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令和4年度 第1回 薬薬連携を充実させるための研修会 開催報告
▶講義内容1)大腸がん治療における副作用マネジメント~抗EGFR抗体薬を中心に~
▶講演内容2)よくあるご質問にお答えします
講演内容
講演(1):大腸がん治療における副作用マネジメント~抗EGFR抗体薬を中心に~
講師:消化管内科担当薬剤師 陳 美樹 先生
1.切除不能進行再発大腸がんに対する薬物療法
切除不能進行再発大腸がんに対する一次治療の方針を決定するにあたり、主に、化学療法の適応があるか、治療方針に関与する遺伝子変異があるか、腫瘍の部位の3点が重要です。
遺伝子検査では、主にMSI、RAS、BRAFの3つの遺伝子の検査を行い、1次治療方針の決定において、特に重要な項目が、RASとBRAFの変異の有無です。
大腸の構造は、解剖学的に大きく6つの部位に分かれていますが、治療方針を決定する際には、S状結腸~直腸を左側、盲腸~横行結腸を右側として、大きく2つに分類しています。左側と右側で化学療法の治療効果が違うという報告があり、治療方針を考える上では腫瘍の部位を考えることは、とても重要です。
抗EGFR抗体薬はRAS、BRAFが野生型であり、腫瘍占拠部位が左側の場合に、一次治療での使用が推奨されています。
2.抗EGFR抗体薬について
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)は、上皮性、間葉性など様々な部位に発現している膜貫通型受容体チロシンキナーゼであり、このチロシンキナーゼの活性化、すなわちリン酸化が、がんの増殖、進展に関わるシグナル伝達において重要であることが知られています。特に大腸がんでは、7~9割にEGFRの発現が認められると言われています。抗EGFR抗体薬EGFRを標的としたモノクローナル抗体薬であり、大腸がんに適用のあるのはセツキシマブとパニツムマブの2薬です。抗EGFR抗体薬は、基本的にKRAS遺伝子野生型のみ使用可能であり、EGFRのシグナル伝達系の下流に位置するKRAS遺伝子に変異を有する患者においてはその有効性が確認されていません。
3. 抗EGFR抗体の主な副作用について
抗EGFR抗体薬は、殺細胞性抗がん薬と違って分子標的治療薬であるため、特徴的な副作用があります。皮膚障害、電解質異常、下痢、口腔粘膜炎、間質性肺炎、infusion reactionなど様々な副作用があります。今回は特異的な皮膚障害と電解質異常の2点についてお話しします。
4.皮膚障害について
パニツムマブ等の抗EGFR阻害薬を投与することで、EGFRの活性が低下し、抗腫瘍効果を発揮します。この際、上皮細胞等のEGFRの活性も低下し、角化異常や爪母細胞の分化異常が生じることで皮膚障害が発生すると言われています。皮膚障害は種類によって出現時期が違い、ざ瘡様皮膚炎は2~4週目、皮膚乾燥は4週目、爪囲炎は6~8週目に発現のピークを迎えると言われています。皮膚障害の出現時期を見極めながら、モニタリングすることが重要です。
ざ瘡様皮膚炎は主に体表面積に占める病変の割合で重症度分類されており、CTCAEではそれに加えて疼痛の有無や感染の有無によってGrade分類されています。
皮膚障害の発現部位の範囲の評価方法としては、熱傷面積を算出する方法の1つである「9の法則」が代表的です。「9の法則」は、最も簡便で覚えやすい方法として多くの医療機関で使用されており、頭部・上肢(左右)・下肢(左右下腿・左右大腿)・体幹(前胸部・腹部・胸背部・腰背部臀部)の11カ所それぞれを9%、陰部を1%として算出する方法です。ざ瘡様皮疹の対策としては、一般的に外用ステロイド薬の塗布が推奨されています。外用薬の使用に加えて、ざ瘡治療に準じて、抗菌薬の内服治療が推奨されています。抗菌薬選択としては、抗菌作用に加えて抗炎症作用を有するテトラサイクリン系ドキシサイクリンとミノサイクリンが推奨されています。ミノサイクリンの使用にあたっては、悪心、めまい、肝障害等の副作用が出現する可能性があることから、皮膚障害のモニタリングだけでなく、ミノサイクリンの副作用もモニタリングすることが重要と考えます。なお、ミノサイクリンの服用が副作用等により困難なケースでは、代替薬としてマクロライド系抗菌薬が推奨されています。
皮膚乾燥のGradeは体表面積の割合、亀裂等による日常動作の制限で評価されます。
対策のメインはスキンケアであり、保湿・保清・保護の3つの「保」が大切です。
爪囲炎のGradeは、爪襞の浮腫や角質の離脱、局所感染を伴うか、外科的処置が必要かで評価されます。
爪囲炎の対策としては、感染が懸念されるため、洗浄して清潔さを保つことや適切な爪切りや指にらせん状にテーピングし、爪が指先に当たらないような工夫をします。そして、外用薬(ステロイド軟膏)を塗布します。症状がひどい場合は、ミノサイクリンやセフェム系抗菌薬の内服を行うこともあります。
5.皮膚障害と治療効果について
臨床現場では、抗EGFRの皮膚障害は重篤になる場合があり、治療を受けたくないと思われる患者さんに遭遇することがあると思います。しかし、抗EGFR抗体薬による皮膚障害は治療効果と相関するとの報告があり、安易な投与中止は避けることが、患者さんのメリットにつながると考えられます。皮膚障害は、適切なケアと対処である程度症状コントロールができるため、皮膚障害をなるべく予防あるいは軽減に努めることが重要になります。
特に大事なのは保湿等のセルフケアのため、患者さん自身が理解することが重要です。患者さんに皮膚障害の対応の重要性を理解してもらうことが服薬指導の重要なポイントになります。
具体的な対策として、海外でのSTEP試験と日本でのJ-STEPP試験より、保湿、局所外用ステロイド薬、内服抗菌薬の予防使用で重度の皮膚障害が発生するまでの期間を遅らせることができることが報告されています。
当院ではこれらの試験を参考に、予防的な保湿とミノサイクリンの予防内服、加えて、症状発現初期に適宜外用ステロイド薬の追加をしています。外用ステロイド薬は体にはVery Strongを使用していますが、顔面は皮膚が薄いため、Medium等の弱いものを使用しています。皮疹発現当初の強い炎症症状を効果的に抑制し、抗EGFR抗体薬が早期中止となることを避けるためには、比較的強めのステロイド外用薬をはじめから躊躇せず使うことが重要ではないかと考えています。そして、症状の軽減に応じて、ステロイドの強さを下げていく方針がよいと考えています。
6.電解質異常
EGFRはマグネシウムの再吸収に関与していると言われています。そのため、EGFRを阻害することでマグネシウムの再吸収が抑制され、血清マグネシウム濃度が低下すると考えられています。
また、低マグネシウム血症が生じている場合、カリウムの再吸収の低下や副甲状腺ホルモンの分泌の低下によるカルシウムの再吸収抑制が起こることが知られています。
血清マグネシウム濃度が1.2m/dL以上では、抗EGFR抗体薬継続可能とされています。1.2m/dL未満の場合は、心電図計測と>1.2m/dLまでマグネシウム補充が推奨されています。一般的には、低マグネシウム血症は急激に進行するのではなく、徐々に進行することから、早急に正常値へ回復させるアプローチではなく、経時的なモニタリングをしながらの対処でよいと考えられています。
おわりに
抗EGFR抗体薬は殺細胞性抗がん薬とは違った特徴的な副作用が多く、今回は皮膚障害と電解質異常についてお話をさせていただきました。皮膚障害は、患者さんのQOLや治療継続に直結する副作用であるため、適切な予防と対策が必要ですし、セルフケアに関するアドヒアランスを高めるような指導が必要不可欠です。また、電解質異常は無症状で進行することが多く、電解質異常による症状が発現した際は、重篤な容態をきたすケースがあることから、定期的なモニタリングが必要です。副作用対策にあたっては、医師・看護師との連携のみならず、病院薬剤師ー薬局薬剤師の連携、いわゆる薬薬連携の充実がkeyになると考えます。是非、協働して、患者さんの治療をサポートしていきましょう。今回の内容が、抗EGFR抗体薬の副作用に対する支持療法の理解を深めていく上で、また、服薬指導を実践する上で一助になりましたら幸いです。
講演(2):よくあるご質問にお答えします
回答者:消化管内科 医長 高島 淳生 先生
質問者:薬剤師 北爪 賀子 先生
消化管内科 医長 高島 淳生 先生をお招きし、対談形式にて薬剤師からの質問にお答えいただきました。当日のQ&Aの一部を紹介します。
Q:皮膚障害の副作用がどうしても嫌だと患者さんがおっしゃったら、例え効果が期待できても抗EGFR抗体薬の使用は避けるのでしょうか?患者さんを説得することもありますか?
A:とても難しい質問だと思います。実際に患者さんが抗EGFR抗体薬を使いたくないとおっしゃって使わなかった患者さんも結構いらっしゃるというのが現状かと思います。
これは抗EGFR抗体薬に限ったことではなく、抗がん剤治療全般に言えることで、「副作用が怖くて使いたくない」とおっしゃられる患者さんも実際にはいらっしゃいます。患者さんにはリスクとベネフィットを十分に説明した上で、患者さんにご納得いただいて、患者さんが選べる選択肢が増えるようにサポートしているつもりです。
特に皮膚障害に関しては、若い女性や営業職の方などで、生活や仕事に支障をきたす恐れがあることから避けたいとおっしゃられた方がいました。基本的には有効性と安全性を説明した上で選んでもらうというのが現状です。仕事だけでなく、家庭環境なども考慮することがあります。
Q: 術後補助化学療法において、単剤療法と併用療法を選択する基準を教えてください。また、術後補助化学療法は通常6ヶ月(8コース)実施しますが、最近3ヶ月(4コース)で終了する患者さんがいました。治療期間は3ヶ月でも良いのでしょうか?
A:術後補助化学療法の単剤療法とはフッ化ピリミジン単独療法、併用療法とはオキサリプラチン併用療法のことを指しています。術後補助化学療法はStageIII大腸がんに推奨されています。StageII大腸がんの再発高リスク群では術後補助化学療法を行うことが推奨されていますが、StageII大腸がんに一律に術後補助化学療法を行うことは勧められていません。術後補助化学療法の実施期間ですが、StageIIIの「結腸がん」の中でも再発低リスク群(T1~3かつN1)の場合にはカペシタビン+オキサリプラチン療法(CAPOX療法)3ヶ月でも良いと言われています。これは臨床試験の結果をもとにしており、標準治療であるCAPOX療法8コースと比較しても、4コースで実施した場合において治療成績が劣っていないことが報告されました1)。オキサリプラチンは非常に良い薬ですが、最も困る副作用のひとつに末梢神経障害があります。オキサリプラチンの末梢神経障害は蓄積毒性で、回数を投与すればするほど増強することがわかっています。CAPOX療法8コースの投与が終わって3~4年経過していても末梢神経障害が残ってしまうということが臨床試験のデータからわかっています2)。この末梢神経障害を軽減させることができないかということで4コースの臨床試験が行われました。4コースで実施した場合には末梢神経障害は8コース実施した場合と比較して3分の1に減っているというデータが出ており、対象の患者さんに対して4コースで実施するレジメンは有用であると考えています。
Q:レゴラフェニブについて、少量から開始することもあるようですが、用量や漸増などの基準はありますか?
A:レゴラフェニブの添付文書によれば用法用量は「レゴラフェニブとして1日1回160mgを食後に3週間連日経口投与し、その後1週間休薬する」となっており、1コースが3投1休で投与されますが、前向き観察研究によれば日本人において添付文書通りに1コース内服できた患者さんは4分の1しかいないことが報告されました3)。また、海外の臨床試験の報告ですが、1日80mgで開始し、日常生活に影響がない程度の副作用に落ち着いている場合に1週間後に1日120mg、さらに1週間後に1日160mgに増量する集団と、1日160mgで開始する集団を比較したところ、2つの集団で有効性に差はなく、むしろ1日80mgで開始した集団の方が毒性のマネジメントがうまくいって治療継続できたことから有効性が高い傾向が見られたという結果となりました4)。この報告を踏まえて、私個人の診療方針になりますが、1日160mgで開始することはなく、1日80mgもしくは1日120mgで開始し、次週に再度受診してもらい、副作用が許容範囲であれば増量するということを行っています。
Q:ロペラミドについて、頓服で1回1mg、10回分と処方されるケースが多いと思います。ASCOのガイドラインにおける推奨用量と日本の承認用量は異なりますが、使い方をどのように説明されていますか?
A:まず当院の現状ですが、抗がん剤治療を初めて実施する際に処方しているセット処方(副作用出現時に使用してもらう頓服などのセット)では、ロペラミドが「1回1 mg、10回分」で処方されていますが、私自身は1回1 mgで飲んでみて下痢が治まらない場合は1回2 mgを内服してもらい、さらに下痢が続く場合は下痢が起こる度に2 mgずつ飲むように伝えています。下痢が治まるまでロペラミドを続けてもらうように説明しています。ASCOのガイドラインでは初回内服量が4 mgとなっていますが、4 mgで飲むようにとは説明していません。
Q: 切除不能大腸癌に対する後方治療では、レゴラフェニブとトリフルリジン・チピラシルが用いられますが、使い分けはありますか?
A: 使い分けはあります。基本的に治療選択をするときには3つの観点、a.有効性、b.安全性(副作用)、c.利便性(投与スケジュールや内服/点滴など)から治療方法を選ぶようにしています。AとBの治療法があった場合に、この3つの観点を比較してどちらの治療が良いかを決め、また患者さんにも説明しています。レゴラフェニブとトリフルリジン・チピラシルの場合、aについては、直接比較した臨床試験はありませんが、後方視的調査では有効性はほぼ同じと報告されています5)。bについては、レゴラフェニブの代表的な副作用は手足症候群、トリフルリジン・チピラシルの代表的な副作用は消化器毒性・血液毒性という違いがあります。cについては、内服薬であるという点は同じですが、投与スケジュールに多少の違いがあります。このbとcの違いによって患者さんと相談しながら決めています。ただ、最近はトリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブの併用療法(臨床試験)が行われていることもあり、どちらかというとトリフルリジン・チピラシルの方が増えてきている印象です。
Q: ストマを造設した患者さんで頻回な下痢の相談を受けることがあります。整腸剤や下痢止めの使い方などがあれば教えてください。
A: ストマを造設した患者さんは基本的には外科の先生に下痢の管理を依頼していることが多いです。下痢は止めた方が良いので、性状が水様便の場合は、天然ケイ酸アルミニウムやタンニン酸アルブミンのような止痢薬を使うことが多いです。回数が多い場合は、アヘンチンキを積極的に使うことが多いです。ストマを造設した患者さんへ介入する場合は、どこにストマが造設されているかを確認してもらうと良いと思います。小腸でストマを造設した場合は水様便が非常に多くなりますが、大腸でストマを造設した場合には水様便は出ないことが多いです。
最後に
本日参加されている薬剤師さんは、調剤薬局の方がメインと伺っていますが、医師が処方した後の薬剤管理や副作用マネジメントは調剤薬局の薬剤師さんの働きが必要不可欠だと思っています。トレーシングレポートも拝見していますが、医師の限られた診察時間内では把握しきれなかった情報が記載されており、非常に有り難く思っています。
今後ともよろしくお願いします。
1) Grothey A, Sobrero AF, Shields AF, et al. Duration of Adjuvant Chemotherapy for Stage III Colon Cancer. N Engl J Med. 2018;378(13):1177-1188.
2) André T, Boni C, Navarro M, et al. Improved overall survival with oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin as adjuvant treatment in stage II or III colon cancer in the MOSAIC trial. J Clin Oncol. 2009;27(19):3109-3116.
3) Yamaguchi K, Komatsu Y, Satoh T, et al. Large-Scale, Prospective Observational Study of Regorafenib in Japanese Patients with Metastatic Colorectal Cancer in a Real-World Clinical Setting. Oncologist. 2019;24(7):e450-e457.
4) Bekaii-Saab TS, Ou FS, Ahn DH, et al. Regorafenib dose-optimisation in patients with refractory metastatic colorectal cancer (ReDOS): a randomised, multicentre, open-label, phase 2 study. Lancet Oncol. 2019;20(8):1070-1082.
5) Moriwaki T, Fukuoka S, Taniguchi H, et al. Propensity Score Analysis of Regorafenib Versus Trifluridine/Tipiracil in Patients with Metastatic Colorectal Cancer Refractory to Standard Chemotherapy (REGOTAS): A Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum Multicenter Observational Study. Oncologist. 2018;23(1):7-15.