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荘内病院×国立がん研究センター東病院 医療連載「つながる医療 がん治最前線」第20回 国立がん研究センター東病院における医療安全の取り組み/手術室運営について

2022年12月24日

国立がん研究センター東病院における医療安全の取り組み

国立がん研究センター東病院 副院長 小西 大

医療安全という言葉は、最近でこそ一般の方々にも認知されるようになりましたが、この概念は以前からあったものではありません。当然、患者さんを治療することを第一に考えて医療を行うわけですが、以前は治療行為が前面に出て、安全にという概念は二の次になっていたと言えます。そんな中1999年に起きた手術における患者取り違え事故が端緒となり、一気にその言葉が脚光を浴びるようになりました。現在では各医療施設に医療安全管理室が設置され、組織横断的に施設内の安全管理を担う部署として重要な位置を占めています。

通常の診療から逸脱した事象をインシデントまたはアクシデントと呼び、そのような事象が生じた場合、インシデント・アクシデント報告として医療安全管理室に報告がなされます。医療安全管理室では、これらの報告に対して原因や患者影響度を分析し、再発防止策を講じて院内に周知することが主な業務となっています。当院では月に500件程度の報告があり、具体的には患者誤認・誤薬・転倒転落などに対する防止策を講じています。特に患者さんは高齢かつ体力が落ちている方が多いため、転倒転落防止は重要な課題となっています。当院では患者さんにわかりやすいパンフレットを作成し、防止に努めています。
転倒防止パンフレット

また治療というのは、一定の頻度で患者さんに不都合なこと(副作用や合併症など)が起こってしまいます。これらを有害事象と呼びます。このような有害事象を少しでも減らし、また事象が発生した場合は迅速に適切な対応ができるようシステムを構築していくことも大切な活動のひとつとなっています。

さらに大学病院と一部の専門病院が属している特定機能病院では、より精度の高い医療安全のシステムが要求されています。高難度の医療技術や未承認の医薬品・医療機器を導入する際は厳しい審査が必要となっています。また医療安全体制を第三者が監視できるよう、定期的に外部監査委員会や病院間での相互チェックを実施しています。さらに亡くなられた方に対し、経過に問題がなかったか全例チェックを行っております。

このような医療安全の活動は、当初医療従事者に速やかに受け入れられたとは言い難い現状でした。負担が増えるだけで返って事故が増えるのではないかという考えから、非協力的なスタッフも存在しました。このような状況を打破するには、施設内全体で医療安全の意識を高めることが重要となってきます。たとえば、細分化され膨大な量となった医療安全対策のルールをすぐにチェックできるように医療安全管理ポケットマニュアルを作成し、全スタッフが常に携帯するように徹底しています。

医療安全ポケットマニュアル

医療安全が進んだ施設では、患者さんのみならず医療従事者もより安全な方向へ進んでいくことを認識してもらい、高い意識を共有することでスタッフが一丸となって医療安全の向上に努めています

執筆者

小西先生
  • 小西大(こにし・まさる)
  • 静岡県出身。1984年浜松医科大学医学部卒業。1985年厚生連遠州総合病院勤務などを経て1992年より国立がん研究センター東病院肝胆膵外科勤務。2011年副院長就任、2017年NEXT医療機器開発センター長を併任、現在に至る。

手術室運営について

国立がん研究センター東病院 副院長・手術室長 林 隆一

手術療法は薬物療法や放射線療法と共にがんに対する三大療法の一つで、がん治療の中心です。近年では内視鏡外科手術(腹腔鏡や胸腔鏡)、ロボット支援手術など患者さんの体への負担を軽くしかつ、がんを根治する低侵襲手術への取り組みが進んでいます。

国立がん研究センター東病院の手術室は2017年5月に開設したNEXT棟(次世代外科・内視鏡治療開発センター)の4階にあります。手術室の他、1階には内視鏡センター、2階には医療機器開発センター、3階には集中治療室が設置されています。NEXT棟は産学官・医工連携のもと、次世代の医療機器を開発する目的で建設されたもので、手術室はこのような臨床現場と機器開発現場が近接した環境の中に位置しています。

現在、全12室の手術室を常勤麻酔科5名、手術室看護師46名で運用しており、頭頸部外科乳腺外科呼吸器外科食道外科胃外科大腸外科肝胆膵外科婦人科泌尿器・後腹膜腫瘍科形成外科骨軟部腫瘍科皮膚腫瘍科が手術を行っています。内視鏡外科手術をはじめとする低侵襲手術に力を入れており、内視鏡外科手術専用室として6室を設けています。

手術支援ロボットを使った手術は、日本では2012年に初めて保険適用されました。当院では手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を2014年より導入していますが、ロボット支援手術の保険適応拡大に伴い手術件数は年々増加し、2019年9月には2台目のダ・ヴィンチが導入されました。ロボット支援手術は2019年度149件、2020年度242件、2021年度には467件と400件を越え、2022年11月には3台目のダ・ヴィンチを増設しました。現在、泌尿器・後腹膜腫瘍科胃外科呼吸器外科食道外科婦人科でロボット支援手術を実施していますが、看護師においても全員が研修を受講修了しており誰でもロボット手術に対応できる体制となっています。

近年、これら手術支援ロボットを使った遠隔手術の実証実験が行われています。遠隔手術とは、患者さんから離れた病院にいる医師が、手術支援ロボットを遠隔操作することで手術を支援する技術です。近い将来、国立がん研究センター東病院の手術室が鶴岡市の皆さんにとっても近い存在になるかもしれません。

手術の実施においては、外科医、麻酔科医また看護部をはじめとするメディカルスタッフなど専門的な知識や技術を有する多職種での業務分担と連携が不可欠です。患者さんが安心してそして、安全に手術を受けられるよう、手術前、術中、術後まで、さまざまな専門性を持った医療チームでサポートしています。

ダ・ヴィンチ手術

執筆者

林先生
  • 林隆一(はやし・りゅういち)
  • 大阪府出身。1985年慶應義塾大学医学部卒、1991年慶應義塾大学医学部形成外科学教室助手。1992年より国立がん研究センター東病院頭頸部外科、2007年手術部長、2008年外来部長を経て2011年より現職。

更新日:2023年1月23日