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肝がん(HCC,ICC,Metaなど)治療について
肝臓がん
肝臓にできるがんは、「肝がん」または「肝臓がん」と呼ばれます。さらに、肝臓を構成している細胞からできるがんを「原発性肝がん」と呼び、肝臓以外の臓器にできたがんのコピーが肝臓に移って生着した「転移性肝がん」の2つに分けられます。「原発性肝がん」は、約95%が「肝細胞がん」、約4%未満が「胆管細胞がん」です。
原発性肝がん
肝細胞がん
1. 肝細胞がんって何ですか?
肝臓を“木”に例えると“葉”の部分は、様々な物質の代謝や解毒、胆汁産生などたくさんの仕事をする「肝細胞」に例えられます。肝臓で作られた胆汁を十二指腸の方へ運ぶ胆管は、“枝”に例えられます。この“葉”に例えられる肝細胞ががん化したものが肝細胞がんです。
2. どうして肝細胞がんになったのですか?
「慢性的に肝臓に負担がかかっている人はなりやすい」
多くのがんについて、がんになるメカニズム(機序)を解明する研究が急ピッチで進められています。しかし、現時点では、個々のがんについて、どうしてがんになったのか、つまり発生原因については、完全に突き止めることはできていません。ただし肝細胞がんにかかる人は、B型肝炎やC型肝炎に比較的長い期間かかっていた方が多いことが知られています。
全国集計によると、約75%の肝細胞がん患者さんは肝炎ウイルスにかかっています。したがって、肝炎ウイルスにかかっている方は、定期的な肝臓がん検診が不可欠です。現在では、肝炎ウイルスを駆除する治療もありますので、専門医の診断を受けることをお勧めします。残りの20%の方は、肝炎ウイルスにかかってない人では、お酒の飲み過ぎの方(=アルコール性肝障害がある方)、生活習慣病(糖尿病や肥満などをお持ちの方)が残りの大半です。つまり、全く正常の肝臓から「肝臓がん」ができることは、あまり多くなく、肝炎やお酒、生活習慣病など何らかの背景因子のある人は、注意が必要です。
3. 肝細胞がんの治療法は、どのようなものがありますか?
「切除(手術)、ラジオ波焼灼、肝動脈塞栓術などがあります。がんの個数と肝臓の力によってより適した治療法が決まります」
肝細胞がんが4個以上ある場合は、すべてを切除しても、かなり高い確率で残った肝臓の中にさらに多くのがんが、すぐに再発することが知られています。このようにがんの個数が多い場合は、よりからだへの負担が少なく、肝臓全体の治療ができる肝動脈塞栓術が勧められます。それに対して、肝細胞がんが1~3個の場合は、できた場所や大きさによって、切除(手術)かラジオ波焼灼術(針を刺してがんを焼く治療)のどちらかがより適当となるでしょう。
4. 切除(手術)の長所と短所を教えてください
「長所は、最も根治が狙える治療法であること。短所はからだへの負担と術後肝不全のリスクです。」
肝臓は、肝移植をする場合を除いて、全摘できない臓器です。つまりほとんどすべての肝臓の手術は、肝臓を一部切り取ることになります。がんの病巣を外科医の手で確認しながら、確実に体の外へ取り出す治療である手術は、原発性肝がんや転移性肝がんに対して、最も強力で根治が狙える治療です。
しかし、全身麻酔での手術は、当然からだに負担がかかり、心臓など他の臓器に持病(併存合併症)がある方は、手術のストレス等により、悪化したり、時には命に関わるトラブルにつながることがあります。そうならないように万全を期すため、当院では、外科とは別の「患者サポートセンター」という部門があり、手術前の患者さんのおからだ全体を調査して、必要あれば追加の検査を行って、手術に耐えられるかどうか厳密に評価しています。さらに腹腔鏡手術を積極的に導入して、可能であれば、なるべく傷が小さく、からだへの負担が少ない手術をご提案しています。
また肝臓の一部を切除する手術の後、残った肝臓の機能と量が十分でなく、からだを支えられなければ、術後肝不全という状態になり、命を落とすことがあります。病巣を切除できたのにもかかわらず、術後にトラブルが起きることがあるのが肝臓の手術の特徴です。これに対しては、手術の前に必ず、肝臓の機能はどうか、ストレス耐性がどの程度あるか、について精密検査を行い、その結果から、「何パーセント肝臓を残す必要があるか」について個々の患者さんで評価して、手術の作戦を立てています。肝機能の検査は、具体的には、血液検査(血清ビリルビン値や血清アルブミン値、プロトロンビン活性値など)、ICG負荷試験、必要があれば、アシアロシンチグラムを行っています。
5. 肝臓を一部切除した後はどうなりますか?
肝臓は再生します。正常な肝臓を持つ人は、肝臓全体のおよそ3分の2を切除して、3分の1しか残らなくても、肝不全にならず、手術のあと6~12か月経てば、肝臓が再生して元の大きさ戻ることが知られています。しかし、もともと肝機能が悪く、手術ストレスに耐えられない場合は、半分以上の肝臓が残ったとしても、術後肝不全になったり、肝臓が十分再生せず、肝機能障害が長く続く可能性もあります。これに対して当院では、個々の症例に精密な肝機能検査を行っているほか、CT画像からコンピュータ―を用いて、肝臓の3Dモデルを作成し、手術シミュレーションを実施しています。肝切除のシミュレーションをすることで、複数の手術方法を比べて、それぞれどのくらい肝臓が残るのか、完全にがんを切除できるのか、について詳細に計算し、手術の作戦を立てています。
胆管細胞がん
1. 胆管細胞がんとは何ですか?
「肝臓を構築する胆管の細胞ががんかしたものです」
肝臓から発生する「原発性肝がん」の一つで、肝内胆管がんとも呼ばれます。胆管とは、肝細胞で産生された胆汁を運び、十二指腸から分泌するための管です。肝臓を“木”に例えると肝細胞が“葉”で、胆管は“枝”と言えるでしょう。原発性肝がんの3~5%を占めます。頻度としては少ない腫瘍ですが、近年増加傾向にあります。
ウイルス性肝炎との関連の報告もありますが、基本的には、慢性肝炎など肝臓に病気を持っていない方に発生することがほとんどです。
2. 胆管細胞がんの治療はどうすればよいですか?
「可能であれば切除」
治療は切除が可能であれば手術が最も効果的な治療法です。手術ができない場合は化学療法を行います。胆管細胞がんは、形や広がりが多種多様で、胆管に沿って進展していることもあり、手術の前に癌が及んでいる範囲を見極める検査を精密に行う必要があります。当院では、最新の高精細CTやMRIだけでなく、超音波内視鏡や胆道スコープも使い、手術前に精密な検査を行っています。
3. 胆管細胞がんの手術の特徴は?
「必要十分な手術をします」
胆管に沿って遠くまでがん細胞が進展している場合は、肝臓の外を走る胆管(肝外胆管)も一緒に切除します。その場合は、残った肝臓で作られた胆汁を腸の中に流れるようにするため、胆道再建をします。我々は通常、胆管の切れ端に癌が残っていないかを手術中に病理検査(術中迅速病理診断)で確認し、根治手術の達成を目指しています。
転移性肝がん
1. 転移性肝がんとは何ですか?
「他の臓器にできたがんが、肝臓に転移したものです」
転移性肝がんとは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)のコピーが肝臓に移って、肝臓の中で生着し増大したものを意味します。肝臓はフィルターのような構造になっており、ほとんどすべてのがんが転移する可能性があります。特に消化器系がん(大腸がん、胃がん、膵がんなど)、乳がん、肺がん、頭頸部のがん、婦人科(子宮や卵巣)のがん、腎がんなどが多いとされています。
2. がんの転移とは何ですか?
「原発巣を脱走したがん細胞が肝臓に流れ着いて、成長したものです」
最初にできたがん(原発巣)が大きくなるにつれて、その周囲の血管やリンパ管の中にがん細胞が侵入する特徴があります。血管やリンパ管に侵入(浸潤)したがん細胞は、血液やリンパ液の流れにのって全身に広がりますが、それらのがん細胞のうち、肝臓に流れ着き、新たながん細胞の塊(転移巣)を形成しますが、これを「肝転移」または「転移性肝がん」と呼び、もともと肝臓の細胞ががん化した「原発性肝がん」と区別されます。
3. 肝臓に転移したら治らないですか?
「おそらく治らないでしょう。しかし治る場合もあり、あきらめない治療が大切です」
転移性肝がんは、原発巣から遠く離れた臓器に出現することから遠隔転移と考えられ、Stage IV(最終ステージ)と分類されます。多くの場合、根治は、極めて難しい状態といってよいでしょう。ただ、近年の医学の進歩により、肝臓に転移したがんでも、積極的な治療によって、寿命を永らえること、そして、治る可能性もあることが知られるようになりました。大切なのは、ご病状を詳細に検討して、適切な治療法を選ぶことです。
当院では、患者さんおひとりおひとり、原発巣の状況、転移の場所と個数などの情報を集約して、外科医、内科医、内視鏡医、放射線科医、病理医など多くの専門家が集まって術前症例検討会(カンファレンス)を行い、適切な治療方針を立案します。その結果を患者さんやご家族にお伝えし、話し合って、治療方法を決定しています。
例えば大腸がん肝転移は、転移が1つで、それを切除できた場合は、約50%の確率で約5年以上の無再発が得られます。ただし、原発巣がどこかによっては、転移が数個しかなくても、なかなか根治が得られないこともあります。また肝転移が複数あっても、全身化学療法(分子標的薬を含めた抗がん剤)と手術の併用で、高い治療効果が得られることもあります。それに対いて、膵臓がんや胃がんの肝転移は、たとえ数個であっても、目に見えない小さな転移が、肝臓の中や肝臓以外の臓器にも転移をしていることが多く、切除による治療効果は、全身化学療法(抗がん剤)のみの治療と比べて、高くない場合がほとんどです。