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リハビリテーション室からのお知らせ

毎年毎年“異常気象”だといわれ、“平年並み”“例年並み”の意味合いも曖昧になってしまっている昨今。“日本の四季”も薄れてきています。気温の乱高下、自然災害の増加、花粉・PM2.5の多量飛散、例年とは異なる感染症の拡大等々…このような状況を乗り越えていくためにも、元気な体と心を維持していくことは大切です。引き続き当院のホームエクササイズを活用いただき、わずかでも身体機能・嚥下機能の向上、倦怠感の改善、そして精神面への好影響を期待できれば幸いです。

ステロイドと筋力低下

ステロイドといえば競技スポーツのドーピングなどで用いられるアナボリックステロイドが一般には知られていますが、がんをはじめとした医療の分野ではコルチコステロイドを指すことが多いのではないかと思います。当院でもステロイドはがん患者さんの化学療法や症状コントロール等に日々用いられており、その恩恵は計り知れないものがあります。一方でステロイドには多くの副作用があり、その一つとして一定量以上の投与に伴い筋障害(ステロイドミオパチー)を生じやすくなることが知られています。ステロイドミオパチーは大量のステロイド使用(プレドニゾロン40-60mg/日相当以上)で生じやすいとされ、典型的な所見では左右対称な股関節・肩関節周囲筋(近位筋)優位の筋力低下が生じ、日常生活では腕を頭に上げて行うような動作やベッドや椅子からの立ち上がりや階段の昇りなど、生活上重要な動作が困難となります。立ち座りや階段動作が不安定となると屋内生活にも支障を来たし、転倒の危険が増すと予想されます。

ステロイドに起因する筋障害に対しては薬剤調整と並行した理学療法(有酸素運動、筋力トレーニング)が筋萎縮の軽減に役立つとされていますが、ステロイドの影響で患者さんの骨や筋肉の耐久性が低下しているため、過度なトレーニングには注意が必要です。一方で、このような患者さんでは臥床期間が増えることで廃用も進行することが多く、廃用に対する理学療法の効果も見込まれます。介入中に無事動作能力が回復する場合もあれば難しい場合もあり、動作困難となった方でも環境調整や必要なサービスを導入することで自宅生活に戻られる方もいらっしゃいます。ここでも患者さんご本人やそのご家族、院内外の多職種での協働は重要であり、うまく連携をとることで個々の患者さんが最も満足できる結果につながれば、と思います。

術後呼吸器合併症 ー創部保護下での咳嗽方法ー

排痰は、術後呼吸器合併症を回避するための重要な要素の一つです。医療技術の進歩により、がんに対する胸腹部手術は低侵襲化していますが、術後に肺炎や無気肺などの呼吸器合併症を発症するリスクは高いと言われています。例えば、消化器がんに対する胸腹部手術における術後呼吸器合併症の発症率は2~30%と報告されており、比較的低侵襲とされる胸腔鏡・腹腔鏡補助下食道切除再建術においても23.2%~28.9%との報告があります。また、胸腹部手術後の周術期死亡の45.5~55.0%は術後呼吸器合併症が原因であり、入院期間が長期化するなど術後の転帰や医療費の増加にも多大な影響を及ぼすことが報告されています。咳嗽は1誘発相、2吸気相、3圧縮相、4呼出相に分けられます。咳嗽を誘発する第1相から始まり、第2相では深吸気が起こり、第3相では声門を閉鎖して胸腔内圧を上昇させることにより気道が狭小化し、第4相に声門を開放することによって一気に呼気に移ります。咳によって、第4~5分岐部までの中枢側気管支内の痰が除去されます。

術創部を固定して保護する際の咳嗽方法の目的は、術創部痛の増強を回避し、胸腔内圧を高め咳嗽力を向上させることにあります。その結果、十分な排痰効果を得られれば術後呼吸器合併症の予防に役立ちます。実際の方法です。バスタオルや枕、クッションなどで術創部を覆い、その上から患者さんご自身で固定します。患者さんの不安が強い場合や、咳嗽力が弱く喀痰が難しい場合には、施行者がさらにその上から介助する方法もあります。それにより疼痛が軽減され有効な咳嗽が可能となります。

これから、高齢で手術を受ける患者さんはますます増えていくと考えられます。高齢がん患者さんの場合、手術前から老年症候群やフレイル、サルコペニアの状態である可能性が高く、手術後に合併症が起こる危険性がさらに高くなることが予想されます。咳をして痰を出すことは、呼吸器の合併症を防ぐための大切な方法の一つです。今後も、手術後の呼吸器の合併症をできるだけ予防できるように努めていきたいと思っています。