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令和3年度 第2回 薬薬連携を充実させるための研修会 開催報告
▶講義内容1)初歩から分かる薬薬連携 肺がん初回治療の患者さんが来局したらどうする?
▶講演内容2)よくある疑義照会にお答えします
講演内容
講演(1):初歩から分かる薬薬連携 肺がん初回治療の患者さんが来局したらどうする?
講師:呼吸器内科科担当薬剤師 有馬 崇充 先生
1.肺がんについて
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。肺がんは、組織型によって、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つに大きく分かれます。発生頻度は非小細胞肺がんが高く、全体の60%を占める腺がんと20%を占める扁平上皮がん、15%を占める神経内分泌腫瘍に分類されます。小細胞肺がんは、非小細胞肺がんと比べて増殖速度が速く、転移や再発をしやすい腫瘍です。
非小細胞肺がんと小細胞肺がんでは、治療方針が大きく異なるため、検査によって組織型を確認してから治療を開始します。
今回は、非小細胞肺がんを中心にお話をすすめていきます。
2.非小細胞肺がんの治療について
比較的早期の非小細胞肺がんの治療の中心は手術です。stageIからIIIA期の場合には、再発予防を目的に、術後化学療法を併用することがあります。一方で、I期からIII期で手術が難しい場合には、治癒を目標とした放射線治療を行います。II期・III期で体の状態がよい場合には、化学放射線療法を行います。放射線化学療法が困難なIIIBからIV期の場合は、薬物療法が治療の中心になり、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を使用します。薬物療法においては単剤の治療だけでなく、複数の薬を組み合わせて併用することもあります。
3.非小細胞肺がんの薬物療法について
非小細胞肺がんの薬物療法は、ここ最近大きく変化しました。以前は細胞障害性抗がん薬の組み合わせでの治療が主流でしたが、現在では「分子標的治療」「免疫療法」という新たな選択肢があります。
遺伝子検査を行い、「ドライバー遺伝子」の異常(転移・転座)があると確認された場合は分子標的治療が行われます。肺がんでは、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子の異常やALK融合遺伝子などが発見されており、これらの遺伝子異常によって引き起こされるがん細胞の増殖を抑制する薬剤が、肺がん領域で用いられています。
一方で、がん細胞または組織中に「PD-L1」と呼ばれるたんぱくが発現していると確認された場合は免疫療法が適応となります。免疫療法は、手術、放射線、抗がん剤に加えて、第4の治療法として期待されています。
遺伝子情報を加味した上で治療方針が決定され、ドライバー遺伝子陽性例では各種チロシンキナーゼ阻害薬が第一選択となります。一方で、ドライバー遺伝子陰性例での1次治療は、免疫チェックポイントと細胞障害性抗がん薬を併用する治療が主流となっています。
ペムブロリズマブまたはアテゾリズマブと細胞障害性抗がん薬との併用療法は、投与間隔を21日間として、プラチナ製剤は4-6コース目まで併用を行い、その後は維持療法として免疫チェックポイントによる治療が継続されます。ニボルマブとイピリムマブ併用療法は、投与間隔を42日間として、プラチナ製剤は1日目と22日目に投与を行い、1コース目までプラチナ製剤を併用し、その後は維持療法としてニボルマブとイピリムマブによる治療が継続されます。
4. 細胞障害性抗がん薬と免疫チェックポイントの有害事象について
ドライバー遺伝子陰性例での1次治療は免疫チェックポイント阻害薬も併用されることから、従来の細胞障害性抗がん薬による有害事象だけでなく、免疫関連の有害事象についても注意が必要です。このことから有害事象は多岐に渡り、患者さんは多くの有害事象を注意する必要があります。私たち病院薬剤師も服薬指導を工夫しながら行なっており、個々人の理解力に応じて指導内容を調節しています。
1)細胞障害性抗がん薬の代表的な有害事象について
免疫チェックポイント阻害薬と異なり、発現時期が明確です。
●1週間以内に発生しやすい有害事象: 悪心・嘔吐、食欲不振、便秘など
<悪心・嘔吐>
肺がん治療のKey drugのひとつはプラチナ製剤であり、主にシスプラチンとカルボプラチンが用いられています。シスプラチンとカルボプラチンともに高度催吐性リスクに分類されており、これらのプラチナ製剤含有レジメンにて治療を行う場合、予防制吐療法としてアプレピタント・セロトニン受容体拮抗薬・デキサメタゾンの3剤を併用することがガイドラインでは標準療法とされています。最近では、J-FORCE試験(Hashimoto H, et al. Lancet Oncol 2020; 21(2): 242-249.)の結果に基づき、3剤併用療法+オランザピンが、プラチナ製剤含有レジメンによる予防的制吐療法として主流になりつつあります。
●1~3週目で発生しやすい有害事象: 口内炎、骨髄抑制など
<骨髄抑制>
例えば、カルボプラチン+パクリタキセル療法の発熱性好中球減少症(FN)発症割合は18%、シスプラチン+ペメトレキセド療法のFN発症割合は1.3%と報告されています。このように、レジメンによってFN発症割合が異なることから、患者さんが実際に行っているレジメンのFN発症割合を把握した上で、骨髄抑制とFNを発症した際の注意事項と対策を説明することが重要です。当院では、骨髄抑制やFNについて患者さんに説明する際、当院薬剤部作成のパンフレット「抗がん剤治療後に発熱したら~抗菌剤などの薬の飲み方と注意~」(こちら:PDFが開きます)を用いて指導を行っています。
2)ペネトレキセドの有害事象とその対策について
葉酸代謝拮抗剤ペメトレキセドは、非小細胞肺癌の組織型のひとつである非扁平上皮癌に対するKey drugです。ペメトレキセド投与中の患者では、体内で葉酸とビタミンB12が不足すると、骨髄抑制などがあらわれる場合があることが知られています。したがって、ペメトレキセドの投与を受ける患者さんは、副作用を軽減するために葉酸とビタミンB12を併用します。葉酸とビタミンB12の欠乏と副作用の関連性について評価を行った研究において、葉酸やビタミンB12の欠乏マーカーとしてホモシステインやメチルマロン酸の血中濃度を測定したところ、ホモシステインやメチルマロン酸が高値の患者で重篤な副作用の発現率が高いことが報告されています。ペメトレキセド治療下において、葉酸を投与することで、ホモシステイン濃度、ビタミンB12を投与することでメチルマロン酸濃度を低下させ、副作用が軽減されると考えられています。具体的には、パンビタン®(連日内服)およびフレスミン®(3か月に1回筋注)を初回投与7日前から投与を開始し、投与終了後22日目まで継続することとなっています。
また、ペメトレキセド特有の有害事象として、皮疹があります。国内第II相試験の結果では、クレード3以上の皮疹発生頻度は低いものの、全クレードでは約70%と高頻度で発生しており、そのほとんどが1コース目で発現していると報告されています。皮疹を認めた場合の対処方法として、外国第III相試験では、前日にデキサメタゾン4mgを1日2回、投与日に6.6mgの静脈注射、投与翌日に4mgを1日2回投与した場合の皮疹の発生頻度は14%であったと報告されています。この結果から、皮疹が認められた場合は、次コースからデキサメタゾンの予防投与を実施するか否かを検討します。その他、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬の使用を適宜検討します。
3)免疫チェックポイント阻害剤の有害事象について
免疫関連有害事象(irAE)は、細胞障害性抗がん薬と異なり月単位で出現してくるものもあり、免疫チェックポイント阻害剤中止後も長期的に注意しなければなりません。
<皮膚症状について>
皮膚症状はirAEの中でも最も頻度が高い有害事象であり、3分の1以上の患者において認められます。皮膚irAEは下記のとおりです。
<下痢・腸炎について>
発症率は10-30%程度と皮膚irAEに次いで2番目に頻度が高いirAEであり、休薬・中止原因の最多を占めております。治療開始から1-2ヶ月程度で出現することが多い一方で、免疫チェックポイント阻害剤投与終了後においても出現することがあり、治療終了後6ヶ月以内は注意が必要です。初発症状としては、下痢が最も多く、腹痛・血便と続きます。irAE下痢・腸炎の診断には、消化器感染症との鑑別も重要であるため、irAE下痢・腸炎を疑う症状を聴取した場合は、病院へ連絡することが重要です。
5.まとめ
肺がんの薬物療法は、今や外来治療が主になっています。その点では、薬局薬剤師の方々が、肺がん患者さんに関わる機会は増えていると思います。治療中の患者さんに、どのような症状がいつあらわれるかについては個人差がありますが、いずれも早めに気づいて適切な対処を行うことが重要です。患者さんが安全にかつ安心して治療を行っていけるように、細胞障害性抗がん薬に加えて、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬各々の特徴(発現頻度、時期)を把握し、継続的に副作用モニタリングを行うことが重要です。患者さんに生じる有害事象を早期発見、早期治療するために、我々薬剤師は、医師・看護師との連携のみならず、病院薬剤師-薬局薬剤師の連携、いわゆる薬薬連携の充実がkeyになると考えます。是非、協働して、患者さんの治療をサポートしていきましょう。
講演(2):よくある疑義照会にお答えします
回答者:呼吸器内科 医員 大熊 裕介 先生
質問者:薬剤師 吉野 麻結 先生
呼吸器内科 医員 大熊 裕介 先生をお招きし、対談形式にて薬剤師からの質問にお答えいただきました。当日のQ&Aの一部を紹介します。
Q:肺がんによる症状と薬剤性肺障害の症状を鑑別する上でポイントがあれば教えてください。
A:肺がんの治療中に呼吸器症状の増悪をきたした場合、どこまでが原疾患の増悪で、どこからが薬剤性肺障害であるかを区別することは困難です。薬剤性肺障害を鑑別・診断する上で重要なことは、全ての薬剤が肺障害を引き起こす可能性があることを念頭に置いてアプローチすることです。新しい肺病変が出現した際には、まず薬剤性肺障害の可能性を念頭に置きつつ、既存の肺病変の悪化あるいは何らかの感染症と鑑別していきます。
この際に、自覚症状は薬剤性肺障害を診断・鑑別する過程で重要です。呼吸器症状として重要なものは、息切れ・呼吸困難、乾性咳嗽、胸痛、喘鳴、血痰です。
薬剤性肺障害では、具体的には、治療開始後に1か月以内に「コンコン」といった感じの乾いた咳が発現することがあります。また、トイレに行くだけでも息切れを感じる、あるいは、夜間に目が覚めるほどの息苦しさが生じることがあります。薬剤性肺障害の場合、薬剤の投与から肺障害発症までの時間的経過はまちまちで、投与後数分以内に発症するものから、投与から数年を経て発症するものまで多様です。ただし、一般的には、投与開始後2~3週間から、2~3ヶ月で発症するものが多いと言われています。
薬剤性肺障害の発症を疑った際には、
- 原因となる薬剤の摂取歴があるか否か
- 薬剤に起因する臨床病型の報告があるか否か
- 他の原因疾患が否定できるか否か
- 薬剤の中止により、病態が改善するか否か
- 再投与により増悪するか否か
【参考資料】
日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会編:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版 2018.メディカルレビュー社
Q: EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの治療薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI )の副作用として皮膚障害が代表的ですが、皮膚障害に対してどのような対応をされていますか?
A:EGFR-TKI投与による皮膚障害は、高頻度に生じます。発現時期は投与直後から発現することが多いです。症状としては、赤く腫れる、吹き出ものがでる、皮膚が乾燥するなどがあげられます。皮膚障害への対応のポイントは、EGFR-TKIによる治療を中断させないために皮膚障害の重症化を防ぐことです。予防としては、肌を清潔に保つことや、肌の乾燥を防ぐための保湿、衣服やシャワーの温度などによる皮膚への刺激を避けるといった日常的なスキンケアが重要になりますし、EGFR-TKIの処方と同時に保湿剤を処方して、患者さんに塗布をするように指示することがあります。症状が出始めた後は、Grade1~2程度であれば、外用ステロイド、経口ミノサイクリンなどの対症療法を行います。
一方、重篤化し、忍容できない場合(Grade3相当へ至った場合)には、EGFR-TKIを休薬した上で対症療法を実施し、Grade1以下に回復した後に減量して投与再開することを検討します。重篤化した場合には、皮膚科へコンサルトすることもありますし、塗布部位によって、剤形・基剤を選択して処方します。剤形・基剤については、是非、薬剤師のアドバイスをいただければと思っています。
Q:ロルラチニブ(ローブレナ錠®)の副作用のひとつに認知障害がありますが、その特徴や注意すべき点について教えてください。
A:ロルラチニブは高い選択性と脳移行性を持つ第三世代のALK阻害剤です。ロルラチニブは、副作用として中枢神経系障害がある点が特徴的です。臨床試験の報告では、中枢神経系障害として、認知障害が約18%、気分障害が約15%、言語障害が約7%に認められています。ほとんどがGrade1~2で、Grade3以上は1%程度です。発現時期は、中央値でみると約1~2ヵ月です。具体的な症状としては、注意散漫になる、物を置いた場所を忘れる、家事(買い物、料理など)が思うようにできなくなるなどの症状を訴える患者さんがいます。
また、言葉を話すスピードが遅くなる会話障害を認めることがあります。その他として、幻覚の症状を認めるケースや、感情が不安定になる患者さんもいます。
これらの症状は一例にすぎませんが、中枢神経系障害を疑う症状があらわれた場合、一般的には、ロルラチニブの減量・休薬を行うと症状は改善します。患者さんが、いつもと様子が違うようであれば、担当医や看護師・薬剤師に相談してもらえるよう、患者さんへ指導することが大切だと思っています。その他、患者さんの指導において大切な点として、幻覚が生じることがありますので、治療中は車の運転は控えるように指導することです。
Q:国内初のがん悪液質治療薬であるグレリン様作用薬「アナモレリン塩酸塩錠(エドルミズ錠®)は非小細胞肺がん患者に適応がありますが、ご処方されていますか?
A:はい、処方しています。
日常臨床において、アナモレリンの使用により体重増加や食欲増進を実感する患者さんが一定の割合でおりますので、適応を慎重に評価して、処方するか否かを検討しています。
処方基準としては、6か月以内に5%の体重減少と食欲不振があり、加えて「1.疲労または倦怠感」、「2.全身の筋力低下」、「3.CRP値0.5mg/dL超、ヘモグロビン値12g/dL未満、またはアルブミン値3.2g/dL未満のいずれか1つ以上」のうち2つ以上を満たすか否か をチェックするようにしています。
添付文書やアナモレリンの適正使用に関する資料では、アナモレリン投与により効果が認められない場合には、投与開始3週後を目途に原則中止にすることとありますので、漫然と投与しつづけないように注意が必要です。
私の場合は、食欲が少し出てきて効果があると患者さんから申し出があった場合には、ご本人さんとよく相談した上で一度中止して、食欲が維持されているか様子をみるアプローチをすることもあります。がん悪液質の症状に対して、アナモレリンが発売されるまでは、ステロイドの使用が主体だったと思いますが、現在は、アナモレリンは十分選択肢になりえると考えております。
Q:今後、保険薬局の薬剤師の方にお願いしたいことなどはありますか?
A:肺がんの治療薬は、ここ最近、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場で、種類が劇的に増えてきています。そして、治療薬によって注意すべき副作用が異なり、患者さんにとって、理解しなければならないことが増えていると思います。患者さんが安心して治療を受けていくためには、今後も薬剤師の方々の介入が必須だと思います。是非、みなさまのご助言をいただきたいです。