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胃がんについて

胃の機能と構造

胃の入り口を噴門、出口を幽門と言います。胃は、噴門(入口)側から胃底部、胃体部、幽門部と大きく3つの部位に分けられます。胃の壁は、内側(胃の内部)から順に粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜という構造になっています。

胃は食べ物を消化・吸収する「場」としての働きはあまりなく、食物を一時的に蓄え、少量ずつ胃につながる十二指腸におくり効率よく十二指腸と小腸で消化・吸収するように働いています。胃では強い酸とペプシンが分泌され消化を助け、殺菌作用を有します。

また、血液を作るための鉄やビタミンB12の吸収の補助をします。

胃の位置と周囲臓器の関係
胃の位置と周囲臓器の関係

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載

胃がん

胃がんは胃粘膜から発生し、10数年かけて発見可能な大きさ(5mm以上)になるといわれています。胃がんはまず発生した胃粘膜にとどまり、それより進行すると胃の壁の深いところまで進み粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜まで深い部分まで広がります。粘膜下層までの癌を早期癌、筋肉層より深く進んだものを進行癌と呼んでいます。

また、後で解説いたしますが、がんはもともと発生した場所(原発巣と呼びます)から離れた場所に転移することがあります。特に胃癌はリンパ節転移を起こすことが多く、その頻度は概ね粘膜にとどまる場合2%、粘膜下層にとどまる場合15%、筋層より深くまで達する場合は40%以上と癌の深さによってリンパ節転移の危険性が高くなります。

胃がんの深さの分類(1)
胃がんの深さの分類(1)

胃がんの深さの分類(2)
胃がんの深さの分類(2)

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載

胃がんの進行具合(ステージ)

胃がんの進行具合は大きくステージI、II、III、IVと分類され、Iが最も早期でIVが最も進んだ病期です。進行度を示すステージは「原発病変の深さ」と「リンパ節転移」と「遠隔臓器の転移」から決まります。切除できない腹膜播種や血行性転移などの遠隔臓器の転移があれば最も進行したIV期となります。胃がんが見つかり、治療前の画像診断に基づいて大まかな病期(臨床分類)、手術で切除された原発病変とリンパ節を顕微鏡で詳しく調べて(病理検査といいます)最終的な最終診断(病理分類)が決まります。

ステージが進むほど治療後の再発率が高く、ステージが早いほど治癒率(疾患特異的5年生存率)が高く、病理分類で再発率が高いステージであった場合には治癒率の改善を目的に抗がん剤治療を追加することがあります。

胃がんのステージ分類
胃がんのステージ分類

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載

 胃がんの治療

内視鏡的粘膜切除

早期胃がんの中でも粘膜にとどまり、大きさやがん細胞の種類などの基準を満たした場合にはリンパ節へ転移している可能性が低いことが分かっています。その場合には内視鏡(胃カメラ)を用いて胃の原発病巣を切除することで治癒が期待できます。切除した病変を顕微鏡でさらに詳しく確認し、しっかりがんが切除されているか、リンパ節転移への転移が本当に低いかを診断し、追加で切除するかどうかを判断します。

内視鏡的粘膜切除(EMR)
内視鏡的粘膜切除(EMR)

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載

手術 

がん細胞をすべて取り除くことによって治癒を目指す治療法です。胃の原発病巣と転移の可能性が高い胃の周りのリンパ節を切除しますが、病気の進行具合により切除方法やアプローチを選択します。

胃の原発病変と転移の可能性がある周りのあらかじめ決まった範囲のリンパ節を取り除きます。仮にリンパ節に転移があっても手術で切除することにより治癒が期待できます。胃がんの標準的な手術は上部のがんでは胃全摘や噴門側胃切除(上 01月03日 切除)、下部では幽門側胃切除(下 02月03日 切除)や幽門から 2-3cm を残して幽門温存切除を行います。リンパ節転移の可能性が少ない早期がんでは胃の一部を局所切除することもあります。リンパ節は定型的には第 2 群または第 2 群の一部までとり、がんが食い込んでいる場所やリンパ節をとる目的で脾臓、膵臓の一部、副腎や横行結腸の一部、横隔膜の一部などを切除したり、胆嚢炎を予防する目的で胆嚢をとることもあります(合併切除)。胃全摘術や胃切除術を行なったあとに、食物や消化液の通路を確保するために、食道や残った胃、小腸などをつなぎ合わせます(吻合といいます)。代表的な吻合方法を下図に示します。切除後の状態を考慮して最も適当と考えられる吻合方法を選択します。

胃の切除範囲
胃の切除範囲

手術のアプローチ方法には、1.開腹手術、2.腹腔鏡手術、3.ロボット支援下腹腔鏡手術があります。

腹腔鏡下胃切除術
腹腔鏡下胃切除術

ロボット支援胃切除
ロボット支援胃切除

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載


腹腔鏡下手術は、おなかに5mmから12mm程度の穴を数か所あけて、そこから手術操作を行う器具を挿入してビデオカメラで観察しながら胃を切除します。胃の切除方法やリンパ節切除の範囲は従来の開腹手術と同様で、最終的にお臍に5cm程度切開してそこから切除した胃とリンパ節を取り出します。開腹手術と比べて術後の痛みが少なく、回復が早い、出血量が少ない傾向があります。また、開腹手術と比べても、治りやすさに違いがないことも分かっています。

ロボット支援下腹腔鏡手術は、腹腔鏡手術の欠点であった、画像が二次元であることや手術器具を動かせる範囲が狭いことなどを克服したシステムを使用した手術です。腹腔鏡手術と基本的な手術の内容と傷は同じですが、腹腔鏡手術より正確な操作が可能であるため一部の術後合併症を減らせる効果が期待できます。

化学療法(抗がん剤治療)

化学療法は抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える治療です。飲み薬や点滴など、様々な抗がん剤の有効性が示されています。薬剤が血液中から全身にいきわたりがん細胞に効果を発揮します。どの薬剤をどのように組み合わせて使うかは病気の状態によって異なりますが、近年新しい抗がん剤が開発されて大きな進歩を遂げています。胃がん治療においては、手術で取り切れない状態や術後の再発に対して使用する他、手術の前後に再発を予防する目的で使用することがあります。

胃がんの転移

胃がんの転移には「手術で取り切ることができる転移」と「手術で取り切れない転移」があります。

  • リンパ節転移:癌細胞が胃を流れるリンパを介して転移
  • 血行性転移:癌細胞が胃の静脈を介して転移
  • 腹膜播種:胃の壁から腹腔内へこぼれ落ちたがん細胞

リンパ節転移は早期癌でも一定の割合で起きますが、多くは胃の周りのリンパ節にとどまるため、手術で元々できた病変と一緒に取り除くことで治癒が期待できます。
血行性転移と腹膜播種転移と一部のリンパ節転移(胃から離れた場所のリンパ節転移)は手術で取り除くことができない転移です。

胃がんの転移形式
胃がんの転移形式

  • 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年度版 日本胃癌学会編」

金原出版株式会社 より転載