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肺腺がんについて
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肺腺がんについて
新聞やテレビなどで「肺腺がん」という言葉を見聞きする機会がふえています。「肺腺がん」とはどのような病気なのでしょうか?「肺がん」や「原発性肺がん」とは異なるのでしょうか?また「肺腺がん」の治療はどうすればよいのでしょうか?ここでは「肺腺がん」が注目されている理由を含めて、国立がん研究センター中央病院で行っている診断や治療につき解説します。
「肺腺がん」が注目されている理由
- 肺がんの患者さんが増えている、とりわけ「肺腺がん」の割合が増えている
- たばこを吸わない人、若い人にも「肺腺がん」が発症する
- 段階的な発がん過程が明らかとなり、「早期肺腺がん」の概念が確立してきた
- 「早期肺腺がん」に対する低侵襲な縮小手術(区域切除・楔状切除)が普及してきた
- 「肺腺がん」における遺伝子異常が明らかとなり、有効な分子標的治療薬が開発されてきた
おもに以上のような理由があります。
すなわち、「肺腺がん」は「肺がん」に含まれるものの、特徴的な疾患概念や治療方針が適応となることが多いため、あえて区別するために「肺腺がん」と表現されるようになってきたと要約することができます。
以下に順序立てて解説をしていきたいと思います。
「肺がん」と「原発性肺がん」と「肺腺がん」はどう違うのでしょうか?
「原発性肺がん」は肺から発生したがんでいわゆる「肺がん」のことを意味します。
原発性肺がんは病理診断(顕微鏡での診断)に基づき細かく分類されており、ひとつひとつの分類のことを「組織型」と呼んでいます。肺がんの代表的な組織型には「腺がん」・「扁平上皮がん」・「大細胞がん」・「小細胞がん」が含まれます。
すなわち、この章で解説している「肺腺がん」は「原発性肺がん」に含まれる多様な組織型のひとつであるといえます。
肺がんの治療方針は大きく「組織型」・「病期(ステージ)」・「体力(専門的にはPerformance statusといいます)を総合的に判断し決定されます。
病期(ステージ)についての解説はこちらをご覧ください。
肺がんのなかで小細胞がんは他の組織型の肺がんと比べて増殖速度が速く、転移や再発をしやすい特徴があります。そのため肺がんの治療は「小細胞がん」か「小細胞がん以外の組織型の肺がん」で区別されていました。この「小細胞がん以外の組織型の肺がん」のことを「非小細胞肺がん」と呼んでいます。
肺がんの患者さんが増えている、とりわけ「肺腺がん」の割合が増えている
肺癌登録合同委員会がこれまでに行った1994年から2010年までの日本国内での肺がん外科症例についての調査の結果を表にまとめます。
年度 |
1994 |
1999 |
2004 |
2010 |
症例数 |
7238 |
13344 |
11663 |
18973 |
女性の割合 |
29.9% |
32.9% |
36.8% |
38.0% |
平均年齢 |
64.5歳 |
65.8歳 |
66.7歳 |
68.3歳 |
80歳以上の割合 |
3.1% |
4.6% |
6.0% |
10.5% |
2cm以下の肺がんの割合 |
23.4% |
30.1% |
37.5% |
39.0% |
腺がんの割合 |
55.7% |
61.7% |
67.9% |
69.4% |
5年生存率 |
51.9% |
61.6% |
69.6% |
74.7% |
肺がんに対して手術を行った患者さんの傾向としては
- 女性の割合が増えている
- 高齢者が増えている
- 小型肺がんの割合が増えている
- 腺がんが増えている
- 治療成績は向上している
といえます。とりわけ、2010年の調査では69.4%を腺がんが占めています。
たばこを吸わない人、若い人にも「肺腺がん」が発症する
肺癌診療ガイドラインあるいは国立がん研究センターがん情報サービスにおいて、喫煙は肺がんの危険因子のひとつであると述べられています。受動喫煙も同様に肺がんのリスクを高めます。その他、アスベストなどへの職業的曝露、大気汚染、家族歴(家族に肺がんにかかった人がいる)、年齢(年齢が高い)などが挙げられます。
しかしながら、肺腺がんはたばこを吸わない人、若い女性にも見られます。現在まではっきりとした原因は分かっていません。
国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野では、肺腺がん患者さんと健常人を対象として、全ゲノム領域にわたる70万個の遺伝子多型の比較解析を行い肺腺がんのかかりやすさに関わる複数の新規遺伝子領域を発見しました。この研究により、肺腺がんのかかりやすさには、喫煙等の環境要因だけでなく、遺伝要因(遺伝子の個人差)が関係することが明らかとなってきており今後の研究の成果が待たれます。
段階的な発がん過程が明らかとなり、「早期肺腺がん」の概念が確立してきた
CT検査が普及したことで早期の肺がん、とりわけ早期肺腺がんに関する知見が蓄積しました。とりわけCT画像上「すりガラス状結節」を呈する肺腺がんは時間経過とともに段階的に発育することが明らかとなってきました。肺がんの診断・治療・手術「すりガラス状結節」に詳しく解説していますのでこちらをご覧ください。
「早期肺腺がん」に対する低侵襲な縮小手術(区域切除・楔状切除)が普及してきた
肺がんに対する標準治療は一つ以上の肺葉と周囲のリンバ節を取リ除く「肺葉切除術」です。まれに、片方の肺とリンパ節を取リ除く「肺全摘術」を行うこともあります。「早期肺腺がん」の概念が確立してきたことで、早期肺腺がんについては肺葉切除よりも切除範囲が小さく、肺機能を温存できる縮小手術(特に区域切除)が普及してきました。肺がんの診断・治療・手術「区域切除について」に詳しく解説していますのでこちらをご覧ください。
「肺腺がん」における遺伝子異常が明らかとなり、有効な分子標的治療薬が開発されてきた
4期非小細胞肺癌で用いられる薬物療法においては、細胞傷害性抗癌薬のほか2000年代以降になって分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬といった新規治療が登場しています。分子標的治療薬の多くはEGFR遺伝子変異・ALK融合遺伝子などといった肺がん発生の直接的な原因となるようなドライバーと称される遺伝子変異/転座に対する阻害薬です。
EGFR遺伝子変異を伴う肺腺がんの頻度割合は、欧米人の約10%に対し、日本人では約50%と非常に高いことが知られています。
また、その他のドライバー遺伝子変異も、多くの場合肺腺がんに特徴的に認められることが分かっています。
全身状態良好で、これらドライバー遺伝子の変異/転座を有する患者に対して、それぞれのキナーゼ阻害薬を投与することで有効性が報告されています。
現在の肺がん治療はドライバー遺伝子の変異/転座の有無のほか、組織型などに基づき細分化されており、腫瘍内科専門医による治療方針の検討が行われています。
中央病院呼吸器内科による肺がんの薬物治療についての詳しい説明はこちらをご覧ください
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