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膵切除について

膵臓の機能と構造

   膵切除について  (膵切除の手術実績について

図1_膵臓の機能と構造

図1_膵臓の機能と構造

膵頭十二指腸切除

膵頭十二指腸切除は膵臓の頭部の周囲にできた腫瘍に対して行う手術で、膵頭部がんや遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、十二指腸がんなどが主な対象疾患となります。

膵頭部は「胆汁」の通り道である「胆管」と「膵液」の通り道である「膵管」が内部を走行しており、食べ物の通り道である「十二指腸」につながっています。膵頭部の周囲は血管や神経が複雑に入り組んでおり、リンパ組織も豊富です。がんは近くの神経にひろがりやすく、周囲リンパ節に転移しやすい性質があります。そのため、膵臓だけでなく、膵頭部、十二指腸(+胃の一部)、胆嚢、胆管を周囲のリンパ節や神経と一緒に切除します。また、がんが膵周囲の主要な血管である「門脈」までひろがっていると考えられた場合は、「門脈」を一緒に切除します。切り離した膵臓、胆管、十二指腸(または胃)はそれぞれ小腸とつなぎ合わせ(再建といいます)、胆汁、膵液、食べ物が腸の中に流れていくようにします。

膵頭十二指腸切除はお腹の手術の中で最も複雑で難易度の高い手術の一つです。術後の合併症の頻度は高く、中でも膵液漏(すいえきろう)が最も注意すべき合併症になります。膵液は消化酵素を含んでおり、タンパク質や脂肪などを溶かします。膵臓と腸をつないだところより膵液が漏れてしまうと、まわりの組織を溶かして膿のたまりを作ったり、血管の壁を溶かして大出血を起こしたりする可能性があります。私たちは多くの工夫を加えて術後膵液漏の発生率を下げる努力をしています。

私たちは2019年度の1年間に、100例を超える膵頭十二指腸切除を行っています。膵頭十二指腸切除など膵がんに対する外科的切除は、症例数が多い専門病院において合併症が少なく、治療成績が良好であると報告されています。

図2_膵頭十二指腸切除の範囲

図2_膵頭十二指腸切除の範囲

 

図3_膵頭十二指腸切除後の再建

図3_膵頭十二指腸切除後の再建

膵体尾部切除

膵体尾部切除は膵臓の体尾部にできた腫瘍に対して行う手術で、膵体尾部がんの他、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液産生膵腫瘍(MCN)、膵Solid Pseudopapillary Neoplasm(SPN)などが主な対象疾患となります。

膵体尾部切除では多くの場合、膵尾部に近い脾臓を一緒に切除します。膵頭十二指腸切除との大きな違いは、切り離した膵臓を腸とつなぎ合わせる必要がないことです。しかし、膵臓で作られる「膵液」の通り道である「膵管」を途中で切り離すため、「膵液」が漏れないように切り離した膵臓の断端を閉鎖する必要があります。多くの場合、自動縫合器で閉鎖しますが、直接縫って閉鎖することもあります。
膵体尾部は胃、大腸、左腎臓、左副腎などの臓器と近く、がんがそれらの臓器にひろがっていると考えられた場合、合併切除することがあります。免疫器官である脾臓を切除すると、肺炎球菌などの細菌感染に対する抵抗力が落ちる可能性があります。ワクチンの接種などを相談しましょう。

当院では体への負担がより少ない腹腔鏡下での膵体尾部切除も行っています。以前はがん以外の腫瘍を対象としていましたが、現在は安全性に十分配慮した上で、がんに対しても腹腔鏡下手術の導入を行っています。

図4_膵体尾部切除の範囲

図4_膵体尾部切除の範囲

膵中央切除

膵中央切除は膵臓の体部にできた腫瘍に対して行う手術で、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、Solid Pseudopapillary Neoplasm(SPN)など、膵がん以外の悪性度の低い疾患が主な対象となります。

膵中央切除は膵頭側および膵尾側を温存し、腫瘍の存在する膵臓の中央部のみを切除します。膵中央切除は膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除と比較して、膵臓が多く残るために、術後の膵臓の内分泌および外分泌機能が良好に温存されます。膵臓を2か所で切り離し、膵頭側は断端を閉鎖し、膵尾側は断端を小腸とつなぎ合わせる必要があるため、膵液漏(すいえきろう)の可能性は高くなります。

図5_膵中央切除の範囲

図5_膵中央切除の範囲

膵全摘

膵全摘は膵臓を全て摘出する手術で、がんが膵臓全体に広がっている場合や、一度膵切除を行った後の残った膵臓に腫瘍ができた場合に適応となります。

膵全摘は膵頭十二指腸切除と膵体尾部切除が組み合わさった膵臓を全て摘出する手術で、体に与える影響がとても大きい手術です。膵臓と十二指腸、胆嚢、胆管を切除した後は、小腸と残った胆管、十二指腸(または胃)をつないで、胆汁と食べ物の通り道をつなぎ合わせます。膵液を産生することがなくなるため、膵液漏(すいえきろう)のリスクはありませんが、膵臓が有する外分泌機能(消化酵素の分泌)と内分泌機能(主に血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌)が失われるため、栄養管理や血糖コントロールに難渋して、生活の質が低下することが予測されます。しかし近年では、高力価膵消化酵素剤の開発や強化インスリン療法の導入などにより、一定の生活の質の保持が可能となり、膵全摘の適応となる患者さんは増えています。当院では、治療早期から糖尿病専門医と密接に連携して血糖コントロールを行い、薬剤師、栄養士によるサポートのもと、インスリン自己注射の指導や栄養管理を行っております。

手術後の経過について

手術の後は順調であれば、2週間程度で退院できます。しかしながら、膵臓の手術は他の消化器外科手術と比べると合併症が多い手術と言わざるを得ません。これは、膵臓という臓器の性質によるのです。膵臓が産生する膵液という消化液はタンパク質・脂肪・糖類を分解する酵素を含んでいて、自分の体の組織にも障害性をもってしまいます。この膵液が吻合に対して悪さをすると吻合した部分が外れて漏れてきてしまうということがあります。これを「膵液漏(すいえきろう)」と言いますが、膵臓の手術の術後経過は膵液漏が発生するかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。しかし、仮に膵液漏が起こってもこれは一般的な術後経過の範囲内であり、膵液漏の程度にもよりますが1~2週間入院期間の延長で済むことが多いです。最終的な術後の状態は膵液漏が起こらなかった人と変わりません。

その他、合併症があった場合はその処置のたびに入院期間が延長します。ただし、それらの合併症はほとんどが想定される合併症であり、その対処法もわかっていますので適切に対応いたします。

手術に関係する合併症について

 

頻度の高い合併症

  • 膵液漏(すいえきろう)
    膵臓と腸のつなぎ目または閉鎖した膵臓の断端から膵液が漏れることです。漏れた膵液はまわりの組織を溶かして膿のたまりを作ったり、動脈の壁を溶かして大出血を起こしたりする可能性があります。万が一、動脈から出血した場合は、緊急血管造影検査を行い、カテーテルを使って止血します。膵液漏は多くの場合、手術の時に入れたドレーン(排液管)から漏れた膵液を排液することで大事には至りません。膵液漏が起きた場合、1~2週間の入院期間の延長で済むことが多いですが、中にはその治療に数週間を要することもあり、細心の注意を払って経過を見る必要があります。
  • 胃内容排泄遅延(いないようはいせつちえん)
    手術で胃の周囲の血管や神経を切離したり、膵液漏などでお腹の中に炎症が起きたりすることによって、胃の動きが低下することで一時的に排泄遅延が起こり、食事ができなくなる状態のことです。命に関わるような合併症ではなく、通常はしばらく経過を見れば改善します。お食事がとれるようになるまでの間は点滴を行い、吐き気などの症状が強い時は鼻から胃の中に管を入れる処置が必要となることもあります。

まれな合併症

  • 創感染(そうかんせん)
    手術した創部が化膿することです。手術した数日後に創部が赤く腫れ、痛みや熱感を伴うことがあります。多くの場合、創の中にたまった膿を出す処置を行い、洗浄を継続することで改善します。
  • 腹腔内膿瘍(ふくくうないのうよう)
    お腹の中に膿がたまることです。多くの場合、膵液漏や胆汁漏が原因となります。症状としては、38℃以上の発熱や腹痛を伴うこともあります。手術の時に入れたドレーン(排液管)の位置を調整して膿を排出することや抗生剤を投与することで治療しますが、場合によっては追加のドレーンを入れる処置を行うこともあります。
  • 胆汁漏(たんじゅうろう)
    胆管と腸のつなぎ目から胆汁が漏れることです。胆汁も消化液なので、周囲の組織を傷つけますが、膵液漏ほど大きな問題になることは少ないです。多くの場合、手術の時に入れたドレーン(排液管)から漏れた胆汁を排液して経過を見ることで改善します。
  • 胆管炎(たんかんえん)
    胆管と空腸との吻合を介して腸内の細菌が胆管に逆流して入り込むことで、胆管で炎症が起きることです。術後早期~退院した後も起きることがあります。症状としては、38℃以上の発熱や腹痛を伴うこともあります。点滴または内服の抗生剤で治療します。
  • 縫合不全(ほうごうふぜん)
    十二指腸(または胃)と小腸のつなぎ目の治癒が悪く、消化液がお腹の中に漏れ出してしまうことです。手術の時に入れたドレーン(排液管)で漏れ出した消化液を体外に排出しますが、追加のドレーンを入れる処置を行うこともあります。

以上、この手術に関する主な合併症について説明しましたが、想定される合併症はこの限りではありません。手術をお受けになる際にはあらためて説明いたします。

退院後の生活について

手術後として、特別な食事の制限、生活の制限はありません。膵頭十二指腸切除の場合は消化管を切除・再建していますので、術前と比較すると食べられる食事の量は減ります。したがって、一般的に体重も1割以上減ってしまいます。しかし、徐々に回復していきます。手術のキズの痛みは個人差がありますが、少なくとも数ヶ月間は痛みが残っていたり、ひきつれ感があったりします。日常生活の範囲内で軽作業程度なら退院後から問題ありませんが、これは年齢にもよりますし、人それぞれの経過であることをご理解下さい。

膵臓を切除すると、膵液の分泌が減ることで消化吸収障害が起こり、下痢をしやすくなったり、脂肪肝になったりすることがあります。この場合は、膵液の代わりになる消化酵素剤を処方いたします。また、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が減ることで糖尿病になる可能性があります。この場合は、糖尿病外来も受診していただき、内服薬の服用やインスリンの皮下注射が必要になる可能性があります。

また、全ての悪性腫瘍に共通のことですが膵臓がんも手術後に残念ながら再発することがあります。手術の後は定期的に外来に通院していただいて検査を致します。遠方より来られている患者さんには、お近くの病院と連携して定期検査を行っていただく場合もあります。