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直腸がんの手術大腸がんに対する肛門温存手術と人工肛門造設術について

大腸がんで手術が必要と診断された際に、多くの患者さんが「肛門は残せるか?人工肛門になるのか?」と疑問に思われます。人工肛門となる手術の具体的な適応は後述しますが、原則として大腸がんの中でも肛門から距離のある結腸がんにおいては人工肛門は不要です。また、直腸がんであっても肛門からの距離が一定以上あれば肛門を温存できる(永久人工肛門とならない)ケースが多くあります。

国立がん研究センター中央病院大腸外科ではがんの根治性を担保しつつ、可能な限り機能温存、肛門温存が出来る手術を心掛けています。残念ながら肛門を温存できない場合でも、主治医チーム、WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)、外来/病棟看護師で連携し、人工肛門に対する術前の十分な説明と、術後の丁寧なサポートを心掛けています。


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図1:国立がん研究センター中央病院大腸外科における肛門温存手術の割合
2018年1月から2021年12月の期間に国立がん研究センター中央病院大腸外科で根治的切除術を受けた直腸がん(RaもしくはRbに位置する直腸がん)患者さんにおける割合。周囲臓器に浸潤のある例(cT4b)は除く。

専門医が教える直腸がん手術
イラストでわかりやすく解説

当科の専門医が直腸がんの手術について直腸がんの特徴から実際どのような症状を出すかまで、
外科専門医の視点を交えてイラストを用いわかりやすく解説します。

肛門温存手術について

大腸がんの手術において最も大切なことはがんを取り残さず切除する「根治性」です。その根治性を担保した上で、出来る限り機能を温存しようという工夫が手術においてなされます。

直腸がんの場合、腫瘍が肛門とどの程度離れているかで、腸管を切離するラインが変わってきます。切離ラインによって手術名が変わり、肛門から遠い順番で、高位前方切除術(High anterior resection: HAR )、低位前方切除術(Low anterior resection: LAR)、超低位前方切除術(Ultra low anterior resection: ULAR)となり、いずれも肛門を温存した手術となります。多くの直腸がんは、手術において腸管の剥離や授動を十分に行うことで、これらの術式で対応が可能です。

腫瘍が肛門に近くなると腫瘍からの距離を確保して腸管を切離することが出来ないため、肛門も含めて切除を行う「直腸切断術(Abdonimoperineal resection: APR)」が行われますが、近年では根治性を保ちつつ肛門機能を可能な限り温存する「括約筋間直腸切除術(Intersphincteric resection: ISR)」という手術法が普及し、国立がん研究センター中央病院大腸外科でも適応があれば積極的に行っています。しかし、繰り返しになりますが大腸がんの手術では「根治性」を担保することが最も大切ですので、それぞれの患者さんの腫瘍の位置や進行度を十分に評価した上で手術方法の提案をさせて頂きます。

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図2:直腸がんにおける術式ごとの腸管切除ライン

肛門温存手術

高位前方切除術 High anterior resection: HAR
低位前方切除術 Low anterior resection: LAR
超低位前方切除術 Ultra low anterior resection: ULAR
括約筋間直腸切除術 Intersphincteric resection: ISR

肛門非温存手術

肛門非温存手術

Abdonimoperineal resection: APR

 括約筋間直腸切除術(ISR)

肛門を構成する筋肉のうち、内肛門括約筋を部分的あるいは全部切除し、肛門と外肛門括約筋を残すことにより、排便機能をある程度温存する方法です。原則として直腸がんの場合、腫瘍から2cmの距離を確保して腸管を切離する必要があるため、肛門に極めて近い腫瘍や肛門にかかるような腫瘍はISRの適応外となります。また、ISRの適応については腫瘍の深達度や組織型も含めて総合的に判断する必要があり、十分な術前検査を行い判断をいたします。

ISRの注意点

ISRは解剖学的な知識と高度な技術を要する手術であるうえ、切除範囲によってなかには頻便や失禁が起きて、必ずしも術後の排便機能に十分満足できない患者さんもいらっしゃいます。ISRを選択するかどうかは、術前に担当医とよく話し合って慎重に判断することが必要です。

また、ISRを行う場合は原則として初回の手術で一時的な人工肛門造設(詳細は後述します)を行い、術後3か月から半年以降で人工肛門閉鎖手術を行う二期的手術が予定されます。肛門温存率と同様に重要なのが、一時的人工肛門のその後の閉鎖率です。肛門を外見上は温存できても、肛門機能が不十分な場合は一時的人工肛門を閉鎖することができません。国立がん研究センター中央病院大腸外科での、ISR後の一時的人工肛門閉鎖割合は89%と良好な成績を達成しています。

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図3:国立がん研究センター中央病院大腸外科におけるISR後の一時的人工肛門閉鎖率
2018年1月から2021年10月の期間に当院でISRを行った患者さんのうち、二期的に人工肛門閉鎖を行った患者さんの割合。人工肛門閉鎖術を施行できなかった理由としては、「肛門機能低下」、「継続した化学療法が必要となった」、などが挙げられます。

人工肛門について

人工肛門とは手術によってお腹の壁から腸管の一部を出し、開いて固定をしたものです。自然の肛門と違い自分の意思で排せつをコントロールできないので、専用の袋(パウチ)を取り付け、排せつ物を受け止め、溜まったらトイレに流すという管理が必要となります。人工肛門には永久的なものと、将来手術を行うことで閉鎖可能な一時的なものがあります。

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図4: 人工肛門の造設部位
左下腹部より大腸で単孔式人工肛門を造設した場合の図です。術式や切除腸管の状況により右下腹部や左もしくは右の上腹部で腸管を固定することもあります。

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    単孔式人工肛門

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    双孔式人工肛門

図5:人工肛門の断面図
切離した腸管の端を挙上する「単孔式人工肛門」(左図)と、ループ状に腸管を挙上させ、切開して固定する「双孔式人工肛門」(右図)の二種類があります。

永久人工肛門

手術において肛門を切除した場合は永久的な人工肛門となります。一般的には残存した大腸の断端を左下腹部から体外に出して固定します(単孔式人工肛門)。
肛門を切除しない場合でも、腫瘍の切除が困難で、腫瘍により腸閉塞が生じている場合は、閉塞部より口側の腸管で人工肛門造設を行います(双孔式人工肛門となることが多いです)。

 適応となる状況

  • 肛門にかかる、または非常に近接した直腸がん
  • 結腸がんであっても何らかの理由(腹膜播種や他臓器への浸潤など)で腸閉塞が生じて切除が困難な場合

一時的人工肛門

将来手術によって閉鎖することを予定して造設する人工肛門で、小腸で作ることが一般的です。主な目的としては手術後に吻合部(大腸がんを切除した後、残った腸管同士を繋いだ箇所)のトラブルを避けるために造設をします。一般的に吻合部が肛門に近いほど吻合部のトラブルが多いため、ISRにおいては基本的に一時的人工肛門を造設します。また大腸がんの手術後に吻合部に縫合不全などのトラブルが生じた際、再手術で一時的人工肛門を造設することもあります。

一時的人工肛門は双孔式人工肛門の場合が多数ですが、単孔式人工肛門であっても肛門を温存してある場合は将来的に閉鎖が可能な場合もあります。

適応となる状況

  • 直腸がん手術で、縫合不全が発生するリスクが高いと判断される場合(例:吻合部が肛門に極めて近い、吻合腸管の浮腫や炎症が強い、など)
  • 吻合部に縫合不全が生じた場合
本ページに関するお問い合わせ先

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