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松村保広博士「トムソン・ロイター引用栄誉賞」受賞記念講演を柏キャンパスで開催
先端医療開発センター 新薬開発分野・松村保広分野長が、2016年度の「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を受賞されました。同賞の受賞は国立がん研究センターの研究員としては初の栄誉です。これをお祝いし、3月15日に柏キャンパスで記念講演を開催しました。当日は、センターのスタッフのみならず、連携大学院として提携している東京大学の先生方や学生、共同研究を行っている企業の研究者など多数詰めかけました。
講演の演題名は“EPR効果から抗体開発へ”で、今回の受賞理由であるEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果について、発見に至る契機やエピソードなどから、EPR効果の仕事を発展させた腫瘍間質を標的にしたCAST(Cancer Stromal Targeting)療法や大腸がん新規特異抗体の開発について講演されました。各研究に関わった研究者やスタッフの紹介とともに、研究に対する松村先生の熱い情熱が聴衆を魅了していました。
サイズの大きな高分子物質が、腫瘍選択的に漏れ出て、しかも溜まりやすいというEPR効果のコンセプトは、DDS(Drug delivery system)領域ではドグマ化されています。本発見にアイデアを得た多くの化学系(有機化学、材料工学、薬学)の研究者がリポソームやミセル体などの高分子DDS製剤の開発を世界レベルで精力的に行っており、4000を超える引用のうち、化学領域の雑誌の引用が2600以上と群を抜いているのも、このためです。一方で、原著においては実際に腫瘍への選択的集積性を評価したのはIgGであり、抗体そのものが腫瘍に選択的に集積しやすいということを世界で初めて発見されました。今日、抗体医薬はがんの治療薬として広く使われていますが、そのコンセプトにはEPR効果とDDSの本質が存在するという重要性をいち早く見抜かれました。さらに、EPR効果の発見者であるからこそ、EPRの限界も見え、抗体医薬を含む高分子DDS製剤を腫瘍部に集積させることでは不十分であり、腫瘍内部においても薬剤デリバリーを阻害している因子が存在するのだということに気がつき、そのひとつである間質の存在に着目しました。血液凝固系においても先駆的研究を継続してきた経験から、フィブリンを標的にしたCAST療法の開発を行うことになりました。“いいもの”は臨床に役に立つ。逆に臨床に役に立てるためには、研究とはいえ本当に“いいもの”を創る必要がある。そのためには、どのように研究を継続して発展していくべきであるかという、がん領域においても“ものづくり”の重要性や、。流行りの研究に惑わされることなく、未開拓の分野を切り開くことの重要性は若い研究者の方々にも、大きく胸に響く言葉であったと思われます。
柏キャンパスでは記念講演に引き続き、懇親会が開かれました。多くの方が参加されて、松村先生の「トムソン・ロイター引用栄誉賞」をお祝いしました。中釜理事長、社会と健康研究センター長の津金センター長を始め多くの先生方に祝辞を受け賜わりました。松村先生を取り囲んで、今回の受賞を喜ぶ参加者の皆さんの終始にこやかな雰囲気と談笑の数々で会場も和んでいました。
プレスリリース
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