放射線品質管理室
放射線品質管理室の役割
目に見えない放射線を適切に管理し、安全かつ有効に医学利用することが放射線品質管理室の使命です。放射線治療は装置や技術の向上により、大線量を正確に患部に照射することができるようになり、がん治療の様々な経過の中で重要な役割を担っています。その一方で、精密機器や部品によって構成されている放射線治療機器とその技術は複雑化しているため、その精度管理をしっかり行わないと、線量の間違いや不正確な照射などの医療事故につながる可能性もあり、品質管理の必要性が高まっています。放射線品質管理室では、光子・電子・陽子線治療装置の日々の品質管理を実施し、安全で精度の高い放射線治療を提供できるように日々の業務を行っています。
業務内容
放射線治療機器の管理業務
放射線治療機器を利用して高い精度で安定して治療を実施するため、日々の保守点検や品質管理を実施し、臨床的に問題となる異常や逸脱があった場合には、速やかに調整および修正を行っています。また、毎月、毎年毎に定期的に実施している品質管理の結果を掲示していますので、患者さん御自身で治療を受ける機器に問題がないことを確認することができます。
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治療装置のガントリの水平度確認作業
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治療ビームの中心確認測定
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品質管理結果の掲示板
治療計画業務
放射線治療では実際に患者さんに照射を行う前に、治療計画という作業を行います。これはコンピュータを用いて、体内での放射線の広がりと量(線量分布)をシミュレーションすることで、個々の患者さんの病状に最も適した照射方法を検討することです。高精度放射線治療と言われる強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy、IMRT)/強度変調回転治療(Volumetric Modulated Arc Therapy、VMAT)、脳および肺、肝臓に対する定位放射線治療、陽子線治療の治療計画を担当しています。また、作成した全ての治療計画がシミュレーション通りに照射されているか確認し、治療の質と安全性に関するチェックを行っています。
注:強度変調放射線治療:標的とリスク臓器が近接した症例に対して標的への線量を担保しながらリスク臓器への線量を低減することを目的として、強度変調した線束を用いて標的へ多方向から集光的に照射する治療法定位放射線治療:小さな領域に対して細い高エネルギー放射線ビームを用いて大線量を短期間で集中的に照射する治療法
放射線治療の流れ
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高精度放射線治療計画の立案
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前立腺がんの線量分布例
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ファントムにおける線量測定
高精度治療技術・装置の新規導入業務
IMRT、VMAT、呼吸同期放射線治療、マーカー追跡型放射線治療、画像誘導放射線治療(Image guided radiation therapy、IGRT)、定位放射線治療、陽子線治療といった高精度で複雑な放射線治療技術が臨床で導入されてきていますが、これらの品質管理にはさらに高度な医学物理学的専門性を要求されます。そのため、高精度放射線治療技術の新規導入などでの安全性を担保し、さらに日々の臨床治療が安全にかつ正確に実施されることを保証しています。
注:画像誘導放射線治療:放射線治療実施における患者セットアップの誤差を最小限に抑えながら標的に対し正確な照射が可能となるように、毎回の照射時に治療計画時と照射時の照射中心位置の三次元的な空間的再現性が保たれていることを照射室内で画像的に確認して照射する治療法
導入業務の実績
- 新規光子線治療装置の導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するサポート
- 呼吸同期照射法を利用した肺がん定位放射線治療導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 呼吸同期照射法及びマーカー追尾法を利用した肝臓定位放射線治療法の導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 脳定位放射線治療法の導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 前立腺がんに対するVMATの導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 前立腺がんに対するスキャニング照射による陽子線治療の導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 光子線治療品質管理プログラムの立案(毎年、毎月、毎日、IMRT、VMATなど)と施行
- 陽子線治療品質管理プログラムの立案(毎年、毎月、毎日、スキャニングなど)と施行
- 光学的患者ポジショニングシステム(Surface IGRT)の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- Surface IGRT品質管理プログラムの立案(毎年、毎月、毎日)と施行
- 頭頸部がんに対する強度変調陽子線治療法導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
- 小児がんに対する強度変調陽子線治療法導入時の物理的な検証および安全性の保証、臨床運用に関するワークフロー作成
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脳腫瘍に対する定位放射線治療
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マーカー追尾法を利用した肝臓定位放射線治療法
教育・研修業務
医学物理士の教育・研修
令和3年度より国立がん研究センター東・中央病院共通の医学物理士レジデント制度が開始されました。
当該レジデントの特色としては、東・中央病院の両施設で、3年間の医学物理業務を中心とした臨床研修を受けることができます。対象は、医学物理士の試験合格者のみならず、今後、医学物理士の資格取得を目指すものも含め、医歯薬理工学と幅広い分野からの出身者を対象としています。チーム医療および医療安全の観点から求められる医学物理士の資質、能力を育む研修プログラムとなっており、スタッフの豊富な経験、様々な放射線治療機器、卓越したチーム医療を通し、幅広い臨床経験を得ることができると考えています。3年間ではありますが常勤職員として採用されますので、安定して医学物理業務の研修を行うことができます。
外部医療関係者に向けた実地研修
当院の治療装置に対する品質管理法に関してOn the job training(OJT)プログラムを確立し、毎年100名を超える外部の医学物理士、診療放射線技師が受講しています。さらに大学院修士・博士課程の学生に対して光子線陽子線治療における品質管理についての教育も行っています。
本研修のこれまでの実績
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
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参加施設 | 23施設 | 60施設 | 70施設 | 65施設 | 70施設 | 61施設 |
参加者数 | 52名 | 72名 | 120名 | 93名 | 113名 | 91名 |
(注)2020年度より感染予防のため実施見送り
臨床試験サポート
放射線品質管理室では、臨床試験支援のために、以下の業務を行っています。
- プロトコール作成補助
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治療計画の品質保証/品質管理(quality assurance; QA/quality control;QC)方法の立案
先行施設の報告やガイドラインを参考に、医学物理学的な立場から助言などをすることでプロトコール作成の補助を行います。また、プロトコールの実施プロセスの妥当性について、医学物理学的立場から確認します。
研究業務
放射線品質管理室では、放射線治療の品質管理に関する研究業務を行っています。
- 光子線治療において呼吸により動く腫瘍に対して、呼吸による動きに同期した線量投与のための四次元治療計画の開発
- 肺CT画像を利用したCTベース肺換気機能イメージングの開発
- 同期照射に対する品質管理システムの開発
- 通常照射、定位放射線治療、IMRT、VMAT、Vero-4DRT、サイバーナイフ、トモセラピーに対する独立計算検証の多施設共同試験
- 様々なDeformable Image Registrationアルゴリズムの精度検証及び比較試験
- Deformable Image Registrationを利用した体内臓器移動に関する研究
- 陽子線治療に関する研究(先端医療開発センター 粒子線医学開発分野)
- 論文実績
スタッフ
現在、放射線品質管理室は医学物理士5名、医学物理士レジデント複数名で構成されています。医学物理士は放射線医学における機器の精度管理および新規技術導入を先導する放射線のスペシャリストです。医師、診療放射線技師、看護師と共に、放射線を用いた診療(放射線治療科)をサポートしています。
室長・医学物理士
橘 英伸
医学物理専門職
堀田 健二
医学物理士
茂木 佳菜
馬場 大海
高橋 良
医学物理士レジデント
米村 美紀
大鹿 理貴
関 和哉
小林 勇太
岸田 大典
中岡 藍
遠藤 冴星
中村 祥希