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中央病院 皮膚腫瘍科 乳房外パジェット病の治療について
更新日 : 2026年2月24日
目次
- 乳房外パジェット病とは
- 乳房外パジェット病の症状について
- 乳房外パジェット病の診断について
- 乳房外パジェット病の治療について
・外科手術
・放射線治療
・化学療法(全身療法) - 乳房外パジェット病の研究について
- 乳房外パジェット病の療養について
- 中央病院 皮膚腫瘍科を受診される皆様へ
乳房外パジェット病とは
乳房外パジェット病(Extramammary Paget's Disease: EMPD)は、皮膚がんの中でも比較的まれな「希少がん」に分類される疾患です。
主に汗を出すアポクリン汗腺が多く分布する部分の皮膚に生じる皮膚がんです。
がん細胞(パジェット細胞)が、皮膚の最も外側にある「表皮」の中を這うように広がっていく特徴があります。
国立がん研究センターには、乳房外パジェット病のような患者数の少ないがんの診療・研究開発を推進する「希少がんセンター」が設置されています。
希少がんは情報が少なく、診断や治療に不安を感じる方が多いからこそ、当院のような専門医療機関での豊富な経験に基づいた診療が極めて重要となります。
乳房外パジェット病の症状について
乳房外パジェット病の初期症状は、湿疹、かぶれ(接触皮膚炎)、カンジダ症などのありふれた皮膚の病気と非常によく似ているため、見過ごされやすいのが最大の特徴です。
しかし、がんは時間とともに進行するため、早期に発見し、適切な治療を開始することが重要です。
主な症状と発生部位
症状は、アポクリン汗腺が多く分布する以下の部位によく見られます。
- 外陰部(最も多い): 女性の陰唇、男性の陰嚢など
- 肛門周囲、おしりの間
- 腋の下(わきの下)
- その他、へそ、鼠径部(足の付け根)など
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 境界が比較的はっきりした、赤みのある斑点(紅斑)
- 皮膚の表面がジクジクする、ただれ(びらん)
- かさぶた(痂皮)の付着
- 軽いかゆみや、ヒリヒリとした痛み
- 皮膚の色が白っぽく抜けたり(色素脱失)、逆に茶色っぽくなったり(色素沈着)する
これらの症状は、かゆみや痛みを伴わないことも多く、単なる「下着によるかぶれ」や「加齢によるシミ」などと自己判断してしまいがちです。
病気が進行すると、病変の一部が盛り上がって硬いしこり(結節)を形成したり、簡単に出血したりするようになります。
しこりができるのは、がん細胞が皮膚の浅い部分(表皮)を越えて、深い部分(真皮)へと浸潤しているサインであり、リンパ節などへ転移するリスクが高まっている状態を示します。
【早期発見のポイント】 治りにくい湿疹は要注意
乳房外パジェット病は、がんが表皮内にとどまっている早期の段階で発見・治療すれば、外科手術のみで根治できる可能性が非常に高い病気です。
しかし、発見が遅れて浸潤・転移してしまうと、治療が難しくなることがあります。だからこそ、ご自身の身体の変化に気づく「早期発見」が何よりも大切です。
以下の項目に当てはまる場合は、自己判断せずに必ず皮膚科を受診してください。
市販の薬が効かない
陰部や肛門周囲、腋の下などにできた湿疹に対し、市販のステロイド軟膏などを1~2週間塗っても全く改善しない、あるいは一時的に良くなってもすぐに再発する。
症状が長引く・広がる
数ヶ月以上にわたって、同じ場所に赤みやただれが続いている。また、その範囲が少しずつ広がっている。
見た目の変化
病変の輪郭(境界)がはっきりしてきた。色調がまだらになったり、一部が白っぽく抜けたりしている。
しこりを触れる
これまで平坦だった病変の一部が硬くなったり、皮膚の下に小さなしこりを触れるようになったりした。
デリケートな部分の症状であるため、医療機関への受診をためらってしまう方も少なくありません。
しかし、そのためらいが発見の遅れにつながる可能性があります。
「おかしいな」と感じたら、勇気を出して専門医である皮膚科にご相談ください。それが、ご自身の体を守るための最も重要で確実な第一歩です。
乳房外パジェット病の診断について
当院では、皮膚腫瘍を専門とする医師が、以下の流れで正確な診断を行います。
視診・ダーモスコピー検査
まずは病変部の見た目を詳細に観察します。
ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いることで、肉眼では捉えきれない皮膚の微細な構造や色調の変化を評価し、がんの可能性を判断します。
皮膚生検(病理組織検査)
確定診断のために必須の検査です。
局所麻酔を行い、病変の一部を少量採取して顕微鏡で詳細に調べます。この検査で特徴的な「パジェット細胞」の存在を確認することで、診断が確定します。
画像検査(CT・PET-CTなど)
診断が確定し、がんの浸潤が疑われる場合には、病気の広がりやリンパ節・遠隔臓器への転移の有無を調べるために、CTやPET-CTなどの画像検査を行います。
これにより病期(ステージ)を正確に把握し、適切な治療計画を立てます。
乳房外パジェット病の治療について
乳房外パジェット病の治療は、がんの進行度(病期)、発生部位、患者さんの年齢や全身の状態などを総合的に考慮して決定されます。
当院では、皮膚腫瘍科内で一人ひとりの患者さんの治療方針を詳細に検討し、最も効果的で、かつ身体への負担が少ないより良い治療を提供します。
治療の基本方針は、がんがどこまで広がっているかによって大きく異なります。
表皮内にとどまる病変(早期がん)
がんを完全に取り除く外科手術が基本です。
皮膚の深部(真皮)へ浸潤した病変
原発巣の外科手術に加え、転移の有無を調べるセンチネルリンパ節生検を検討します。
リンパ節や他の臓器へ転移した病変(進行がん)
外科手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた集学的治療を行います。
以下に、それぞれの治療法について詳しく解説します。
1. 外科手術
外科手術は、乳房外パジェット病の治療において最も重要な根幹をなす治療法です。
広範囲切除術
パジェット細胞は、肉眼で見える病変の範囲を超えて、正常に見える皮膚の中に潜んでいることが多いため、手術では病変の縁から十分な安全域(マージン)をとって切除する必要があります。
乳房外パジェット病の標準的な手術法では、病変の縁から1cm程度離して切除し、がん細胞の取り残しを防ぎます。
センチネルリンパ節生検
がんが皮膚の深い部分(真皮)に達している(浸潤している)と診断された場合、リンパ節への転移の可能性を評価するために「センチネルリンパ節生検」を行うことがあります。
これは、がん細胞が最初にたどり着くリンパ節(見張り役のリンパ節=センチネルリンパ節)を特殊な色素や微量の放射性物質を用いて特定し、そのリンパ節だけを摘出して転移の有無を調べる検査です。
この検査で転移がなければ、それ以上のリンパ節切除(郭清)を省略できるため、不要な手術を避け、術後のリンパ浮腫(手足のむくみ)といった合併症のリスクを減らすことができます。
再建手術
外陰部や肛門周囲など、切除範囲が広範囲に及ぶ場合、傷をそのまま縫い合わせることが困難であったり、機能(排尿・排便・歩行など)に大きな影響が出たりすることがあります。
当院では、機能温存により良い方法を検討したうえで、切除と同時に再建手術を行います。
患者さん自身の他の部位から皮膚を移植する「植皮術」や、血流のある皮膚や筋肉を移動させて欠損部を補う「皮弁術」といった高度な技術を駆使します。
2. 放射線治療
高エネルギーのX線などを照射してがん細胞を破壊する治療法です。以下のような場合に選択されます。
根治的放射線治療
ご高齢であったり、重い合併症をお持ちであったりするために、身体への負担が大きい手術が困難な場合に、手術の代わりとして行うことがあります。
術後補助放射線治療
手術で切除した部分の断端にがん細胞が残っている可能性がある場合(断端陽性)や、再発リスクが非常に高いと判断された場合に、局所的な再発を防ぐ目的で行います。
緩和的放射線治療
骨などへ転移した部位の痛みや、出血などの症状を和らげる目的で行います。
3. がん薬物療法
化学療法がん薬物療法は、飲み薬や点滴によって薬剤を全身に行き渡らせ、手術での根治が難しい進行・再発したがんに対して行われる全身治療です。
近年の治療薬の進歩は目覚ましく、当院は、これらの新薬開発に関する研究や治験を主導してきた実績があります。
免疫チェックポイント阻害薬
近年、がん治療に革命をもたらした新しいタイプの薬剤です。
がん細胞が免疫細胞(T細胞)の攻撃にブレーキをかけている仕組み(免疫チェックポイント)を阻害し、患者さん自身が本来持つ免疫力を再活性化させて、がんを攻撃させる治療です。
・主な薬剤
- 抗PD-1抗体:ニボルマブ
・特徴と副作用
一部の患者さんで長期的な効果が期待できる一方、免疫が過剰に働くことによる特有の副作用(免疫関連有害事象:irAE)が起こることがあります。
さまざまな臓器に炎症が起こる可能性がありますが、当院では早期発見と迅速な対応に努め、安全な治療継続をサポートします。
化学療法(抗がん剤治療)
免疫チェックポイント阻害薬が登場する前の標準治療でした。
細胞分裂が活発ながん細胞を攻撃する従来の抗がん剤です。現在では、上記の新薬が効かなくなった場合に選択されることがあります。
乳房外パジェット病の研究について
臨床試験(治験)
当院は、未来のがん医療を創るための研究開発拠点でもあります。
当科では、国内外の製薬企業や研究機関と連携し、新しい治療薬や治療法の開発を目指す臨床試験(治験)を多数実施しています。
医師主導治験
ダロルタミド単剤またはLH-RH製剤との併用によるアンドロゲンレセプター陽性進行期乳房外パジェット病に対する内分泌療法第II相臨床試験(慶應義塾大学)(外部サイトにリンクします。)
乳房外パジェット病の療養について
治療を乗り越え、自分らしい生活を取り戻すための「療養」も、治療そのものと同じくらい重要です。
当院では、患者さんのQOL(生活の質)を維持・向上させるためのサポート体制を整えています。
治療後の経過観察
治療後も再発を早期に発見するため、定期的な通院と検査が不可欠です。
担当医が患者さんの状態に合わせたフォローアップ計画を立て、継続的にサポートします。
日常生活でのセルフチェック
定期検診に加え、手術した部位の周辺や、わきの下、足の付け根などのリンパ節を日頃から観察し、しこりや皮膚の新たな変化がないかを確認することが大切です。
専門家によるサポート
治療に伴う身体的・精神的な苦痛や、療養生活での不安に対して、専門の看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどがチームで対応します。
リンパ浮腫のケア、スキンケア指導、心のケア、就労支援など、幅広い相談に応じています。何か困ったことがあれば、いつでも「がん相談支援センター」にご相談ください。
中央病院 皮膚腫瘍科を受診される皆様へ
ここまで乳房外パジェット病について解説してきましたが、診断を受け、あるいはその疑いを告げられた皆様は、大きな不安の中にいらっしゃることと思います。
私たちは、そのような患者さん一人ひとりに寄り添い、より良い医療を提供するためにここにいます。
少しでも気になることがあれば、決して一人で悩まず、まずは私たちにご相談ください。
受診をご希望の方へ
メッセージ
皮膚がん、特に乳房外パジェット病は、希少がんであること、また発症部位がデリケートな場所であることから、多くの患者さんが情報不足や受診へのためらいといった悩みを抱えています。
私たち国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科は、皮膚腫瘍の診断と治療を専門とするエキスパート集団です。
診断から治療までを一貫して提供できる体制が私たちの最大の強みです。ここでは、一人の医師だけでなく、手術、薬物療法、放射線治療など、各分野の専門家が知恵を結集し、あなたにとってより良い治療方針をチームとして決定します。
最も大切なことは、正しい診断のもとで、適切な時期に治療を開始することです。治りにくい湿疹だと思い込んで受診が遅れるケースが後を絶ちません。
どんな些細なことでも構いません。あなたの不安や疑問を、私たちに聞かせてください。私たちは、医学的知見と豊富な経験を駆使し、患者さん一人ひとりと真摯に向き合います。
がんと闘うあなたの最も頼れるパートナーとして、共に病気に立ち向かい、治療の道を歩んでいきたいと考えています。どうぞ、一人で悩まずに、私たちの扉を叩いてください。

皮膚腫瘍科長 並川 健二郎
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

皮膚腫瘍科医長 中野 英司
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

皮膚腫瘍科医員 鹿毛 勇太
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医

皮膚腫瘍科医員 瀬下 治孝
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医