トップページ > 診療科 > 呼吸器外科 > 新型コロナウイルス感染症と肺がん手術
新型コロナウイルス感染症と肺がん手術
新型コロナウイルス感染症と肺がん手術に関する解説です。
動画(外部サイトにリンクします)も併せてご覧ください。
(デフォルトでは音声は消音されています。ナレーションをお聞きになる場合は音量を調整ください)
コロナ禍における国立がん研究センター中央病院呼吸器外科の診療実績
コロナ禍にあって国立がん研究センター中央病院呼吸器外科の手術件数は昨年より増加しております。
この理由として
ことが考えられます。
コロナ禍にあって、国立がん研究センター中央病院呼吸器外科は肺がん外科診療を支えます。
はじめに
2020年4月7日に「埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県」の7都府県を対象とした緊急事態宣言は4月16日に全国に拡大、当初は5月6日までの予定でしたが、現在は31日まで延長されることが発表されています。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、がんの発見や手術の遅れを懸念する声が新聞等で報道されています。
「肺がんが疑われこれから検査を受ける患者さん」、あるいは「肺がんと診断されこれから手術を受ける患者さんにとっては不安があると思います。
ここでは肺がんの診断や手術を受ける患者さんに対する情報提供を行います。
(追記:2020年5月25日 緊急事態宣言の全面解除が正式決定されました)
問題となる事柄の整理
ここでは、医療者(がん治療専門医)の立場で問題点を列記します。
- 現時点では新型コロナウイルス感染症の終息は見通しがたっていません。それ故、長期的な対策の継続が必要と考えられています。
- 患者さんや病院あるいは社会を取り巻く状況は急に変化することがあり流動的です。
- マスコミやSNSでは多くの情報が流れています。中には信頼性の低い情報源であったり、デマであったりします。また個人の経験に基づく情報発信は必ずしも他の人には当てはまらないことがあり注意が必要です。
- 医療者側の問題点としてエビデンスに基づく治療方針の決定が困難です。医療の世界における「病気の治療」、とりわけ「がんの治療」に関しては明確な科学的根拠(エビデンス)に基づいて決定されてきました。しかしながら新型コロナウイルス感染症という未曽有の事態にあってはエビデンス自体が明確でなく、またエビデンスの創出を待つ時間的な余裕がない場合も多くあります。そのため時には「専門家集団が最善と考える治療方針」がよりどころとなることもあります。
患者さんを取り巻く状況はひとりひとりの患者さんごとに異なります。ではどのような視点で状況を把握するのが良いのでしょうか?
次の図に示す3つの視点が理解の柱になると思います。
1: 地域の状況
まずお住いの地域における新型コロナウイルス感染症の患者数です。感染者が多いあるいは急速に増加している地域では医療資源や入院ベッドの確保のため予定されている入院や手術を延期せざるを得ない状況があります。
2: 病院の状況
次に各病院の状況です。新型コロナウイルス感染症の治療に多くの医療者が関与することでマンパワーの不足が生じます。また、マスク・ガウン・ゴーグルなどの個人用防護具(personal protective equipment:PPE)の不足は診療全体に大きな影響を与えます。マスクやガウンがないと手術ができません。仮に院内感染がおこると病棟や外来の閉鎖の閉鎖が必要となるだけでなく、医療スタッフの欠如が生じ病院の診療に大きな負荷を与えることになります。
3: 病気の状況
日本外科学会では「新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安」が示されています。
ここでは疾病レベルを
「A:致命的でない、または急を要しない疾患」
「B:致命的でないが潜在的には生命を脅かす、または重症化する危険性がある疾患」
「C:数日から数ヶ月以内に手術しないと致命的となり得る疾患」
の3つに分類しています。
とはいえ、多くの肺がんは進行性であり治療が遅れることで根治性が損なわれる(すなわち治る機会を逸する)懸念があります。
「症状がないから大丈夫」とは安易に考えず、肺がんの治療方針についてはがん治療専門医との相談が不可欠です。
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科における取り組み
全国最多の肺がん手術件数となっている国立がん研究センター中央病院呼吸器外科では、様々な対策を行い、がん専門病院として患者さんに安心してがん治療(肺がん手術)を受けていただけるように努めております。
新型コロナウイルス感染症における国立がん研究センター中央病院や呼吸器外科の対応について解説します。
常に最新の情報をご確認いただければ幸いです。
「新型コロナウイルス感染症における当院の対応について」もご覧ください。
また、当院への受診を希望される患者さんは「こちらのページ」から初診申し込みの方法をご確認ください。
国立がん研究センター中央病院の現状
当院は、2020年4月1日までに職員5名への新型コロナウイルス感染が確認されたことに伴い、新規患者さんの受入れを中止しておりました。中止期間中、当該職員と接触のあった患者さんと職員の合計約230名を対象にPCR検査を進め、結果はすべて陰性でした。接触者の健康観察を行い、新たな感染症発生がなかったことから、4月14日に当院の新規患者さんの受入れを再開いたしました。
2020年5月11日より初診申込に関しまして通常通りに運用を再開させていただいております。現在は新規患者さん(初診)および通院、手術、入院など通常通りお受けしています。
遅滞なく肺がん患者さんに適切な手術治療を提供できるよう体制を整備しております。
安全な肺がん手術を行うための取り組み
「新型コロナウイルス感染症における当院の対応について」もご覧ください。
外来を受診される患者さんへの安全配慮
- 病院入り口においてサーモグラフィー検査を行っております。
- マスク着用や手指消毒をお願いしております。
- 発熱症状のある方の入口を分けています。
- 外来待合室では席を離してお座りいただくようにお願いしております。
- またお薬が必要な患者さんには、来院が不要な電話診療による院外処方箋対応を実施しております。
(令和2年6月30日(火曜日)の処方箋発行までで電話による院外処方箋発行を終了いたしました。再度感染拡大による外来受診が困難なケースが生じた場合などは、状況を踏まえながら柔軟な対応を予定しています。)
入院し手術を受ける患者さんへの安全配慮
- 入院前にお電話をさせていただき、呼吸器症状や発熱などの体調確認をさせていただいております。
- 入院時、採血と胸部単純X線写真を撮影しています。
- 2020年7月1日より入院・手術を受ける患者さんを対象として手術前にPCR検査を行なっています。
- ご家族の方の面会はお断りしております。なお、手術前の説明や手術当日の立ち合いについては許可しています。
- 手術後の経過が順調な患者さんには早期の退院をお願いしております。
- 退院後も体調に不安がある場合は、主治医と直接電話連絡が行えます。
- 当院は、特定機能病院であることから、東京都の要請に基づき、新型コロナウイルス感染症患者さんの受け入れも行っておりますが、感染症の診療区域をがん診療から完全に分離し、感染防止対策の徹底に努めており、受け入れによる院内感染は発生しておりません。
院内感染への安全配慮
- 外来窓口などではビニールシートを間仕切りとして使用させていただいております。
- 手術に際してゴーグル着用を行っております。
- テレカンファレンスの導入
大勢が集まるミーティングの中止やオンラインでのカンファレンス開催を行い院内感染のリスクを最小化するように努めております。手術や治療方針の決定は常に複数名で行うようにしています。
国立がん研究センター中央病院での取り組みをはじめ、多くの病院で最善の取り組みが行われています。
各都道府県や地域自治体、各病院のホームページ等を確認し、常に最新の情報を入手するように努めてください。
また病気の治療は患者さんごとに異なります。
肺がんの治療に際してはがん治療専門医と相談し最善の方針を話し合っていくことが大事です。