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インフルエンザについて
インフルエンザとは?
インフルエンザウイルスによって発熱、高度な倦怠感、咳、鼻水、頭痛や筋肉痛などの症状が出現する病気です。ここでは季節性インフルエンザについてご説明します。
抵抗力の落ちた人にとって、インフルエンザはあなどれない
若い健康な人の場合重症化することは稀ですが、高齢者をはじめとした体の抵抗力の落ちた方の場合には注意が必要です。欧州ではインフルエンザによる死亡者の約9割を高齢者が占めることが示されています。
参考文献
参考:インフルエンザによる死亡割合(米国のデータ(外部サイトにリンクします)
年齢 |
10万人当たりの死亡割合 |
---|---|
85歳以上 |
43.3人 |
75歳-84歳 |
8.7人 |
65歳-74歳 |
2.2人 |
25歳-34歳 |
0.1人 |
がん患者さんは特に危険!
米国の研究(2011-15年のデータ)では、免疫不全のない人と比較すると、がん患者さんがインフルエンザに罹患(りかん)した場合、死亡のリスクが高いことが報告されています(オッズ比1.71-)(参考文献1)。
がんの中でも肺がんや血液腫瘍の患者さんはより重症化するリスクが高いことが知られており、米国の研究では肺がん患者さんの死亡率は8.4%、血液腫瘍の患者さんの死亡率が7.0%と、直腸がん(5.8%)や乳癌(2.8%)、前立腺癌(3.5%)などより高いことも示されています(参考文献2)。
2018年に行われた日本国内の腫瘍治療医へのアンケート調査では、担当する患者さん、インフルエンザに罹患することによって抗がん剤治療の延期または中止を余儀なくされた医師は40%にものぼり、インフルエンザの重症化のリスクだけでなく、がん治療にも影響を及ぼす可能性が指摘されています(参考文献3)。
参考文献
- Collins JPらの報告(Clin Infect Dis. 2020)(外部サイトにリンクします)
- Li Jらの報告(ESMO Open. 2020)(外部サイトにリンクします)
- Maeda Tらの報告(Cancer Sci. 2021)(外部サイトにリンクします)
注:オッズ比:インフルエンザに罹患したがん患者さんが肺炎にかかる確率Pを、肺炎にかからない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(インフルエンザに罹患したがん患者さんが肺炎にかかるオッズ)をインフルエンザに罹患していないがん患者さんが肺炎にかかるオッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。インフルエンザに罹患したがん患者さんの方が肺炎にかかるオッズの方が高い場合にオッズ比は1を超えます。(つまり、オッズ比が1を超えて大きな値となるほどインフルエンザに罹患したがん患者さんの肺炎リスクが高く、逆に1より小さくなればなるほどインフルエンザに罹患したがん患者さんの肺炎リスクが低いということになります。)
予防が重要
予防で特に重要なのは日々の手洗い、うがいです。新型コロナウイルスの他、夏場にもインフルエンザと診断される場合や、夏場に流行するウイルス(パラインフルエンザウイルスなど)もありますので、一年中、手洗いやうがいをしっかりと行う必要があります。また、体調のすぐれない人との接触もなるべく避けましょう。
インフルエンザワクチンについて
ワクチンの効果
がん患者さんを対象に、インフルエンザワクチンがどの程度、インフルエンザを減らしたかについて調べた研究が行われており、ワクチンを接種することによって死亡割合を減らしたり、重症化を防いだりする可能性があることが示されています。
例えばカナダでの26000人を超えるがん患者さんを対象とした研究(2011-16年)では、ワクチン効果(注)が21%、入院予防効果が20%と報告されています。この報告の中では血液腫瘍の患者さんは8%と低いワクチン効果でした(参考文献1)。しかし、イタリアからの報告(2019年10月-2020年1月)では、インフルエンザによる合併症の頻度を38%から12%まで減らしてくれたという報告があり、重症化の防止に大きな役割を示す可能性が示されています(参考文献2)。また、免疫チェックポイント阻害剤を投与された固形がん患者さんにおいてインフルエンザワクチンを接種した方が接種しなかった患者さんより生存期間が長かったという報告が複数あります(参考文献3)。
参考文献
- Blanchette PSらの報告(J Clin Oncol. 2019)(外部サイトにリンクします)
- Bersanelli Mらの報告 (J Immunother Cancer. 2021)(外部サイトにリンクします)
- Bersanelli Mらの報告 (EClinicalMedicine. 2023)(外部サイトにリンクします)
など
がん患者さんの周囲の方への接種も重要
がん患者さんへのインフルエンザワクチンが不十分なことを踏まえ、患者さんの周囲の方(家族やお世話をされる方)へインフルエンザワクチンを接種しインフルエンザにかからないようにすることで、間接的に患者さんを守ることも重要となります。
(注)ワクチン効果21%とは、1000人のがん患者さんのうちワクチンを接種しなければ100人発症するところをワクチンを接種すれば79人の発症にまで減らす効果を指します。
ワクチンの副反応
健康な人よりもワクチンの副反応(副作用)が多くなるという心配はなく、ワクチン接種によるがんの増悪、重篤な副反応の増加もないとされています。もし何らかのアレルギーがあるようでしたら、接種時に必ず申告してください。
ワクチンを接種することによってワクチン由来のインフルエンザにかかる危険性はありません。しかし上記の通りワクチン効果は100%ではないので、ワクチン接種後でもインフルエンザにかかる可能性はありますのでご注意ください。
免疫チェックポイント阻害剤の投与を受けた場合には免疫反応の副作用が強く発現する可能性が危惧されました。しかし、最近の報告ではインフルエンザワクチンを接種しても免疫反応の頻度は増加しないという報告も増えてきており、接種が推奨されています。
参考文献
- Chong CRらの報告(Clin Infect Dis. 2020)(外部サイトにリンクします)
- Spagnolo Fらの報告(Eur J Clin Invest. 2021)(外部サイトにリンクします)
インフルエンザワクチンの注意点
リツキシマブ(リツキサン®)やオファツムマブ(アーゼラ®)、オビヌツズマブ(カザイバ®)など一部の抗がん剤の投与を受けた場合、最低半年の間はワクチンの効果が期待できないとされるものがあります。また、免疫抑制剤を内服している患者さんなども効果が期待できない場合があります。現在抗がん剤治療中の方や、心配がある場合には主治医にワクチン接種ができるか確認しましょう。インフルエンザワクチンは10月の終わりごろまでに1回接種することが勧められます。
参考文献
インフルエンザにかかった(もしくは疑わしい)場合は
抗がん剤治療中のがん患者さんがインフルエンザにかかった場合は命にかかわる場合もあります。速やかにかかりつけの病院もしくは、お近くの内科を受診する必要があります。かかりつけ医以外の医療機関を受診する場合には、ご自身ががん患者であることや、現在受けているがん治療、内服中の薬剤などをしっかりと伝えるようにしましょう。
もし受診が困難な場合は、担当医へ電話で相談するようにしましょう。
お問い合わせ
国立がん研究センター東病院 医療安全管理部門 感染制御室
電話番号:04-7133-1111(代表)
受付時間:平日8時30分から17時(土曜日、日曜日、祝日、年末年始を除く)