トップページ > 診療科・共通部門 > 外科系 > 乳腺外科 > 診療について
診療について
当科初診の場合、乳腺外科医による問診、視触診の後、各種必要な検査をオーダーします。乳がんの診断は、放射線診断部の医師がマンモグラフィ、超音波検査、MRIなどを駆使し画像的に良性悪性の判断を行い、乳腺外科で細胞診、針生検、摘出生検、マンモトームなどを施行、得られた検体から病理診断医が組織学的に確定診断を行います。これらの結果から、乳がんと診断された場合、病気の性状を考慮し治療計画を立てます。現在乳がんの根治に手術は必須と考えられておりますが、薬物療法、放射線治療など複数の治療法を組み合わせることで治癒を高めようとしております。このため各科の医師で構成される乳腺治療カンファレンスにて適切な方法が決定されます。当院での乳がん診療は「チーム医療」として行われ、乳腺外科だけでなく、腫瘍内科、放射線治療科、放射線診断科、精神腫瘍科、病理診断科、形成外科、遺伝子診療部門、看護部、薬剤部、臨床検査部などが協力して最新の治療が安心して実施できる体制を整えております。
手術療法
手術は乳がんの治癒に必要不可欠な治療であります。一般に乳がんの手術は、しこり(腫瘤)のある乳房と腋窩リンパ節(「えきか」と読み、腋の下にあるリンパ節)の両方が手術対象となります。
乳房の手術は、乳房の大きさに対してがんの存在範囲が限局しており、がんの遺残なく切除可能で、十分整容性が保てると判断される場合は乳房温存術(乳房部分切除術)が適応となります。しこりが大きな場合でも、手術の前に薬物療法を施行することで、しこりを小さくすることができれば温存が可能となります。当院では術前の正確な画像診断や術前薬物療法を施行し腫瘤を縮小化することにより、2023年度には全原発乳がん手術例の48%で温存が可能となりました。乳房を温存する場合、欠損部分が大きいときは周囲の乳腺・脂肪を授動し充填するなど、きれいな乳房を形成する工夫をしております。しかし、乳房温存が安全かつ整容性を保つことが困難であり全切除が必要と判断した場合は、形成外科とによる乳房再建術もご提案いたします。再建方法には、ご自身の腹部や背部の組織を移植する方法(自家組織移植法:腹部穿通枝皮弁法、広背筋皮弁法など)と、シリコン性人口乳房を挿入する方法(エキスパンダー・インプラント法)があり、当院ではどちらの方法でも可能です。再建方法に関する詳細は形成外科でご相談となります。
また、乳がんは腋窩リンパ節に転移しやすいため、術前に明らかに腋窩リンパ節が腫れて転移があると診断される場合には、がんの取り残しがないように腋窩リンパ節の切除(腋窩郭清)が必要になります。しかし、これにより患側上肢の運動障害、知覚障害、リンパ浮腫などの後遺症がおこる可能性があります。一方、術前に正常と思われた腋窩リンパ節にも、画像では見つけることのできない小さながんの転移が20%から30%の割合で存在します。以前は、この腋窩リンパ節転移が正確に診断できなかったため、一律に腋窩郭清を施行してきました。しかし、現在ではがんが最初に転移すると考えられるリンパ節、センチネルリンパ節(見張りリンパ節)を術中に同定・摘出し、術中の病理検査で転移の有無を診断します。センチネルリンパ節に転移が認められなかった方は、腋窩郭清の省略が可能です。また、センチネルリンパ節に転移が認められた方でも、一定の条件を満たせば腋窩郭清の省略が可能であることが分かってきています。
2023年12月には早期乳がんに対してラジオ波焼灼療法(RFA)が保険収載されました。RFAとは体表面から乳房内病変に対して、超音波検査下にラジオ波電極針を穿刺し、病変にラジオ波による焼灼を行う手技です。対象となる患者さんは、1) 針生検で原発性乳管癌と診断されていること、2) がんの大きさが1.5cm以下で、単発の限局性病変であること、3) 今回の乳癌に対してホルモン療法、化学療法、放射線療法などの治療歴がないこと、4) 術後の放射線治療が可能なこと、5) 術前診断にて腋窩リンパ節転移がないこと、です。乳がんの標準治療は外科的切除であり、RFAは上記の条件を満たした方で、術後に放射線治療を受けることや放射線治療後に針生検や必要な画像検査を受けること、標準的な薬物療法を受けることを前提に行われる治療法です。外科的切除に伴う整容性に関するデメリットを避けることができ、患者さんの生活の質が改善されることが期待されています。
さらに、当院では2022年より整容性と安全性を追求した乳頭温存乳房全切除術を行うため、CO2気嚢法による単孔式内視鏡下乳頭温存乳房全切除術を開始しております。
このように、適確な乳房温存方法や腋窩郭清の省略など、不必要な外科的侵襲を避けて患者さんの体への負担が少ない医療や同時乳房再建などの整容性を重視した外科治療の実践を目指しております。
薬物療法
乳房内の腫瘍縮小だけでなく、手術が不能な全身に散らばっているかもしれない微小ながんの根絶を目指し、術前術後に全身薬物療法を施行します。当院では腫瘍内科と連携して抗がん剤、ホルモン剤、分子標的治療薬などの薬物療法を施行します。2023年度では手術をした原発乳がん手術症例の25%で術前薬物療法を施行しました。詳細は腫瘍内科をご覧ください。
放射線治療
基本的に乳房温存した場合、全摘後でも再発の危険性が高いと判断した場合は放射線治療を施行しております。詳細は放射線治療科をご覧ください。
最近の原発乳がん手術術式と件数
術式 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|---|---|
全切除+郭清 | 56 | 43 | 55 | 64 | 53 |
部分切除+郭清 | 10 | 22 | 21 | 23 | 26 |
全切除+センチネルリンパ節生検 | 189 | 185 | 184 | 215 | 216 |
部分切除+センチネルリンパ節生検 | 143 | 144 | 186 | 187 | 201 |
その他 | 13 | 28 | 28 | 17 | 34 |
合計 | 411 | 422 | 474 | 506 | 530 |
2021年度、2022年度、2023年度は乳房全切除同時再建術をそれぞれ30件、16件、21件施行しました。