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ロボット支援下手術について
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科においてロボット支援下手術を開始します。
ロボット支援下手術に関する詳細は外来担当医にご相談ください。
本邦の肺癌外科を牽引してきた国立がん研究センター中央病院呼吸器外科は、これまで肺癌に対する胸腔鏡補助下手術において安全性と根治性を担保することの重要性とその具体的手法を発信してきました。ロボット支援下手術が黎明期から普及期へ移行しようとしている現在、いかに安全性と根治性を担保するかということは重要な課題であります。
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科は安全性と根治性を担保したロボット支援下手術を本邦および世界に提示していく責務があると考えています。
1. 既存技術の限界
手術の質には「安全性」、「根治性」、「低侵襲性」の3要素があります。一般に、創部を縮小すると「低侵襲性」が高まりますが、視野が悪くなったり手術器械の動きに制限が加わったりすることで「安全性」と「根治性」が下がりやすくなります。国立がん研究センター中央病院呼吸器外科では、この3要素の理想的なバランスがとれた術式として5から6cmの小開胸創と胸腔鏡を併用した胸腔鏡補助下手術(hybrid VATS)を開発し、同術式により本邦最多の肺癌手術を行ってきました。しかし、筋肉や肋骨の切離を伴わない5-6cmの小開胸であっても、肋間の開排に伴う創部痛はゼロではありません。一方で開胸器を用いずモニター視のみで行う完全胸腔鏡下手術(complete VATS)も一部の施設で行われていますが、二次元視野であることや手術器械の動きに制限があるためhybrid VATSと同等の「安全性」と「根治性」を担保することは容易ではありません。
手術支援ロボットは、三次元視野下に関節を有する自由度の高い鉗子を用いて巧みな手術操作が可能であり、従来の胸腔鏡補助下手術あるいは完全胸腔鏡下手術の問題点を補う新たな低侵襲手術となる可能性があります。
2. 支援下手術と既存技術との比較
ロボット支援手術の「安全性」について
当初、医師が術野から離れた操作用コンソールに座り遠隔操作を行うことが安全性の観点から懸念されましたが、開胸への移行が必要となる症例は少なく、開胸が必要となった主な理由は不全分葉や広範な癒着であったと報告されています。またロボット支援下手術の周術期成績は開胸手術より良好で、胸腔鏡下手術とは差がないことが示されています。「根治性」について
ロボット支援下手術は、三次元の優れた視野および多関節鉗子を用いた操作性から肺門部・葉間での剥離や胸腔鏡手術では不十分となりやすいリンパ節郭清への有用性が期待されています。
「低侵襲性」について
ロボット支援下手術と胸腔鏡下手術との比較では、周術期成績に差はないが、鎮痛薬使用が少なく日常生活への復帰が早いのはロボット支援下手術であったと報告されています。
以上より、現状ではロボット支援下手術に対する十分なエビデンスは蓄積されていませんが、既存技術に対する優位性が期待される医療技術であります。
3. 術者の技術レベルについて
国立がん研究センター中央病院においてロボット支援下呼吸器外科手術を行う呼吸器外科チームは、スタッフ3名全員が呼吸器外科専門医資格を有し、原発性肺癌に対しては5-6cmの小開胸とカメラポートによる胸腔鏡補助下手術、縦隔腫瘍に対しては1cmから2cmのポート3か所による胸腔鏡補助下手術を主たる術式として、2023年には肺切除677例、縦隔腫瘍手術46例を行い、豊富な胸腔鏡補助下手術の経験を有しています。
また、2024年5月時点でスタッフ2名がIntuitive surgical社規定のトレーニングを受けたロボット支援下手術のコンソールサージャン(術者)の資格を取得しており、1名のスタッフがアシスタントサージャン(助手)の資格を取得しています。
4. 必要な設備・診療体制
国立がん研究センター中央病院では外科医と麻酔医そして看護師と医療工学士を含めた医療スタッフの密な連携の下にロボット支援下手術を行っており、ロボット支援下手術に対して横断的に対応可能な環境にあります。