コンテンツにジャンプ

トップページ > 共通部門のご案内 > 放射線品質管理室 > 医学物理士の役割

医学物理士の役割

医学物理士の主な業務 
放射線によるがん治療は放射線治療技術の開発とともに発展してきました。強度変調放射線治療を代表とする高精度な放射線治療がその例であり、コンピュータを用いて放射線の照射方法を計算し、腫瘍に限局して高い線量を投与できるようになりました。当院の医学物理士は、強度変調放射線治療をはじめとした高精度放射線治療の治療計画を担当しています。コンピュータを利用して線量計算を行うため、理工学的な知識が必要になります。適切な治療効果が得られる放射線治療を実施するため日々医師と議論し、診療放射線技師と共に放射線治療を実施する前に線量測定を通して治療の安全を確保しています。また、当院で放射線治療を受ける全患者の治療計画を医学物理士が確認しています。治療計画の作成は複雑なプロセスを伴うため、ヒューマンエラーを防止することが重要です。医師が立案した治療計画を医学物理士がチェックすることにより重大な医療事故を防いでいます。その他、医学物理士の主な業務を以下に示しますが、放射線治療の発展に貢献するため、新規の放射線治療技術についても積極的に開発しています。

 TPSsmallsize.png

 

  • 外照射・小線源治療における治療計画のチェック 
  • 強度変調放射線治療など高精度放射線治療の治療計画の立案  
  • 装置のコミッショニング(臨床導入のための物理的検証作業)  
  • 放射線治療関連機器の品質管理業務  
  • 新規放射線治療技術における物理的検証 
  • 臨床試験の医学物理的サポート 
  • 高精度化を目指した医学物理的な研究開発


MR画像誘導放射線治療
MR画像誘導放射線治療はMRIと放射線治療装置が一体となった最新の装置を使った治療です。 この装置の特徴は、MRIの優れたコントラスト分解能を利用し、照射中に腫瘍や周辺臓器を見て位置を確認しながら照射ができること、また治療中の腫瘍や周辺臓器等の日々の形状変化に対応した治療(オンラインアダプティブ治療)が提供できることです。この治療装置は従来の装置とは違い常に磁場の影響下で治療を行いますので、安全で高精度な治療を提供する為に様々な医学物理的検証が必要となります。この装置を導入する際は、国内初の装置だったこともあり、医学物理士が診療放射線技師と共に線量測定や装置の動作の確認を細心の注意を払って行いました。また導入後も定期的にこれらの検証を行っています。治療計画は全て医師と共に医学物理士が作成し、完成後には計画に間違いが無いように確認を行っています。またオンラインアダプティブ治療では照射前にその日の患者体内画像の確認、再計画、計画の確認、線量分布の検証を医師、診療放射線技師と共に行っています。


ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)
 
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)はホウ素薬剤のがん細胞に集積する性質とそのホウ素と反応しやすいエネルギーの低い中性子(熱中性子)を用いた放射線治療です。ホウ素と熱中性子が反応するとα線と7Li原子核を生成します。この生成物が体内で影響を及ぼす範囲は10 μm程度であるため、細胞の大きさを考慮するとがん細胞のみを選択的に殺傷することが期待できます。さらに、生成物のがん細胞の殺傷能力は通常の放射線治療よりも高く、今まで放射線治療の適応がなかったがんに対しても効果が期待できます。また、がんの周囲にはCTやMR画像では見えない顕微鏡的ながんの広がりがあり、そこでは正常細胞の間にがん細胞が入り込んでいます。がんの再発を防ぐためには、重粒子線治療や強度変調放射線治療などを用いても、この顕微鏡的ながんの広がりを含んで治療しなければなりません。そのため、がん細胞の間に存在する正常細胞までが損傷し、それが放射線治療の副作用につながってきました。しかし、BNCTはホウ素を含むがん細胞を選択的に治療できるため、これらの副作用の低減も期待できる治療法です。一方、現在のBNCTは一般的な放射線治療法として確立されていないため、臨床で稼働していないのが現状です。そのため、当院の医学物理士はBNCTの臨床稼働を目指し、人体にBNCTを行う前に必要な非臨床試験から人体に行うための臨床試験の実施や準備を担当しています。詳細に関しては、BNCT医療開発分野のHPをご覧ください。


小線源治療

小線源治療は放射線を放出する物質(放射性同位元素、以下線源)を、アプリケータやカテーテルと呼ばれる器具を用いて腫瘍内部あるいはその近傍に配置します。体外照射と比べて腫瘍内部から放射線を照射するため、腫瘍に限局して高線量を投与することができます。近年では、正確に線源を配置するためにCTやMR画像を治療計画に用いることがあります。一般的に線源配置から治療開始まで同日に行うことが多く、熟練した手技と安全を担保するための品質管理体制が求められます。そのため、すべての放射線治療施設で実施できる治療ではありません。当院では、積極的に様々ながん種に対して小線源治療が行われており、 例えば、婦人科腫瘍や頭頸部腫瘍、前立腺などには高線量率イリジウム-192、網膜芽細胞腫や悪性黒色腫などにはルテニウム-106が用いられています。当院の医学物理士は小線源治療の品質管理にも従事し、外照射と同様に小線源治療が安全に施行されるために全症例の治療計画を治療前にチェックしています。