗ウイルス薬を用いない治療と比較すると、死亡率は1.1%から0.3%(69%の減少;95%信頼区間:21‐46%)、入院もしくは死亡の割合は3.7%から2.3%(38%の減少;95%信頼区間55-70%)に減少したことが報告されています。 [外部サイトにリンクします ] この研究では、ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群との間の抗ウイルス薬の効果の割合には大きな差はありませんでした。

ワクチンも重症化リスクを低下させることが示されていますが、ワクチンを接種している人でも感染時にニルマトレルビル/リトナビルを服用することで、さらに重症化リスクを下げることができたという研究報告もあります。(2022年4月から8月に実施された、50歳以上もしくは18歳以上で重症化リスクがある人を対象とした研究。ワクチン非接種かつ非投薬患者を基準とした新型コロナウイルス感染症による入院のハザード比注1:ワクチン3回以上接種で抗ウイルス薬の内服なし0.51[95%信頼区間0.47-0.55]、ワクチン3回以上接種およびニルマトレル/リトナビルの内服0.22[0.19-0.24][外部サイトにリンクします])

ニルマトレルビル/リトナビルを内服した場合には一定の割合で再燃(リバウンド)が起こることが知られています。(治療なしと比較して約2倍の頻度と報告するメタ解析があります。[外部サイトにリンクします])このため、服用後もリバウンドには注意が必要ですが、モルヌピラビル服用時や、抗ウイルス薬を服用していない場合でもリバウンドすることがあり、現在までのところリバウンドを懸念して服用を控えるべきではないと推奨されています。(米国での推奨[外部サイトにリンクします])

オミクロン株流行期にニルマトレルビル/リトナビルを投与した患者さんでは死亡だけでなく、心血管系合併症(心不全や冠動脈疾患など)や呼吸器合併症(慢性肺疾患や間質性肺炎など)、慢性腎疾患などが少なかったことが報告されています。[外部サイトにリンクします] 2023年11月までのメタ解析でも後遺症を25%減少させることが示されています。[外部サイトにリンクします]

注1:ハザード比:抗ウイルス薬を服用した患者さんとしなかった患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症で入院する確率が同じ場合はハザード比が1となります。服用した患者さんの入院する確率の方が低い場合にはハザード比が1を下回ります。(つまり、1より小さくなればなるほど服用した患者さんの入院リスクが低く、逆にハザード比が1を超えて大きな値となるほど抗ウイルス薬を服用した患者さんの入院リスクが高いということになります。)

レムデシビル(点滴薬:ベクルリー®)

  • 発症から7日以内の開始が推奨される
  • 1日1回3日間
    肺炎がある場合は5日間、症状の改善が認められない場合は10日目まで延長
    呼吸状態が悪化し、酸素が必要となった場合でも使用される場合あり


オミクロン株流行期に感染した免疫不全患者さんのうちレムデシビルを投与した約4000人と投与しなかった約4000人の14日後の死亡割合を比較したところ、投与しなかった群の死亡率が14.9%に対し、投与群では11.5%と低かった(ハザード比0.75)ことが報告されています。[外部サイトにリンクします] 

臨床効果を検討した複数の研究をまとめで解析した検討では、抗ウイルス薬を用いない治療とレムデシビルを比較した結果、死亡のリスクが減少した(オッズ比0.88注2 95%信頼区間:0.78-1.00)ことが示されています。(2022年4月までの9研究を検討した結果  [外部サイトにリンクします] )

注2:オッズ比:レムデシビルを投与された患者さんが新型コロナウイルス感染症罹患後に死亡する確率Pを、死亡しない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(新型コロナウイルス感染症後に死亡するオッズ)をレムデシビルを投与されていない患者さんの死亡オッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。レムデシビル投与された患者さんの方が新型コロナウイルス感染症後に死亡するリスクが低い場合にオッズ比は1を下回ります。(つまり、オッズ比が1より小さくなればなるほどレムデシビル投与により死亡リスクが低くなり、逆に1を超えて大きな値となるほどレムデシビル投与によって死亡リスクが高くなることになります。)

モルヌピラビル(内服薬:ラゲブリオ®)

  • 発症から5日以内の開始が推奨される
  • 1日2回5日間の内服薬
  • 妊娠もしくは妊娠している可能性のある場合は避ける

約26000人(死亡率0.03%)を対象に行われた2021年12月~2022年4月の英国での研究(PANORAMIC試験、非投与群の入院もしくは死亡の割合は1%未満)では新型コロナウイルス感染症による入院もしくは死亡の割合をモルヌピラビルは減らせませんでした。[外部サイトにリンクします] この結果を受けて欧州連合(EU)の医薬品規制当局はモルヌピラビルの不承認勧告を行い、販売会社が欧州における販売承認申請を取り下げています。一方、CDC(米国疾病予防管理センター、外部サイトにリンクします)や日本の診療の手引き第10.1版では引き続き推奨を継続しています。

日本や米国の推奨では、ニルマトレル/リトナビルが処方できない場合(高度な腎機能障害の存在や、ニルマトレルビルと併用できないお薬を服用されている場合など)にモルヌピラビルが推奨されています。このようなニルマトレルビルが使えない患者さんにおけるモルヌピラビルの効果を評価したイスラエルでの研究(2022年1月~2023年2月)では、入院もしくは死亡のリスクを半分に減らしました(リスク比0.5 [95%信頼区間:0.39-0.64] 約1か月後の死亡率:未治療群3.7%、治療群1.8%)。[外部サイトにリンクします]

国立がん研究センター東病院では腎機能障害や併用できない薬剤の影響などでニルマトレルビル/リトナビルを使用できない場合には米国や国内の推奨に従ってモルヌピラビルを処方しています。

オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちモルヌピラビルを投与した約1.1万人と投与しなかった約22万人の30日以降の後遺症合併割合を比較したところ、投与しなかった群の21.6%に対し、投与群では18.6%と低かった(約14%減少)ことが報告されています(米国での2022年1月~2023年1月の研究 参考 [外部サイトにリンクします] )2023年11月までのメタ解析でも後遺症を12%減少させることが示されています。[外部サイトにリンクします]

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更新日:2024年11月1日